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奏でられし聖樹の記憶  作者: ファル
― 二.港町の確執 ―
13/68

2-4

 少し待っていてくれ、と言い残して玄関へと歩いていくトニックさんを一旦は見送ったものの……何となく目を見交わすと、全員が静かにその後に続く。特に、私は単純な興味本位だけでなく、先程の声に聞き覚えがある様な気がしてならなかった。 ―― はて、どこで聞いたのだったろう?


 玄関に近づいた時、先に出て行ったトニックさんの、今し方とはまるで印象の違う怒鳴り声が響いてきた。同時に、彼と言い合う若者の声も。


「レジー、何の用だ!」

「何の用だって、決まってるだろ。結晶石の隠し場所、教えてくれよ」

「ふん……お前のようなバカ息子には、死んでも教えない」

「へ~え? じゃ、試しに死んでもらおうか?」

「やってみろよ。お前にそんな度胸があるとは思えんぞ」


 ―― 聞こえてくるのは、どうにも穏やかならぬ内容だ。相手はどうやら息子さんらしいが、それにしては殺伐としすぎている。とても、あのトニックさんの子供とは思えない。


「ちょ、ちょっと……!」


 思ったのはアスティも同じだったらしい。思わず、という様に駆け寄り、彼らの間に割って入る。


「お、おい君、危ないぞっ」

「ん? ……何だお前ら。親父の客か?」


 そこで初めて、こちらに気づいた様に若者が視線を向けてくる……その顔には見覚えがあった。道理で、声にも聞き覚えがあった筈だ。


「あれ、お前……さっき町でぶつかってきた、ねーちゃんじゃねぇか」

「ん、何エルフィン。こいつ知ってるの?」


 そう。まだコーストに着いて間もない頃、スバノンがお祭りを堪能している際にぶつかってしまった、あの青年だった。あの時も結構怖そうな人とは思ったが、改めて近くで見れば、鋭い眼光といい先程からの言葉遣いといい、どうも近寄り難い印象を与える人だ。


 しかし、スバノンの聞くような、知人だと言う程の関わり合いはない。と、答えようとした時。


「ふーん。綺麗っちゃ綺麗だが、ちょいと毛色の変わったねーちゃんだな……親父、何なのこいつ。あんたのコレか?」


 若者 ―― レジーさんと言ったか、彼がいきなりトニックさんに向け、小指を立てて見せた……。


「バカか……初対面の相手に何を言ってる。この人たちは、ただのお客さんだ」

「そうよ、失礼なっ! それに、エルフィンは私のなんだからっ」

「いや……アスティ、それもちょっと、かなり違うと思うぞ……」


 何となく、さっきより場が騒然とし出した様な気もするが……一応気のせいと言う事にしよう。


 一方、騒ぎのきっかけであるレジーさんは、アスティ達の発言自体には興味がなさそうに、だが別の意味でこちらを注視している風だった。


「お前ら ―― もしかして、結晶石の隠し場所を聞いたのか?」

「……え?」

「親父は今、この前逃げ帰って来た時の怪我が治りきってなくて洞窟には行けない。だからって、貴重な結晶石をほったらかしにしとく手もない。となりゃ誰かに取りに行かせるってのが一番、あり得る話だからな」


 そう言いながら彼は、一番問いかけに反応の早かったアスティの手を摑まえる。


「きゃっ?」

「親父が口を割らないなら、それでもいいさ。お前の方が、ちょいと痛めつけりゃ簡単に白状しそうだからな」

「ってめ、何す ―――― 」


 とんでもない人だ。スバノンも慌てて彼を止めようとし……だが、いち早くアスティを奪い返したのは、トニックさんだった。


「やめんか、レジー! この人たちは無関係だ。関係のない人間に隠し場所を教えるほど、おれがバカに見えるのか?」


 そう言うと、トニックさんは息子を強く睨み据える。レジーさんもまた、無言で睨み返し……暫しの睨み合いの末、踵を返したのはレジーさんの方だった。


「ふん。教える気がないならいいさ、自分で探し出してやるよ。こんなクソ親父に聞いた自分が情けないぜ」

「探すのは結構だが、せいぜい怪我をしない様に気を付けることだな」

「あんたとは違うんだよ、俺は。モンスターごとき、ねじ伏せてでも結晶石は採ってやるさ」


 吐き捨てる様に言って外へ出ると、扉をかなり乱暴に閉める。……どうにか嵐が去って少しの間、誰も言葉なく玄関先に立ち尽くしていた。


「―― ひっでぇ態度だな」

「見苦しい物を見せてしまってすまない……怪我はないかい? お嬢さん」

「だ、大丈夫……ありがとうございました」

「男の子はどうしても、一時期荒れるもんだが……あいつの場合、男手ひとつで育てた上に一番大事な時期におれが忙しすぎて全く構ってやれなかったからな……本当にすまないね」


 トニックさんは、我が身を省みて後悔する様な口調になってから、もう一度アスティに詫びを言った。幸い彼女には、本当に怪我はない様だ。―― と言うより、レジーさんには本当に、アスティに手を上げる気があったのだろうか?


 確か町でぶつかった時も、こちらが女だと解ると、その口調は和らいでいた。あれは、本当の悪者ならあまり取らない態度の様な気もする。とは言え、現実にトニックさんへは言い訳しようのない態度に終始していたし、頭に血が上れば本当にアスティにも何らかの暴力は振るったのかもしれないから、簡単に彼の評価を変えるべきではないのかも知れないが。


「さて、どこまで話していたっけか。結晶石の隠し場所を言うところだったかな?」

「―― 結晶石の場所、私たちなんかに教えちゃってもいいんですか? さっきからの話だと、何だかとても重要な石みたいだけど……」

「ああ、大丈夫さ。君達がトワイライトに向かう理由は、リンという青年を探す為なんだろう?」

「はい」

「だから、信用できる」


「ん~? 意味が解るよーな解らないよーな」

「はっはっは。気にしないでくれ」


 今は、最初に相対した時と同じ気さくな様子に戻ったトニックさんは、首を傾げるスバノンに豪快に笑ってみせ、再び奥の部屋に行くよう促してきた。


「まあ、お茶でも飲んでから出かけるといい。ちょっと座って待っていてくれ」


 ややあって、良い香りの香草茶と簡単な干菓子を出してくれたトニックさんは、自らも席についてお茶のカップを手に取り、口を開いた。


「では、話の続きをしようか。隠し場所はだな……洞窟の、結構奥の方なんだ」


 そう言うと一口、お茶を含んで、逃げ帰る際の記憶を確認する様に目を閉じる。


「……トワイライトの奥には、神秘の石が祀られている広場がある。そこの、向かって左側に隠してある筈だ。少し調べれば見つかるだろう。普通の石とは明らかに違う見た目だしな。だが、さっきも言ったように、凶暴なモンスターが住み着いている可能性がある。十分注意してくれ」

「わかりました。十分、支度もしてから行く事にします」

「それがいい。後は……これが、トワイライトへ入る為の許可証だ。入り口には、これを確認する為の役人がいるから、彼らにこれを見せると良い」


 アスティの返事に頷いてから、トニックさんの手がテーブル脇の棚を探り、そこから小さな、パスポート状の書類を一通取り出してスバノンの目の前に置いた。


「おっしゃ、任せてくれ!」

「ああ、頼んだよ。……魔物に注意は必要だが、あまりぐずぐずしていると、レジーが先に見つけてしまうかもしれない。そちらも出来れば気をつけてくれ」


 出来る事ならどちらも遭遇したくはない相手、といった所だが。ともかく目的は結晶石、そして何よりリンさんだ。どちらも無事に果たすべく、まずは旅の支度を整えに町へ向かう事にして、トニックさんにお茶のお礼を言うとその家を後にした。

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