東の湖、湖面に浮かぶ花
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暫くは湖のお話ですね…。
「うぉ…でけぇなこの湖…。」
「でしょー?魔物が出る前は観光地になってたりしてた筈なんだけど…今は誰も寄り付かないんだー、こんなに綺麗なのにー。」
まるで大きな水溜まりだ、窪みになった丘に丸ごと水を張ったような変わった地形の湖。
元々観光スポットらしく、所々看板や桟橋等が掛けられ、確かに人の手が加えられ、観光すると言う名目では非常に便利だろう。
しかし、それがこの周辺に済む生物の怒りを買ってしまったのではないか?
そう考えると魔物とやらの急な出現も粗方納得が行くが…実際はどうなんだろうな。
「さて!ちゃっちゃと終わらせるか!
見た感じ魔物みたいなのは居ないと見た。」
「そうですね…リュウノスケさん、手分けして探しましょう!」
「ああ、ミッシェルも頼む。」
「任せといてよ!
あ、そうだ!さっき言ってた"ミッシェルの花"は私と同じエメラルド色のお花だからすぐ分かると思うよ!」
「ああ、積極的に探してみるぜ。」
俺達三人は手分けをしながら湖の散策を始めた。
所々ぬかるんでいる場所があるようで、足元に気を付けながら、まずはミッシェルの花を探すことにした。
その花が咲いていれば、必ず近くに"グジラボール"がある筈だ。
良く見ると、水辺の周辺に紫色に変色した植物等が見える。
更に近づいて調査してみた所、どうやらアルカリ性の土壌汚染…野菜の葉っぱが変色する事象と良く似た現象が起きている。
しかし、俺の近くの水辺だけ変色し、遠くの場所や水面から伸びる変わった植物達にはそれが見られない。
何か原因があるのだろうか?
気になった俺は変色した葉を追っていくと、壊れた桟橋のある場所にたどり着いた。
そこには食い荒らされ、無惨な姿を晒した小動物や、何とも分からない果実の散乱した光景が広がっていた。
「何だこれ…酷いな…。」
どうやら、ここらで食い荒らされた果実のエキスや動物の血が、水流に乗って岸辺に固着しているせいで、近辺の植物に影響を与えて及ぼしている様だった。
それに…この動物の食べられ方…まるで鋭いクチバシの様な物で抉られている。
綺麗に内臓だけ食べているのか?気色が悪いな…。
と、そこで反対側から甲高い声が聞こえてきた。どうやら誰か俺を呼んでいる様だ。
「リュウノスケ!こっち来てー!」
「リュウノスケさん!見てください!」
俺を呼ぶ声はミッシェルとフィオラだった。
何やら見付けたらしく、俺を探していた様子だった。
取り敢えずはこの無惨な現状をどうにも出来ないので、動物の亡骸に祈祷しつつ、その場を後にした。
※※※
「どうした?何かあったのか?」
「あれよあれ!ほら!湖の真ん中!」
合流した俺は、直ぐ様ミッシェルが促す湖の中央…その水面に目を向けた。
するとどうだろうか、水面に浮かぶようにエメラルド色の花々が、太陽の光で反射し、光沢を得ながら輝いている。あれがどうやら"ミッシェルの花"の様だ。
その輝きは花とは思えず、どちらかと言うと宝石に似た輝きだった。
どうにも気になるので、少しカテゴリーについて聞いてみた。
「なあミッシェル、あれがミッシェルの花だよな?あの光り方がどうも宝石や鉱石の反射光にしか見えないんだが…もしかしてカテゴリー付きか?」
「そうだよ!『ミッシェル』はカテゴリー【鉱石】【植物】を持つんだ!
でも…"自然生成物"だから、カテゴリー【エリクシール】は付かないんだよ!面白いでしょ?」
「何?自然で出来た特殊物だと【エリクシール】じゃないのか?」
「そうなの!基本的に【エリクシール】の定義としては『矛盾物』として扱うんだけど、人工的、生物循環式、そして神話物…この3つのジャンルだけ【エリクシール】として認められてるんだ!
因みに今回の"グジラボール"は『生物循環式』の【エリクシール】何だよ?」
「何か難しい話だな…でもある程度は理解した、覚えておくか…。フィオラはこの事は知ってたのか?」
「勿論です!そうじゃなきゃ錬金術なんて出来ませんからね。」
「それもそうか、難しい事やってるんだなぁ…。」
全く、この世界は知識については飽きることは無いな。
カテゴリーの事も単なる種類の例えだと思っていたのだが…どうやら奥が深そうだ。
と、そこで感慨深く植物鑑賞に浸っているのを辞め、目的の物を探すことを再開した。
ミッシェルの花があるって事は…近くに"グジラボール"があると言う事だ。
しかし、あの花が咲いているのは湖の中心…先程見つけた桟橋も壊され使い物にならなかったからな…どうやってあそこまで行こうか。
ほとほと困りながら考え事をしていると、どうやらフィオラも同じ事を考えていた様で、ふと面白い提案をしてきた。
「あの場所まで行くには水面を移動する物が必要ですよね…そうだ!今から錬金術でパパっと作っちゃいましょう!」
「はぁ!?そんなに簡単に言ってるけど…何を作るんだ?」
「まあまあ!見ててください!実は先程東の森で取った植物に面白い物を見つけたんですよ!」
フィオラがそう言うと、ベルトポーチから取り出したのは一つのキノコ…何やら上に細く延び、螺旋状に線が入っている。
それを自慢気に取り出すと、静かに湖の水面に浮かべた…すると、何とそのキノコの傘の部分が開き、まるで小さな笹舟…いや、キノコ舟の形に変わったのだった。
「うぉっ!?面白いなこれ!」
「これは『コブネダケ』って言って、ミッシェルの花と同じカテゴリー【鉱物】【植物】を持つキノコの何ですよ?」
「名前そのまんまじゃねぇか…でも、これをどうするんだ?
まさか船の代わりにするとか…いくらなんでも小さくないか?」
流石に小舟の形をしているとは言え、あまりにも小さすぎる。精々手の平サイズと言える。
多分これを使うのは目に見えてるのだが…錬金術で何をする気だ?
「ふふ、錬金術はイメージさえ出来れば素材と手順だけで何でも出来るんですよ?
例えば……このコブネダケを大きくしちゃう…とか!」
「まさか!マジで乗るのか!?大きくするって…素材は何を使うんだ?」
「大丈夫です!これですよ!」
フィオラが取り出したのは小さな小瓶…これは見たことがある。
確かフィオラの家で鼠花の種に振りかけた液体の…『育成促進液』だったか?
フィオラはその小瓶と先程のコブネダケを、取り出した小さな錬金箱に入れた。
青いラインが再び浮き上がり、錬金術の準備が完了したことを箱が知らせる。
そして彼女が箱を置いて手をかざし…錬金術を始めた。
「おおー!久しぶりに見るなぁ錬金術ー!私も昔は良く色んな物作って貰ってたなぁー!」
「何を作って貰ってたんだ?」
「うーんと…お肉味の野菜とか、ハーブのクッキー…とか?」
「へぇ…錬金術で料理も作れる…って食べ物ばっかりじゃねぇか!自分で作れよ!」
「ちょっと静かにしてくださいー!集中が乱れちゃいますー!」
「あっゴメンゴメン。」
目を瞑って手をかざす彼女は、イメージを固めているのか、眉間に力を入れ、険しい表情をしている。
錬金術は集中力を使うみたいだ、邪魔をするのは止しておこう。
青いラインが点滅を始めた。どうやら完成が近いようだ。
もう錬金術を見るのは三度目になるが、いつ見ても神秘的で不思議な物だ。この箱も…中ではどうなっているんだろうな。
ラインが光を発し始め、フィオラの手先からも青白い粒子が溢れ出す。
大きく箱から溢れる光を抑える様に、フィオラも必死で集中していた。
溢れ出す光は、次第に大きくなり…その光がピークに達したとき、その散りばめられた光を再び吸収するように、光が箱へと帰っていく。
「大地の力よ…ここに命の肥大を…それっ!!」
彼女がそう呟いて、更に両手に力を込めた。
浮遊する光は更に大きな輝きを放ちながら箱へと帰還する速度を早めた。
その光が全て収まったとき…彼女は手を降ろし、箱は青いラインの光を失いながら、カタカタと数回震え…止まった。
どうやら…無事に成功したみたいだ。
「出来ました!ふう…。」
「大丈夫か?疲れてないか?」
「平気です!さあ、見ててくださいよ…それっ!」
スタスタとフィオラが箱を持って湖の水面へと近づいていく。
彼女がおもむろに箱を逆さにして、湖の水面へと向けた。
するとどうだろうか、その箱から…何だか巨大な茶色い物がムニムニと徐々に出てくる。
その小さな箱には納まる筈の無い大きさのその物体が次第に姿を表し…最後にはポンッ!と勢い良く水面へと飛び出した。
その勢いであわわ…と倒れそうになるフィオラをミッシェルと支えながら抑えると、目の前に現れたその物体に、目を丸くしていた。
「おおー!?マジででかくなってる!!」
「ふふふ…名付けて…『オオブネダケ』です!!」
「またそのまんまじゃねぇか!」
「わー!見てみてー!私が乗っても全然平気だよ!」
ミッシェルがはしゃぎながらキャッキャッとその作り出した『オオブネダケ』に乗り込んだ。
大船…と言うには些か小さいかも知れないが、俺達には充分その大きさが"大船"に見えたのだった。
俺とフィオラも乗ってみるが、どうやら耐久面も問題ないらしい。カテゴリー【鉱物】のお陰だろうか、固さは充分だ。
それに浮力や推進力も申し分ない…錬金術はその物本来の力をそのまま大きくすることも出来るのか。
フィオラは意気揚々と船の先頭に乗り込むと、笑顔で俺達に掛け声を掛けたのだった。
「では!行きましょう!おー!」
「おー!」
「全く…元気な女の子達だよほんとに。」
やれやれと思いつつ、その先にある花の群生場所を目指す。
フィオラが船を魔法で動かしてくれている為、比較的穏やかに接近できた。
後は…目的の"グジラボール"とやらを探すだけだが…ちゃんとあるのだろうか?




