不道徳と破廉恥
神殿から湖に突き出した先の祭壇では、運河と湖の神を祀る儀式が最終段階に差し掛かっていた。すなわち、神殿の最高神官が貢ぎ物である王冠を一旦祭壇に置き、(読経でも祝詞でも構わないが)大声で何やら口上めいたものを述べた後、再び王冠を手にとって、他の神官も合わせた全員の唱和により、運河と湖の神に対し、オクトハーブ市の反映と運河での航行の安全を祈るという、チャーリー言うところの「クライマックス」に。
サイラスは腕を組み、湖畔を行ったり来たりしていたが、やがて、「あーっ」と大きな声を上げた。
「そうだったのですか! チャーリーの狙いが分かりました」
「えっ、何? 狙い??」
マリーナは状況が飲み込めず、目を白黒させている。なお、飲み込めていないのは、湖畔にいるエディもジギスムントも同様であり、みんな「はて」と首をひねりながら、サイラスの解説待ちである。
サイラスは、三人の視線が自分に注がれていることを意識したのか、おもむろに咳払いをすると、
「チャーリーの狙い、それは、おそらく貢ぎ物、我々が帝都から運んできた王冠です」
「はい?」
特に自身が神官でもあるエディは、呆けたように口を開けた。サイラスの言葉があたかも別世界からの響きのように聞こえたのであろう。
サイラスの推理によれば、チャーリーはおそらく、オクトハーブ前男爵の館で自分たちが運んできた品物の正体(すなわち王冠)を見せられ、それが運河と湖の神を祀る儀式の際に湖に投げ込まれるという話を聞いたことから、王冠を自分のものにする方法を考えていたのではないかとのこと。
「チャーリーとバーンが仲良くなったように見えたのは、そのせいだっていうの?」
と、マリーナ。彼女もまだ、サイラスの話がよく飲み込めないようだ。
「そうだと思います。チャーリーは彼なりに、バーンの『モンスター』にかこつけて、王冠をわがものにするための情報の収集などを行っていたのでしょう」
サイラスの説明は続く。チャーリーは、最初、儀式の終了後にオクトハーブ湖に潜水し、湖底に沈む王冠を手に入れよう、あわよくば、前回以前の儀式の際に湖に投げ入れらたはずの他の財宝も手にしようと考えたに違いない。しかし、湖の水深が70メートル以上という情報を聞かされたことで、潜水の実現可能性は消えた。そういうことであるならば、儀式の際に王冠が湖に投げ入れられた時を狙って、横取りのような形で王冠を手に入れるしかない。それが現実に可能かどうか、また、自分と同じように考えるライバルが出現する可能性があるかどうか等々について、シーフギルドのいわゆる裏情報も併せて考えていたのであろう。
そして、その結論として、
「あきれた! それで、裸になって湖に飛び込んだのね」
マリーナは声を上げた。ちなみに、彼女にとっては、神に捧げる貢ぎ物の窃取という不道徳より、女性である自分の前で裸になるという破廉恥の方が問題らしい。




