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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 三.神聖都市の暗雲 ―
22/68

3-6

「うわっ!? エ、エルフィン何、俺の事狙っ……てっ?」

「―― ぐぅっ……。小娘、おまえ私の気配が……読めるのか!?」


 スバノンには悪い事をしたが、説明している暇などなかったので止むを得ない。彼の左腕を掠めてしまったらしい槍先は、だが確実に破魔の右肩を捕らえていた。教会のシスターがくれたセイントハットのお陰で光属性を帯びた槍は、破魔にとってかなりの打撃となったらしい。再び異空へと逃げ帰る力を失った様に、肩を押さえつつその場に立ち竦んだ。


「おっしゃ、今だ! そこ動くんじゃねーぞ破魔っ!!」


 すかさずスバノンが、サザンクロスを仕掛け ―― だが大鎌がそれを封じる。


「……見くびるなと言っている! おまえ達など、『移動』せずとも……」


 ローブの内で、恐らくは双眸であろう紫色の光がスバノンを見据え。


「―― これで充分だ!」


「!? な、何……力が抜け……っ?」

「まずい! ドレインまで使うとは……こっちへ来いスバノン!」


 言うや否や、ブルーさんが杖をかざして破魔を風刃魔法で弾き飛ばす。先程から、各種の属性魔法を次々と繰り出す辺り、ジルクさんが言う通り魔法の腕は相当のものだ。


「ドレインって、生命力の吸収術? それじゃうっかり、近寄れないわよっ?」

「ああ。だが、魔法も今ひとつ、決定打に欠けている様に見える。神聖魔法ならいけるかもしれないが、さすがに俺もそいつは無理だ……どうすれば」

「神聖……。ね、少しの間、時間稼げる? 私が何とかしてみるっ」


 口惜しそうに告げるブルーさんへ、アスティが何か思いついた様に頼み込む。それに少し驚いた様だったが、すぐ頷くと彼の杖が再び、上級の火炎魔法を破魔へと吹き付けた。


 精神集中に入ったアスティをスバノンに託し、私も破魔へと槍を突きつける。だが、高速攻撃のデザートレイドでさえ中々その身を捕らえきれず、しかも合間を縫って大鎌が襲ってくる。この際、攻防一体でやるしかないか ―― 判断するや、繰り出す技をスピンカウンターに切り替える。攻撃回数こそ減るものの、相手の物理攻撃に対し、それを封じつつ素早い反撃を可能とする必殺技だ。


「……むぅぅ! 小娘、おまえ。まさかこの時代の ―――― 」


 二度三度と反撃を食らった破魔が、何かを言いかけた……その時。


「レイスプラッシュ!!」


 背後で、かなりの魔法力が爆発した。


 それが一気呵成に破魔へと襲いかかる。それは紛れもない、神聖魔法が生み出す光の渦だった。


「何だと……お前ごときが、この魔法を操るとは……!?」


 驚愕する破魔の声が、見る間に光の奔流に飲み込まれ ―― やがて、その姿と共に消えて行った。


 静けさを取り戻した監獄内が、不意に明るくなる。何故か、松明の灯りが急に通常のものへと大きさを変えたのだ。


「おおっ、アスティやるじゃないの! そんな魔法使えるとか知らなかったぞっ」

「あはは……でも、疲れたよぉ~。町帰って寝たい……」

「おいおい、終わったからっていきなり寄りかかるなっ。まだ帰り道が残ってんだぞ?」


「無茶言うな。神聖魔法は、威力もだが術者への反動も大きいんだ。制御も相当難しいとされてるし、だから使い手が少ないんだよ」


 ほっと一息つきながら、ブルーさんが説明してくれる。自身が扱えぬ魔法でも、流石に知識は一通り持っているらしい。


「それにしても、都合よく神聖魔法の使い手がいてくれて助かった。あのままだと、俺たちも破魔にやられていたかもしれないからな。ありがとう、アスティ……ちゃん……?」


「ん? どうかしました?」


 感心と共に謝辞を述べるブルーさんだったが、その声が急に途切れた。訊ねるアスティにも、少しの間返されるのは無言の視線のみで。


「―― いや、声はかなり可愛いとは思ってたけど……でもこれは……」

「何?」

「あ、いや。……何でもないよ、うん」


「変なヤツだな。ところで、破魔を倒したら監獄全体が明るくなった気がするぞ?」

「おそらく破魔が『闇』を張っていたのだろう。その方が不意討ちもし易いからな。あいつを完全に葬った事で術が解けたのさ……さあ、俺たちの目的は終えた。オーガスタへ戻ろうか」

「なんでお前が仕切るの、お前が」


 何はともあれ、これでオーガスタも脅威から解放された。ジルクさん達もきっと喜んでくれるだろう。待ち望んでいるだろう嬉しい知らせを、一刻も早く届けてあげねば。


 多少、不服を抱いたらしいスバノンだったが、アスティ同様に早い所疲れを癒したいとの思いが優先されたらしい。その後は特に突っかかるでもなく、ブルーさんを先頭にして地上への道を歩き始めた。


─…‥・‥…─…‥・‥…─…‥・‥…─


 ひとつ上の階層に出た所で、床に何かが煌めいているのが見えた。


 近寄ってみると、小さなものが落ちている。拾い上げると、それは“スリーピー・ホロウ”と呼ばれる特殊な指輪だった。


「おー? 監獄にも、お宝なんてあるのか。幾らくらいするのかな」


 言いながら、もっと良く見ようとしたらしいスバノンの手から、さっと指輪が奪われる。


「って、おい! 何なんだよ、お前はっ」

「ま、まぁまぁスバノン……仕方ないよ。多分あれは……」


 そのまま無言で先を行くブルーさんに、また怒りかけたスバノンへアスティが、後半は口を彼の耳に寄せて何事かを囁く。聞いている内、スバノンも落ち着いた様に静かになった。


 スリーピー・ホロウは「死者の骨から生み出される」という説がある。それが本当なら、恐らくあの指輪は、ここに佇んでいた亡霊の……ブルーさんの兄のそれから生じたのだろうと思われた。いわば、あれは“形見の品”となる訳だ。


 そうした事情に、アスティも気づいたのだろう。説明された後はスバノンも……皆が、口をきく事もなく静かに地上へ向けて歩き続けた。―― あの指輪には闇属性の魔力や闘気技から身を守ってくれるという話もある。最後まで弟の身を案じていたあの霊魂が遺していくに相応しい品だろう。この先、彼がどういう生活を送るかは解らないが、一歩町から出れば魔物の影が絶えない以上、特殊効果を備えた装備や装飾品はかなりありがたい物に違いないのだから。


 道の途中には、アンデッドもだが人魂も1つ残らず消えていて、それは即ちこの地が破魔の呪縛から解放された事を意味していた。きっと彼らも、全員無事に成仏出来た事だろう。


 後はせめても、安らかな眠りを ―― 入口の門を閉ざしつつ、そう祈らずにはいられなかった。

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