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『五度目の生で人間に戻った俺、前世が全部ハズレ生物だったのに異世界では最強でした  作者: 滝本りお


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12/21

スキルなしの学院生活

王立魔導騎士学院に入学して、しばらく経った。


 最初こそ、廊下を歩くだけで振り返られ、食堂に入れば妙な静けさが広がっていた俺だったが、最近ではそんな光景にも慣れてきた。


 ……いや。


 正確には、周囲が俺に慣れてきた、というべきだろうか。


「ミソノ! おはよう!」


「おはよう。今日の実技、一緒の班になれるかな?」


「ねえ、昨日の魔法理論の課題、ちょっと教えてほしいんだけど!」


 教室へ入るなり、三人の女子生徒に囲まれた。


「おはよう。課題なら休み時間に見ようか」


「本当!? ありがとう!」


「やった! じゃあ私も!」


「……お前たち」


 横から、呆れたような声がした。


「少しは自分で考えたらどうなの?」


 銀色がかった淡い青髪。


 紫色の瞳。


 窓際の席で本を開いていたセリシア・フォン・ルーヴェルトが、こちらを睨んでいた。


「ミソノは、あなたたちの家庭教師じゃないのよ」


「えー、セリシア様だって、昨日ミソノ君と図書館にいたじゃないですか」


「なっ……!」


 セリシアの顔が赤くなる。


「あ、あれは魔法理論について議論していただけよ!」


「へえー?」


「何よ、その顔!」


 女子生徒たちが楽しそうに笑う。


 俺は空いている席に鞄を置いた。


「おはよう、セリシア」


「……おはよう」


「昨日の本、面白かったな」


「……っ!」


 セリシアは慌てて本で顔を隠した。


「そ、そうね!」


(……何で隠れるんだ?)


 相変わらず、よく分からない。


 ただ、こういう賑やかな朝も、最近では嫌いじゃなかった。


       ◆


 午前の授業は、魔力制御実習だった。


 広い訓練場には、いくつもの魔導標的が並んでいる。


「本日の課題は、魔力の安定維持だ!」


 教官の声が響いた。


「各自、標的へ魔力を送り込み、内部の魔導石を一定の明るさで発光させろ。出力が強すぎても弱すぎても失敗だ!」


 なるほど。


 要するに、魔力を細かく調整する練習らしい。


「では、始め!」


 生徒たちが一斉に魔力を流し始めた。


 標的が赤や青に光る。


 途中で消えるもの。


 突然、眩しく輝くもの。


 あちこちで教官の注意する声が飛んでいた。


「……ミソノ」


 隣に立つセリシアが声をかけてきた。


「今日は、手加減しないでよね」


「……何の話だ?」


「あなた、いつも簡単そうにやるでしょう?」


「まあ、難しいことじゃないし」


「……そういうところが腹立たしいのよ」


 セリシアは小さく息を吐いた。


「見てなさい」


 彼女が標的へ手をかざす。


 魔導石が、鮮やかな青色に輝いた。


 その光は揺らぐことなく、一定の明るさを保っている。


「おお……!」


 周囲から感嘆の声が上がった。


 教官も満足そうに頷いた。


「見事だ、セリシア! さすが入学試験首席!」


「ありがとうございます」


 セリシアは涼しい顔で礼をした。


 そして、ちらりと俺を見る。


「……次は、あなたよ」


「分かった」


 俺は標的へ手を向けた。


 魔力を流す。


 魔導石が、柔らかな白色に光った。


 それだけだった。


「…………」


 教官が近づいてきた。


「……ミソノ」


「はい」


「……魔力を流しているのか?」


「流してますけど」


「……そうか」


 教官は魔導石を覗き込んだ。


 そして、眉をひそめた。


「……おかしいな」


「何がですか?」


「通常、魔力には微細な揺らぎがある。だが、お前の魔力には、それがほとんど見られない」


「……そうなんですか?」


「……ああ」


 教官はしばらく標的を見つめていた。


「……まあ、合格だ」


「ありがとうございます」


 俺が手を下ろすと、隣から小さな声がした。


「……やっぱり、変」


 セリシアだった。


「何が?」


「あなたよ!」


 俺は思わず笑った。


       ◆


 そのときだった。


 ――バチッ!


 訓練場の端で、鋭い音が響いた。


「きゃっ!」


 振り返る。


 一人の女子生徒が、標的の前で尻もちをついていた。


 淡い桃色の髪。


 翡翠色の瞳。


 小柄な女の子だった。


 彼女の周囲では、いくつもの魔導石が不規則に点滅している。


「……またか!」


 教官が駆け寄った。


「フィオナ! 魔力を乱すなと言っただろう!」


「ご、ごめんなさい……!」


 少女は慌てて頭を下げた。


「ちゃんとやろうとしたんですけど……」


「お前の固有スキルは《共鳴》だったな?」


「……はい」


「他人の魔力に干渉する性質があるのは分かる。だが、周囲の標的まで巻き込んでは訓練にならん!」


「……すみません」


 フィオナと呼ばれた少女は、俯いた。


 周囲から、小さな声が聞こえる。


「……また失敗してる」


「補助系のスキルって、難しそうだよね」


「でも、あれじゃ実戦では使えないんじゃ……」


 少女の肩が、さらに小さくなった。


 俺は、点滅している魔導石を見つめた。


(……あれ?)


 妙だ。


 フィオナの標的だけじゃない。


 周囲の標的も、ほぼ同じ間隔で明滅している。


 しかも、魔力の流れが一瞬だけ、彼女を中心に揃っていた。


(……なるほど)


 俺は、少し興味が湧いた。


「……先生」


「何だ、ミソノ」


「ちょっと、フィオナと話してもいいですか?」


「……構わんが、実習の邪魔はするなよ」


「はい」


 俺は少女のもとへ歩いた。


       ◆


「……フィオナ、だっけ?」


 声をかけると、少女が顔を上げた。


「……え?」


「俺、ミソノ。よろしく」


「あ……う、うん!」


 フィオナは慌てて立ち上がった。


「フィオナ・ルミエールです!」


「さっきの、すごかったな」


「……え?」


「周りの標的、全部反応してただろ?」


 フィオナの表情が曇った。


「……ごめんなさい」


「……何で謝るんだ?」


「だって、私のせいでみんなの魔法が……」


「いや、褒めてるんだけど」


「…………え?」


 フィオナは目を丸くした。


 俺は周囲の標的を指差した。


「普通、自分の魔力を操るだけでも難しいんだろ?」


「……うん」


「でも、フィオナは周りの魔力まで動かしてた」


「……勝手に、だけど……」


「それでも、すごいことだと思うけどな」


 フィオナは、ぽかんと口を開けた。


「……そんなこと、初めて言われた」


「そうなのか?」


「……うん」


 彼女は小さく頷いた。


「私のスキル、戦えないし……。周りに迷惑かけるだけだから……」


 俺は少し考えた。


「……じゃあさ」


「……うん?」


「今度は、俺の魔力に合わせてみない?」


「……え?」


「周り全部を動かそうとするから、大変なんじゃないかな」


 俺は手を差し出した。


「まずは、一つだけでいいと思う」


 フィオナは、差し出された手を見つめた。


「……私に、できるかな」


「やってみないと分からないだろ?」


「…………」


 彼女は少し迷ったあと、そっと俺の手を取った。


「……うん!」


 その瞬間。


 フィオナの魔力が、わずかに動いた。


 俺は、自分の魔力を細く流した。


 フィオナは目を閉じる。


「……あ」


「どうした?」


「……分かる」


「何が?」


「……ミソノ君の魔力、すごく……静か」


 彼女の指先が、小さく震えた。


「……こんなの、初めて……」


 俺は微笑んだ。


「じゃあ、そのまま合わせてみて」


「……うん」


 フィオナが、ゆっくりと呼吸を整える。


 周囲の魔導石が、一斉に光った。


 今度は、不規則な点滅ではない。


 柔らかな光が、同じリズムで揺れている。


「……できた」


 フィオナが呟いた。


「……私、できた……!」


 その声が、少しだけ震えていた。


 俺は頷いた。


「ほらな」


 フィオナは顔を上げた。


 翡翠色の瞳が、嬉しそうに輝いている。


「……ありがとう、ミソノ君!」


 彼女は、俺の手をぎゅっと握りしめた。


「……本当に、ありがとう!」


「どういたしまして」


 そのとき。


「……ミソノ」


 背後から声がした。


 振り返ると、セリシアが立っていた。


 腕を組み、こちらを見つめている。


「……随分と楽しそうね」


「うん。フィオナのスキル、面白いんだ」


「……そう」


 セリシアは、フィオナと俺の手をちらりと見た。


「……いつまで握ってるの?」


「……え?」


 フィオナが慌てて手を離した。


「あっ! ご、ごめんなさい!」


「いや、別に」


 セリシアは小さくため息をついた。


「……本当に、あなたって人は」


(……また何か怒らせたか?)


       ◆


 昼休み。


 俺は中庭のベンチで、エルナと昼食を食べていた。


「……へえ。そんなことがあったのね」


「ああ。フィオナって子なんだけど、面白いスキルだった」


「……フィオナ?」


「うん。同じ学年の子」


 エルナは、パンをちぎる手を止めた。


「……女の子?」


「ああ」


「……そう」


 彼女は、しばらく黙った。


「……最近、女の子の名前をよく聞くわね」


「そうか?」


「そうよ」


 エルナは、少しだけ頬を膨らませた。


「セリシアさんに、フィオナさんに……」


「……同級生だからな」


「……そうね」


 エルナは小さく息を吐いた。


 俺は首を傾げた。


「……エルナ?」


「何?」


「……何か怒ってる?」


「怒ってないわよ」


「……そうか?」


「……怒ってないったら!」


 ……怒ってる気がする。


 俺はどうしたものかと考えた。


 すると、エルナがふいに俺を見た。


「……ねえ、ミソノ」


「ん?」


「学院生活、楽しい?」


「うん」


 俺は頷いた。


「思ってたより、ずっと」


「……そう」


 エルナは微笑んだ。


 その笑顔は、さっきまでとは違っていた。


「……よかった」


「エルナのおかげでもあるけどな」


「……え?」


「最初、学院のこと全然分からなかったし。案内してくれて助かった」


「…………」


「ありがとう」


 エルナの頬が、みるみる赤くなった。


「……そ、そんなの……」


「ん?」


「……当然でしょ!」


 彼女は慌てて顔を背けた。


 俺は思わず笑った。


(……やっぱり、エルナは面白いな)


       ◆


 放課後。


 学院の中央掲示板には、大勢の生徒が集まっていた。


「……何だ?」


 俺が近づくと、聞き慣れた声がした。


「ミソノ!」


 セリシアだった。


 その隣には、フィオナもいる。


「ミソノ君!」


「二人とも、どうした?」


「……これよ」


 セリシアが掲示板を指差した。


 そこには、大きな羊皮紙が張り出されていた。


 《王国学院対抗戦》


 《代表選抜試験・実施告知》


「……学院対抗戦?」


 俺は首を傾げた。


「知らないの?」


 セリシアが呆れたように言った。


「王国各地の学院が集まって、実力を競い合う大会よ」


「へえ」


「毎年、王国中が注目する一大行事なの」


 フィオナも頷いた。


「私の故郷でも、みんな楽しみにしてるんだよ!」


「そうなのか」


 俺は掲示板を読み進めた。


 代表選抜。


 団体戦。


 実戦形式。


 なるほど。


 結構、本格的な大会らしい。


「……セリシアは出るのか?」


「当然よ」


 彼女は胸を張った。


「私は、この学院の代表になるために入学したんだから」


「すごいな」


「……あなたは?」


「俺?」


「そうよ」


 俺は少し考えた。


「……まだ分からないな」


「……何ですって?」


「いや、面白そうではあるけど」


 セリシアは、信じられないという顔をした。


「……あなた、自分の実力を分かってるの?」


「……まあ、それなりには」


「……もう!」


 フィオナがくすくす笑った。


「ミソノ君らしいね」


 俺も笑った。


 そのときだった。


「……あれ?」


 掲示板の下の方に、自分の名前があることに気づいた。


 《特例入学生ミソノ・フォン・アルヴェイン》


 《学院長推薦により、代表候補者に指定》


「…………」


 俺は、しばらくその文字を見つめた。


「……また俺だけ特別扱いかよ」


 思わず呟いた。


 すると――。


「……ふざけないで」


 背後から、冷たい声が響いた。


 振り返る。


 そこには、一人の上級生が立っていた。


 長い黒髪。


 鋭い瞳。


 制服の胸元には、上級学年を示す銀色の徽章が輝いている。


 彼女は、俺をまっすぐに睨みつけていた。


「……スキルなしが、代表候補?」


 周囲の空気が、ぴりついた。


 セリシアが眉をひそめる。


「……あなたは……」


 上級生は、ゆっくりと俺へ歩み寄った。


「私たちが、どれだけ努力してきたと思っているの?」


「…………」


「学院長の推薦? 特例入学? そんなもの、実力の証明にはならないわ」


 俺は彼女を見つめた。


「……そうかもしれませんね」


「……何?」


「推薦されたからって、代表になれるわけじゃないでしょう?」


 上級生の眉が動いた。


 俺は続けた。


「だったら、選抜試験で決めればいいんじゃないですか?」


「…………」


 彼女は、しばらく俺を睨んでいた。


 そして、ゆっくりと口元を歪めた。


「……いいわ」


 その声は、ひどく冷たかった。


「そこまで言うなら、見せてもらいましょう」


 彼女は、俺の胸元を指差した。


「……あなたが、どれほどの実力を持っているのか」


 俺は小さく頷いた。


「分かりました」


 その瞬間。


 周囲の生徒たちが、ざわめき始めた。


「……おい、あれって……」


「……まさか……」


「……あの人に、勝負を受けるって……?」


 セリシアの表情が変わった。


「……ミソノ」


「ん?」


「……あなた、相手が誰だか分かってるの?」


「……いや」


 俺は正直に答えた。


「……誰?」


 セリシアは、深いため息をついた。


「……あの人は……」


 そのとき。


 上級生が、静かに口を開いた。


「……名乗る必要もないと思っていたけれど」


 彼女は、胸元の銀色の徽章へ手を添えた。


「王立魔導騎士学院、上級学年首席」


 周囲が静まり返る。


 そして、彼女は告げた。


「……あなたが本当に代表に相応しいかどうか、私が確かめてあげる」


 その瞳に、鋭い光が宿った。


 次の瞬間。


 彼女の足元から、黒い魔法陣が静かに広がり始めた。


 セリシアが、息を呑んだ。


「……まさか、ここで……!?」


 俺は、ゆっくりと視線を落とした。


 魔法陣の中央。


 そこには、見たことのない文字が浮かび上がっていた。


(……へえ)


 俺は、思わず口元を緩めた。


(……これは、ちょっと面白そうだな)

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