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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 二.港町の確執 ―
15/68

2-6

「やっぱり、お前らだけじゃキツイんだろ……しょうがねぇな」

「えっ?」

「助太刀してやるよ。言っとくが、さっきのお前のヒーリングの借りを返すだけだからな」


 そう言うと、レジーさんがすぐ隣に並び立つ。同時にかなり広範囲に、治癒系の魔法力が広がり……スバノンの怪我や、私の疲労感があっという間に癒されていった。


「レジーさん……回復呪文、使えたんだ」

「ははっあんたが手伝ってくれるとはね。友情が芽生えましたか」

「―― お前は何を言ってんだ。ただの借り返しだっつーの」


 意外にもアスティ以上かもしれない治癒魔法の使い手だったレジーさんの参戦で、戦況はかなりこちらへ有利に傾いた。回復役が2人になった事で、怪我の癒し手と体力の回復役とが分担でき、結果として攻防共に先程以上に素早い行動を取れる様になった故だ。


 そして ―― 長引く戦いに、ついに終焉が訪れる。


 突き込んだ槍先が魔物の胸を抉り、アスティの魔法がその動きを更に鈍らせ……最後にスバノンの剣が、かっと見開いた青い双眸の中間に深々と、突き刺さる。途端、背筋を凍らせる程の聞き難い絶叫が広間に響き渡り……やがて、青の巨体がゆっくりと、その場に沈み込んで動かなくなった。


「ふ~……これは強敵だったなぁ」

「何か疲れちゃったよね……。レジーさん、ありがとう」

「ふん。借りを返しただけだ」

「あらま。照れちゃって」

「……だから何を言ってんだ、お前は」


 少しの間、念を入れてその動向を見守り、本当に魔物が絶命したのを見届けてから、やっとそんな会話が交わされる。スバノンの言に突っ込み返すのは忘れず、だが何かを思案していた風のレジーさんが、ややあって再び口を開いた。


「―― 結晶石、何かに使うんだろ。いいよ。持ってけよ」

「え? 急にどうした。ほんとにいいのか?」

「こんなモンスターがいると聞いてまで、ここに来たんだ。必要なんだろ。持ってけ」


 短い間に、何か余程彼を変えるものがあったのか。その表情は何だか、初めて会った時より大分、険が取れてとっつき易い雰囲気になっていた。


「……私たちは使わないんです。ここに来た理由は、私のお兄ちゃんを探すため。結晶石は、レジーさんのお父さんに頼まれたの。―― だから、」


 その雰囲気に、アスティも何か感じるものがあったらしい。先程見つけた結晶石を手にすると、レジーさんへと歩みより、それを彼の手に直接、握らせた。


「この結晶石は……レジーさん、お父さんに渡してあげて」

「―― お前、正気か? 俺がバカ正直に、これを親父に渡すとでも……」

「私はレジーさんを信じてます。さっきまでならともかく、今のレジーさんなら大丈夫」


 きっぱり言い切ったアスティに、返す言葉は咄嗟には浮かばなかったか、暫し黙り込んだレジーさんだったが。ふと、何かを思い出した様な顔に変わってこう言った。


「……お前、さっき兄貴を探しに来たとか言ってたな。この洞窟で、金髪の男なら一人、見かけたぜ。確かリンとか言ってたっけか」

「えっ!」

「やっぱりそいつか。何だか、のほほんとした感じで歩いてきて、いきなり俺にステラへの道順を聞いていきやがった。ここもそうだが、ステラも入るにはちょいと苦労する場所の筈なんだが……あいつ、どうする気なんだかな」


 ステラ ―― 通称・魔法都市。住民の殆どが魔道士や呪術師という、かなり特殊な町である。今では失われたとされる秘術や大魔法を修めた者も多く、それ故に他国から王家に召し抱えようと言う動きも、また逆に街の存在自体を危険視される事もしばしばで、そうした一切からの自衛の為か、かの町へ入るには特殊な技能が要るらしい。その位置自体もコーストからかなり遠く、もし訪ねるのであれば、またそれ相応の旅支度を整えてからの方が良さそうな所だった。


「どうしよ……お兄ちゃんってば、移動が速すぎるよ。ちっとも追いつけない」

「ステラに行く途中には、オーガスタって町がある。もしかしたら、そこで道草食ってるかもな? そんなに急ぎの旅って様子じゃなかったし、頑張れば追いつけるんじゃねーの」

「オーガスタ……そこにいれば、いいなぁ」

「ま、せいぜい頑張るこった。―― ステラ周辺は、火属性モンスターが多いらしい。そういう対策はしていかねーと、また怪我するからな」


 そこまでを言い残し、急に向きを変えると後は無言で立ち去るレジーさんを、ひとまずは見送る形で黙っていたスバノンが、リンさんの件でがっかりしている風のアスティに声をかける。


「アスティ。結晶石、どうすんの? あのおっさんに、なんて言い訳すればいいんだか」

「ん? ……ん~。やっぱり、渡すのまずかった?」

「何とも言えねーけど……問題ある気が、しなくもない」

「ん~……と、とりあえず報告に行きましょ。もしかしたら、レジーさんちゃんとトニックさんに渡してるかもしれないよ?」

「ま、そうだな。そう信じようか」


 どの道、石は既にレジーさんが持ち去っているので、今更それをどうこう言っても意味はない。代わりの結晶石を探そうにも、鉱物の目利きなど出来ない我々に、場所が解っていた以外のそれを見つけ出せる可能性があるとは言い難かった。


 ともかく、トニックさんには結果報告をする義務があるだろう。ステラなりオーガスタへ向かうのはその後、と言う事に話をまとめ、今はコーストへと帰還する事にした。

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