第66話 一人の戦い
ローズクォーツの玉があたりに散らばった。
爆発でもするのかと玉に一度目を移した棍棒の暗部にすぐさまハルは弾を打ち込んで、その向こうで術を使おうとしていた男の頭にも迷わず打ち込んだ。
剣の暗部は今度はハルを貫こうと突きを繰り出した。
体を反転させ蹴りを出したがハルの蹴りでは威力もなく一歩下がらせただけだった。それで十分だった。
「!」
男の右胸を至近距離から撃った。
次に動いたのはハルの方が早かった。
けれどハルの体を電撃が襲った。
「ぐ・・・。」
その場に倒れこむ。
そこにもう一度電撃を食らわされ、筋肉が伝達を無視し、もう一歩も動けなかった。
左腕から流れ出る血が見えた。
(死にたくない・・・。絶対に!)
立とうと右腕を動かす。
ルカ、トウヤ、ソウマ、シギ、メンターにバネッサ。
皆の顔が浮かんでは消えた。
残りの暗部はハルを囲んだ。
けれど、その中でハルにはじめに攻撃を仕掛け、足に傷を受けた人間が倒れ動かなくなった。
「毒がしこんであったか・・・。まあいい。」
暗部の一人が吐き捨てる、そして頭の上に剣を振り上げた。
「ねえ、教えて・・・総裁はどうして私を?」
「お前が憎いそうだ。」
「訳わかんない・・・。」
ハルはそう呟くと最後の力で小刀を振り回した。
毒が仕込んであると思い込んだ暗部が退くとハルは玉を投げて笑った。
薬の玉は暗部の頭に当たるポンという小さな音と共にあたりに白い粉を飛ばした。
ハルは息を止め伏せた。
それでもいくらか毒粉を吸い込んだのか肺が燃えつくように熱くなった。
向こうで敵二人が血を吐いて倒れるのが見えた。
最後にたった一人残った暗部は風を読んで離れ避けたようだった。
ハルは最後に残った暗部に手榴弾を投げた。
爆発と共に毒粉は爆風で飛散した。
(痛い・・・。苦しい・・・。体が重い。)
ハルは右肩に痛烈な痛みを感じた。
刃がハルの肩を貫いていた。
最後の暗部は音もなく目の前に立っていた。
「ねえ。ハル・・・。」
大好きな人の声にハルは一瞬我を忘れた
「死んで。」
仮面の下を見る。
そこには青い目があった。
「嘘・・・。」
その時点で全ての戦意を喪失した。
話そうと口を開くと喉から溢れた血が零れ落ちた。
「何で?」
それも言葉にならなかった。
「ハルがあの女の娘じゃなかったら、あんたがトウヤをたぶらかしたりしなかったら、こんなことにはならなかったの。」
肩から抜けた剣が今度は足を貫いた。
「あんな王に夫を殺されて、あの憎い女に侮辱されて・・・カイクが連れてきた子が新しい家族になったのに・・・どうして!私の裏切られた気持ち分かる?娘だと思ってきた子がだんだん憎い女とそっくりになってくるの!」
ハルは剣先を掴み足を貫く剣を抜こうとした。
けれど、剣は更に力を込められ容赦なく肉を斬った。
「くっ・・・は・・・。」
「それでも良かったのよ。憎いけれど、私だけが我慢すればいいんだもの。でも今度はその子は私の大切な、あの人の残していった子供をあんな目に合わせた。あんなに深い傷を負って・・・。生死のふちを三ヶ月もさすらったのよ・・・。全てあの女のせいよ!」
足の剣が抜かれ女が構えた。
逆らう気は起こらなかった。
「ごめ・・・。」
血を吐き、泣きながら大好きな相手を見た。
相手の仮面の下から水滴が落ちた。
「おばちゃ・・・、ごめん。」
ずっとお互いの瞳を見合っていた。
(おばちゃんが・・・死ねって言った。・・・でも、でも、でも!死にたくない!五人でまた一緒に話がしたい!)
「死に・・・たく・・・ない。」
その言葉に仮面の下の目が動いた。
「まだ・・・五人で話・・・・・・してない。」
起き上がろうとしたハルを女は踏みつけ剣を持ち上げた。
「おば・・・ちゃん。」
「死んで!」
金属音が聞こえた。
剣に鋼線が巻きついていた。
「シギか・・・。」
ハルは首を動かそうとしたがそのまま体が倒れた。
もう、動かない体で必死に目の前に落ちているローズクオーツの玉に手を伸ばし、一粒握った。
一方、シギは指先で鋼線を操ると女から武器を奪い取った。
けれど女はそれだけでは引くことはなかった。
ハルに駆け寄ろうとしたシギは相手の体の大きさから想像できるわけもない威力の蹴りを喰らい吹き飛んだ。
煉瓦の壁にぶつかったシギはそれでもすぐに立ち上がり、鋼線を相手に向けた。
「まあいいさ・・・。ハル・・・またね。」
女は剣を拾うと闇へと消えた。
「くっそ・・・おい・・・・ハル!」
シギは背中を強く打ち付け息が詰まっっていた。それでもハルへと駆け寄った。
体を抱くとすでにハルは息をしていなかった。
「おい!しっかりしろ!おい!ハル!」




