第64話 約束
今まで足を運んだこともなかった花屋に足を踏み入れるとハルは目的も忘れ目を輝かせた。
「綺麗〜。いい匂い。このピンクのバラ可愛い。」
ハルは店においてあった小さなバラに惹かれしゃがみこんで見つめていた。
今まで二人とも花に目をやる余裕もない生活だった。
ルカは白い花束を注文し、ずっと花を嬉しそうに見つめるハルに気がついて店員に何か伝え、出来上がった花を受け取ると店をでた。
「白い花束ってあるんだねえ。」
ハルは花束のメインの百合の花に触れた。
全く穢れを知らない白い花束。
それは自分たちの組織とは全く違う色だったが憧れた色だった。
二人で城門まで歩くと城門には兵士の家族が涙に暮れながら祈りと花束を捧げていた。
「皆、愛されてたんだ・・・。」
「だな・・・。」
ルカは席に祈りに来た人の置いていった花束のカードを見つめた。
そこには子供の字で『パパ 見守っててね。』と書かれていた。
人の死など受け入れなければいけない当たり前なものだと思っていた。
けれど、ソウマに降った砲弾、ハルへの射撃。
大切な仲間の命の危機に直面した二人には今までなかった感情が芽生えていた。
「今まで殺した人間の家族のことなんて考えたことはなかった。でも・・・私たちやっぱり・・・・『悪者』なんだね。」
「・・・そんなこと当たり前だと思ってきた俺たちって、本当に最悪な人間だな。正直、お前がいなくなって、お前撃った暗部が憎くて仕方なかった。そいつだけは俺が見つけて復讐してやるって思って素振り増やした。でも、・・・俺も暗部も同じなんだよな。いつか・・・殺した人間の家族が俺を殺しにくるかもしれない。そう思うと・・・なんかやりきれなくて。」
「ルカ・・・。」
ハルはルカの手を握った。
やっぱり暖かい手だった。
「だから・・・今日はここで殺してしまった人に謝って・・・んで、ここで命を落とした組織の人間のために祈る。言い訳になるだろうけど。あの時、それしか俺たちには生きる道はなかったんだから。」
「うん。ここで死んでしまった人のために。私も祈りたい。」
ハルはルカと目を合わせ、手を放すと花を供え、その場で祈りを捧げた。
許してほしいとは思わない。
でも、死んで詫びるという気持ちではなく今は生きたかった。
ルカ、トウヤ、ソウマにシギ。生きていたい。皆と共に。
「さ・・・、行こう。」
ハルに声をかけルカはもと来た道を戻った。
そして先ほどの花屋に来ると接客してくれた若い女が、、微笑みながら駆け寄ってきて花束をハルに手渡した。
「え?何?」
「人生に一回くらい花もらってもいいだろ?女、なんだしさ。」
「え?」
ルカは顔を赤くして歩き出した。
ハルはもらった小さな花束に視線を落とした。
先程見ていたピンクのバラだけ作られたブーケだった。
「・・・ありがとう。」
ハルも照れて俯いた。
歩いてゆくごとに嬉しさが沸いてきた。
周りを歩く人々にルカに花を貰ったと言ってまわりたい気持になった。
「何か、いい匂い。お花もらったの初めて。」
「知ってる。」
「綺麗・・・ずっとこのまま咲いてたらいいのにな・・・。あ、あと・・・。」
ハルはマフラーをずらすと蝶のペンダントを見せた。
「これも・・・ありがとう。」
ルカはそれを見て満足そうに鼻の下を掻いた。
「おう。よくにあってる。っていうか・・・あのさあ、」
「ん?」
ハルは花を嗅いで嬉しそうな笑顔を向けた。
「えっと・・・あの」
ルカは足を止めハルをじっと見た。
ハルは自分を見つめるルカの瞳をまっすぐ見返した。
「だから何?」
「あの、お前、俺のお嫁さんにならないか?」
「え?」
「今すぐとかじゃなくて。落ち着いたらさ。」
心の中が乱れた。
トウヤと一緒にいることが幸せなはずだった。
でもその言葉が嬉しくて涙がこみ上げてきた。
(でも・・・。)
その気持ちに応えられなかった。
(私にはトウヤがいる。昔と同じ笑顔を向けてくれるトウヤが。)
「ごめん。私は好きな人がいるから。」
「はいはい。分かってるって。お前トウヤ好きだもんな。ま、トウヤとのこと吹っ切るまで待つさ。別にばあちゃんになってでも娶ってやるから。さ、メンターのところ戻ろ?」
(違うんだよ・・・トウヤ生きてるんだ。)
頭でルカの言葉を否定しても心の中では年老いても待ってくれるという言葉がとても嬉しかった。
反対にはっきりとトウヤのことを言わない自分に腹が立った。
ハルは手を繋ぎたい衝動を堪え、ずっと両手でブーケを持ち続けた。
「あ、宿に荷物置いてあるから一回戻るね。そうだ、明日、朝の十時にあの公園にしよ?」
「荷物?・・・じゃ、迎えに来るから。」
「うん。」
別々に歩き出してからハルは一度振り返った。
離れたくはなかった。
するとルカも振り返っていた。
「じゃあ。明日。ちゃんと来いよ!」
ルカは満面の笑顔で手を振って歩いていった。
ハルはその背中を見ているのが少し辛くて花の中に顔を突っ込んだ。
(何か変な気持ち・・・。何でこんな気持ちになるの?)
「私はトウヤが好き。ずっと好きだった。」
トウヤに逢えた時も、トウヤと一緒にいる時も、この世に生まれたことを感謝したい程幸せだった。
(でも、ルカは守ってくれた。ずっと。)
辛い時にまるで分かっているかのようにルカが手を握ってくれたことを思い出すと胸が苦しくなった。そしてルカに対してそんな想いを抱く自分がトウヤを裏切っている気がして今まで以上に嫌いになった。
(トウヤと・・・話しよう・・・。)
ルカが好きだとかいう話ではなく、ただ自分の気持ちを誰かに聞いて欲しかった。
本当に二人が大好きだという気持ちを。




