第63話 戒の二人
ルカはハルをきつく抱きしめながらただ泣いていた。
ハルはその力強さに少し嬉しさを感じながらも、あえて突き放した。
「泣き虫。ねえ・・・そろそろ放して。きつくて痛いよ。」
「もう・・・いなくならないか?また一緒にいられるのか?お前が隣にいないとか・・・二度と感じたくない。」
その言葉はハルだって感じていたことだった。
二人でいたいとは思わない。
また三人に戻りたい。
・・・否、五人に戻りたい。
一緒に切磋琢磨しあったあの懐かしく暖かい日々に戻りたかった。
しばらくハルを眺めていたルカは嬉しそうに口元を緩めながら頭を掻いて、突然何か思い出したようにもう一度慌ててハルを掴んだ。
「そうだ!怪我は!撃たれたところは?」
「え・・・あ・・・。うん。大丈夫、ちょっと腫れたけど・・・。」
「腫れた?何で?」
「あのね、実は・・・。」
暗部がトウヤだと言っていいのか分からなかった。
「あの、奇跡が起きてね・・・。助かったの。」
「何だよ奇跡って・・・。他に怪我は?」
「大きな怪我はないよ。大丈夫。ルカも怪我ない?」
「おお・・・。」
そんなルカの頬には大きな絆創膏が貼ってあった。
ハルはその絆創膏を右手の人差し指で軽く撫で、目を細めた。
「良かった。ルカは元気だけが取り柄だもんね。」
ルカはそんなハルの右手をとって、唇に当てた。
そんなルカらしくない行為にハルは首をかしげた。
「何?」
「ん・・・何か・・・。」
「何?」
「すげえ可愛いなあと思って。」
「な、何?ちょっと!どうしたの?」
ルカから聞く初めての言葉にハルの顔は赤らみ、汗が噴出した。
「いや・・・そう思っただけ。はあ、お前の顔見たら無性に腹減ってきた。街行こうぜ!」
「あ、あの待って!あの・・・ソウマは?」
「生きてる・・・。」
その言葉に肩から力が抜け涙がこみ上げた。
「良かった・・・。本当に良かった。」
「でも・・・、シギは息してるだけだって。」
「・・・どういうこと?」
「そういうこと。」
それだけ言うとルカは歩き出した。
ハルは後ろで目に付いた小石を蹴った。
「私のせいかな・・・。私が助けてあげてっていったから・・・。」
するとルカはハルの頬を両手で引っ張った。
「お前!ソウマをみくびんな!あいつは好きな女を守ったんだ!それが男ってもんだ!お前が言ったからとか、そんなんじゃねえ!」
「・・・ごめん。・・・そうだよね。」
「なんでそんなことわかんねんだよ。だからお前は馬鹿なんだよ!このクソ馬鹿!」
そのいつものルカの言葉が嬉しくてハルは目じりを下げた。
「うん・・・。ありがとう。」
「やけに素直だな。何か悪い物食ったか?」
「食べてないもん。あ、ねえ、メンターは?」
「ああ、今一緒にいる。」
「あの五色米の?」
「何だ?五色米って。」
「え?Mの十五地点って。」
ルカは首をかしげてハルの手を引き歩いてゆく。
ハルも後ろからチョコチョコと歩いた。
(やっぱりこの手、温かい・・・。あれ?)
「ルカ・・・手・・・タコ増えた?」
「ああ。かもな。最近素振り増やしたし。」
「一日一万回ってってやつ?」
「今は、一万三千回。そういや、お前、今まで何処にいた?」
「あ、ちょっと王都から離れて昨日戻ってきた。検問厳しいね。入りにくかったよ。」
「は?王都離れて?そりゃあ入りにくいだろう?あんなこともあったし。」
二人ともどちらとも言わず王城に目を遣った。
ここで命を落としたものを弔う家族なのか、花をささげ祈る人々が目に付いた。
「俺たちも、花・・・供えに行くか?」
「え?お花?」
「おう。生きてる構成員は二割らしい。・・・戒は全員生きてたけどさ・・・。全滅したところもたくさんある。きっと、その隊も俺たちと同じように仲間を殺したことを後悔しながら・・・・任務について、誰に弔ってもらうことなく敵陣の真っ只中で死んでいった。そんな人たちにさ、折角生き残ったんだし花ぐらい捧げたいんだ。」
「・・・そうだね。私たちがいましてあげられることはそれくらいだね。ルカ・・・優しいね。」
「さ、行こうぜ。」
「うん。」




