3‐7
「おかえりなさい。あなた達、破魔を打ち破ったのですね」
「うおおっ? な、何でわかったの?」
オーガスタは大教会の中。聖堂へ入ると、にこやかに出迎えてくれたジルクさんが、開口一番そう言ってスバノンを驚かせた。
「監獄を覆っていた黒い霧が晴れたのが、ここからでも解りました。きっとアンデッドも全て息絶えた事でしょう。本当に……本当にありがとう」
「あの破魔を倒すなんて……私達には、ただお礼を言う事しかできません。せめて、差し上げた防具は、このままお使いください。あなた達のお役に立つのであれば、それで何よりです」
ジルクさんの隣で、シスターも感無量といった風情でそう続ける。思わず照れ笑いになりながら、アスティがそれへ答えた。
「ブルーさんと会えたから……ブルーさんがいなかったら、私たちは破魔の罠にまんまとかかってました。あんな、すぐに見破れるなんてすごいです」
「あはは。なにか、こう、ビビっと感じたんだ。あいつは破魔だって」
「お前、それ、破魔じゃなくって普通の人間だったらどうすんのよ?」
「さあ? その時はその時じゃない?」
「おいおい、めっちゃ適当だな……」
「スバノン……適当さはスバノンもいい勝負だよ」
そっと突っ込みつつ、アスティが尚も謝辞を述べる神父様へと向き直る。
「ジルクさん、大丈夫。私たちの目的は、ステラへ行く事。ちょっと寄り道しただけですから」
「え? 何それ」
「あ、そう言えば言ってなかったっけ。えーと、ステラに私のお兄ちゃんがいるっていうから、私たちも追ってステラに行きたいんだけど、部外者はステラへ入れないらしいから……よければブルーさんに案内してもらおうかなー、なんて」
「へえ、そんな事情あったんだ。別に構わないよ」
「やったぁっ♪ ありがとう」
喜ぶアスティの傍らで、何やら笑顔のブルーさん。その姿が、正確には髪が気になって、先程から考えていたのだが……ふいに思い出した事があった。
監獄内では黒髪に見えていたブルーさんの髪は、今こうして明るい場所で見てみると、瞳と共に鳶色である事が解ったのだが ―― 鳶色の髪を持つ魔法使い。それは確か、ユグドを発った日、あの不吉な夢の中に出てきた魔道士と一致する特徴だったのだ。
よくよく思い出してみれば、髪色どころか容姿さえ、そっくりだった気もするが……一体どういう事なのだろう?
「えーと……ところで、ジルクさん。ここって挙式の予約とかできるかな?」
思い悩んでいると、何だかそんな声が聞こえてきた。
「え? ええ、勿論できますが。どなたのでしょう?」
「それはほら、俺とアスティちゃんの ―――― 」
ジルクさんの問いに、ブルーさんが答えかけた、その瞬間。
まるで隕石が間近に落下したかの、凄まじい爆音が聖堂内に轟いた……。
「ってなわけでジルクさん、俺たちはステラへ向かうよ。平和になったと言え、町の建て直しは大変だと思う、でも頑張ってくれよ。じゃっ!」
「あ、ああ……ありがとう。君達も、気をつけて……」
「ちょ、ちょっとスバノン!? 一体いきなり、何を……て言うかブルーさん、口から何かが、魂が出ちゃってないそれっ? ねぇってば~!?」
―― 頭頂部に、それは見事な踵落としを食らえば昏倒もするだろう。まして仕掛けた人間は、力自慢な上に武術の達者なスバノンである。いっそ生きているだけ、魔法使いとしては丈夫な方だとさえ言えた。
何が起こったか良く解らぬ、と言った風に、ブルーさんを引きずりながら出口へ向かうスバノンとそれを追いかけるアスティを見送っていたジルクさんだったが……ややあってぽつりと一言。
「挙式もですが……お葬式の予約も、できますからね。御用の際は、またおいで下さい」
聖堂の床にぽっかり空いた大穴に関しては一切咎めず、やや強張った笑顔ながら、ちゃっかりそんな宣伝をスバノンの背中に投げかけるジルクさんは、いっそ天晴と言えるだろう。口元を押さえたまま身じろぎも出来ずにいるシスターと比較すれば、一層際立つ大物ぶりである。
ここまで逞しい神父様がいてくれるなら、オーガスタの復興の日も近い……かも、しれない。
ある意味、呑気かも知れない感想を抱きつつ彼らに別れの挨拶を告げ、遅ればせながら聖堂を後にした。スバノン達は既に、結構先を行っている。ここからでも、ヒーリングをかけようか? と悩んだが……何だかスバノンが許さない様な気がして、ひとまずそっとしておく事にした……。




