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『五度目の生で人間に戻った俺、前世が全部ハズレ生物だったのに異世界では最強でした  作者: 滝本りお


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三人だけの秘密基地

「……ねえ、ミソノ」


 学院からの帰り道。


 エルナが、突然そんなことを言い出した。


「久しぶりに、あそこ行かない?」


「あそこ?」


「ほら! 昔よく行ってた場所!」


 俺は少し考えた。


「……グラディオス?」


「そう!」


 エルナが嬉しそうに笑った。


「最近、全然行ってないじゃない!」


 隣を歩いていたカイが、懐かしそうに目を細めた。


「……ああ。あの森か」


「懐かしいな」


 俺も笑った。


 《黒淵魔境グラディオス》。


 王国でも有数の危険地帯として知られる、広大な魔境。


 強力な魔物が生息し、熟練の冒険者ですら奥地への立ち入りを避ける場所だ。


 ……でも。


 俺たちにとっては、少し違う。


「……昔、よく怒られたよな」


 カイが笑った。


「そりゃそうでしょ!」


 エルナが腰に手を当てた。


「お母様たちに内緒で、何度も行ってたんだから!」


「……エルナも一緒だっただろ」


「私は二人が心配だったの!」


「……そうだったっけ?」


「そうよ!」


 ……まあ、そういうことにしておこう。


「じゃあ、久しぶりに行ってみるか」


 俺が言うと、エルナがぱっと笑った。


「決まりね!」


       ◆


 翌日。


 俺たちは、グラディオスの入口に立っていた。


 空を覆う巨大な樹木。


 薄暗い森の奥から、低い獣の唸り声が聞こえてくる。


 入口には、古びた警告板が立っていた。


『危険区域――許可なき立ち入りを禁ず』


「……懐かしいな」


 カイが呟いた。


「この看板、まだあるんだ」


「昔、カイがここで転んだよね!」


 エルナが笑う。


「……それ、いつの話だよ」


「覚えてるわよ! 泣いてたじゃない!」


「泣いてない!」


 俺は、思わず吹き出した。


「……いや、泣いてたぞ」


「ミソノまで!?」


 三人で笑いながら、森へ足を踏み入れた。


       ◆


 最初に現れたのは、巨大な牙を持つ魔狼だった。


 体長は三メートルほど。


 赤黒い毛並みと、鋭い爪。


 魔物は、俺たちを見るなり飛びかかってきた。


「……おっと」


 カイが一歩前へ出る。


 魔狼の爪が振り下ろされた瞬間、彼の身体が不自然な角度で横へ滑った。


 ――ザシュッ!


 次の瞬間には、魔狼が地面へ倒れていた。


「……相変わらず、ここは賑やかだな」


 カイが剣を収める。


「昔は、あの魔狼に追いかけられたよね!」


 エルナが笑った。


「……ああ」


 俺も頷いた。


「カイが木に登って逃げたんだっけ?」


「だから、何で俺の話ばっかりなんだよ!」


 ……懐かしい。


 あのころは、魔物と戦うことより、三人で森を探検することの方が楽しかった。


 今も、あまり変わらないけど。


       ◆


 森の奥へ進むにつれ、魔物の気配が濃くなっていった。


 巨大な甲殻を持つ魔獣。


 地面を這う、無数の触手。


 空を覆うほどの翼を広げた怪鳥。


 どれも、普通の冒険者なら命がけで戦う相手だろう。


 だが。


「ミソノ、右!」


「分かってる!」


 カイが叫ぶ。


 俺は身体をひねり、背後から迫る触手をかわした。


 そのまま、地面を軽く蹴る。


 ――ドンッ!


 触手の主である巨大な魔獣が、衝撃で吹き飛んだ。


「……ちょっと!」


 エルナが声を上げる。


「また木を倒したでしょ!」


「……あ、ごめん」


「もう! 森を壊さないでよ!」


 ……気をつけよう。


 そのとき、足元の草むらから、小さな黒い虫が飛び出した。


 見た目は、ただの甲虫。


 だが、俺の目には少し違って見えた。


(……ん?)


 背中の甲殻に、淡い紫色の光が走っている。


 普通の魔力とは、わずかに色が違う。


「……エルナ、ちょっと下がって」


「……え?」


 俺は、彼女の前へ出た。


 次の瞬間。


 ――シュッ!


 甲虫の背中から、細い針が飛び出した。


 俺は指先で、それを弾いた。


 ――パキンッ!


 針が砕ける。


 甲虫は、慌てたように地面を這い始めた。


「……何、今の?」


 エルナが首を傾げる。


「……毒針かな」


「……そんな魔物、いたっけ?」


 カイも、不思議そうに甲虫を見た。


 俺は、少し考えた。


(……見たことないな)


 甲殻の色。


 魔力の流れ。


 そして、針の形。


 どれも、知っている魔物とは少し違う。


(……新種か?)


 俺は、地面へしゃがんだ。


 甲虫は、再び針を飛ばそうとしていた。


 だが。


(……そこから撃つなら、次は……)


 俺は、少しだけ身体をずらした。


 ――シュッ!


 針が、頬の横を通り過ぎる。


 俺は、そのまま甲虫を指先で弾いた。


 ――パチンッ!


 甲虫が、地面へ転がった。


「……終わり?」


 カイが尋ねる。


「うん」


「……相変わらずだな」


 エルナが笑った。


「ミソノって、変なところに気づくよね!」


「……そうか?」


「そうよ!」


 ……まあ、そうなのかもしれない。


       ◆


 さらに奥へ進むと、巨大な岩壁が現れた。


 その前には、古びた石碑が立っている。


「……あ!」


 エルナが声を上げた。


「ここ、覚えてる!?」


「……もちろん」


 カイが笑った。


「昔、三人で隠れ家を作った場所だろ」


「そう!」


 岩壁の隙間には、小さな洞窟があった。


 入口は、草木に覆われている。


 俺たちは、懐かしい気持ちで中へ入った。


 そこには。


 小さな木の椅子。


 石を積み上げた机。


 そして、壁に刻まれた三つの名前。


『ミソノ』


『カイ』


『エルナ』


「……まだ残ってる」


 エルナが、嬉しそうに呟いた。


 カイも、壁を見つめていた。


「……懐かしいな」


 俺は、思わず笑った。


(……あのころは、毎日のように来てたな)


 誰にも言わず。


 三人だけで。


 魔物と戦って、笑って、時には喧嘩して。


 そして、また次の日も来る。


 そんな場所だった。


       ◆


 そのとき。


 洞窟の外から、地響きが聞こえた。


 ――ドォンッ!


 岩壁が、小さく揺れる。


「……ん?」


 カイが顔を上げた。


「……何だ?」


 俺たちは、洞窟の外へ出た。


 そこには、巨大な魔獣が立っていた。


 全身を黒い岩のような甲殻で覆い、頭には四本の角。


 体長は、十メートルを優に超えている。


「……あれ」


 エルナが目を丸くした。


「……昔、いたっけ?」


「……いや」


 カイが剣を抜く。


「見たことないな」


 魔獣が、低く唸った。


 次の瞬間。


 ――ゴォォォッ!


 口から、黒い炎が噴き出した。


「……おっと!」


 カイが、エルナの前へ出る。


 剣を振ると、炎の流れが不自然に曲がった。


 黒い炎が、俺たちを避けるように岩壁へ流れていく。


「……カイ、上手くなったな!」


「今それ言うか!?」


 俺は笑いながら、魔獣を見上げた。


(……なるほど)


 甲殻は硬い。


 魔力も強い。


 だが、体内の魔力の流れが、少しだけ不自然だった。


 赤黒い光の中に、細い青色の線が走っている。


(……あそこか)


 俺は、地面を蹴った。


 ――ドンッ!


 一瞬で魔獣の懐へ潜り込む。


 そして。


 ――ゴッ!


 軽く拳を突き出した。


 衝撃が、甲殻の一点へ集中する。


 ――バキィンッ!


 巨大な魔獣の身体が、後方へ吹き飛んだ。


 木々をなぎ倒しながら、地面へ倒れる。


 ……静寂。


「…………」


 カイが、俺を見た。


「……お前、今の軽く殴っただけだろ」


「……うん」


「……だよな」


 エルナが、腰に手を当てた。


「……ミソノ!」


「……何?」


「また森を壊した!」


「……ごめん!」


 ……本当に、気をつけよう。


       ◆


 そのころ。


 少し離れた木々の陰。


 二人の人物が、息を潜めていた。


「…………」


 イザベル・フォン・グレイシア。


 そして、レオンハルト・フォン・グランヴェル。


 二人は、偶然三人が森へ向かう姿を見かけ、気になって後を追ってきたのだった。


「……ねえ」


 イザベルが、小さく呟いた。


「……今の、見た?」


「……ああ」


 レオンハルトの声は、低かった。


「……あの魔獣」


 イザベルは、震える声で続けた。


「……私、知ってるわ」


「……何だ?」


「……黒角魔獣グラヴォル」


 彼女は、倒れた巨大な魔獣を見つめた。


「……討伐するには、熟練冒険者の大規模な部隊が必要だって……」


「…………」


「……それを……」


 彼女は、ミソノたちへ視線を向けた。


「……あの子たち、笑いながら……」


 レオンハルトは、しばらく黙っていた。


 そして、静かに呟いた。


「……なるほど」


「……何が?」


「……カイが言っていた意味が、ようやく分かった」


 イザベルが、彼を見る。


 レオンハルトは、苦笑した。


「……ミソノと一緒にいると、常識が通じなくなる」


 その言葉に、イザベルは何も答えられなかった。


 ただ、森の奥を見つめていた。


 楽しそうに笑う、三人の姿を。

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