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『五度目の生で人間に戻った俺、前世が全部ハズレ生物だったのに異世界では最強でした  作者: 滝本りお


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生命に触れる者

それから、しばらく経った。


 王国騎士団への相談も進み、冒険者登録の話が少しずつ現実味を帯びてきた。


 特に張り切っているのは、イザベル先輩だ。


「見て、ミソノ! 王都の東には魔物が頻繁に現れる森があるんですって!」


 放課後の学院。


 彼女は冒険者ギルドの案内書を広げ、目を輝かせていた。


「へえ。結構近いんですね」


「でしょう? 最初の討伐にはちょうどよさそうじゃない?」


「……先輩、楽しそうですね」


「当たり前よ! ずっとやってみたかったんだから!」


 闘技場で見せた冷たい表情は、どこへやら。


 最近のイザベル先輩は、すっかり冒険のことで頭がいっぱいらしい。


 そのときだった。


「――へえ。ずいぶん楽しそうな話をしてるじゃない」


 背後から、聞き慣れた声がした。


 振り返る。


「……エルナ?」


 そこには、腰に手を当てたエルナ・フォン・セレスティアが立っていた。


 笑っている。


 ……ただし、少しだけ目が怖い。


「ねえ、ミソノ」


「……何?」


「私を仲間外れにするわけじゃないでしょうね?」


「……え?」


「冒険者になるんでしょ? カイもレオンハルトも、イザベル先輩も一緒なんでしょ?」


「……まあ、そうだけど」


「じゃあ、私も行く!」


 即答だった。


「……エルナ、学院の授業は?」


「ミソノだって授業があるでしょ!」


「……それはそうだけど」


「だったら同じよ!」


 ……何が同じなのかは、よく分からない。


 イザベル先輩が、興味深そうにエルナを見た。


「あなた、セレスティア家のエルナよね?」


「はい! エルナです!」


「治癒魔法が得意だって聞いているわ」


「ええ、得意ですよ!」


 エルナは胸を張った。


「怪我人が出ても、私がいれば安心です!」


 その言葉に、ちょうどやって来たカイが笑った。


「……怪我人が出れば、な」


「……カイ?」


 エルナが振り返る。


「何よ、その言い方」


「いや、エルナが一緒なら心強いなって」


「当然でしょ!」


 カイは肩をすくめた。


 その表情は、何かを知っているようだった。


       ◆


「……ところで、エルナ」


 俺は、ふと思い出して尋ねた。


「最近、《生命干渉》の調子はどう?」


「ん? 順調よ!」


 エルナは嬉しそうに笑った。


「この前教えてくれた方法も、だいぶ使えるようになったし」


「本当? すごいじゃん」


「ふふん! もっと褒めていいのよ?」


 その会話を聞いていたイザベル先輩が、首を傾げた。


「……《生命干渉》?」


「はい!」


 エルナが頷く。


「私の固有スキルです」


「……治癒系の?」


「まあ、そうですね」


 そのとき、レオンハルトさんがやって来た。


「何の話をしている?」


「エルナのスキルの話です」


「……セレスティア家の?」


 レオンハルトさんがエルナを見る。


「治癒魔法の名手だと聞いている」


「ありがとうございます!」


 エルナは明るく笑った。


 俺は、ふと思いついた。


「……そうだ。エルナ、ちょっと見せてもらってもいい?」


「いいわよ!」


 彼女は、迷わず頷いた。


       ◆


 俺たちは、以前も使った学院裏手の訓練場へ移動した。


 エルナは周囲を見回すと、足元に生えている小さな草へ目を向けた。


「……これでいい?」


「うん」


 エルナが、そっと指先を伸ばした。


 淡い緑色の光が、草を包む。


 すると。


 ――スッ。


 萎れかけていた葉が、ゆっくりと持ち上がった。


 茎が伸び、葉の色が鮮やかになる。


「……へえ」


 イザベル先輩が感心した。


「植物にも使えるのね」


「もちろんです!」


 エルナは笑った。


「生きているものなら、ある程度は干渉できるので」


「……生きているもの?」


 レオンハルトさんが、静かに呟いた。


 エルナは、もう一度指を動かした。


 今度は、伸びた草がゆっくりと元の大きさへ戻っていく。


「……え?」


 イザベル先輩が目を見開いた。


「……今、何をしたの?」


「成長を少し抑えただけですよ」


「……抑えた?」


「はい!」


 エルナは、何でもないことのように答えた。


「元気にすることもできるし、逆に活動を弱めることもできます」


「…………」


 イザベル先輩が黙った。


 レオンハルトさんも、何かを考えている。


 俺は、エルナの手元を見つめた。


(……上手くなったな)


 昔は、傷を治すことしかできなかった。


 でも、今は違う。


 生命の働きそのものを、少しずつ調整できるようになっている。


 それは、俺が想像していた以上の成長だった。


「……エルナ」


 レオンハルトさんが口を開いた。


「それは、人間にも使えるのか?」


「……もちろん」


 エルナは、きょとんとした。


「怪我を治すのも、身体を元気にするのも、人間相手にやってますよ?」


「……いや」


 レオンハルトさんの声が、少し低くなった。


「……逆も、か?」


 エルナは、しばらく彼を見つめていた。


 そして、静かに微笑んだ。


「……できますよ」


 風が、訓練場を吹き抜けた。


「……でも」


 エルナは、いつもの明るい表情に戻った。


「そんなこと、する必要がないならしません!」


 その言葉に、レオンハルトさんは小さく息を吐いた。


「……なるほど」


 イザベル先輩が、ゆっくりと俺を見た。


「……ミソノ」


「はい?」


「……あなたの周りって、こんな人ばかりなの?」


「……え?」


 俺は首を傾げた。


「……普通じゃないですか?」


「普通なわけないでしょう!」


 ……また怒られた。


       ◆


「……ねえ、ミソノ」


 エルナが、俺の隣へやって来た。


「覚えてる? 昔、私が初めて回復魔法を見せたときのこと」


「……ああ」


 俺は、少し笑った。


 あのころのエルナは、怪我を治すのが得意だった。


 擦り傷も、切り傷も。


 触れるだけで、すぐに治してしまう。


 だから、俺は不思議に思ったんだ。


『……エルナ』


『なあに?』


『傷を治せるなら、怪我する前の身体も変えられるんじゃない?』


『……え?』


『だって、治すって身体を元に戻すことだろ?』


『……うん』


『だったら、もっと元気にすることもできそうじゃない?』


 エルナは、しばらく考えていた。


 そして。


『……やってみる!』


 そう言って、笑った。


 ……あれから、何度も練習した。


 最初は失敗ばかりだったけれど、エルナは諦めなかった。


 そして、いつの間にか。


 治癒だけでなく、生命の働きそのものを操れるようになっていた。


       ◆


「……それにしても」


 イザベル先輩が、エルナを見つめた。


「あなた、随分と楽しそうに話すのね」


「……え?」


「自分のスキルが、どれほど恐ろしいものか分かっている?」


 エルナは、少し考えた。


「……分かってますよ」


 そして、笑った。


「だからこそ、大切に使いたいんです」


「…………」


「私、誰かを傷つけるために強くなったわけじゃないですから」


 エルナは、俺とカイを見た。


「……大切な人たちを守りたいだけです」


 その言葉に、カイが小さく笑った。


「……昔から変わらないな」


「……何よ?」


「いや、頼もしいなって」


「当然でしょ!」


 エルナは胸を張った。


 俺も、思わず笑った。


(……本当に、変わらないな)


 昔から、エルナはそうだった。


 誰かが怪我をすれば、真っ先に駆け寄る。


 泣いている子がいれば、放っておけない。


 そして、俺やカイが無茶をすれば、必ず怒る。


 ……少し怖いくらいに。


       ◆


「……それで!」


 エルナが、突然手を叩いた。


「冒険者登録の話に戻るけど!」


「……ああ」


 俺は頷いた。


「もちろん、エルナも一緒だよ」


「……本当!?」


「うん」


 エルナの顔が、ぱっと明るくなった。


「……よかった!」


 そして、俺の腕をぎゅっと掴んだ。


「じゃあ、決まりね!」


「……エルナ、ちょっと近い」


「いいじゃない!」


 その様子を見て、イザベル先輩が小さく笑った。


「……随分と仲がいいのね」


「幼なじみですから!」


 エルナは、当然のように答えた。


 カイが、横から口を挟む。


「……俺も幼なじみなんだけどな」


「カイは別!」


「……何でだよ!」


 俺たちは、思わず笑った。


 レオンハルトさんも、珍しく笑っていた。


 ……何だか、賑やかになってきたな。


       ◆


 その日の帰り道。


 俺は、カイと並んで歩いていた。


「……なあ、ミソノ」


「ん?」


「エルナのスキル、また強くなってたな」


「……そうだな」


 カイは、少しだけ真剣な顔になった。


「……あいつ、本気で怒らせたら怖いぞ」


「……昔からだろ?」


「いや、そういう意味じゃなくて」


 カイは苦笑した。


「……まあ、いいか」


 俺は、少し考えた。


 《生命干渉》。


 生きているものに干渉する能力。


 治すことも。


 強くすることも。


 弱めることも。


 そして、おそらく――。


(……もっと先があるんだろうな)


 でも、今はまだ分からない。


 エルナ自身も、きっと全部は理解していない。


 ただ、一つだけ確かなことがある。


 あいつは、誰よりも優しい。


 そして。


 誰よりも、大切な人を守ろうとする。


(……心強いな)


 俺は、自然と笑っていた。


 そのとき、カイが口を開いた。


「……そういえば」


「ん?」


「騎士団から、返事が来たぞ」


「……本当か?」


「ああ」


 カイは、にやりと笑った。


「……冒険者活動の許可が下りた」


 俺は、思わず足を止めた。


「……じゃあ」


「ああ」


 カイは笑った。


「……いよいよ、冒険者ギルドだな」


 夕暮れの空を見上げる。


 新しい世界が、少しずつ近づいてきている。


 俺は、思わず笑った。


「……楽しみだな」

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