14 罰の理由
「なにそれ!? そんな理由であんなことさせられていたの!?」
結奈が驚き半分、憤り半分の声をあげる。
村に戻る道すがら、リトンがあんな罰を受けていた理由を訊ねたのだが、なんとも信じられない理由だった。
リトンは母親とほかの二家族、計六人で街に買い出しに来ていたのだが、たまたま近くの店で食事をしていた三騎士のひとりザッハベルトの逆鱗に触れてしまったというのだ。
――下品で騒がしい子どものせいで、飯がまずくなった。
そう激昂して、従者の兵士に竜車引きを命じたという。許しを請うてきた母親たちは、その場で兵士に取り押さえられ、その後どうなったかは知らないそうだ。
ただ、最後まで走りきることができたなら、母親たちは無事に返してやると言われて、死に物狂いで足を動かしていたらしい。
「あり得ない! 子どもは騒ぐのが仕事よ。この世界の連中は狂ってるわ!」
「そうかぁ? レストランや電車で騒ぐ子どもを大人が叱りつけるなんて、日本でもよくある光景だろう?」
「一緒にしないで! 普通は殺そうなんて思わないわ」
「現代の日本では殺人のリスクと手間が大きいからさ。人間のレベル的には大差ない」
断言するジョーカーに、文句を言ってやりたい気持ちはあるが、舌戦では勝てる気がしない。
ジョーカーは村の近くの森で、ラダーを乗り捨てた。兵士が使っていたラダーを保有するのはリスクでしかない。盗んだ車を乗り捨てるのと同じ理由だ。兵士の剣も同じ理由で拾ってさえいない。
やがて、高い壁に囲まれた城郭都市が遠くに見えてきた。
その周辺には、いくつかの村が点在しており、主に家畜の飼育や小麦の生産を主な産業として暮らしているらしい。リトンの村もそんな農村のひとつだった。
もっとも小麦も家畜も、結奈の知っているものと似て非なるもので、特に小麦などは、触手で肥料を掴んで花の中央にある口に放り込むといったレベルで、植物というよりは魔物に思えた。
「リトンだ! 戻ってきたぞ!」
ジョーカーたちが村に到着すると、リトンの姿に気づいた村人が心配した様子でわらわらと集まってきた。雰囲気からして、リトンのことをずっと探していたようだ。
すぐに取り囲むような人垣ができたが、誰もジョーカーたちに近づこうとしてこなかった。見知らぬ異邦人。ジョーカーたちとどう接するべきか、警戒の色が濃く出ている。
「リトン!」
そんななか、一人の少年が人垣を飛び出してきた。勝ち気な太い眉と短い髪の毛。元の世界でいえば、おそらく中学生くらいの年頃だ。
「おい、あんたは誰だ? なんでリトンを連れている!?」
血の気が多いのか、いきなりケンカ腰の態度。この世界の価値観からすれば、農民階級の態度として、あまりにも迂闊に思えた。
「俺は――神だ」
ジョーカーが壮大な嘘をつく。結奈は思わず、ずっこけそうになった。
「あなたねぇ~」
そんな結奈をジョーカーが手で制す。何か考えがあるらしい。
「はぁ? なに言ってんだよ? 神気が出てねえじゃねえか」
顔を見合わせ困惑する村人たちを代表して、先ほど少年が不機嫌そうに言った。
「冗談だ。俺は魔人だ」
「あのな。魔人だったら魔力が出ているはずだろ? なにがしたいんだよ、あんた」
少年が呆れたように非難する。
「ユーモアがわからん奴だな。わかった。本当のことを言おう。俺は商人だ。この子を引いていた竜車が魔物に襲われていたので助けてきた。襲われたときに荷物を落としてしまったので、俺が商人だという証拠はないがな」
結奈は唖然とした。どうしてこうも自然に嘘が出てくるのか。唯一の事実はリトンを助けたことくらいだが、ジョーカーは当初リトンを見殺しにしようとしていた。
その意味では、リトンを助けたことも嘘になる。
それに、竜車が魔物に襲われた嘘は仕方ないとはいえ、荷物を落としたほうは明らかに恩着せがましい嘘だ。なんて顔の皮が厚い男なんだろう。
「ほら、戻っていいぞ。あいつは兄か?」
リトンは大きく頷き返す。ジョーカーが手を放すと、リトンは少年のほうへと歩いていった。そして駆け寄ってきた村人たちに、ジョーカーに助けてもらったことを伝えている。
「で、どうして神とか名乗ったの?」
結奈はジョーカーの意図を知るべく質問した。
「神と名乗れば崇めてもらえるかと思ってな。そのほうが何かと楽だろう」
「そんな嘘に騙される人なんていないわよ」
「少なくとも、元の世界には大勢いたぞ。俺は教主をやっていたことがあってな。信者は一万人程度だったかな。それでも生涯遊べるくらいの金は手に入った。神が実際にいる世界より、神がいるかわからない世界のほうが騙しやすいなんて、滑稽だとは思わんか?」
「最低。……でも、それなら『正義の殺人鬼』なんてやる必要あったの?」
「意味がわからんな。殺人は趣味だ。それに俺は騙すのは好きだが、騙し続けることに興味はない。金を巻き上げたらすぐに嘘だったとバラしてやった。騙されたと知ったあいつらの表情のほうが、金以上に価値がある」
「うわぁ~、ガチのクズだぁ」
結奈は心底どん引いてしまった。この男がクズの殺人鬼であることは知っていたが、その認識を改めて強める。
「それに、――この世界の神や悪魔はどうやって見分けるのかと思ってな」
ふと、そっちのほうがジョーカーの本命だったのかもしれない、と結奈は思った。
警察でも階級を見分けるための仕組みがある。人数が多いと顔を覚えるが大変だし、スパイの侵入を許す危険もあるからだ。
この世界では情報インフラも整っていないだろうし、写真などもおそらく存在しないはず。嘘が上手ければ、本人に成りすますことも可能だ。
しかも、ジョーカーは変装の名人でもある。外見さえも似せることができるのだ。
ジョーカーはおそらく、その可能性を確認したのだろう。さりげない嘘の中で、本当に聞きたいことを混ぜ込んでくる。ジョーカーの抜け目なさに、結奈は舌を巻く思いだった。
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<次回>
少しずつ世界観が明らかになっていきます。コリムの母親の探索開始。




