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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 三.神聖都市の暗雲 ―
19/68

3‐3

 半日ほどで辿り着いたアルパス監獄は、予想を遥かに超える、禍々しい瘴気に包まれた地下監獄だった。アンデッドを封じる為の門を潜り、階段を下りてみると……何故か松明の灯りが、通常の洞窟内より余程狭い範囲しか照らさない。加えて、如何にも不死属性といった、おどろおどろしい姿のモンスター達がそこかしこから襲ってくる。アスティの光魔法、スバノンの光属性の闘気技での応戦にも限界はあるので、何度となく唱える内急激に精度を上げた私の風刃魔法もいつしか、そうした魔物を退ける為の結構有用な手段となっていた。


「うーん、進みにくい……て、みゃ~~~っ!? 骨、人の骨がいっぱいあるーっ!!」

「……おいアスティ……。リンさんじゃあるまいし“みゃー”て何だよ、“みゃー”って」


 いや……流石にネコ耳青年と言えど、言語までが「猫語」と言う事もないだろうが。


 何故か、アンデッドには比較的冷静に対処できるアスティが、偶然躓いた人骨に怯えまくって抱き付いてくる。髪を撫でてあげれば多少は落ち着く様だが……まあ、その気持ちも解らぬではない。せめてもう少し闇が薄らいでくれれば、こうしたハプニングも防げるのに。


「しかし、下手な迷路よりタチの悪い造りだなぁここ。こんなんじゃ破魔どころか、そのブルーって魔法使いも見つけにくくってしょうがねぇよ」

「んー……無事だと良いんだけど、その魔法使いさん。さっきから時々、人魂とかも見るけど……まさかその中に混ざってたり、してないよね?」

「おいおい、勝手に殺すなって。ジルクさんが泣くぞ」


 確かにここには、破魔に殺されたのであろう人々の、成仏できない魂が数多く彷徨っていた。人魂の中には、比較的生前の姿を留めた亡霊も居て、そうした魂は微かな声で何か思い残した事柄らしき言葉を繰り返し呟いていた。それらの呟きの中に、破魔の下に辿り着く手がかりとなる内容もあったのだが……どうやら道中にある扉を開かないといけないらしいが、その鍵を見つけるのがまず困難な状況である。これは想像以上に、時間のかかる厄介な探索となりそうだった。


「ん? このロープって、上に登れるみたい。試しに上がってみようか?」

「落ちるなよ~、この暗さじゃ上手いこと受け止めてやれねーぞ」


 また少し、時の進んだころ。アスティが見出した、非常口の如き天井の穴は、それまで見た覚えのない新たな空間……ここが正規の監獄だった頃の、恐らく独房が連なっていたのだろう場所へと続いていた。


「部屋がいっぱい……て事は、モンスターが潜んでる可能性もいっぱいって事かなぁ」

「ま、そう思っといた方が間違いはねぇわな。気をつけて進めよ」

「うん、……骨だけは転がってませんよーに……」


 そんなお祈りと共に歩を進めるアスティだったが……最初に覗きこんだ独房で早くも、何かに遭遇したらしかった。


「ん? 何これ……柔らかい、壁?」

「うわあああぁぁぁっっ!!!!」

「え、えっ? 何、なんなの??」


 どうやら、見つけた何かを指でつん、と突いてみたらしい。しかし ―― その“柔らかい壁”は、それは派手な悲鳴を上げて我々からかなり離れた、入口とほぼ反対側の壁にまで一気に飛び退った。


「なんか、今の……モンスターにしちゃ情けない声だったよーな?」

「ん~。人の声、だよね。誰かそこに、いるんですか?」

「えっ!? ―― えっ? 誰かって……えーと、誰?」


 何となく、会話が成立しそうでしない。人が居るのは確かだが、相手はどうも相当に動揺していた様だ。その声が落ち着いてきたのは、たっぷり十回は深呼吸できる時間が経ってからだった。


「あっ、いや……いやー、何だ、その。あれだよ? ビビったわけじゃないからね?」

「いや待て……どー見てもビビってただろ。そういう悲鳴だったろアレは」

「―― もしかして、ブルーさんですか?」

「え? うん、そうだよ。君達は?」


 ―― 確かジルクさんは、その人を指して「艱難から人々を救うべく監獄へ向かった、腕の立つ魔法使い」と評していた様な……。


 少々、いや結構かなりイメージとずれている気がしなくもない……が。ひとまず確認が取れた以上、この青年が探していた魔法使い・ブルーさんで間違いない様だ。


「私はアスティ。こっちがスバノンで、隣の綺麗なお姉さんがエルフィン。よろしくね」

「あ、よろしく。ところで何故こんなところに……もしかして、君達も破魔を退治に?」

「はい。まぁ、いろいろ私情も絡んできますが、今は破魔退治が目的です」


 黒髪の青年は、落ち着きさえ取り戻せば頭の回転は速いらしい。こちらの目的もすぐ察し、なら一緒に行こうかと笑顔で申し出てきた。


「一緒に、ってこの人、大丈夫なの? あんなんで、ちゃんと戦える?」

「うるさいなぁ。えーと……なんて名前だっけ」

「スバノンだよ。大丈夫、スバノンはちょっと口が悪いだけで悪気はないから」

「そうだ、スバノンだ。少なくともお前よりは役に立つぞ。―― 魔法でなら」

「いきなり呼び捨て、お前呼びとは中々やるじゃねぇか?」


 何やら、レジーさんとの会話の再現の様な気配になってきた。やはりスバノンは、もう少しだけ口の悪さを直した方が良いのかも知れない。


「いいだろ、別に。これから共に戦う仲じゃないか」

「え? 誰がいつ、そんな事言ったよ」

「えっ、あれ? そ、そうじゃないの?」


 どことなく慌てた風のブルーさんの前で、空惚けた様子で明後日の方を向いていたスバノンが……やおら小意地の悪い笑顔になると軽く舌を出して見せた。


「―― なんか、変な奴だなお前」

「あはは……ま、まぁ気にしないで。ブルーさん、一緒に破魔を退治しに行きましょう」

「ああ、そうだね。そこの変なのがうっとうしいけど我慢するよ」

「けっ、コイツ本当に役に立つのかよ。信じらんねー」

「……今に見てろよ。敵を倒すついでに燃やしてやる」


 やや不穏な台詞が聞こえた様な気もしたが、ともあれ目的の1つは達成できたので安堵する。後は目下の最終目標・破魔の討伐を目指すのみだが……。


「破魔のところに辿り着くには、途中にある扉を開けないといけないらしいんだけど……ブルーさん、探索中に何か見つけたり、してませんか?」


「ん? 扉……そうそう。そういや、何かの鍵拾ったよ。どこか使えそうな所はあったかな」


「え、あったんだ? やったぁ♪ でも、どこに行けばいいかは解ってたっけ?」

「んーどうだったかな。ひとまず、道具の管理はエルフィンがしてるから、そいつはエルフィンに渡してやってくれよ」


「なるほど。じゃ、エルフィンちゃん。これ渡しておくね」

「……エルフィンの事は“ちゃん”付けかよ」


 呆れているのか、それ以外なのか、ともかく何か含んだ様なスバノンの言葉は綺麗に流して、ブルーさんが小さな鍵を手渡してくれた。入り口の門の鍵に似ているが、持ち手の意匠が異なるので別の扉のものなのは確からしい。更に数言を交わし、お互い該当しそうな扉を見かけてはいない事も判明した為、まずは未だ歩いていない場所を探していく事となった。

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