二つの背中
ご閲覧ありがとうございます!
今回は続けて少しシリアスです…暗い話があるかもですのでご了承くださいませ。
唐突にとてつもない事に巻き込まれてしまったが、大分落ち着いてきた。
フィオラも大丈夫と言ってペンダントを握りしめている。
ミッシェルも混乱していたが、訳もわからなかったので諦めて楽観的に解決したようだ。
俺も半分理解できてないイメージだが…まあ巨鳥の言うとおり"共鳴"が起きてしまった…として簡易的に思考をまとめていた。
だが、その"共鳴"とやらが起きたお陰で見えたものもある…正に偶然の産物と言うべきだろう。
俺とフィオラ…二人の考えが正に"共鳴"して出来たイメージ…『種』だ。
元々俺が最初に考えていた物なのだが、彼女…フィオラのイメージが混ざる事で、更に明確な形なんかが想像できるようになっていた。
彼女も同様に、共通した考えを得ている…もう少し落ち着いたら、錬金術を開始する様だ。
そこで彼女から話があると、俺の側に来て座った。
どうやらさっきの光の事について、ふと思ったことがあるらしい。
「どうした?フィオラ。」
「リュウノスケさん…先程見えた幻影…間違いなくリュウノスケさんの記憶だと思うんですけど…その中に気になる人が居まして…その…。」
「ああ…もしかして、親父か?」
「…はい。」
そう、実は俺も気になっていた。
共鳴したと思われる俺達は一部の記憶を共有してしまっていたらしく、昔の記憶の一部を映像で見たのだ。
その時…彼女は、俺の小さい頃の親父の姿を…そして俺は、彼女が小さい頃に訪れた親父の姿をそれぞれ見ていたのだ。
それこそ過去を詮索するような真似になると思い、胸にしまっていたのだが…どうやら彼女は抑えきれなかったみたいだ。
「見たのか、親父の姿…。」
「はい、間違いなく…リュージローさんです…。
でも、私が知ってるリュージローさん…いえ、お義父さんとは様子が少し違うような気がするんです…。」
言葉を濁す彼女に、俺は直訳して話した。
「…冷たい…そう思ったろ?」
「いえ!そんな事は…。」
「良いんだ、親父はそう言う人さ。
冒険の話をするとき以外は全く笑わない人だったからな。
こっちも見てしまって悪いが…フィオラの方の親父は何だかイキイキしてたな。」
「リュウノスケさん…。」
彼女は不安なのか、少し烏滸がましく思ってしまったのか…はたまた俺の記憶を覗いた罪悪感からなのか分からないが、暗い顔を浮かべていた。
それを見た俺は、気にすることはないと慰め、深く考えることは辞めるように言った。
可愛い顔が台無しだ、彼女には笑顔が似合うからな。
彼女は親父のその違いにどうも違和感を拭い去れない様子だった…そこで、俺は俺の、親父への思いを話すことにした。
「実はな、親父が冷たいのは多分理由があるんだ。いや…正確には冷たくしていた…と言うべきか。」
「それは…どういう?」
俺は、出来るだけ安心するように微笑んで、親父の話を続けた。
「親父はな、理由は分からないけど…世間体に対して凄く反感を買ってたんだ。
…この世界にはそう言うものはないと思うけど…俺達の世界では、情報や人の価値観と言うものがどれだけ"器質"か…いや違うな、"上質"かを見る奴らばっかりなんだ。
それが俺の住んでいた世界…冷たい世界だよ。」
「上質…?」
「うーんとな、説明すると…胸くそ悪いかもしれないけど、相手の足元を見るんだ。
人の悪いところを取り上げて、自分はそれを蹴飛ばして上に上がろうとする…そんな感じだ。
そのシステムに乗らない奴は同様に蹴飛ばされるのさ…。
親父もその被害者さ、俺をどう思ってたかは分からねぇけどな。」
「そんな!お義父さんはそんな人じゃ…。」
「ああそうさ、そんな人じゃないのは分かってるよ。
でも、俺には何も言わなかった…それが現実なんだ。」
「………。」
少し、強く言いすぎたかもしれない。
彼女もそれ以上言葉を濁すことも、言うことも出来ず、ただ俺の目を見ることしかしなかった。
俺も、彼女にとっての親父がどんなものか理解しているつもりだし、今更妬むつもりも彼女に何か責め立てるようなつもりもない。
俺は、再び親父の話を続けた。
「きっと、親父がこの世界に来たのは…親父があの世界の末端を見てしまったから何だ。
あのままだと親父は…きっとただ無謀な人間になってた筈だ。
だけどさ、俺、こっちの親父を知って…実は嬉しいんだよ。
あんなイキイキして…こっちとは違うけど、それでもその背中はあの親父のまんまだった。
まあ、実際に見た訳じゃ無いんだけどさ?」
「私の記憶…ですか?」
「そう…フィオラの見た親父の話だ。
だから気にすることなんてないぞフィオラ。
こっちの親父は…きっと『偽物になってしまった親父』なんだ…世間と言う泥を被ってしまった…な。
フィオラの見た優しい親父が…きっとあの人の本質…器質でも上質でも無い、ただの一人の父親としての姿なんだよ。」
「リュウノスケさん…。」
「証拠に…ほら、これ見せてあげるよ。」
俺はそう言うと、下ろしたリュックの中から一冊の古びた本を取り出すと、それを手慣れたようにペラペラと捲る。
そして…ある一ページを開いた。
そこに書かれているのは、この世界の何処かを歩いていたと思われる…親父の手記。
彼女に見せたのは、あの親父の日記だった。
「これ…!お義父さんの…しかもここに書いてあるのは…私?」
「そうだ、確かに…ここにフィオラの名前が書いてあるだろ?
やっぱり…親父は優しい人だよ、フィオラが見たのは…仮の姿だよ。」
俺は、そこに書いてある手記の内容を朗読した。
『記録x日目。
大分こちらの生活にも慣れてきた。
ここへ来ると、不安や思いが吹き飛ぶ…いつも暇があるとここに来てしまう…参ったな。
また遅くならない内に帰ってあげないと…フィオラやルピカに怒られてしまうな。
目的の水や植物も手に入った…今夜は、二人も喜んでくれるだろう。待っててくれ二人とも…。』
このページにはそう書いてあった。
それを朗読したとき、隣にいたフィオラは笑顔を浮かべていた。そう、それでいいんだ。
この文章から感じ取れる雰囲気…間違いなく、彼女の知っている父親の姿そのものだ…ここにはそれが刻まれていた。
と、微笑みを浮かべていた彼女がふと、そのページの一部分を指差して言った。
「ここ…何だか霞んでいませんか?」
「ん?あっ、本当だな…霞んで読めねぇな…。」
良く見ると、下の方に霞んでしまって読めなくなっている一文があるではないか。
水を取ったと言っているし…溢してしまったのだろうか。
ふやけた後が残り、文字は読めなくなっていた。
「まあ大した事は書かれてないだろ…気にしなくてもいいよフィオラ。」
「そう…ですか?」
「取り敢えず、これでフィオラの思う心配は…無くなったよな。
何か、嫌なもの見せちゃったな…本当にごめんな。」
元々彼女を不安がらせてしまったのは俺の記憶のせいだ。
不可抗力とは言え、自分の哀れな思い出を植え付けてしまった事には変わらない筈だ。
そう考え、彼女にそう言った俺に対し、彼女は首を横に振った。
「いえ!リュウノスケさんが謝る事じゃありません!そもそも私が覗いてしまったのが原因で…。」
そう言う彼女に、俺も負けじと反省の面を述べる。
「いやいや!そもそも元を辿れば共鳴とやらを起こす前にくっそ堅物な表情で考え事してた俺が悪いし!フィオラは悪くねぇって!」
「いえいえ!その考えを遮るように私が手を伸ばしたからであって…。」
と、俺達は終わらない自分の非を遡り始めてしまった。
もうさっきまでの暗い雰囲気はなくなり、半分関係ない部分の話まで持ち出し始めて…もう無茶苦茶だ。
すると、それまで炬燵で丸まる猫のように傍観していたミッシェルが、そんな俺達を制止したのだった。
「もう!暗い話してたと思ったら急に二人して変な言い合いしないの!暗いの何て似合わないよ!このおちょば!」
「「すいません…。」」
ミッシェルに言われて目が覚めた俺達は、声を揃えて謝った。
確かに暗い話やら過去話やら…俺達には似合わないだろうからな…その通りだ。
まあでも…分かったこともあった。
親父はこっちで幸せになれてたって事だ、それだけでも分かって嬉しかった。
彼女から得た仮初めの記憶だとしても…それでも俺の知っている寂しい親父の背中は、しっかりと暖かみを帯びた親父の背中になっていたから。
「リュウノスケなに笑ってるの!怒ってるんだよ!?ぷんぷん!」
「はは、ああいやな…ちょっとお前の怒ってる姿が面白かっただけだよ。」
「もうー!本気で心配したんだからね!!」
「あはは!ミッシェルが怒るのは食べ物の事だけだと私てっきり…うふふ。」
「こらフィオラ!然り気無くバカにしてるでしょ!!」
三人で夜空の下、そよそよと吹く風の草原で、穏やかな黒い瞳を帯びた巨鳥に見守られながら笑いあっていた。
やはり何があっても暗くなるのは無しだ、折角こんな素晴らしい世界に来たんだ…笑ってなきゃ損だよな…親父。
ふと大きなあの背中を思い浮かべ、思い出を重ねる。
竜之介は…自分の知らない父親の姿を見れて、胸の奥で滞っていた何かが取れるような…そんな気持ちが込み上げていた。
そして、三人とも落ち着いた後お互い目を見て立ち上がった。
「さて!そろそろ最後の仕上げに取り掛かるか!準備はいいよな!フィオラ!ミッシェル!」
「はい!もういつでも錬成準備はオッケーです!」
「遅くなっちゃったけど、これで湖が戻るんだよね!最後の一押し間張ろう!」
こうして俺達は、最後の仕事…湖復元に向けての錬金術の準備に取り掛かったのであった。




