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『五度目の生で人間に戻った俺、前世が全部ハズレ生物だったのに異世界では最強でした  作者: 滝本りお


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20/21

それぞれの道、その先で

 《黒淵魔境グラディオス》から戻った翌日。


 王都の喫茶店で、俺たち五人は顔を合わせていた。


「ミソノ。頼みがある」


 口を開いたのは、レオンハルトさんだった。


 いつになく真剣な表情だ。


「俺を、もっと強くしてくれないか」


「……え?」


「私もよ」


 隣に座っていたイザベル先輩が、すかさず続けた。


「あなたの考え方を、もっと教えてほしいの」


「……別に、構いませんけど」


「軽いわね……」


 イザベル先輩は呆れたように笑った。


「昨日、ようやく分かったのよ。カイもエルナも、ただ強いだけじゃない。自分の能力を、私たちとはまるで違う発想で使っている」


「まあ、昔からミソノに変なことばっかり教わってたからな」


 カイが笑う。


「変なことって何よ!」


 エルナが横から口を挟んだ。


「ミソノのおかげで、私たち強くなれたんでしょ?」


「分かってるって」


 レオンハルトさんが頷く。


「その差を、昨日の森で思い知らされた」


 彼は自分の手を見つめた。


「俺は《絶対剣域》を、剣の届く範囲を広げる能力だと考えていた。だが、ミソノは領域そのものを切り離し、移動させるという発想をした」


「私の《氷獄領域》も同じ」


 イザベル先輩が続ける。


「魔法を強くすることばかり考えていた。でも、そもそも魔法の組み立て方を変えられるなんて、思いもしなかった」


 そして、彼女は俺を指差した。


「カイとエルナだけ、幼いころからそんな助言を受けていたなんて、フェアじゃないわ!」


「……フェア?」


「そうよ! 私たちにも教えなさい!」


 カイが吹き出した。


「何だよ、それ!」


「笑い事じゃないわ!」


 エルナまで楽しそうに笑っている。


「いいじゃない! ミソノ、二人にも教えてあげなよ!」


「うん。そのつもりだけど」


 俺は少し考えた。


「ただ、二人とも同じことをする必要はないと思います」


「……どういう意味だ?」


 レオンハルトさんが尋ねた。


「レオンハルトさんには、レオンハルトさんの戦い方があります。イザベル先輩には、先輩の戦い方が」


 俺は二人を見た。


「俺の真似をするより、自分のスキルで何ができるか、一緒に考えた方が面白くないですか?」


 二人は顔を見合わせた。


 そして。


「……決まりだな」


 レオンハルトさんが笑った。


「騎士団には俺から相談する。しばらく休暇をもらおう」


「私も学長にお願いするわ」


 イザベル先輩も立ち上がる。


「学院対抗戦の準備もあるし、強くなる理由は十分よ!」


「……え、もう行くんですか?」


「善は急げ、よ!」


 二人は顔を見合わせ、どちらからともなく笑った。


 ……何だか、すごいやる気だな。


       ◆


 それから、しばらく。


 レオンハルトさんは騎士団から休暇を認められ、イザベル先輩も学長の許可を得た。


 二人はそれぞれ、自分の固有スキルと向き合うことになった。


 俺も、約束どおり手伝うことにした。


 ただし。


 その間も、王都の日常は続いていた。


       ◆


「……あれ?」


 ある日の放課後。


 カイとエルナが学院の門を通りかかると、小さな騒ぎが起きていた。


「だから、わざとじゃないんです……!」


 桃色の髪の少女が、困ったように頭を下げている。


 その足元には、壊れた魔導灯が転がっていた。


「また君か! これで何度目だ!」


 学院の職員らしい男性が、声を荒らげる。


「す、すみません……」


 少女は、泣きそうな顔で俯いた。


 カイが首を傾げた。


「……あの子、見たことあるな」


「フィオナでしょ?」


 エルナが答える。


「ミソノが前に助けた子よ」


「ああ、あの《共鳴》の」


 二人が近づくと、フィオナが顔を上げた。


「あ……!」


「大丈夫?」


 エルナがしゃがみ込み、壊れた魔導灯を手に取る。


「……あの、私、また魔力を乱しちゃって……」


「そっか」


 エルナは少し考えた。


「でも、壊そうとして壊したわけじゃないんでしょ?」


「……はい」


「じゃあ、まず落ち着こ!」


 エルナが笑う。


「それに、これだけ魔力に影響できるって、すごいことじゃない?」


「……え?」


 フィオナが目を丸くした。


 カイも頷く。


「そうだな。普通、他人の魔力に干渉するだけでも難しい」


「でも……私、何も上手くできなくて……」


「最初から上手くできるやつなんて、そういないって」


 カイは笑った。


「俺だって、昔は自分の剣を思った方向に振ることすらできなかったし」


「……カイが?」


「ああ。ミソノに何度も笑われた」


「笑ってたのはカイもでしょ!」


 エルナが横から突っ込む。


 二人のやり取りに、フィオナは小さく笑った。


 そのときだった。


 壊れた魔導灯の破片が、かすかに光った。


「……ん?」


 カイが目を細める。


 フィオナの手元に、淡い魔力が集まっていた。


 だが、それは彼女自身の魔力だけではない。


 周囲の魔導具から漏れた魔力が、まるで引き寄せられるように集まっている。


「……フィオナ」


 エルナが静かに尋ねた。


「今、何かした?」


「……え?」


 フィオナは、自分の手を見つめた。


「……何も」


 カイとエルナは、顔を見合わせた。


 ――ミソノなら、きっと面白がる。


 二人とも、同じことを考えていた。


       ◆


 その日の帰り道。


「ねえ、カイ」


「ん?」


「フィオナ、いい子だったね」


「ああ」


「また会えたらいいな」


 エルナは楽しそうに笑った。


「ミソノも一緒にね!」


 カイが頷きかけた、そのとき。


 ――ガキィンッ!


 路地の奥から、金属がぶつかる音が響いた。


 二人が振り返る。


 そこには、一人の少年がいた。


 黒髪に、灰色の瞳。


 年齢はミソノたちとそう変わらない。


 その少年を、武装した男が三人で取り囲んでいた。


「いい加減にしろ! お前、何者だ!」


 男の一人が怒鳴る。


 少年は、困ったように笑った。


「だから、通りたいだけなんだけど」


「ふざけるな!」


 剣が振り下ろされる。


 ――だが。


 少年は動かなかった。


 剣が、その肩に触れる寸前。


 男の手から、武器が滑り落ちた。


「……は?」


 男が目を見開く。


 続いて二人目。


 三人目。


 誰も、少年に触れることができなかった。


「……何だ、今の?」


 カイが足を止めた。


 エルナも、じっと少年を見つめている。


「……魔法?」


「いや……」


 カイは眉を寄せた。


「魔力が動いた感じはしなかった」


 少年は、落ちた剣を拾い上げた。


 そして、男たちの足元へ静かに置く。


「もういい? 急いでるんだ」


 男たちは、何も答えられなかった。


 少年が路地から出てくる。


 カイとすれ違う、その瞬間。


「……へえ」


 少年が足を止めた。


 灰色の瞳が、カイの剣へ向けられる。


「君、面白い力を持ってるね」


「……何?」


 カイが振り返る。


 少年は、にやりと笑った。


「でも、まだ半分しか使えてない」


 カイの表情が変わった。


「……どういう意味だ?」


「そのままの意味」


 少年は肩をすくめた。


「じゃあね」


「ちょっと待て!」


 カイが呼び止める。


 だが、少年は振り返らなかった。


 人混みの中へ消えていく。


 エルナが、ぽつりと呟いた。


「……変な子だったね」


「……ああ」


 カイは、自分の剣を見下ろした。


 ――まだ半分しか使えていない。


 その言葉が、妙に引っかかった。


 以前、ミソノにも似たようなことを言われた気がする。


『なあ、カイ。お前のスキルって、どうして《軌道操作》じゃなくて《軌道支配》なんだろうな?』


 カイは、ゆっくりと顔を上げた。


「……エルナ」


「何?」


「今のやつ、また会う気がする」


 エルナは、少しだけ笑った。


「じゃあ、今度はミソノも連れてこ!」


 夕暮れの王都。


 雑踏の向こうで、黒髪の少年が一度だけ振り返った。


「……《軌道支配》か」


 そして、小さく笑う。


「面白いな。この国」

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