15 理不尽な巻き添え
「それじゃあ……」
リトンの話を聞いた村人が、悲痛の表情を浮かべる。
村人たちも、買い出しにいったリトンたちがなかなか帰ってこないので心配していたらしい。何度か街に探しにいったが、そこでは子どもや母親たちの姿を見つけることができなかったそうだ。
子ども二人の死は確定している。ジョーカーは躊躇うことなく、その事実を皆に伝えた。ただし魔物に食べられる前に、すでに死んでいた点を強調して付け加える。その点は事実だったが、意外に思った。
そこにあるのは確かに気遣いの感情。生きたまま食われるよりも、死んだ後に食われたと言われたほうが、いくぶん気持ちが楽になる。
何か裏があるのかと勘ぐったりもしたが、理由がわからない。もしかしたら、殺人鬼にも思いやりの心があるのだろうか?
「リトン、すまねぇな。俺の馬鹿息子のせいで」
涙を流しながらリトンに謝罪してきたのは、おそらくは亡くなった子どもの父親だろう。同時に彼の妻は、兵士に捕らえられ生死不明の状態だ。
「あの、どういう意味ですか?」
結奈は少し違和感を覚えた。確かに科白としてはあり得るものだったが、どこかリトンには非がないようなニュアンスに聞こえたからだ。
「リトンには、……感情がないんです」
結奈の隣にいた女性が小声で教えてくれた。十代後半くらいで、そばかす顔だが、目がぱっちりしていてなかなかの美人だ。
「リトンの父親が目の前で魔物に襲われて……。それ以来リトンは笑わなくなったんです。当然、騒いだりすることもできません」
その事実に結奈は愕然とした。リトンの感情の薄さは竜車に引かれた凄惨な経験が理由だったのではなく、ずっと前からそうだったというのだ。
今回の竜車引きの罰は、街で騒いでいたことが原因だったはず。しかし、感情のないリトンには、騒ぐことなんてできない。ならば何故、リトンは罰を与えられてしまったのか?
おそらくは、単に一緒にいたから。だとすれば、巻き添えも甚だしい。
「酷い、そんなことって――」
結奈の世界ではあり得ないことだ。たとえ共犯であったとしても、それぞれの犯罪の内容を詳細に把握し、その上で法で定められた罰を与える。冤罪はもっとも恥ずべき裁定だ。
だが、この世界ではそれはない。まるで虫けらのように命が奪われている。
「とりあえず、ザッハベルト様のところへ行こう。まだ間に合うかもしれん」
村長が重い口を開く。果たして、まだ間に合うとは何を想定しているのか。
「皆の生活が苦しいのは知っている。だが、どうか力を貸してほしい」
村長の言葉で、村人たちが散り散りに去っていく。そこに残ったのは、ジョーカーと結奈、リトンとその兄のコリム。そして先ほど、リトンのことを教えてくれた、そばかす顔の女性だった。
「リトンのこと、助けてくださって本当にありがとうございます」
女性が深々と頭を下げて礼を言う。
「私はアント。村長の娘です。リトンを助けていただいたお礼をすべきですが、この村は貧しくて、お金も――」
「本当に馬鹿だ!」
アントの言葉を遮るように、コリムが叫んだ。
「金を積んだって、兵士が素直に返してくれるはずがない! 金だけ取られるのがオチさ!」
唐突に「金」という単語が出てきて、結奈は違和感を覚えた。いったい何の話をしているのだろう?
「彼らは金を取りに行ったのか?」
質問をしたのはジョーカーだ。その言葉ですぐに、結奈も状況を察する。村長が言った村人の協力。それは、みんなでお金を出し合って、ザッハベルトと交渉するつもりなのだ。
騒いだという理由で難癖をつけられ、子どもも殺され、おそらく母親たちも酷い目に遭っている。そのうえで金を支払って、赦しを得ようとしているのだ。
「そうです。何も持たずに行けば、最悪その場で殺されてしまいます」
何という理不尽。何もかもが狂っている。
「ちなみに街へは、ある程度自由に出入りできるのか?」
「もしかして街に行くつもりなの?」
ジョーカーの思考を先読みして、結奈が問うた。
「ほかにやることもないしな」
「あんたにそれを教えて、俺になんの得があるんだ?」
コリムが挑むように言う。ジョーカーに胡散臭さを感じているらしい。
「得? 勘違いするな。お前は俺に借りがあるだろう? 妹を助けてやったのは誰だ?」
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<次回>
コリムのお母さんの登場です。この世界の理不尽さを少しでも感じていただければ・・・。




