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「……おいおい、門どころか扉も何もないじゃん。どうやって入るのさ、この町?」
オーガスタから約3日。噂の「魔法都市・ステラ」は想像以上に閉鎖的な町だった。無論、外見だけの事で町の空気そのものに関しては、まだ判らないが。
何分、スバノンが言う通り、町の入口らしき場所に着いたはいいが通行可能そうな所が何ひとつ見当たらないのである。そして、町全体を囲うのは堅固な城の防壁もかくやと言った高い壁。よじ登れそうな気配は全くなく、そこはかとなく漂う魔法力から察するに、壁全体に結界魔法もかけられている様だった。
「まあ、見てな。……ちょっとこっちに、皆集まって」
ブルーさんの指示通り、全員で石畳の一部、他と多少色が違う部分へと集う。と、ブルーさんが指先に僅かな魔法力を灯し、その指で宙に何かの術式を書いた。
「―― うおお、すげえ!」
「な、何したの? どうやったの?」
次の瞬間には、微かな光に全員が包まれ ―― 光が消えた時には、周囲の景色が一変していた。そこは、決して大都市ではないが、町の規模からすれば相当の発展を遂げていると一目で解る、整った街並みの中心部に位置する広場だったのだ。
「あはは~この移動法は言えないな。ステラの関係者のみ知る術式だからね」
「けっ。この秘密主義が」
「町の防衛の為なんだから仕方ないよ、スバノン……」
「そう、防衛の為。入り口だけじゃなく、町全体も結界で覆われてるし、まあ人間の兵隊だけじゃなく下手なモンスターも近寄れないね……という訳でアスティちゃん。どうせなら、この町に住んでみようとか思わない?」
「え?」
「はいはい、おかしな勧誘は止めろよそこっ」
町の利点を説きつつ、途中で何やら妙な方向に走りかけたブルーさんをスバノンが素早く止める。……口だけではなく、思いっきりの裏挙で。
「……っ! お前、ひょっとせんでも人の事殺そうと思ってないか、この前から!?」
「テメーがおかしな言動しなけりゃ、誰も何もせんわボケ!」
「ま、まぁまぁ。とりあえずダメージ大きそうだし、ヒーリングでも……」
「余計な世話はいらないぞアスティ。そういう真似するから、いらん事言われるんだ」
最早、恒例となりつつある会話に苦笑しつつ、アスティの代わりにブルーさんへヒーリングをかけてあげる。私が面倒見る分にはスバノンも怒らない故だが、何だかこの数日で、急に彼の“保護活動”が盛んになった気がするのは気のせいだろうか。
「要らん事、と言ったらお前の方だろうが……なんで、そう毎度毎度、人の邪魔ばっかりするんだ?」
「そりゃ当然。俺はアスティの保護者だからだっ」
「……え? 何それ」
それはもう、胸を張ってきっぱり言い切るスバノンに、アスティが疑問の目を向ける。ブルーさんも、どういう意味だと言いたげに見た為か、更に続けられたその言葉は……。
「俺はリンさんから、アスティの事を頼まれてるからな。面倒見てやってくれって」
「えっ……お兄ちゃんが? て言うかスバノン、お兄ちゃんにいつ会ったの?」
「あの日だよ、テレット探検の。家で準備してたらリンさんが来てさ、こう言ったんだ。 《精神面での支えならエルフィンちゃんの方が向いてるだろうけど、彼女も女の子だし、物理的な面まで任せるのは大変そうだからね。戦闘とかさ。だから、そういう方面の面倒とか、災厄からの護りは、君がしてくれると嬉しいな。頼んだよ、スバノン》 って。―― そして、」
そこで、やおらブルーさんへと向き直り。
「お前の、みょーな言動はまさに“物理面の災厄”だろーが! だから、俺は依頼通りにアスティを護ってるだけだっ」
「お、お兄ちゃん……一体どういう伝言を……」
なるほど。妙に納得 ―― そして感心してしまった。
確かにスバノンなら、変な気は一切起こさず真っ直ぐにアスティを守り通してくれそうだ。アスティ自身にやや優柔不断の気配がある以上、この位強烈な人物が傍にいた方が安全なのは言うまでもない。かの“ネコ耳青年”は、人を見る目は確からしい。
「……成る程。つまり、まずはそっちから何とかするべきか……」
「な~にブツブツ言ってんだ、お前は?」
「おや? ブルーじゃないか、久しぶり。いつの間にかいなくなっちゃって、どこ行ってたの?」
何か思案気なブルーさんへスバノンが突っ込んでいる最中。その背後から唐突に、若い男性の声が呼びかけてきた。




