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「おー、ここがコーストかぁ。何だか雰囲気のいい町ね」
船から降り立ったアスティの、それが第一声だった。実際、シュトラと比べても見劣りしない大都市である上、街の人々の様子も明るく、如何にも活気に満ちている。
「ん~……そうだな」
「ん、スバノンどうしたの?」
「あー、うん……言っとくけど、船酔いなんてしてないからな」
「……あ、そう」
どう見ても、している。とは言わず放置しておく辺り、アスティも優しくなった、かもしれない。
「お兄ちゃんは、この町に来てるはず……まだ町にいるのかは解らないけど、とりあえず探し回ってみましょ」
アスティの気合の入りようも、無理はない。
あれから、無事ネズミ退治を終わらせシュトラに帰ってみたものの、結局パスポートの金額には届かず困っていると、ズンさんが再び仕事を紹介してくれた。次の仕事は迷子探しで、一見簡単かと思われたが……この少女が全く見つかる気配がない。町中を、シュトラの人々も探し回っているのに見つからないと言う事から、「町の外へ行ったんじゃないか」と推測し……結果、何とまたアーシェス洞窟に入る羽目となって漸く、お目当ての少女を探し当てる事が出来たのだ。
まあ、古い水道に落ちて溺れたり、モンスターに襲われて大怪我を負っていたり、と言う事がなかっただけマシと言うものだが、何とも人騒がせな子供だった。
しかし、骨を折った甲斐はあって、その子の母親から、何と5000Gもの報奨金を貰えたのだ。このおかげで無事パスポートを購入、ついでに装備なども整え、いざコーストへ……という訳で今に至っている。後は今度こそ、リンさんに会えれば良いのだが。
「ん、あれって祭りかな? なんか美味そーなの売ってる店がいっぱい……」
「……スバノン、船酔いはどうしたの」
「そんなの、船から降りれば問題ないっ。ちょっと聞き込みがてら、覗いていこーぜっ」
「ちょっと待ってよ~。もぉ、おやつは10Gまでだからねっ」
―― 迷子探しの際、本当なら母親がご馳走も食べさせてくれるつもりだったらしいのを、兄を探している最中だからとアスティが断ったのを、或いは恨んでいるのかもしれない。何だか凄い勢いで立ち並ぶ露店へと走っていくスバノンに、注意しながらもアスティもそちらへ向かっていった。
ひとまず、2人を見失わない程度の距離は保ちつつ後をついていくが ―― スバノンは、早くも10G以上にはなりそうな量の食べ物を手にしている。あの分だと50Gさえ超えるかも知れない。今度はお腹を壊さなければ良いのだが。
少々、心配になった時……誰かに肩がぶつかってしまった。
「いてーな、どこ見て歩い……何だ、女かよ。気をつけろよ、ねーちゃん」
一瞬、これは危ない人に絡まれてしまったかとヒヤリとしたが。途中で口調を僅かながら和らげて、そんな言葉と共に遠のいて行った青年は、そこまで悪い人ではなかったらしい。
もっとも、常に危険が向こうから遠ざかってくれる訳がない。今は良かったが、人ごみの中を行く際は注意が必要だろう。
アスティ達にも注意を呼びかけなければ、と2人に追いつこうとしたのだが。
「エルフィンも、これ食べる? なんか、変わった味だけど……美味しいよぉ♪ ってあれ? スバノンはどこ行っちゃったんだろ……」
―― どうやら少々、手遅れだったらしい。リンさん探しの前に、まずはスバノン探しを始めなければならない様だった……。




