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「あ、また人魂。なんだか、やたら飛び回ってるような……」
「それも全部、破魔のせいだな。全く……死神がとち狂うと性質が悪い」
一刻ほど探し歩いた頃には、ブルーさんも大分打ち解けた感じになってきた。燐光を見かけたらしいアスティの呟きに、そんな返事を返している。
「んー。それだけ、沢山の人を一気に殺したってこと? だから、あんなに人魂が……」
「そうじゃない。死神ってのは本来、死者の魂を黄泉に送り届けるのが役割だ。ところが破魔の奴は、魂を縛る能力を悪用して、本来なら成仏出来ている筈の魂までも全て、この監獄に留め置いてるんだ。多分、ここで闇の力を吹き込み……新たなアンデッドを生み出すために」
「えっ? じゃ、さっきから出てくるアンデッドって……まさか」
「全部が全部、破魔の創造物じゃないだろうけど。或いはそうしたものも混ざってるかもね」
「―― よくよく、とんでもねーヤローだな。さっさと退治しねーと皆、成仏できないどころか操り人形かよ。こりゃ早いとこ天誅下さねぇとな」
とんでもない情報に、スバノンもますますやる気を増したようだ。怒りを滲ませた言葉が、全員の士気を鼓舞した、その時。やや開けた場所に出たかと思うと、眼前に周囲のそれとは違う闇が蟠っている箇所があった。
近づいてみると、どうやらそれこそ、目的の扉であるらしい。その大きさには見合わぬと思えた鍵が、しかし差し込んでみるとぴたりと一致し、新たな空間を提示してくれた。
「おっ開いたか! よーし、これで破魔の所に行けるんだな、頑張ろーぜ」
「うんっ。でも不意討ちを好むとか言ってたから、周りに気をつけていかないとね」
「おうよ……て。ありゃ何だ? また亡霊かな」
いよいよ決戦とばかりに気合の入っていたスバノンの声が、急に訝しげなものに変わる。その指し示す方を見ると、確かにアンデッドとは異なる、大きな燐光が一つ所で微かに揺らめいていた。
《畜生……おれも、ここまでか……》
そっと近寄ると、そんな呟きが聞こえてくる。やはり、これもまた強い残留思念体である様だ。破魔を倒す手がかりが得られるかもしれないので、少し様子を窺ってみる事にする。
《ステラに置いてきた弟が心配だ……あいつ、おれが監獄から戻ってこないと知ったら、後を追ってくるに違いない……》
「え、ステラ? ブルーさん以外にも、ステラから来た人がいたんだ」
「―― 静かに。まだ何か言っていそうだ」
ブルーさんが先程までとは異なる口調で、そうアスティを制止する。
亡霊は、一旦は呟きを止めその場で震えるばかりだったが……そう間を開けずに再び、言葉を紡ぎだした。
《……頼む……お前までこんな目にあわせたくない。来ないでくれ ―― ブルーよ……》
「……! これって……ブルーさんの……?」
「おい、お前って……オーガスタに来たのも、まさかこのため?」
アスティだけでなく、全員が驚愕の視線をブルーさんに向ける。つまり彼がここへ来たのは、個人的な理由もあったと言う事か。―― だがブルーさんは、ほんの少しの間亡霊を見据えていたかと思うと、一言も発せずにその向こう側へと歩き出した。
「て、おいちょっと待てよっ。こいつ、このまま放っといていいのか? 供養……は無理でも、せめて何か言ってやるとか」
「亡霊と化した者に、生者の声は届かない。―― どの道、予想は出来ていた事だ」
「っ……お前! 冷静通り越して、冷たすぎねーかそりゃっ?」
「ス、スバノンちょっと落ち着いて……」
放置すると、またレジーさんの時の如き行動に出そうなスバノンを、アスティが慌てて背後から必死に抑える。そんな彼女にまでスバノンが色々喚いていると、更に追い打ちをかけそうな声が前方から聞こえてきた。
「こっちに、最下層に通じる階段がある。今までの階層は隈なく調べたんだ、破魔がいるとしたらこの先に違いない。早くしろ」
「ま、待ってブルーさん。今こっちも手いっぱい……」
一度怒ったスバノンを鎮めるのは、アスティでも多少手こずる様だが、ここは彼女に任せるしかあるまい。経験上、それが最善なのは解っているので、あえて2人を置いてブルーさんの方に近づいておく事にした。
それに ―― 今は暗がりの中にある人影へと目を向けつつ、思う。多分、この人は冷たい訳ではないのだと。
彼がひとり、先に立って行った時。その背中が松明の灯りから抜け出す直前、確かに見たのだ。……その手がぎゅっと、あまりに強く握られ震えている様を。
きっと思う所なら沢山、余りある程あるのだろう。けれど、それを人前で、まして会って間もない人間の前で吐露出来る程には、素直ではないだけの事なのだ。スバノンとは別の意味で不器用な人と言えるが……それを代弁してあげられる程、まだ付き合いも長くない以上は、下手に口を差し挟まない方が良いのかも知れない。
いずれは誤解も解けると良いが ―― 願いつつ、やっと騒ぎの静まった背後を振り返る。
そしてその傍らの燐光を見て、誓った。貴方の仇はきっと、貴方の弟と共に取る、と。




