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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 二.港町の確執 ―
14/68

2‐5

 トワイライト洞窟は、昔は人が住んでいた地だと言う。

 何故、洞窟の奥地に“神秘の石を祀った広場”などと言うものがあるのか疑問だったが、そう聞けば……そして、奥に行けば行くほど、明らかに人の手の入った通路等があるのを見れば納得だ。


 洞窟内だと言うのに松明の必要がないのも、恐らくは古代の魔法仕掛けによる照明設備が未だに生きているが為で、この地に住んでいた人々がかなりの魔法技術を誇っていた事が解る。或いは、リンさんは結晶石と言うより、それら古人の技術跡を調査に来ているのだろうか?


「ん~……いたた。まだちょっと痛いかも……」

「ちゃんと回復しとけよ。いつモンスターが出るか解らないんだしさ」

「うん、大丈夫……ごめんね2人とも。巻き添え食わせちゃって」

「別に気にしちゃいないさ。それにしても、ここまで結構一本道だったわりに、リンさんに会わないなぁ……どこにいるんだか」


 ―― もし、先程落下した地点で見えた、その先の通路にリンさんがいたとしたら、正にすれ違いとなった可能性もあるが……今それを言って、アスティをこれ以上気落ちさせる事もあるまい。


 途中出くわす魔物も何とか討ち払い、道自体も進みやすい綺麗な通路だった為か、いつしか安全確認を怠っていたらしいアスティが、どうやら皹の入っていたらしき氷の床に乗ってしまい、全員で勢いよく落下したのがつい先刻。幸い誰にも大した怪我はなかったが、打ち所のせいか暫く気絶していた為、洞窟に入ってからの正確な時間が判断つかなくなっていた。


 責任を感じてか、だいぶ元気のなくなっていたアスティだが。ふと、何かに気づいた様に、急に普段の声音に戻る。


「あ、あれって……あそこが神秘の石の広場の、入口じゃないかな?」

「お? 確かになんだか今までの壁と違うな」


 それは、一見すると今までと同じ氷壁だが、少し傍に近寄るとあまり記憶にない様式の浮彫が施された、ちょっとした神殿風の壁と柱になっている場所だった。数段程の階段の先には、確かにかなり広めの空間と、いくつかの柱に守られた祭壇の如き氷の台座があり、その上に周囲とは全く趣の異なる真紅の宝玉が置かれている。


「確か、神秘の石の左側に、結晶石を隠してるって言ってたよね。探してみようよ」


 アスティの言葉に、全員で該当しそうな場所を探し始める…が、どうもそれらしき場所がない。隠すと言うからには、剥き出しではないのだろうが……そもそも綺麗に磨かれた氷の床は、どこまでも平らに続くばかりで石どころか豆粒1つ、隠せそうには見えないのだ。


 これは少々、捜索範囲を広げた方が良いか ―― そう思った時。


 足元の床が、どことなく周囲と異なる色合いの様に感じて目を凝らしてみる。……何かが、氷の中へパズルのピースの様に嵌め込まれていた。槍先で穿り出してみると、それはまるで水晶の様な透度を誇る、けれど水晶より硬度が上に思える鉱物だった。


「どうした、エルフィン。見つけたか?」

「あっこれ。これが結晶石なんじゃない? こんな透明なの、良く見つけたね」


 二人に知らせると、そう言いながら喜んでくれる。これで目的の1つは達成された、と安堵した、その時だった。


「―― 丁度良いタイミングで見つけたぜ。そいつをよこせよ」


 背後の声に振り向くと……こちらにとっては悪いタイミングで、困った人に出くわす事となった。


「これは、私たちが見つけたんです」


 先日の件を思い出したか、アスティが珍しく最初から警戒心を露わにして言うものの、レジーさんはまるでお構いなしである。


「ああ、そうだな。ご苦労さん。さあ、よこせ」

「やだね。なんで、あんたなんかにやらねばならんのだ」

「早く渡さないと、痛い目見る事になるぞ?」


 これでは、トニックさんの家での出来事の第二幕だ。今度はスバノンも容赦しなそうだし、アスティに手を出そうとするなら私とて黙っている訳にはいかない。いざと言う際に備えそっと、片手に魔法力を集め始める……その時背後に、新たな気配が湧いた。


 思った時には、猛獣の咆哮の如き怒号と共に、何か大きな影がレジーさんに襲い掛かる。


「うわっ!?  ―― ちっ、モンスターか。油断しちまった」


 その場に浮かび上がったのは、まるで一角獣の様な長く鋭い角を持ち、大きな、しかし毒々しい青色の目をぎらつかせる大柄の魔物の姿だった。鋭い爪も、服か鎧か解らぬ装いから零れ見える肌も全てが、目と同じ汚れた青に染まっている。なまじ人型モンスターであるが故に、より一層その異質ぶりが際立つ、如何にも凶暴そうな顔をした輩だった。


「っ! 怪我を……ヒーリング!!」


 アスティが呪文を口にすると、レジーさんが負っていた怪我が見る間に癒される。直接触れずとも対象を治癒できるとは、この短期間で随分成長したものだ。


 だがレジーさんの口から飛び出したのは、その腕前への称賛でも行為への感謝でさえなかった。


「余計な事すんな!」

「えっ?」

「お前らの助けなんか、いらねーんだよ!」

「 ―― ! てめーっ」


 たじろぐアスティへ更に言い募るレジーさんに、スバノンが行動を起こす。


「何しやがる!」

「ちょ、ちょっとスバノンっ」


 今にも襲いかかってきそうな魔物を前に、する様な事ではないかもしれない。だがその気持ちも解らなくはない……レジーさんはスバノンの拳で、さっきより派手に吹っ飛んでいた。


「くだらねー意地張ってんじゃねえぞボケコラ!」

「スバノン……何でもうちょっと、優しく言えないの……」

「そんなの要るか! こういうのは一度、喝入れないと直らねーんだよっ」

「……!」


 スバノンの勢いは、アスティの仲裁も許さぬもので。その顔を睨みつけるレジーさんの表情が、心なしか鋭さを失いつつある様に……見えた時、背後で再び咆哮が上がった。


「っ!  ―― てめーは、そこでじっと見てろ! 俺らがこいつを片づけてやるよ!」


 そう、確かに急を要するのはこちらの方だ。青い魔物は最早、獲物を見定める段階から狩り尽くすそれへと移行しつつある。

 鋭い鉤爪を備えた足が、一歩踏み出され ―― 次の瞬間、その体つきからは想像できぬ程の瞬発力で飛び出してきた魔物の一撃は、辛うじて剣で受け止めたかに見えたスバノンを一気に弾き飛ばしていた。


「スバノン! 大丈……きゃっ!?」


 その傍に駆けつけたかに見えたアスティが、慌てて飛び退く。その右腕に、見る間に朱い染みが広がっていく……スバノンの剣先に切り裂かれた様だった。


 起き上がった彼の目つきが、どう見ても常時のそれではない。厄介な事に、この魔物の一撃には“混乱”効果が付属している様だ。今度はこちらに斬りかかってくる彼を、止む無く槍の柄で突き飛ばす。打撃を重ね受けた事で我に返ったらしいスバノンに、だが再び魔物が飛びかかる ―― そこへデザートレイドを撃ち込んだ。高い敏捷性が要求される槍の高速連打攻撃。これなら、この敵の間合いの外から攻撃でき、恐らくはあの爪がもたらす“混乱”を避ける事が出来る筈だ。


「っ……わりぃアスティ! 大丈夫かっ?」

「うん、すぐ治せたから無事っ。でもあれだと……ちょっと近寄るの危険だね、こいつ…」

「やり方次第だ! 前方からはエルフィンに任せて、俺は脇か背後から行くっ」


 言うやスバノンも、爪をかわせる位置を確保しつつサザンクロスで応戦し始める。魔法は使えないスバノンだが、闘気技は修得していたらしい ―― 一時的に光属性が付与された剣先は、今度は違う事無く魔物の肌を切り裂き、毒々しい青い血を飛散させた。更にアスティも、光系の攻撃呪文・セイントライトを駆使して遠距離攻撃を始めている。


 自分もその援護を兼ねて休む間もなく槍を繰り出すものの、この魔物、やけに打たれ強い。普通なら討伐できそうな頃合になって尚、獰猛な肉食獣を思わせる咆哮と共に襲いかかってきて、きりがなく思えてきた。


「……何だよ。意気揚々と立ち向かったくせに、かなり苦戦してんじゃねぇか」


 そんな声が聞こえてきたのは、流石に全員に疲労の色が見え始めた頃だった。

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