2‐3
「エルフィン、スバノン。お兄ちゃん探しに付き合わせてごめんね」
「今更言うかそれ? 別にいいけど」
何人かの町民に訪ねると、鍛冶屋さんの家はすぐに判明した。今度こそ手がかりになればいいが……と思いつつ歩いていく道すがら、ふとアスティが言った言葉にスバノンが笑い出した。
「どうせ、俺もエルフィンも家に居てもする事ないしな。いっそこの勢いで、世界中を旅したいぜ」
「あはは……それはさすがに、しんどいかも」
確かにきつそうだが、何だかスバノンならやりかねない。普通に世界一周どころか、五十周くらいしてきて、しかもけろっと「あー楽しかった」などと言いそうだ。
「あ、ここじゃないかな鍛冶屋さん。……あんまり、それっぽい家じゃないけど」
「んー、でも聞いた住所はここであってるはずだぜ。ま、入ってみよう」
言うなり、スバノンがノックもせずに扉を開ける。しかし中は、鍛冶の音どころか何らかの店らしき気配もない、どうにも“普通の民家”だった。
「……ん~。これって、なんかハズレっぽいか?」
スバノンが首を傾げ、アスティも気落ちした表情になった時。
「ん、あれ……奥から、誰かの声がする」
そう言って、家の奥へと歩を進めて行った。ついていくと、確かに人の気配がある。
そっと覗くと、お茶を前にテーブルにつく逞しい体つきの男性が見えた。
「むぅ……あのリンと言う青年……彼も結晶石を探しに来てるのだろうか」
「えっ! リンを見たんですか!?」
「わっ!? な、何だい君達は?」
―― それは、一人きりだと信じている家の中で突然、覚えもない声がすれば驚くだろう。
文字通り椅子から飛び上がって驚いた男性が、こちらを振り向いて誰何した。その顔をよく見ると、何で怪我をしたものか片目に大きな縦傷があり、どうやらそちらの目はもう機能していない様だ。そんな顔貌にも拘わらず、男性の持つ気配はさながら「優しい父親」のものだった。
「ご、ごめんなさい勝手に入ってっ。あの、私たち、今仰ってたリンという者を探してるんですけど……あ、私アスティと言います」
「えーと、お邪魔してます。俺はスバノンで、こっちがエルフィン。怪しい者じゃないです」
「お、おお。……おれはトニックだ。リンと言う青年なら、つい数時間ほど前になるかな。結晶石について教えたら、トワイライトに向かうって言って出て行ったよ」
「数時間前? そりゃ惜しかったな……てかトワイライトって?」
「結晶石? お兄ちゃん、調べ物って石のことだったのかな……それってどんな石ですか?」
「何だ、知らないのかい?」
かなり強引な話の進み方だったが、トニックと名乗った男性は、豪気な性格なのか不法侵入については何も咎めず、どころかあっさり、こちらの話に乗ってくれた。
「俺たち、アスティの兄さんの、リンさんを探して海を越えてきたんだ。石探しじゃないもんで、あいにくそれに関しちゃ何も知らないんだよ」
「ほほう、それはご苦労な事だ」
こちらの事情が判明すると、トニックさんは更に気さくな感じになって説明してくれる。
「トワイライトっていうのは、東の方の雪原にある洞窟の名前さ。そして結晶石というのは、トワイライトで採れる鉱石の一種でな、毎年ちょうど、今頃の時期に採れるものだ。しかし、結晶石はいつも数えるほどしか採れない、とても珍しい物なんだ。……なあ。君達は、あの青年を追って、トワイライトまで行くのかい?」
あらかた説明してくれた後、ふと気になった様に尋ねてくるトニックさんへ、アスティが頷く。
「はい。もちろん行きます。お兄ちゃんに伝えなきゃいけない事があるんです」
「そうか。……実はトワイライトに入るには、許可証が必要だ。おれのを持って行っても構わないが、その代わり、おれの頼みを受けてほしい」
「ん。どんな頼みですかな?」
スバノンが、早くも引き受けそうな勢いで聞き返すと、トニックさんも既に任せる事を決めているかの様に、淀みなく説明を始める。
「おれは先日、結晶石をトワイライトの中で発見した。しかし、それを手にしようとした時に、モンスターに襲われてな……これが非常に凶暴なモンスターで、おれは逃げるので精いっぱいだった。なんとか結晶石だけでも持ち帰ろうと思ったが、そのモンスターが凶暴過ぎて、それすらできなかったんだ。そいつが、今もまだいるかどうかは解らない。まあ、いるとしても君達なら、何とかなりそうだけどな」
「いやあ、おじさん。なかなか見る目あるね ―― 要するに、その取り損ねた結晶石を俺たちが取ってくればいいわけだ。そうだろ?」
「物分かりが良いね。どうだ、やってくれるかい?」
「任せて下さい」
スバノンのみならず、アスティまでもノリ良く答える。まあ、トワイライトへ行けばリンさんに会えそうだと言うのも大きいだろうし、そこへ入るにはどの道、トニックさんの頼みを受ける必要がありそうなこの流れで、依頼を断る手もあるまい。
「はは、自信満々だね、助かるよ。じゃあ早速、結晶石の場所を教えよう。場所は ―――― 」
「おーい、親父!」
トニックさんが場所の詳細を口にしようとした、正にその時玄関の方から、若者のものらしい大声が聞こえてきた。途端に、今まで笑顔だったトニックさんの表情が厳しいものに変化する。
「……すまない。またあとで、話をしよう。まったく……!」




