表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 三.神聖都市の暗雲 ―
20/68

3-4

「あ、また人魂。なんだか、やたら飛び回ってるような……」

「それも全部、破魔のせいだな。全く……死神がとち狂うと性質が悪い」


 一刻ほど探し歩いた頃には、ブルーさんも大分打ち解けた感じになってきた。燐光を見かけたらしいアスティの呟きに、そんな返事を返している。


「んー。それだけ、沢山の人を一気に殺したってこと? だから、あんなに人魂が……」


「そうじゃない。死神ってのは本来、死者の魂を黄泉に送り届けるのが役割だ。ところが破魔の奴は、魂を縛る能力を悪用して、本来なら成仏出来ている筈の魂までも全て、この監獄に留め置いてるんだ。多分、ここで闇の力を吹き込み……新たなアンデッドを生み出すために」


「えっ? じゃ、さっきから出てくるアンデッドって……まさか」

「全部が全部、破魔の創造物じゃないだろうけど。或いはそうしたものも混ざってるかもね」

「―― よくよく、とんでもねーヤローだな。さっさと退治しねーと皆、成仏できないどころか操り人形かよ。こりゃ早いとこ天誅下さねぇとな」


 とんでもない情報に、スバノンもますますやる気を増したようだ。怒りを滲ませた言葉が、全員の士気を鼓舞した、その時。やや開けた場所に出たかと思うと、眼前に周囲のそれとは違う闇が蟠っている箇所があった。


 近づいてみると、どうやらそれこそ、目的の扉であるらしい。その大きさには見合わぬと思えた鍵が、しかし差し込んでみるとぴたりと一致し、新たな空間を提示してくれた。


「おっ開いたか! よーし、これで破魔の所に行けるんだな、頑張ろーぜ」

「うんっ。でも不意討ちを好むとか言ってたから、周りに気をつけていかないとね」

「おうよ……て。ありゃ何だ? また亡霊かな」


 いよいよ決戦とばかりに気合の入っていたスバノンの声が、急に訝しげなものに変わる。その指し示す方を見ると、確かにアンデッドとは異なる、大きな燐光が一つ所で微かに揺らめいていた。


《畜生……おれも、ここまでか……》


 そっと近寄ると、そんな呟きが聞こえてくる。やはり、これもまた強い残留思念体である様だ。破魔を倒す手がかりが得られるかもしれないので、少し様子を窺ってみる事にする。


《ステラに置いてきた弟が心配だ……あいつ、おれが監獄から戻ってこないと知ったら、後を追ってくるに違いない……》


「え、ステラ? ブルーさん以外にも、ステラから来た人がいたんだ」

「―― 静かに。まだ何か言っていそうだ」


 ブルーさんが先程までとは異なる口調で、そうアスティを制止する。

 亡霊は、一旦は呟きを止めその場で震えるばかりだったが……そう間を開けずに再び、言葉を紡ぎだした。


《……頼む……お前までこんな目にあわせたくない。来ないでくれ ―― ブルーよ……》


「……! これって……ブルーさんの……?」

「おい、お前って……オーガスタに来たのも、まさかこのため?」


 アスティだけでなく、全員が驚愕の視線をブルーさんに向ける。つまり彼がここへ来たのは、個人的な理由もあったと言う事か。―― だがブルーさんは、ほんの少しの間亡霊を見据えていたかと思うと、一言も発せずにその向こう側へと歩き出した。


「て、おいちょっと待てよっ。こいつ、このまま放っといていいのか? 供養……は無理でも、せめて何か言ってやるとか」

「亡霊と化した者に、生者の声は届かない。―― どの道、予想は出来ていた事だ」

「っ……お前! 冷静通り越して、冷たすぎねーかそりゃっ?」

「ス、スバノンちょっと落ち着いて……」


 放置すると、またレジーさんの時の如き行動に出そうなスバノンを、アスティが慌てて背後から必死に抑える。そんな彼女にまでスバノンが色々喚いていると、更に追い打ちをかけそうな声が前方から聞こえてきた。


「こっちに、最下層に通じる階段がある。今までの階層は隈なく調べたんだ、破魔がいるとしたらこの先に違いない。早くしろ」

「ま、待ってブルーさん。今こっちも手いっぱい……」


 一度怒ったスバノンを鎮めるのは、アスティでも多少手こずる様だが、ここは彼女に任せるしかあるまい。経験上、それが最善なのは解っているので、あえて2人を置いてブルーさんの方に近づいておく事にした。


 それに ―― 今は暗がりの中にある人影へと目を向けつつ、思う。多分、この人は冷たい訳ではないのだと。


 彼がひとり、先に立って行った時。その背中が松明の灯りから抜け出す直前、確かに見たのだ。……その手がぎゅっと、あまりに強く握られ震えている様を。


 きっと思う所なら沢山、余りある程あるのだろう。けれど、それを人前で、まして会って間もない人間の前で吐露出来る程には、素直ではないだけの事なのだ。スバノンとは別の意味で不器用な人と言えるが……それを代弁してあげられる程、まだ付き合いも長くない以上は、下手に口を差し挟まない方が良いのかも知れない。



 いずれは誤解も解けると良いが ―― 願いつつ、やっと騒ぎの静まった背後を振り返る。

 そしてその傍らの燐光を見て、誓った。貴方の仇はきっと、貴方の弟と共に取る、と。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ