↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『五度目の生で人間に戻った俺、前世が全部ハズレ生物だったのに異世界では最強でした  作者: 滝本りお


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
15/21

常識を超えるものたち

学院の廊下を歩いていると、背後から声をかけられた。


「ミソノ・フォン・アルヴェイン!」


 振り返ると、長い黒髪を揺らしながらイザベル先輩が歩いてきた。


「……イザベル先輩?」


「探したわ。少し話があるの」


「俺にですか?」


「あなた以外に誰がいるのよ」


 彼女は腕を組み、真剣な表情で俺を見つめた。


「この前の試合で、あなたが言ったこと。あれについて詳しく聞きたいの」


「魔法を別々に動かすって話ですか?」


「そうよ」


 イザベル先輩の目が輝いた。


「昨日、試してみたの。氷を作る場所と、冷気を操る場所を分けてみたら、魔力の消費が驚くほど減ったわ」


「おお、すごいですね!」


「……あなたに言われると、少し複雑な気分だけれど」


 彼女は小さく笑った。


 そのときだった。


「ミソノ殿!」


 今度は反対側から声が響いた。


 振り返る。


 そこには、白銀の髪を揺らした青年が立っていた。


「レオンハルトさん!」


「ちょうどよかった。お前に報告したいことがある」


 レオンハルト・フォン・グランヴェル。


 王国騎士団第一騎士隊に所属する、《白銀の剣》の異名を持つ青年だ。


「以前教えてもらった、複数の領域を独立させる方法。ようやく形になってきた」


「本当ですか?」


「ああ。今では三つの領域を同時に維持できる」


「すごいじゃないですか!」


 レオンハルトは嬉しそうに頷いた。


「お前のおかげだ」


「いや、練習したのはレオンハルトさんですよ」


 そんなやり取りをしていると、さらに聞き慣れた声がした。


「……おいおい、何だこの集まり」


 カイだった。


「カイ!」


「ミソノ、お前また何かやったのか?」


「……何でそうなるんだよ」


「だって、お前の周りにいる顔ぶれを見てみろよ」


 カイは楽しそうに笑った。


 すると、周囲の生徒たちがざわめき始めた。


「……おい、あれってイザベル先輩だよな?」


「上級学年首席の……?」


「隣にいるの、《白銀の剣》レオンハルト様じゃない!?」


「……それに、カイ・フォン・ヴァルハルトまで……」


「……何で、あんな人たちがミソノを囲んでるんだ……?」


 気づけば、廊下のあちこちから視線が集まっていた。


(……これは、ちょっと目立ちすぎだな)


「……皆さん」


 俺は三人を見回した。


「ここだと話しにくいので、場所を変えませんか?」


       ◆


 俺たちが向かったのは、学院の裏手にある古い訓練場だった。


 普段はほとんど使われておらず、周囲に人の姿もない。


「……それで?」


 イザベル先輩が、待ちきれない様子で口を開いた。


「私の《氷獄領域》について、何か分かったの?」


「……その前に、一つ確認したいんですけど」


「何?」


 俺は、イザベル先輩とレオンハルトさんを交互に見た。


「お二人の固有スキルって、どちらも領域ですよね?」


「……ええ」


「《絶対剣域》も、確かに領域系だ」


 レオンハルトさんが頷く。


「領域系のスキルって、かなり珍しいんですよね?」


「ああ」


 レオンハルトさんの表情が真剣になった。


「王国でも、確認されている使い手はごく少数だ。世界全体でも、極めて希少な部類に入る」


「……そうなのね」


 イザベル先輩が呟く。


 俺は少し考えた。


「……だったら、なおさら面白いですね」


「……何が?」


「二人とも、領域を作れるんですよね?」


「ええ」


「じゃあ、領域そのものを動かしたり、形を変えたりすることはできないんですか?」


 イザベル先輩が眉をひそめた。


「……領域を、動かす?」


「はい」


 俺は地面に小石を置いた。


「例えば、イザベル先輩は領域の中を冷やせる。レオンハルトさんは領域の中を斬れる」


「……そうだな」


「だったら、領域を固定しておく必要ってあります?」


「…………」


 レオンハルトさんが、静かに目を見開いた。


「……なるほど」


 俺は続けた。


「領域を小さくして動かせば、必要な場所だけに効果を集中できますよね」


「……!」


 イザベル先輩の表情が変わった。


「……待って」


「はい?」


「……つまり、氷獄領域を相手の周囲だけに展開することも……?」


「できるかもしれませんね」


「…………」


 彼女は、何かを考え込んだ。


 その隣で、レオンハルトさんが静かに笑った。


「……ミソノ殿」


「はい?」


「やはり、お前と話すと面白い」


「……そうですか?」


「ああ」


 彼は剣の柄へ手を添えた。


「領域を分割することは考えた。だが、それぞれを別の場所へ移動させる発想は、まだなかった」


 イザベル先輩が顔を上げる。


「……レオンハルト様は、もう領域を分割できるのですか?」


「ああ。まだ完全ではないがな」


「…………」


 彼女の目が輝いた。


「……見せていただけませんか?」


「構わない」


 レオンハルトさんが剣を抜かずに右手を上げた。


 次の瞬間。


 ――スッ。


 少し離れた木の枝が、音もなく切り落とされた。


 続いて、別の枝。


 さらに、三本目。


 それぞれ違う場所で、ほぼ同時に。


「…………!」


 イザベル先輩が息を呑んだ。


「……すごい……」


 レオンハルトさんは、小さく首を振った。


「まだまだだ」


 俺は思わず笑った。


「でも、かなり上達しましたね!」


「お前のおかげだ」


「だから、練習したのはレオンハルトさんですって」


 そのやり取りを見て、カイが笑い出した。


「……ははっ!」


「……カイ?」


「いや、懐かしいなと思って」


「……何が?」


「昔からそうだっただろ?」


 カイは、俺の肩を軽く叩いた。


「お前が変なことを言って、俺が試す。できるようになったら、お前は『すごいな』って笑う」


「……そうだったか?」


「そうだったよ」


 カイは、レオンハルトさんとイザベル先輩を見た。


「……でも、気をつけた方がいいですよ」


「……何を?」


 イザベル先輩が尋ねる。


 カイは笑った。


「ミソノと一緒にいると、今までの常識が通じなくなりますから」


       ◆


「……ちょっと、試してみてもいい?」


 イザベル先輩が、突然言った。


「もちろんです」


 彼女は、訓練場の中央へ歩いた。


 足元に黒い魔法陣が広がる。


 だが、今度は闘技場全体を覆うような大きなものではなかった。


 小さな円。


 人一人が立てる程度の範囲。


「……こうかしら」


 ――パキッ。


 円の内側だけが凍りついた。


「……できた」


 イザベル先輩が呟く。


「……じゃあ、次は……」


 彼女が指を動かす。


 小さな領域が、ゆっくりと地面を滑った。


「…………!」


 レオンハルトさんが目を見開く。


「……動いた……!」


 イザベル先輩自身も驚いていた。


「……本当に、動いた……!」


 俺は頷いた。


「すごいですね!」


 イザベル先輩は、しばらく領域を見つめていた。


 そして、突然こちらを振り返った。


「……ミソノ!」


「はい?」


「……あなた、何なの!?」


「……え?」


「どうして、そんなことを簡単に思いつくのよ!」


「……いや、何となくですけど」


「……何となく!?」


 カイが、隣で腹を抱えて笑っていた。


「……ははは! やっぱりそうなるよな!」


 レオンハルトさんも、珍しく声を出して笑った。


 イザベル先輩は、呆れたようにため息をついた。


 だが、その表情は楽しそうだった。


       ◆


 しばらくして。


 俺たちは、訓練場の端にある石段へ腰を下ろしていた。


「……ねえ」


 イザベル先輩が口を開いた。


「みんな、冒険者登録ってしたことある?」


「……冒険者?」


 俺は首を傾げた。


「ええ」


 彼女は、少しだけ身を乗り出した。


「王都には冒険者ギルドがあるでしょう?」


「……ありますね」


「私、ずっと興味があったの」


 イザベル先輩の瞳が輝いた。


「魔物の討伐って、どんな感じなのかしらって」


「……イザベル先輩、討伐したことないんですか?」


「学院の実習で模擬戦はあるけれど、本物の魔物と戦ったことはないわ」


「……へえ」


 彼女は、少し恥ずかしそうに笑った。


「……変かしら?」


「いや、全然」


 俺は首を振った。


「面白そうですね」


「……でしょう!?」


 イザベル先輩が嬉しそうに身を乗り出した。


「だったら、みんなで行ってみない?」


「……みんなで?」


「そう!」


 彼女は、俺たちを順番に見た。


「ミソノ、レオンハルト様、カイ。それに、私!」


 レオンハルトさんが、少し考えた。


「……冒険者登録か」


「騎士団の任務とは違う経験ができそうですね」


 カイも興味を示した。


 俺は、三人を見回した。


「……いいですね」


 イザベル先輩の顔が、ぱっと明るくなった。


「……本当!?」


「はい」


「……じゃあ、決まりね!」


 彼女は、嬉しそうに笑った。


 その姿は、先日の闘技場で見せた冷たい表情とはまるで違っていた。


 俺も、自然と笑っていた。


(……冒険者か)


 この世界に生まれてから、冒険者という存在には興味があった。


 魔物の討伐。


 未知の土地の探索。


 依頼の達成。


 学院とは、また違う世界が広がっているはずだ。


(……面白そうだな)


 そのとき。


「……ただし」


 レオンハルトさんが口を開いた。


「俺たちが一緒に動くとなれば、少し問題がある」


「……問題?」


 俺が尋ねると、彼は真剣な表情で頷いた。


「騎士団に所属する俺とカイが、勝手に冒険者活動を行うわけにはいかない」


「……ああ、なるほど」


 カイも頷いた。


「許可は必要だな」


「……じゃあ、無理なの?」


 イザベル先輩が残念そうに尋ねる。


「いや」


 カイは笑った。


「父上に相談してみるよ」


「……ガルディス総長に?」


「ああ」


 レオンハルトさんも頷いた。


「俺からも話してみよう」


 イザベル先輩の顔が、再び明るくなった。


「……じゃあ!」


「ああ」


 カイは笑った。


「許可が出たら、みんなで行こう」


       ◆


 学院を出るころには、空が茜色に染まっていた。


 俺たちは、正門の前で足を止めた。


「……それじゃあ、また」


 レオンハルトさんが手を上げる。


「次に会うときまでに、もう少し領域を磨いておく」


「楽しみにしてます!」


 イザベル先輩も笑った。


「私もよ。次は、もっと驚かせてあげるわ」


「期待してます」


 カイが、俺の肩へ腕を回した。


「……なあ、ミソノ」


「ん?」


「何だか、面白くなってきたな」


「……そうだな」


 俺は、三人を見回した。


 王国騎士団の若き実力者。


 《白銀の剣》と呼ばれる天才剣士。


 学院上級学年首席の氷の使い手。


 そして、俺。


 ……何だか、妙な組み合わせだ。


 でも。


(……悪くないな)


 俺は、思わず笑った。


「……冒険者ギルド、楽しみだな」


 カイも笑った。


「ああ。きっと、面白いことになる」


 その言葉が、妙に心に残った。


 俺たちはまだ知らなかった。


 この何気ない約束が、やがて王国中に名を轟かせることになるとは。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。