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少女の運命か世界の運命か

 真っ白な空間、そこに香る白いバラの甘い匂いに包まれながら…目の前に居る二人から宣告を受ける。

 真剣な表情で俺を見つめる二人の口から発せられた俺への頼み事と言うのは、何だか現実味の無い物であった。


「竜之介…お主には『賢者の審判者』としての力を受け継いで欲しいのじゃ。」


「…実は私が死んでしまった時から…誰かを代わりにしなくてはならなかったの。

 でも…それに相応(ふさわ)しい人間が中々現れなかった…もうこの幻影(ファントム)も限界なの、だから…貴方にしか頼めないわ、竜之介くん。」


 そう言うと…目の前の師弟は、俺に向かって頭を下げた。何の変哲も無いただの少年に、原初の魔女…そしてその弟子ともあろう人達が、頭を下げているのである。


 それがどれだけ重要で、どれだけ重いことなのか…自称天才と言う下らない肩書きを乗せた俺でも分かるほどの危機感を感じ取っていた。


 取り敢えず俺は彼女達の頭を上げさせた。

そんなに易々(やすやす)と他人に頭を下げるものではないし、そもそも俺がそんな人達に頼りにされることすら寧ろ誇らしい事だと思った。


 見ての通り、ただ少し技術や経験があって、少しだけ頭が切れると言うだけの俺に…何を託そうと言うのか、それを聞き届ける必要が俺にはあった。

 彼女達の意思はひしひしと感じる…俺はそのまま話を続けるように促した。


 そう言うと、頭を上げたアリストロメリアは俺の肩を優しく掴み…これまでの何とも言えない威厳や威圧感等感じさせない微笑みを見せた。

 案外…その表情にドキッとしてしまう俺だった。


「さあ、話を続けるよ…いいかい?」


「ああ…何だか大層な話になりそうだけど…多分フィオラに関係することだろ?

 そうじゃなきゃ…"歴代錬金術師"の二人が"錬金術師の少女"の家に住み着いてる奴に、話なんかしないだろうしな。」


「まあ…半分正解じゃろう。

 まず、お主には『賢者』の話からしようか。

勿論…あの娘にも関係することだ、良く聞くんじゃぞ?」



 アリストロメリアと、ルピカさんの二人は…まず賢者とは何なのか、そしてそれを紡ぐための存在である『賢者の審判者』の存在についておさらいしてくれた。


 まず賢者とは…『錬金術師の中でも特に優れた術者』の事を表す。

 そして、賢者は世界にとって必要な物を作る事が出来る唯一の存在らしい。


 因みにアリストロメリアは原初の錬金術師なのだが…賢者ではない。

 賢者とは優れた者の中から『啓示(けいじ)を受けて』現れる()わば救世主…何だかファンタジーチックな話だが、事実らしい。


 実際に錬金術を広めたアリストロメリアは、その数年後に神? からの啓示を受け…彼女は『賢者の審判者』となった。

 その時代の賢者はもう居ないが…審判者の彼女はまだ生きている為、ルピカさん…つまり弟子に審判者としての資格を与えた。


 次の世代の賢者を生み出す為に…。


 アリストロメリアの世代の賢者は、世界に溢れる『魔法』を生み出したらしい。

 最初は俺の世界の様に、何の変哲もない世界だったらしいが…賢者のお陰で世界が変わったと言うことか。


「因みに聞くけどさ、この大陸って浮いてるんだろ? それは賢者様の力じゃないのか?」


「いや、この大陸が浮いているのは"神"の力だろう。

 我も神と言うものは…あまり信じたくは無いが、あの啓示…声が聞こえた上に、それにしたがったらこの世界の変わり様だ…たった400年で変わる変化とは思えん。

 謂わば賢者は…『神のお手伝い』見たいな立場なのじゃろうよ。」


「神に代わって世界を作る…って感じか。

そりゃあ…賢者が居なきゃダメだな。


 でもさ、何でアリストロメリアの時代に賢者が現れたんだ?

その今の世界に必要なものって…それが『魔法』だったのか?」


「そうじゃな…目立った文化も無く、自然の驚異に飲み込まれると言った村も増えておったな。

それが…魔女のせいだと騒ぎ出す輩も出て来て…。


 まあ、それはそれじゃ。恐らく、このままでは人が滅びると危惧した神様の計らいか何かじゃないかの?」


「あー…すまん、何かあまり思い出したくない事言わせちまったかな。」


「…若僧が歳上に謙遜(けんそん)するでないわ。

 時代は移り行く…今の時代の若者が、昔の哀れな生き残りにかける情けなどありはしないよ。」


 彼女はそう邪険に言っているが…彼女の記憶を見た俺だから言えることがある。


 例え何百年生きようと、その人がどれだけ偉大で…賢く聡明な人間だとしても…

 強がりと言うのは、誰しも同じ様に見えるものだと。


 するとルピカさんがそれに割って入り、再び大事な話を続ける。


「とにかく…賢者と言うのはそれだけ世界に及ぼす影響が強いと言うことなの。

どの本にも、歴史にも乗ることは無い…だけどそれが賢者の役目。

その賢者を支えるのが…"審判者"って訳なの。


 だけど…賢者の素質を持った人間を見つける所か…姿も分からない者達に殺されてしまった…。」


「姿も…と言うことは暗殺されたって事か…?

そうなると親父も…でも、何の目的で…?」


 錬金術師と言うのは確かに嫌われやすいタイプの人種だと広まっている傾向があったが…それと関係があるとは思えない。


 何か裏があるかもしれないが…それはまた調べることにしよう。


「で、ずばり言うと…その審判者を俺にしたいって事で良いんだよな…?

 しかもアリストロメリア、言ったよな? あの娘を…って。


 フィオラを賢者にする…そう言うことだよな?」


 俺がそう言うと…確かにそうだと言う顔を見せる一方で…何処か不思議そうに俺を見つめてきた。


 何だかじっと見つめてくるので、聞いてみた所…どうやら俺の言い方が気になったらしい。


「お主…もしかして、あの娘に…そんな役目は任せられないとでも言いたげな顔をしておるな?」


「なっ…そんな事は…。」


「…これから託されようとしている奴の顔では無いの。

 審判者となるのはつまり…何が何でも賢者を生み出さねばならない使命がある。


 お主は…その覚悟があるのか?」


 確かに、もしも賢者を生み出せなかったら…世界に影響を与えることなく済んでしまうだろう。

 今、俺が見てきたあの世界には…そんな驚異は無いように見えるが…こうやって重要な話を聞かされてまで頼まれていると言うことは、何か起こる前兆を教えている様な物だ。


 それを受けるのは簡単だ…だけど、それは俺であってフィオラじゃない。


 フィオラにこんな役目…俺は正直反対だった。


 アリストロメリアは、そんな俺の顔を見て…覚悟を決めろと言った。



 そう…彼女の言う覚悟と言うのは…俺にとって究極の選択。



 一人の少女の運命と世界の運命…どちらを選ぶかと言う選択肢の話だった。


 迫る表情で…アリストロメリアは俺の肩を強く握った。

 それがどう言うことか…分かっては居たが、俺にはまだそれを決めるには…早いと感じたのだった。


 彼女の手をほどくと…俺は彼女達二人に背を向け…落ち着くために壁際のバラの園へと歩きながら言った。



「少し…ほんの少しだけ、時間をくれないか。


 あの子と…フィオラともう一度話してから…そしたら決める、必ず。」


 そう言うと…アリストロメリア達は否定することなく…俺の意見を聞いてくれると言った。

 頼んでいるのはこっちだ…と、配慮してくれたらしい。


 だが…実際時間は限られている。

ルピカさんが消えてしまうのも時間の問題…。



 この問題は俺であって彼女ではない…彼女が賢者になるかどうかは実際俺やアリストロメリア達が決めることではないらしい…だけど、出来れば彼女に…と言う話だ。

 俺は別に何者になろうと構わない…だが、彼女はどうだろうか。


 彼女には彼女の夢がある…。



 だとしたら方法は一つしかない。


 フィオラに…正直に話すしか無いだろう。

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