2-2
「ここね、占いの館。……いいお話聞けるかな」
「良く当たるっても、料金もお高かったらやばいぞ? とりあえず、そこ先に確認だよな」
―― 2時間ほど後。町の噂で“かつて見た事がない程良く当たる占い師”の話を聞いてやってきたのは、あの後スバノンを無事捕獲、リンさん探しを再開したものの、およそ手がかりらしきものが何一つ見つからなかったが故だった。
大国セレンの王都、砂漠都市アリシアに次ぐ大都市と称されるコーストには、各地から多くの人が集まるが、その分『精霊の加護篤き者』の特徴を備えた人々も多く存在し、目立つから楽と考えていた“ネコ耳青年”の探索は予想以上に困難となっていた。まぁ、唯一の救いは、それはマナプールの追手にとっても同じ事なので、先に彼らがリンさんを捕まえる可能性が低くなっているであろう事か。
しかし、彼らには人数の上での利点があるのもまた事実。ここは何としても、確実な手掛かりが欲しい ―― そこで、やや不安はあるものの、評判の良いこの占いの館にやってきたのだ。
「えーと……お邪魔します~」
「ようこそ。どうぞ、こちらへ」
スバノンが扉を開け声をかけると、物優しげな女性の声が、そう招いた。
「お金に関しての心配は、ご無用です。占いにお金などいりません」
「て、えっ? な、なんでそれ……」
「あなたの声は良く通ります。扉の前で話していれば、ここまで筒抜けですよ」
軽く笑って言われてしまい、流石にスバノンも気まずそうな顔になる。
「でも、お金はいらないって、それじゃ商売にならなくね?」
「私の占いは、人々を助けるための物。商いの為の物ではありません」
にこやかに語ると、変わった意匠のサークレットを身に着けた女性は、自分の目の前の椅子に座る様にと促した。占ってもらいたいのはアスティなので、彼女が椅子に座ったのだが。
「―― あら。そちらの、あなたは……」
何故か彼女は、アスティではなく私の方に目を向け、何か考える様に首を傾げた。
「あなたは……私と同じ『夢の遣い手』ですね。これまでに、何か不思議な夢を見ると言った事が、ありませんでしたか?」
「え……すごい、占い師さんそんな事がすぐにわかるの??」
「つーか、それって何? 初めて聞いたんだけど。エルフィンが『精霊の加護篤き者』なのは耳で判るけど、まだなんか変わったトコがあったわけ?」
確かに、ユグドではそんな言葉は聞いた事がない。アスティとスバノンも同様らしく、口々に占い師さんに問いかけている。
「『夢の遣い手』とは、夢の内に己の知りたい事柄を視るのが可能な能力者の事です。その力を極限まで高めた者なら、遥か未来や過去の出来事さえ、たった今起こった現実の如く視て取る事さえ可能とか ―― もっとも、現在そこまでの遣い手はいないと言われておりますが。私とて、占いにその力を活かし人々のお役に立とうと努力はしておりますが……中々、思う程には力を扱えず困っております」
力不足を嘆く様に、哀しげに笑った女性は、再び私を見据えて言った。
「あなたの力も、見た所自在に操れる訳ではなさそうですね。もし宜しければ、暫くここで修行していかれませんか? 旅を続けていかれるのであれば、多少と言え“先の事を知る力”が確実に働く様になれば、心強い事と思いますが……いかが?」
「あー……わりぃが、今の俺たちは先を急いでるんだ。立ち止まってる暇とかないもんで、ごめん」
「そ、そうだった。占い師さん、その話はまた後にして、占ってほしい事があるんです」
何やら不思議な勧誘を受けてしまったが、スバノン達がそれを遮り、本来の目的を告げる。私としてもリンさん探しの方が大事だと思っているので、多少は気になる誘いだったが、構わずアスティの言うまま占いをしてもらう事にした。
「そうですか。……それでは少々お待ち下さい」
別に気を悪くした風でもなく、女性は静かに目を閉じる。眼前に水晶玉が置いてはあるが、それはどうやら彼女の占いには不要なものらしく、ただ眼を閉じたまま、まるで午睡に入ったかの様に静かな呼吸が繰り返されている。
「出てきました。これは……『港町の鍛冶屋さん』です。鍛冶屋さんで剣でも研いでもらえという事でしょうか」
「―― は? 探してるのは、アスティの兄さんなんだけど。何で剣? 鍛冶屋??」
「私に今視えるのは、それのみです。……この町に一人、有名な鍛冶屋さんが住んでおられます。彼の下へ行けば、きっと旅の助けとなるでしょう」
「そ、そうなんだ……どうも、ありがとうございました」
疑問にしか思えないのも、無理はない。が、ひとまず他に手がかりもない以上、駄目元で行ってみるのも有りかも知れない。
立ち上がって、もう一度お礼を言い外に向かう。と、スバノン達が先に出て行った所で、袖を軽く引っ張られた。振り返ると、占い師さんが微笑みながら手招きする。
「修業をした時ほどの効果が期待できる訳ではありませんが。どうぞ、お持ち下さい」
頭を下げる様言われ、言う通りにすると、そんな言葉と共に何かを頭に被せられた。
「そのサークレットに嵌め込まれているのは、『夢見の雫』と呼ばれる貴石です。意識の集中を助け、より夢を明瞭なものにしてくれるとか……もし次に不可思議な夢を見た際には、きっと今まで以上に詳細を覚えていられる様になるでしょう。それが、例えすぐに役立つものでなかったとしても、いずれあなたの旅の助けとなる筈です」
貴石というからには、それなりの値段はする筈と聞いてみるが、占い同様お金は要らない、と支払いを断られてしまった。
「今では、『夢の遣い手』は減る一方……中々、同じ力の持ち主に会えることがないのです。ですから、それは久しぶりに会えた遣い手への、心ばかりの贈り物。どうぞ受け取って下さい」
この女性、よほど奉仕の精神がずば抜けたものらしい。占いで料金を取らぬなら、生計はどう立てているのかが少々気にならなくもないが、今それを聞くべきものでもないだろう。
丁重にお礼を述べて、館を後にする。―― これで或いは本当に、件の夢に意味が見出せる様になるかもしれない……夢を見る事に期待感を持つ等は、今までにない経験だった。




