『魔物』となった理由
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シリアスな展開ですがご了承くださいませ!
俺は今ひたすらに好機を待っていた。
湖の周辺を徘徊し、飛び立つ…もしくは何処かに行こうと言う意思の見えないその巨鳥は、何かを必死に探している様にも見える。
自分のベルトに掛けた『SS10VF』…ショートバレルを取り付けたハンドガンを握りしめ、いざ見つかったときの為に備える。
出来れば使いたくは無いし、このポケットに入れたお菓子を投げ込みさえすれば良いのだが、もしも投げた場所がバレれば襲われる可能性もある。
俺は現実世界で、暇を持て余してはサバゲー仲間と集い、実戦形式で敵の目線誘導…または撃墜。
そして遮蔽物を利用しての回避、そして攻撃と言った高度な戦いを模擬戦闘ながらも経験してきては居る。こうして見つかってないのも、的確な遮蔽物や植物を利用して息を潜めているからである。
まさかそんな事が今役に立ってるとは思いもよらないが…生きてると何があるか本当に分からない物だ。
色々と思い出に思慮を巡らせながらも、少しずつ接近し、投げ込むチャンスを見極めていた。
すると、運良く巨鳥は俺の潜んでいる草原の方から目を逸らし、湖の遠くを見つめる様な動きを見せた。
今なら死角に移動できる…今しかないだろう。
ここから投げ込んで、投げた食料を選ぶか…はたまた俺を選ぶかを検証すれば早いと思うかも知れないが、実はそうは行かない。
巨鳥から数十メートルのこの距離で、もしも標的が俺になったら逃げ切れない、それに障害物を利用して接近して居るので、戻ろうにも逆にそれが逃げる際の障害物へとなりかねないからだ。
安全かつ的確に撒ける退路を確保するためにも、投げ込んだ食料と俺の距離を約200メートル…巨鳥からの距離を直線で220メートルは欲しいところだ。
生憎さっきオオブネダケで陸を滑り、逃走している間に、湖から草原の近くに掛けて、丁度いい退路は目視していた。
目を離している今がチャンスだ…直ぐにでも実行しよう。
「頼む…気付いてくれるなよ!」
「グルルル…。」
正面数十メートル…素早くかつ、慎重に、中腰の体勢で走る。
音を立てないように慎重に、退路がある方へと移動を開始する。
後少し、定位置まで着ければ後はミッシェルから貰った食料を投げ込むだけだ。
その定位置まで進んでいる時だった。
俺は巨鳥を観察していたために足元に落ちていたある植物に気が付かなかった。
それを…俺は無用心にも、踏んでしまったのだった。
ポーーーーーーーッ!
踏みつけられた植物は、まるで汽笛の様な不思議な音を出す。その音は目線を逸らしていた巨鳥を気付かせるには充分すぎる程の大きさであった。
「なっ!しまった!?これは…『キテキソウ』か!こんな場所に何故!」
「グルッ?」
「ぐっ…!」
落ちていたのは『キテキソウ』…そう、東の森でフィオラが発見した音が出る植物だ。
まさかこんな場所に落ちてる何て…いや、良く見ると生えてるのか?
何れにせよ、今俺は失敗を犯し、大ピンチだと言うことは目に見えて分かっている。
振り向いた巨鳥は、その黒い瞳で俺を見つめた。俺の位置は…逃げるにはそれより少し近く、確実に逃げ切れるとは限らなかった。
ヨダレを垂らしながら、不規則な呼吸で俺を見据えている巨鳥…止まっていても埒が空かないな。
「仕方ない…一か八か…!」
俺はおもむろにポケットに手を突っ込み、包装されたお菓子の袋ごと、その右手一杯にお菓子を掴む。
そしてそれを目の前の魔物へと投げた。
「それっ!」
宙を舞うお菓子は、バラバラに広がりながら拡散する。
実は直前茂みに隠れている時、封は切っておいた。
そのまま勢いと風で封が切られているお菓子たちは、その身を宙へと投げ出しながら、魔物の目を惹き付け…落下した。
目の前に落ちてきたお菓子を、さっきまで憂いと捉えるべきか…そんな顔をしていた魔物は、まるでやっと何かを見つけた…そんな感情を彷彿とさせる顔を見せた。
その黒く大きな瞳に、輝きが戻っていく…そんな風にも見えた。
「グルッポォーー!!」
「…やっぱり…か。」
懸念していた最悪の状況は…訪れなかった。
俺が投げ込んだお菓子を、無我夢中で口に運んでいる。器用にその大きな嘴で砕いたりして食べている。
目の前に散りばめられたお菓子を、ただ求める様に貪るその姿…やはりそうだったか。
俺はこの展開を期待していたが…どうやらある仮説は当たっていた様だった。
「お前…やっぱり『飢餓』に襲われていたんだな…。」
「グルッ?」
不思議そうに、俺の声に耳を傾けた。
その姿を良く見たところ、所処の体の部位が痩せ細っているのだ。
足も変色し、傷がついている。これはきっと『飢餓』によって栄養が足りず、体の治癒力が衰えている証拠…現実でも、栄養が足らない事で小さな傷が塞がらず、そこから菌等が侵入…病気や衰弱で死亡すると言った動物の事例も見たことがある。
更に体を観察すると、羽や肩の筋肉にも傷が見えた、道理で俺達が逃げるのを追いかけられない訳だ。
時速90キロ程度の早さなら、燕でも追いかけられるスピードだ、それが出来ないのはこれが原因だったんだな…。
俺はそのボロボロの姿に、撃墜だとか、攻撃だとか…はたまた逃走だとかそう言う考えはもう既に失っていた。
目の前で小さなお菓子に必死に食らい付くその傷付いた大きな体に思う感情は…ただ可哀想だと言うことしか無かったのだった。
魔物はグルルと声を上げ、俺を見た。
どうやら…目の前のお菓子が無くなっている事を言いたげらしい。
咄嗟に俺はポケットの中のお菓子を全て取り出すと、今度は投げることはせずに丁寧に封を切ると…魔物の目の前に、その巨体の前に歩き…それを置いた。
俺と目が合う。
その瞳に…目の前に居るこの人間に、危害を加えると言う意思は…全く感じられなかった。
「ここ、お前のテリトリーか何か何だろう?
それに…あの桟橋や人工物を壊したのもお前だな。
きっと人工物から出た有害物質が周辺の植物や動物に影響を与えて、それで食料を失ったお前が手当たり次第人間や動物を襲ってたんだよな…。」
「グルルッポー…グルルル…。」
俺の言葉に反応しているのか、お菓子を啄みながら声を上げる。
きっとこの魔物は人間を襲うような獰猛な存在では無いのかも知れない。
ただテリトリーを破壊され、食料を奪われたが為に怒っていた…と言うことも充分あり得る。
湖の方を改めて見ると、破壊された人工物の中には、コンクリートや油?と似た物も散らばっている。
多分…その油か何かが湖に流れ込んだのかも知れない。湖の岸辺に生えていた、アルカリ性変色を発生させていた植物はきっとこのせいかもしれない。
薄々勘づいては居た、破壊されたのは桟橋や大まかな人工物…看板や小さな物は壊されていなかった。
怒りをぶつけ、テリトリーを侵食する異物を壊していたに過ぎなかったのだろう……どの世界でも人間と言うのは自然を我が物にしようとして、無闇に破壊し放置する傾向がある…それは変わらないんだな。
「グルルル…。」
「お、食べたか?ごめんな…もう持ってないんだ。」
俺が謝ると、また声とも言えない声を上げ、俺に顔を近付けてきた。
その鋭利な嘴を差し出すように…少し怖いが、どうやら俺にもう敵意は抱いていない様子だった。
寧ろ食料を分けてくれた事に感謝しているのだろうか、目を閉じ、ゴロゴロと喉を鳴らしている。まるで猫と鳥が合体したかの様な印象だった。
「おー、よしよし…ごめんな、誰とも分からないけど、きっと人間が無闇に湖を弄ったせいで怒ってたんだよな…ごめんな。」
「ゴロロ…グルルル…。」
悲しそうな顔をして、その傷だらけの嘴を俺に向けていた。
と、そこで俺は肝心な事を思い出した。
こいつは危害が無いことが分かったし、フィオラ達にも伝えないと行けない。
それに、本当の目的は"魔物を静める"事では無くて、"グジラボールの採取"である。
良く見ると、日も傾き始めている事に気づいた。
時刻で言うと…夕方5時くらいだろうか。とにかく急がないと行けないな…野宿をするわけには行かないし。
俺はそっと嘴に触れると、優しく魔物に俺達のやるべき事を伝えた。
「ごめんな、少しだけ湖を見せてもらっても良いか?
日を改めて湖の水質改善何かは俺が何とかしてやるから…お前の食料問題も見過ごせないしな…良いか?」
俺の言葉が到底伝わる訳もない…けど、そう言わずには居られなかった。
例え伝わらなくても、目の前で純粋な目をした生物に、無断でテリトリーを歩くこと等…俺には出来なかった。
俺がそう言った時、魔物は向けていた嘴を上げ、疲れきったかの様な足取りでドスドスと歩き、近くの木陰にその足を羽を下ろした。
まるで…俺の言ったことを理解し、許してくれた様にも感じた。
その様子を見た俺は頷き、彼女達を呼びに行くことにした。
「ありがとう、必ずお前は俺が元の生き方に戻れるようにしてやるからな…。
さて、フィオラ達にこの事を伝えないと。」
彼女達が待っているあの『ハウスビーンズ』の空洞へと戻ることにした。
走りながら振り向くと、巨大な黒い瞳で俺を見つめる姿があった。
もうその姿は…"魔物"等と言うおぞましい姿では無かったのだった。




