役目を果たした"思い出"
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「さあ…目を閉じて、貴方の夢を思い浮かべて。
その集中力と、イメージ力を糧にして…私の力を貴方に授けるわ。」
「こうか…?」
ルピカさんに言われる通り、目を閉じ…これから俺が行っていくであろう旅路を思い浮かべる。
町の中を歩く姿…見知らぬ土地を彼女と歩く時間を。
そして…その道の先に、何があるのか…俺と彼女は見なければならない。
俺は親父の果たせなかった旅の続きを、そしてフィオラは果たせなかった母の夢の続きを…今から追いかけるのだ。
「いいよ…そのまま集中して…。」
ルピカさんは優しくそう言うと…両手を俺にかざし…何か唱え始める。
目を閉じ、写るのは暗闇…その瞼の裏にまで感じるその『青く暖かい光』が、ルピカさんの両手から俺に渡ってきているのが分かった。
不思議な感覚だ…浮いているのに歩いてる。
それに泳いでいるのに飛んでいる…?
矛盾した感覚が俺の中に巡り…それが暖かい力の流脈となって俺に宿っていく。
そんな感覚に襲われ、俺は不安を口にすると…側にいたアリストロメリアが、それを拭ってくれた。
「…まるで、俺が俺で無くなるようだ…。」
「安心するのじゃ…今のお主は変わらない。
変わるのは背負うものだけ、変わるかどうかは…お主の今後で決まる。
力を持つと言うことは…己を見据える覚悟を知ると言うことじゃ。」
その言葉に、彼女なりの励ましがあったのだろうか。
少し厳しいような言い方ではあるが…寧ろそれが俺にとっては更に前を見つめる事が出来る言葉となった。
自分自身が変わるかどうかは…自分次第。
俺が俺でなくなると思えば…それまでなのだ。
「ルピカさん…続き頼みます。」
活を入れられた所で…そのまま集中力を切らすことなく、俺はルピカさんの力をこの身に宿した。
※※※
どれだけ時間がたったのだろうか。
俺はいつの間にかふと気が付くと、全てが終わっていた。
ルピカさんとアリストロメリアは二人並んで俺の顔を見ながら、クスクスと笑っていた。
いつの間に終わったのだろうか…と考えていると、彼女達が話しかけてきた。
「あ、あれ?」
「お主、ずっと目を瞑って集中していたせいで、終わった事に気が付かなかったんじゃの。
とっくに終わっておるぞ…さあ、こっちへ来るのじゃ。」
「それだけ…夢を見続ける事が出来るなら…もう安心だね。」
「???」
取り敢えず、目の前で立つ彼女達の元へと歩く。
すると…何か違和感があるのを感じた。
一歩踏み出す度に、身体がふわふわして…どうもふらついてしまうのだ。
バランスを崩し、地面に倒れそうになるところを、アリストロメリアが受け止めてくれた。
身体が痛いわけでもない…だが、力が抜けていくような…いや、入っていく様な…?
「おっとと…まだお主の身体は『能力』に繋がりきっていないようじゃな。」
「能力?」
「ルピカから受け取った力じゃよ。
まあ…使い方はその内『思い出す』よ。」
「は、はあ…?」
取り敢えず彼女達に連れられ、真っ白な椅子に座ると…少しは身体が楽になった。
ルピカさんが手を差し伸べ…俺の手を握る。
暖かい…幻影とは思えない。
と、そこでルピカさんは…俺の握った手の指…薬指に、あるものを付けた。
見覚えがある小さなリング…それを俺の手に付けたのだ。
「これ…あれ? これってアリストロメリアが付けてる指輪と同じやつか?」
「そう…それは師匠であるアリストロメリアから受け取った私の指輪。
それを付けていれば、"力"を行使しても、代償に襲われることは無くなるわ。」
「代償…と言うと?」
「そうね…例えば"共鳴"。
貴方は最近立て続けに生身で"賢者の業技"を使い…代償に頭痛や疲労に襲われなかったかしら?
生身でそれで済んでいるのがまずスゴいことなのだけれど…まあ貴方ならそれも納得できるわね。」
どうも代償と言うのは、どうやら共鳴や賢者の花の力を使った時の疲労や脱力感等…身体に来す症状の事らしい。
まあ…あれほどの力だとしたら、それぐらい無くちゃおかしいか…成る程、原因不明の頭痛もそのせいか。
そしてルピカさんに貰った指輪を付けた途端…さっきまで脱力していた俺の身体は、みるみる力を取り戻していった。
さっきの力の受け継ぎもその力の一種で…どうやらこの指輪は『賢者に関係する力』の障害緩和に役立つみたいだ。
アリストロメリアが言っていた通り、きっと俺はこれから何らかの"力"を使っていくのであろう。
だとしたら…この指輪はかなりありがたいものであった。
「ありがとうルピカさん…お陰で身体が…!?」
そう彼女に目を向けた途端…俺は言葉を失った。
目の前に居るのは…身体が消えていくルピカさんの姿だった。
「ん? ああこれね、仕方ないわ。
だって役目を果たしてしまったし…身体を維持する力も…もう残ってないわ。」
ルピカさんにお礼を言おうと彼女の身体を見ると…みるみるその姿が透明になっていくのが分かり、俺は焦った。
役目を果たし、この場所に居ることが難しくなったのだと、彼女は言った。
周りのバラも、真っ白な壁も…良く見るとどんどん崩れていくのが分かった。
ここが無くなるのも時間の問題なのかもしれない。
「ルピカさん…。」
「竜之介くん…いいの。
これが定め…死んだ人がずっと居ちゃいけないのよ。
ここはもう無くなるわ…私の力が無くなったから…さあ行きなさい。」
「でも! まだルピカさんと話したいことが…。」
「…竜之介、ここはもうダメじゃ。
ルピカもそう言っとる…行くぞ。」
「ま、待てって!」
アリストロメリアは、既にここから脱出する準備を進めていた。
きっと、彼女はこれが終われば…ルピカさん諸ともここが無くなることを知っていたのだろう。
それを承知で、弟子の最後を見届けた…と言うことか。
そう思った俺は、アリストロメリアに向け…ある事を提案した。
それは彼女も…しなければならない。けじめを付けなければならない事だと思ったから。
「竜之介! 急がないと帰れなく…。」
「アリストロメリア…待ってくれ、まだ言うことがあるんじゃないのか?」
「なんじゃと…?」
「あんたの弟子が…消える前に言うことがあるんじゃないのか? あんたも…一応師匠なんだろ?」
「それはそうじゃが……。」
言葉を濁すアリストロメリア。
きっと…彼女は何処かでルピカさんに思う節があるのだろう。
彼女がどれだけ生きていようと人間。
彼女が強がっている事など…お見通しなのだった。
「アリストロメリア…確かに"本物の最後"が見れなかったのが悔しいのが分かるさ。
だけどさ…な?」
「…! お主…分かっておったのか。」
「ルピカさんが死んだときの話を聞いているとき…表情が曇ってたよな。
アリストロメリア…だからさ…
せめて…"思い出の彼女"だけでも…見届けてあげようぜ。」




