第89話 戒
階段を上りきったところには長官とカイクがいた。
「賓度羅跋羅惰者総裁、バネッサ。我々と交渉しないか?」
「国王暗殺で処刑ではなくてか?」
バネッサがカイクの顔を見るとカイクは頷く。
するとバネッサも静かに頷いた。
「おばちゃん・・・。」
バネッサは眉間に皺を寄せ首をかしげた。
「おばちゃん?」
「あ・・・お母さん。」
するとバネッサはハルの頬に口付けて、長官、メンターとともに歩いていった。
「なんか五人って久しぶりだね。何か顔笑っちゃう!」
「おう、そうだな!皆で飯食いに行こうぜ!」
「君はそれしかいえないんですか?」
「言えないんだろう。」
「そこの年上コンビ!超むかつく!」
「ねえ、トウヤは何が食べたい?」
「ハルの食べたいものなら何でもいいよ。でもその前に手当てが先だよ。」
「うん。トウヤすごく手当てうまいね。」
昔のように茶色と青の目が並んでいた。
「そこ二人でかたまんな!俺、一人かよ!」
けれどそんなルカも笑った。
何故か頬がほころんで仕方なかった。
「そこの『戒』!」
呼ばれて五人は振り向いた。
「あら?全員、戒?」
ルイはそう言って笑った。その手はしっかりコウと繋がれていた。
「ルイさん!ご無事だったんですね。」
「馬鹿にしないで?これでも中堅よ。さよならを言いに来たの・・・私たち王都を出るわ。」
「え?」
「王都を出て、コウと幸せになりたいの。うんん、絶対なってみせるわ。それが私の『意志』よ!だってもうコウを愛するだけでいいんだもの。体を差し出すのが仕事だった、片思いが楽だった時とも、もうさよならよ。」
「ああ、愛する人ひとり守れない、あんな惨めな生活は終わらせる。もし追われても守りきってみせるよ。」
「ルイさん・・・コウさん・・・。なんか私も嬉しいです。」
ルイは微笑むとハルを抱きしめた。
「ありがとう。戒のおじょうちゃん。」
「ハルですよ。ルイさん。」
「そう。あなたにはそんな可愛い名前があったのね。私たちにもし子供が生まれたら、一人は・・・あいつの名前をつけて、もう一人はあなたの名前にしようかしら。」
ルイはハルを撫でて離れた。
その背中をコウが支え二人は街の中へと消えていった。
ハルは振り返ると笑いをかみ殺した。
「二人ともいい顔してたね。二人とも嬉しいんだろうなあ。って、私もすごく嬉しい。」
ハルは満面の笑顔で四人を見た。
ソウマとシギは前を向いていて表情は見えなかったが、トウヤとルカと同じように微笑んでいる気がした。
ハルは微笑んだまま昔のようにトウヤの隣を歩いた。




