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13 助けて欲しければ反省しろ!

 ここは、アルゲンベスタの西に位置するホーリーランドと呼ばれる大地。南に数キロ行くと、エイフリルと呼ばれる城郭都市があり、今は王国軍の駐屯都市となっている。


 ヒューイの大国ハイランドの第一王子ギルバルトが、エフルの国エヴァグリーンを支配下に置くべく、王国軍を率いて戦争中なのだという。

 また、この世界には普通に神や悪魔が存在していて、当たり前のように干渉してくるそうだ。


 悪魔たちは通常、蟻みたいに地下に自分のダンジョンをつくり、そこに眷族とともに暮らしている。

 地上に出てきて人間を襲う悪魔を魔王と呼び、その契約者を魔人、さらにその魔人の使い魔を使徒と呼ぶ。

 さらに、この悪魔たちの瘴気から生まれた怪物を魔物と呼び、地上の生物を襲う本能を持つ。魔物も基本は地下のダンジョンに住んでいて、地上に出てくることは稀なのだそうだ。


 それらの情報をジョーカーは、先ほど結奈に捕縛させた男から聞き出していた。拷問されたせいで両足は血に滲んでいる。そのうえで、助けた女の子――リトンにも嘘か本当か確認する徹底ぶりだった。


「ほら、訊きたいことには答えたぞ。はやく、俺を解放してくれ」


 武装解除され、鎖で手足を拘束された男が、痛みで疲弊した顔で懇願するように言う。


「まだだ。『ノーマン』と『ソルダート級』についても教えてもらう」


「はぁ? さっきからなんだ? 常識的なことばかり訊きや――ぎゃあああああ!」


 ジョーカーは無言で剣を男の太ももに突き刺すと、ぐりぐりとかき回した。結奈には止めることも、声を出すこともできない。邪魔するなと「命令」されているからだ。


 そのときだ。遠くから地響きが轟いてきた。


 振動で地面から砂が舞い上がっている。危険を察してか、二匹のラダーが暴れはじめた。


「え? なに? 地震?」


 結奈の疑問に答えたのは、鎖で拘束された男だ。


「はやく拘束を解いてくれ! ヤバい! 魔物だ!」


「嘘はよせ」


「嘘じゃねえよ! 地響きの音が聞こえるだろ!? 岩亀って魔物だ! 丸い岩になって転がってくるが、一度開くと動きは遅い。ラダーに乗れば逃げられる! はやく拘束を解いてくれ!」


「……ひとつ質問だが、そいつは死体も食べるのか?」


「はぁ? なに言ってん――ぎゃあああああ!」


 ジョーカーは躊躇うことなく、男の耳を切り落とした。両手を縛られている男は、傷口を押さえることもできず、血と涙を流して痛みに耐えている。


「勘弁してくれよ……。わかった、言うから。奴らは死体も食う。お願いだから、これ以上傷つけないでくれよぉ」


 弱々しい姿に、結奈は胸を抉られる思いだった。彼らはいたいけな子供を殺した。その事実は理解している。だけど、こんな拷問のようなことには耐えられない。


「本当か?」


 ジョーカーはリトンに訊ねた。その声は、心なしか優しい。


「わ、わかんない……」


「本当だって! なんでわかんねぇとか言うんだよ! マジだ、信じてくれ!」


 男が悲痛な声で懇願する。恐怖と痛みで精神が消耗していた。


「そうか」


 言うや、ジョーカーは二頭のうち、片方のラダーの首を切り裂いた。その唐突な行為に誰もが絶句する。


「な、なにを……?」


「ほう、姿が見えてきたな。二匹か」


 結奈の質問には答えず、ジョーカーが遠くに視線を送った。


 彼の視線の先を追うと、丸い岩みたいな物体がふたつ、こちらに転がってきているのが見える。となりの木のサイズから、おそらく直径は四メートルくらいだろう。


「き、来やがった。はやく拘束を解いてくれ! 魔物に食われて死ぬなんて嫌だぁあああっ!」


「わかった、わかった。約束どおり拘束を解いてやろう」


「はぁ、助かった。しかし、なんであのレベルの魔物が現れるんだ?」


 ジョーカーの科白に、男は安堵したように息を吐く。だが彼は知らなかった。ジョーカーが正義の殺人鬼と呼ばれていたことを――。


 男の前にしゃがみ込んだジョーカーは男の足を掴むと、次の瞬間、ボキリとへし折った。


「ぎゃあああああああああああああああ!」


 絶叫がこだまする。男が痛みに悶絶している間に、もう片方の足もへし折った。絶叫を絶叫が上書きする。そうして男を動けなくしたあと、ジョーカーは約束どおり鎖の拘束を解いてやった。


「さて、いくか」


 ジョーカーは女の子を抱き上げると、ラダーに跨がった。


「待って、この人は!?」


「子供じゃないんだ。自分でなんとかするだろう」


「そ、そんな……。助けてくれるって言ったじゃないかぁ!」


 男が涙を流しながら悲鳴じみた声をあげる。鎖の拘束が解かれたとしても、折れた足では逃げることはできない。魔物に生きたまま食われる運命が待ち受けているだけだ。


「――誰が、いつ、そんなことを言った?」


 戦慄が襲い来る。全身の産毛が一気に逆立った。男を睥睨するジョーカーの表情には一片の人間味もない。それは冷酷で残酷な殺人鬼の目だ。


「約束どおり拘束は解いてやったぞ? なにが不満だ? さっきから拘束を解いてくれだの、助けてくれだの、貴様は自分のことばかりだな。貴様は幼い子供をふたりも殺しているんだぞ? 謝罪の言葉はないのか?」


 男は意味がわからないというふうに、ぽかんとしている。罪悪感どころか、その存在すら忘れていたかのような反応だ。結奈の中にも不愉快な感情が生まれる。


「あ、ああ……。悪かった。許してくれ」


 男はようやく思い出したかのように、心のこもってない謝罪の言葉を口にした。


「俺に謝ってどうする! この馬鹿者がッ!!」


 怒号が落雷となって叩きつけられた。男は恐怖でひっくり返り、ジョーカーを乗せたラダーも命の危機を感じたように暴れだす。すぐに手綱を引いて諫められたが。


「貴様が謝るべきは、そこの子どもたちだ! 貴様が謝り、その子たちが赦してくれたなら、貴様を助けてやる!」


 亡くなった子どもたちの遺体は、きれいに並べて安置していた。当然のことながら、死んでしまった人間が赦しを与えてくれることなどない。


「なに言ってんだよ……。無理……だろ? 死んでるんだぜ?」


「ならば、食われて果てろ」


 その言葉を合図とするかのように、ボール状の岩亀が軽くジャンプして現れた。アルマジロのようにお腹から二つに割れて、その本来の姿を露わにする。


 巨大なゾウガメの姿。ただ一点違うとすれば、その顔が人間の女の顔をしている点だろう。人面亀だ。


「命令だ。俺についてこい」


 ジョーカーは短く言い放つと、手綱を振ってラダーを走らせた。命令された結奈も、ジョーカーの後ろを走りながらついていく。


「待って! 本当に魔物の餌にする必要があるの?」


 ジョーカーに男を助ける気がないのは明白だ。それでも、魔物に食べさせるのは、あまりにも残酷ではないか?


「君はこの子を助けたいのだろう? 幸運は最大限利用しろ。『魔物に襲われた』というシナリオがもっとも理想的だ」


 結奈は唇を噛んだ。ジョーカーの言うとおりだ。リトンの立場からすれば、兵士の目を盗んで逃げてきたのと、魔物に襲われて逃げてきたのとでは、ぜんぜん意味が違う。

 少なくとも男たちに他殺の痕跡があれば、村に帰ったリトンが尋問にかけられる未来は容易に想像できた。魔物に食われたのなら、その痕跡も隠蔽できるだろう。


「だったら、生きたままじゃなくても!」


「情報をくれた見返りだからなぁ。俺はあいつを殺せない。いやぁ、まったくもって残念だ」


 ジョーカーがふざけたような口調で言う。そうだった。こいつは残虐な殺人鬼。慈悲の気持ちなど最初から持ち合わせてはいない。


「ぎゃぁああああああああああああああああッ!」


 一際甲高い声に、結奈は後ろを振り返った。足を折られた男が、岩亀に捕食されているところだった。

 もう一匹の岩亀は、ジョーカーの想定どおり、死体のほうを捕食していた。幼い子供たちの遺体も、岩亀に無残に食い散らかされている。


「よし、完璧」


 ジョーカーが嬉しそうに言う。結奈は自分の中で何かが崩れていくのを感じた。

お読みくださりありがとうございます。


楽しんでいただけましたら、ブックマークと、下にスクロールして☆を押していただけるとすごく嬉しいです。どうぞよろしくお願いします!


<次回>

次はリトンの村へ。ジョーカーが息を吐くみたいに嘘を吐きます。

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