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『五度目の生で人間に戻った俺、前世が全部ハズレ生物だったのに異世界では最強でした  作者: 滝本りお


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見知らぬ旅人

「……やっぱり、気になるな」


 王国騎士団の訓練場。


 カイは剣を構えたまま、昨日の出来事を思い返していた。


『君、まだ半分しか使えてない』


 あの黒髪の少年。


 名前も知らない相手に、そんなことを言われた。


 しかも、以前ミソノにも似たようなことを言われている。


『《軌道支配》って、どうして《軌道操作》じゃないんだろうな?』


「……支配、か」


 剣を振る。


 途中で軌道を変え、背後へ回り込むように刃を走らせた。


 ――ザンッ!


 標的が斜めに切り裂かれる。


 続けて踏み込む。


 足の運びを変え、通常ではあり得ない角度から斬撃を放つ。


 ――ザシュッ!


 二つ目の標的が倒れた。


「……違うな」


 できることは分かっている。


 問題は、まだ知らないことだ。


 カイは剣を下ろした。


「……ミソノなら、何て言うかな」


「またミソノのこと考えてるの?」


 背後から声がした。


 振り返ると、エルナが立っていた。


 その隣には、桃色の髪の少女。


「……フィオナ?」


「こ、こんにちは!」


 フィオナ・ルミエールが、慌てて頭を下げる。


「今日は、この子の練習に付き合ってもらおうと思って!」


 エルナが笑った。


「……俺が?」


「そう! カイならちょうどいいでしょ?」


「何がちょうどいいんだよ」


「丈夫だし!」


「……おい」


 フィオナが、思わず吹き出した。


       ◆


 フィオナの固有スキルは《共鳴》。


 周囲の魔力に反応し、時には他人の魔法にまで影響を与えてしまう。


 本人はそれを、ずっと欠点だと思っていた。


「……また失敗するかもしれません」


 フィオナが不安そうに呟く。


「失敗したら、もう一回やればいいじゃない!」


 エルナは明るく答えた。


「私たちだって、昔は失敗ばっかりだったんだから!」


「……エルナは今でもたまに失敗するだろ」


「カイ!」


「はいはい」


 カイは笑いながら剣を抜いた。


「じゃあ、俺の魔力に合わせてみてくれ」


「……はい!」


 フィオナが両手を伸ばす。


 淡い光が広がった。


 カイは剣に魔力を流す。


 すると。


 ――キィン。


 剣が、わずかに震えた。


「……ん?」


 カイが眉を上げる。


 普段なら滑らかに流れる魔力が、細かく揺れている。


「ご、ごめんなさい!」


「いや、待って」


 カイは剣を持ち直した。


「今の、もう一回」


「……え?」


「面白いことが起きてる」


 フィオナは戸惑いながら頷いた。


 再び魔力が重なる。


 今度は、カイがその揺れに合わせて剣を動かした。


 ――ヒュンッ!


 刃が空を切る。


 その軌道が、いつもより滑らかにつながった。


「……おお」


 カイが笑う。


「今の、いいな」


「……本当ですか?」


「ああ。魔力の流れを邪魔されたんじゃなくて、別の流れが加わった感じだ」


 エルナが目を輝かせた。


「じゃあ、今度は私!」


 彼女が手を伸ばす。


 淡い緑色の光が指先に集まった。


「フィオナ、私の魔力を感じてみて!」


「……はい!」


 二人の魔力が触れ合う。


 次の瞬間。


 ――ふわっ。


 緑色の光が、静かに広がった。


 訓練場の隅で萎れていた草が、ゆっくりと葉を持ち上げる。


「……あれ?」


 エルナが目を丸くした。


「私、あそこまで届かせるつもりじゃなかったんだけど」


「……す、すみません!」


「何で謝るのよ!」


 エルナは笑った。


「すごいじゃない!」


「……え?」


「私の魔力が、いつもより遠くまで届いたの!」


 カイも頷く。


「しかも、ほとんど無駄がなかったな」


 フィオナは、自分の手を見つめた。


「……私にも、できることがあるんですね」


「当たり前でしょ!」


 エルナは、彼女の肩をぽんと叩いた。


「まだ始まったばかりなんだから!」


       ◆


 そのころ。


 王都の大通りを、一人の少年が歩いていた。


 黒髪に、灰色の瞳。


 年齢は十五歳ほどに見える。


 少年――リオ・アオレイは、露店で買った果物をかじりながら、街並みを眺めていた。


(……この階層、なかなか面白いな)


 《夢記録》。


 幾つもの階層を旅してきたリオにとって、未知の世界に足を踏み入れることは珍しくない。


 だが、この世界には独特の能力体系があった。


 固有スキル。


 生まれながらに与えられる、個人固有の力。


(……同じ名前の能力でも、使い手によって解釈が変わる)


 リオは、昨日出会った青年を思い出した。


 《軌道支配》。


 剣の軌道を変え、身体の移動経路を操る。


 それだけでも十分に強い。


 だが。


(……あれは、まだ先がある)


 長い旅の中で、リオはさまざまな能力を見てきた。


 だからこそ、気づくことがある。


 もっとも、それが正しいかどうかは、本人に確かめなければ分からない。


「……また会えたら、聞いてみるか」


 リオは笑った。


       ◆


 訓練を終えたカイたちは、王都の通りを歩いていた。


「ねえ、フィオナ!」


「は、はい!」


「明日も一緒に練習しようよ!」


「……いいんですか?」


「もちろん!」


 エルナが笑う。


「今度はミソノも呼ぼう!」


 フィオナの表情が明るくなった。


「……はい!」


 そのとき。


「……へえ」


 背後から声がした。


「面白い組み合わせだな」


 カイが振り返る。


「……お前!」


 そこには、昨日の黒髪の少年が立っていた。


「よう」


 少年は気軽に手を上げた。


「また会ったな」


「ちょうどよかった」


 カイが一歩前へ出る。


「昨日の話、聞かせてもらおうか」


「……半分しか使えてないってやつ?」


「ああ」


 少年は少し考えた。


「別に難しい話じゃない」


「……どういう意味だ?」


「お前、自分のスキルを《軌道を操る力》だと思ってるだろ?」


「……違うのか?」


「間違いじゃない」


 少年は笑った。


「でも、それだけなら《軌道操作》でいい」


 カイの表情が変わった。


「……!」


「《支配》って言葉が付いてるなら、もう少し考える余地があるんじゃないか?」


 カイは、思わず息を呑んだ。


 ミソノと同じことを言っている。


「……お前、何者だ?」


「俺?」


 少年は肩をすくめた。


「ただの旅人だよ」


「……名前は?」


「リオ」


 少年は、にやりと笑った。


「リオ・アオレイ」


       ◆


「ねえ、リオ!」


 エルナが、興味津々といった様子で尋ねた。


「あなた、カイのスキルを見ただけでそんなことが分かったの?」


「まあ、似たような力を見たことがあるからな」


「へえ!」


 エルナは目を輝かせた。


「じゃあ、私のスキルも見てみる?」


「……いいのか?」


「もちろん!」


 エルナは胸を張った。


「《生命干渉》っていうの!」


 その名前を聞いた瞬間、リオの表情がわずかに変わった。


「……生命干渉?」


「そう!」


「……なるほどな」


 リオは、少しだけ真剣な顔になった。


「それ、使い方には気をつけた方がいいぞ」


「分かってるわよ!」


 エルナは笑った。


「ミソノにも、昔から言われてるし!」


「……ミソノ?」


 リオが首を傾げた。


「誰だ?」


「私たちの幼なじみ!」


 エルナが答える。


「すっごく面白い子なの!」


 カイも笑った。


「俺たちの戦い方を考えてくれたやつだ」


「……へえ」


 リオが興味深そうに目を細める。


「それは会ってみたいな」


「じゃあ、今から会いに行こうよ!」


 エルナが即答した。


「……今から?」


「うん!」


 カイが苦笑する。


「……相変わらず急だな」


「いいじゃない!」


 フィオナも、小さく笑った。


       ◆


 王立魔導騎士学院。


 夕暮れの訓練場。


 俺は、地面に描いた魔法陣を見つめていた。


(……ここを変えれば、もっと安定するかな)


 四つの術式。


 それぞれ独立して動く魔法陣を、頭の中で組み直している。


 そのとき。


「ミソノー!」


 聞き慣れた声が響いた。


「……エルナ?」


 振り返ると、エルナとカイ、そしてフィオナが歩いてきた。


 さらに、その後ろには見知らぬ少年。


「……誰?」


 俺が尋ねると、エルナが嬉しそうに答えた。


「紹介するね! リオっていうの!」


 少年が、軽く手を上げた。


「リオ・アオレイ。よろしく」


「……ミソノ・フォン・アルヴェインです」


 俺も挨拶を返した。


 その瞬間。


 リオの視線が、俺の足元へ向けられた。


 四つの魔法陣。


 詠唱もなく、静かに回転している。


「……へえ」


 リオが小さく笑った。


「面白いことしてるな」


「……そう?」


「ああ」


 リオは、魔法陣をじっと見つめた。


「それ、全部別々に動かしてるのか?」


「うん」


「……なるほど」


 リオは、少し考えた。


「普通は、一つの術式にまとめようとするんだけどな」


「その方が楽なこともあるけど、別々の方が便利なこともあるから」


「……確かに」


 リオが笑った。


「いい発想だ」


 俺も、思わず笑った。


「……ありがとう」


 そのとき、カイが口を開いた。


「ミソノ。こいつ、俺の《軌道支配》について、お前と同じことを言ったんだ」


「……え?」


「《軌道操作》じゃなくて、《軌道支配》なのは何でだって」


 俺は、リオを見た。


 リオも、俺を見ていた。


「……へえ」


 思わず、声が漏れた。


「同じこと考える人、いるんだな」


 リオが笑った。


「俺もそう思った」


 少しの沈黙。


 そして、リオが尋ねた。


「なあ、ミソノ」


「……何?」


「お前の固有スキルは?」


「……ないよ」


「……ない?」


「うん。《スキルなし》だから」


 リオは、俺をじっと見つめた。


 そして、ゆっくりと笑った。


「……そうか」


 不思議と、驚いた様子はなかった。


 むしろ。


 何かを楽しんでいるように見えた。


「……面白いな、お前」


「……そう?」


「ああ」


 リオは、静かに答えた。


「俺、いろんな世界を見てきたけど……」


 そこで、言葉を止めた。


「……いや、何でもない」


「……?」


 俺は首を傾げた。


 リオは笑った。


「少し、話してみたくなった」


 俺も笑う。


「……いいよ」


 カイとエルナが、顔を見合わせた。


「……何か、気が合いそうだな」


「ね! 面白くなりそう!」


 フィオナも、嬉しそうに微笑んでいた。


 こうして。


 六度の人生を歩んだ少年と、幾つもの階層を旅してきた少年は、初めて言葉を交わした。


 互いの過去も、背負うものも知らないまま。


 ただ、目の前の相手に興味を抱いて。

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