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若き料理長

 目の前に出されたのは黄金色の果実の盛り合わせ、米と思われる物をクリームリゾット風に仕上げられた料理、そして豪快に焼かれたチキン…とても美味しそうだ。


 ミッシェルに注文を聞かれた際にオススメを、と頼んだのだが…中々どうして美味しそうな物ばかりだ。


 食欲をそそる辛味と焼製された肉の香りに、果実の自然の旨味を感じさせる(ほの)かなハーブの香り。

 それにリゾットは丁寧に盛り付けられ、キラキラと輝いている。


 そうだな…現代人で言うと、SNS映えする…と言ったところかな。

 下手をするとこんなに美味しそうな物は初めて見たかも知れないな。


「すげぇな…どれも料理が輝いて見える…丁寧な調理に厳選された食材…素人目でも分かるほど素材の旨味が、香りや強味を引き出しているのが分かる…。」


「ふっふーん♪そうでしょ?ウチの料理長凄いんだから!

 ここで良く働いてるけど、あの料理長が多分この大陸一の腕を持ってると思うよ!」


「へぇー…でもそう言われても納得しちまうな、それほどに旨そうだ。」


「旨そう…じゃなくて、食べて見てよ!美味しいよ!さあさあ!」


 お盆を手に、自信満々笑顔でミッシェルは俺達に食事を勧めた。

 言わずもがな、この豪華な食事を前に俺も腹の虫が鳴いてしまっているので、遠慮なく頂くとしよう。


 フィオラも涎を垂らしかけながら目をキラキラさせている。

 これ以上我慢させるのもあれなので、三人目を合わせて、食事を楽しんだ。


「よし!頂くか!」


「はいリュウノスケさん。

 お嬢様、もう食べても大丈夫ですよ。」


「やったー!頂きまーす!…うんうん…美味しーです!」


「幸せそうに食べるなぁ…さてリベルさん、俺達も頂こうか。」


「はい、それでは頂きますね。」


 豪快に、そして遠慮なく料理を口に運ぶ。

 芳醇な肉の香りと、優しい果実の味が広がって、幸せな気分だ…食事の何と素晴らしいことか。


 無垢な子供の様に食事を楽しむフィオラと、慎ましく綺麗に食事するリベルさんを横目に、俺は一時の幸せをその口に噛み締めていたのだった。




※※※


「いやー!食った食った!どれもすげー旨かったぞ!」


「ふふ、喜んでくれて何よりだよリュウノスケ!」


 食事を終えた俺達は、その余韻に浸りながらテーブルで食後のティーを楽しんでいた。

 ミッシェルもお客が落ち着いてきたので、何処からか持ってきた椅子を、背面を此方(こちら)に向け、股がるようにして座ってニコニコしていた。


 ミッシェルと話している内に、その内容はこの店の料理長の話に変わった。

 どうやら、相当ミッシェルもお気に入りで、それにかなり有名な人物らしい。

 一度会ってみたいところだな。


「なあなあミッシェル、ダメ元で聞くんだけどさ、その料理長って会えないのか?ちょっと見るだけでも良いんだけどさ。」


「えっ?料理長?多分会えるよ?」


「ちょっ、そんなあっさり!?マジか!食事の礼もしたいし一言掛けたいんだけど…ミッシェルも絶賛してるし。」


「あ!私もですリュウノスケさん!ミッシェル…そのお方を呼んで貰っても宜しいですか?」


「オッケー!じゃあ呼んでくるね!」


 そう言うと、あっさり承諾したミッシェルは、キッチン目掛けて走っていった。

 すると、キッチンの奥の方から笑い声が聞こえ、暫くするとミッシェルが一人の人物を連れてきた。


 姿は腰に白いエプロンと丸い帽子を被り、マフラーの様な物を腕に巻き、白い調理用の服。

 見るからにコックと言わんばかりだ、どの世界でもこう言うのは共通している物なんだな。


 と、考えていると、ミッシェルに連れられた料理長は帽子を取り深々と礼をした。

 釣られて椅子から立った俺も丁寧に礼をする。


「ミッシェルの御友人方、ようこそいらっしゃいました。

 憩いの場(ニセルウィークト)へお越し頂きありがとうございます。」


 その声は何処と無く高めで、髪も長髪の黒。

 目は青色で、男性なのだろうけど…何だか中性的なイメージを帯びた人物だった。

 年齢も俺と差ほど変わらない様だ、若いのに料理長とは恐れ入る。


「どうもどうも、俺は竜之介。

 こっちはフィオラとリベルさんです。いやー…料理が旨くてつい呼んでしまったけど大丈夫ですかい?」


「リュウノスケさんですか…変わったお名前ですね。

 僕を呼ぶに至ってはそんなに気を持つ必要など御座いませんよ、(むし)ろ…お客様に声を掛けていただけるのは至極幸いですよ。」


「そりゃよかった、嫌だったら悪かったなーっと思ってたし、ミッシェルも適当だったからな、心配して損したみたいだな。」


「ちょっとリュウノスケそれどういう事よー!私が適当な女見たいじゃない!」


「ミッシェル…自覚無いのですか…。」


「えっ料理長、地味に傷付くんだけどそれ…。」


 まあまあと割愛を入れつつ、フィオラも料理長にお礼を言った。

 と、そこで料理長は自己紹介も兼ねて話を続けてくれた。


「僕はメテロン・ビターブレッド。ここニセルウィークトの料理長をしています、どうぞ宜しく。

 僕の料理が口に合ったのなら嬉しいですね。」


「おうよ!あんな料理作れるのは食材に愛が無いと出来ないだろうな!いやー…凄いわうん、メテロンさん良い仕事してるよ。」


「"さん"付けは止してくださいよ、僕とリュウノスケさんはほぼ同じお歳だと思いますし。」


「ん?そうか?まあそれならメテロンと呼ばせてもらうか…あ、俺はどう呼んで貰っても構わないぜ。

 それにしても…メテロンどうやってさっきの料理の味付けしてるんだ?仕事が丁寧で真似できないぜ?」


 と、聞くと…メテロンが何だかソワソワし始めた。

 よっぽど嬉しいのだろうか?


 リベルさんやフィオラも気になったのか、俺と同じ意見みたいで、メテロンに言った。


「確かに…私の様な素人ではこの深い味付けをするのはきっと不可能でしょう。

 味見や食材の厳選などを行って要るんでしょうね…。」


「私もそう思ってました!リュウノスケさんやリベルさんと同じ意見です!

 色んな物を食べたりして味を磨いたんだなーって想像してました!だって…料理長ですものね、きっと途方もない苦労が…。」


 と、そこまで言った所で、ミッシェルがストップ!と何故か止めに入った。

 べた褒めしているのに何故止めるか小娘ぇ!と冗談半分に言うが…どうやら理由があるらしくメテロンもモジモジしている。


 すると、メテロンが恥ずかしそうにしながら口を開いた。


「実は…皆さんの思うほど苦労はしてないと言いますか…何と言いますか…。


 僕…猫舌で偏食家で、生物(なまもの)…食べられないんです。」



 その言葉にみんなぽけーっとしながら目を点にしていた。

 瞬きも多目にしながら少し沈黙すると、俺とフィオラは思わず声を合わせて叫んでいたのだった。


「料理長なのに偏食家なんかい!!」


「料理長なのに猫舌なのですか!?」


「恐悦至極です…何で料理長やってるんでしょう…。」


「「知るかッッ!!」」


 強めに言っているが、勿論冗談である。

…フィオラも俺のノリに乗るようになってきたな。


 どうやら話を聞くと、そう言う体質の様で、色々苦労があったらしい。

 猫舌だから味見出来ず、食材は食べられないので直感料理等々、極めるのに時間がかかった様子…何故料理をしようと思ったのかこれが分からない。

 だが…それでもここまで来たのは素晴らしいことだ、それは素直に認めていた。


「色々苦労があったんだな…。」


「はい…どうしても料理がしたくて、気付けば料理長に。」


「まあ、それだけ努力すればこれだけ旨い飯も作れるよな、見習わないと行けないぜ…。」


「一つだけ、料理してみたい食材がありまして…それを調理するのにこれだけ腕をあげる必要があったんです。」


「食材?もしかして貴重なのか?」


「はい…中々手に入らなくて…取りに行きたいのですがここを離れるのはちょっと…ミッシェルに任せるのも難しいですし。」


「私だって料理位できるし!…多分。」


「いや、こぇぇよ。」


 どうやら相当の思い入れがあるみたいだ…。

 料理したい食材か…何処にあるのかは分からないが、飯を食わせてもらった恩もあるしな…。

 よし、決めたぜ。



「なあメテロン、その食材…出来れば俺達に任せてくれないか?」

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