↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『五度目の生で人間に戻った俺、前世が全部ハズレ生物だったのに異世界では最強でした  作者: 滝本りお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/21

絶対剣域

王立魔導騎士学院。


 王国の未来を担う騎士と魔導師を育成する、国内最高峰の教育機関。


 その正門の前に、俺は立っていた。


(……思ったより大きいな)


 白い石造りの校舎がいくつも並び、その奥には巨大な尖塔がそびえている。敷地を囲む城壁には、王国の紋章が刻まれていた。


 門の前には、各地から集まった受験者たちの姿があった。


 華やかな衣装をまとった貴族の子息。剣を腰に下げた騎士志望の少年。魔導書を抱えた少女。


 誰もが、自分の未来に期待を膨らませている。


 そんな中、俺だけは少し違う理由でここに来ていた。


(……さて、誰が俺を呼んだんだろうな)


 数日前に届いた、不可解な招待状。


 《特例入学選抜対象者》


 《鑑定結果:スキルなし》


 そして、試験内容は対人実戦。


 相手は、王国騎士団第一騎士隊所属の天才剣士――レオンハルト・フォン・グランヴェル。


 俺は招待状を取り出し、もう一度確認した。


 間違いない。


「……まあ、行けば分かるか」


 そう呟き、正門へ足を踏み入れた。


       ◆


「……スキルなし?」


 受付を担当していた男性職員が、俺の書類を見て眉をひそめた。


「ミソノ・フォン・アルヴェイン様……。確かに特例選抜の対象者として登録されていますが……」


「何か問題でも?」


「い、いえ。ただ……」


 職員は困惑した表情で俺を見つめた。


「本学院の入学資格には、固有スキルの保有が必要とされておりますので……」


「俺もそう聞いています」


「……そうですか」


 職員はそれ以上何も言わず、奥に控えていた別の職員へ声をかけた。


「特例選抜の受験者が到着しました」


 その言葉に、周囲の受験者たちが振り返った。


「特例?」


「何だ、それ」


「……あいつ、スキルなしらしいぞ」


 小さなざわめきが広がる。


 俺は特に気にせず、案内された通路を進んだ。


 途中、窓の外に訓練場が見えた。


 そこでは数人の受験者が魔法を放ち、教官らしき人物が評価を行っている。


 炎。


 氷。


 風。


 それぞれ異なる固有スキルが、鮮やかな光を放っていた。


(……面白そうだな)


 俺は思わず足を止めた。


 炎を放つ少年の魔力は、発動直前に右肩へ集中している。


 氷を操る少女は、足元から魔力を広げていた。


 風を使う少年は、周囲の空気を一度引き寄せてから放出している。


(……同じ魔法でも、ずいぶん違うんだな)


「ミソノ様?」


 案内役の職員が振り返った。


「ああ、すみません」


 俺は再び歩き始めた。


       ◆


 案内されたのは、学院の最奥にある巨大な円形闘技場だった。


 観客席には、数十人の教官や騎士たちが並んでいる。


 中央には、白い石畳の試合場。


 そして、その中央に一人の青年が立っていた。


 銀色の髪。


 整った顔立ち。


 白銀の鎧。


 腰には、細身の長剣。


(……あれがレオンハルトか)


 青年は俺を見ると、静かに口を開いた。


「お前が、ミソノ・フォン・アルヴェインか」


「ああ。よろしく」


「……十四歳と聞いていたが、本当に子供だな」


「そっちは十九歳だろ。五歳しか違わないぞ」


 レオンハルトの眉がわずかに動いた。


「……随分と余裕があるようだな」


「そう見える?」


「少なくとも、これから何をするのか理解しているようには見えん」


 俺は肩をすくめた。


「入学試験だろ?」


「……命を落とす可能性があると、聞いているはずだ」


「ああ」


「ならば、なぜ笑っていられる」


「別に、笑ってるつもりはないけど」


 レオンハルトは小さく息を吐いた。


「……いいだろう」


 彼は腰の剣を抜いた。


 白銀の刀身が、陽光を反射する。


「私はレオンハルト・フォン・グランヴェル。王国騎士団第一騎士隊所属。固有スキルは《絶対剣域》」


「ミソノ・フォン・アルヴェイン。固有スキルは……なし」


 観客席から、わずかな笑い声が漏れた。


 レオンハルトは笑わなかった。


「……スキルがないことを、恥じる必要はない」


「別に恥ずかしくないよ」


「…………」


 彼は一瞬、言葉を失った。


 そのとき、闘技場の上段から声が響いた。


「双方、準備はよいか!」


 審判役の騎士だった。


 俺は腰の木剣を抜いた。


 レオンハルトが眉をひそめる。


「……木剣?」


「これでいいよ」


「私を侮辱しているのか?」


「いや。いつも使ってるから」


「……そうか」


 レオンハルトの表情が冷たくなった。


「後悔するなよ」


 俺は頷いた。


「分かった」


       ◆


「――始め!!」


 審判の声が響いた。


 その瞬間。


 レオンハルトの足元から、銀色の光が広がった。


 直径十メートル。


 いや、十二メートルほどか。


 円形の光が、石畳の上へ刻まれていく。


「《絶対剣域》」


 レオンハルトが静かに呟いた。


 空気が変わった。


 領域の内部に、無数の細い魔力の線が走る。


 剣を振るう前から、斬撃の軌道が幾重にも描かれていた。


(……へえ)


 俺は思わず見入った。


(……これは面白いな)


 レオンハルトが剣を構える。


「この領域に入った時点で、お前に勝機はない」


「そうなのか?」


「私の剣は、領域内のあらゆる位置へ届く」


「なるほど」


 俺は一歩前へ出た。


 その瞬間、右肩のすぐ横を銀色の斬撃が通過した。


 続けて、左足。


 首元。


 背後。


 無数の斬撃が、四方八方から迫ってくる。


 観客席から歓声が上がった。


「出たぞ! 《絶対剣域》!」


「一度入れば逃げ場はない!」


「終わったな……!」


 俺は足を止めた。


(……なるほど。そういう仕組みか)


 領域の内部に配置された魔力の線。


 レオンハルトはその線に沿って、自分の斬撃を伝えている。


 確かに強力だ。


 だが――。


(……ずいぶん遠回りなことをしてるな)


 俺は木剣を軽く持ち直した。


 そして、半歩だけ踏み込んだ。


 銀色の斬撃が、俺の頬をかすめる。


 次の瞬間。


 俺はレオンハルトの背後に立っていた。


「……なっ!?」


 レオンハルトが振り返ろうとする。


 しかし、それより早く。


 俺の木剣が、彼の首元へ触れた。


「……終わりでいいか?」


 静寂。


 闘技場から、すべての音が消えた。


 レオンハルトの剣が、わずかに震えている。


「……馬鹿な」


 彼はゆっくりと呟いた。


「……私の《絶対剣域》を……」


 俺は木剣を下ろした。


「強かったよ」


「……何?」


「でも、少しもったいないな」


「…………?」


 レオンハルトが俺を見つめた。


「……もったいない?」


「ああ」


 俺は彼の足元に残る銀色の光を指差した。


「それ、使い方が違うんじゃない?」


       ◆


 レオンハルトの表情が固まった。


「……何を言っている」


「いや、《絶対剣域》のこと」


「……私の固有スキルに、問題があると?」


「問題っていうか……」


 俺は少し考えた。


「剣を振るために領域を作ってるんだろ?」


「……当然だ」


「でもさ」


 俺は首を傾げた。


「それって、剣を振らなくてもいいんじゃない?」


「…………は?」


「だって、領域の中に斬撃を通せるんだろ? だったら、最初から領域そのものを刃にすればいい」


 レオンハルトは黙った。


「それに、どうして円形なんだ?」


「……何?」


「もっと細くしてもいいし、何層にも重ねてもいい。別々の場所に作ってもいいんじゃないか?」


「……待て」


「ん?」


「……お前は、何を言っている?」


 俺は不思議に思った。


「だから、《絶対剣域》の使い方だけど?」


 レオンハルトは俺を見つめたまま、動かなかった。


「……領域を、刃にする?」


「ああ」


「……剣を振らずに?」


「うん」


「……そんなことが、できるはずが……」


「試してみたら?」


 俺は軽く言った。


 レオンハルトは何かを言いかけ、口を閉じた。


 そして、ゆっくりと自分の剣へ目を落とした。


 観客席も静まり返っている。


 俺は少し首を傾げた。


(……何か変なこと言ったか?)


       ◆


「……勝者、ミソノ・フォン・アルヴェイン!!」


 ようやく審判の声が響いた。


 その瞬間、観客席が騒然となった。


「……何が起きた!?」


「レオンハルトが……負けた?」


「しかも、たった一撃で……!」


「いや、待て! あの少年、固有スキルは……!」


「……スキルなし、だと……?」


 俺は木剣を鞘へ戻した。


(……これで合格なのか?)


 正直、まだよく分からない。


 すると、闘技場の上段から、一人の老人が立ち上がった。


 白い髭。


 深い皺。


 そして、鋭い眼差し。


 老人は、俺をじっと見つめていた。


「……なるほど」


 小さな声だった。


 だが、不思議とよく通った。


「これが、レイヴンの息子か」


 俺は顔を上げた。


(……父さん?)


 老人は、ゆっくりと笑った。


「……ようやく、見つけたぞ」


 その言葉の意味を、俺はまだ知らなかった。


 ただ一つ、確かなことがあった。


 この日。


 《スキルなし》の少年が、王国屈指の天才剣士を破った。


 そして、その一戦を境に――。


 王国の常識は、静かに崩れ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。