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不穏な話は、ひとまずそこまでで打ち切った。
お茶会は細かい決まりごとについて教育係からの小言があったくらいで、あとは平穏無事に終わった。
問題が起きたのは、その日の夕方だった。
後宮の一角で不審火があり、すぐに火は消し止められたものの、木造建築では「今後気をつけましょうでは済まされない。
私の部屋に四人で集まると、すぐにその話になった。
「どー考えても、誰かがなんかを目論んで火つけしたんだろーね」
お茶会で失敬してきた豆菓子を口に放り込みながら、ダンテが言う。
「しかし兄上、誰がなんのために。……それが明らかになるのは、これからということでしょうか」
「だろーね。なにかのトラブルが画策されてるとして、直接後宮妃に手が出されるとは思えねーけど、おれらは危ない。たとえばでっち上げでおれやホウメイが犯人にされて、リア様がその責任を取らされる……とかな」
「僕たちは、なるべく一人にならないほうがいいですね……。リア様も、もちろんアゾも。僕たちが必ずお守りします」
おれは入ってねーのかよ、とダンテが悪態などついていたけど。
「ありがと、ホウメイ。二人が来てくれたの、改めてすっごく心強いよ。ホウメイって優しいし頼りになるし、会ってから今までずっと感謝してる。人として好感持てるっていうか、王女と臣下とかじゃなくて、仲間的な、友達的な感じで、かなり大好きかも」
ホウメイが「それは光栄ですが……会ってから?」と目をしばたたかせたので、「あ、記憶喪失になってからね」と補足した。
そこに、わざとらしく抑揚のない声がかけられる。
「ほおーほおー。リア様は、ずいぶん愚弟をお気に召しておられるんですなー。お好きであられるんですかー」
ぎょっとして、私はダンテのほうを振り向いた。冗談なのか本気なのか、三白眼で私をにらんでいる。
「えっ!? いや、今のは変な意味じゃないよ!? だって感謝はするでしょ!? こんなの好感度相当高くなるよ、普通! 言っとくけどダンテ最初のころ結構アレだったよ!?」
「……ホウメイてめ、あんま調子に乗るなよ」
「ぼ、僕はなにも!?」
アゾが小声で、「お三人が揃うと、まるで市井の少女と少年のようですね」とつぶやく。
とにかく用心に越したことはない、という結論だけは(かろうじて)とりまとめた翌日。
この日は朝から、アゾがホウメイとともに買い出しに出ていた。
後宮妃本人と違い、従者は必要があれば申請を出して後宮の外に出られる。ただし、場外に出るのは禁止。
そうして必要な買いつけや諸事の手配を行うんだけど、二人が行ってしまったので、必然的に私とダンテが残った。
……ここのところ、ちょっと、ダンテと二人になると気まずくなってしまう。
いや気まずいというより、照れくさいというか。
ダンテから好きと言われた。私からキスしてしまった。それも、二回も。
つまり私たちは、今や両想いなわけで。
……でもすでに私たちは婚約者なので、告白するとかつき合うとか、そんな関係ではとっくにない。
おかげで、どういう態度で二人の関係をどう認識していいのか、よく分からないまま毎日を過ごしている。
「リア様早く行かねーと、稽古始まっちゃうよー? おれもう自力で化粧ばっちりなのに」
朝日が窓のすだれから差し込む中、ダンテが能天気にそう言う。
この日は詩の稽古があり、午前から後宮の中の書院に集合することになっている。
だから遅刻のないようにするのはもちろんなんだけど。こっちが意識してしまっているのにあっけらかんとされていると、なんだか釈然としないものがあるな……。
詩といえば先日、課題として出された詩を夜に部屋で推敲したら、ホウメイもアゾも一緒だったのに、ダンテと密着しただけでドキドキしてしまった。
そういえばその時も、ダンテは特に意識してないっぽかったな……。なんだか悔しい。
稽古には遅刻なく参加できて、どうにか私の詩も形になってきた。
この日は午後は自由時間になったので、ありがたく息抜きさせてもらうことにする。
日本で学生をやっていたころは勉強するのが日課だったわけだけど、今は土日祝日もなければ夕方までに稽古が終わることが稀なため、受験を除けば今が人生で一番勉強しているかもしれない。
「お疲れ様、リア」シメンカが声をかけてくれた。「これ、ランエイから分けてもらったのだけど。よかったらいる?」
シメンカが袖の下からそっと出してきたのは、青い小瓶だった。
「それなに?」
私は、すっかり友達のように打ち解けた口調で訊く。
後宮という場所にあっては私たちはライバルに当たるわけだけど、王が跡継ぎを作る日はまだ先なので――私は作る気がないのでなおさら――、今のところはそういう競争意識を持っている高級妃ばかりじゃない。
シメンカやランエイのように気のいい人たちだとなおさら、同じ場所で生活する友人のような気持ちになってしまう。
シメンカが、それこそ高校時代の友達のような距離感で私に耳打ちした。
「お酒。スプーン一杯のお砂糖を浸して舐めると、疲れが取れるわよ。ただし本当は持ち込み禁止だから、見つからないようにね。酔っぱらわないようにも注意して」
お酒かあ。そういえばこの世界にきてから、飲んだことなかったな。ハウザールでは食事時に、私用の食前酒とかもなかったし。
ビールは苦手だけど、甘めのカクテルくらいなら割と好きだ。
「うーん、じゃあもらう。ありがとう、シメンカ」
部屋に戻り、配膳された昼食をダンテと二人で食べ終えると、さっそく小瓶を取り出した。
調味料は配膳係にお願いすれば多少は融通が利くので、砂糖を大目にもらっておいた。
「あれ、リア様。なにそれ?」
「お酒だって。飲む用っていうより、気つけみたいなものらしいけど。シメンカからもらったの。お砂糖をこれに浸すといいんだって」
ダンテが眉根を寄せた。
「あのさー、こんなとこで人からもらったものほいほい飲むなよな。ちょっと貸してみ」
ダンテが瓶の栓を開け、手のひらで仰いでにおいをかぐ。
「あー、確かに酒だね。シッサだ。これも覚えてないか? 香草を蒸留酒に漬け込んだもんで、確かにじかに飲むやつじゃないな。寺院とかで行き倒れに舐めさせたりするんだよ」
香草。地球でいう、ジンとかシャルトリューズみたいなものかな。
「ダンテもいる? 慣れない生活で疲れてるでしょ」
「はは、メイドが酒臭かったらまずいでしょ。ほら、返すよ。リア様もほどほどにね」
そういえばダンテってお酒強いのかな、などと思いながら、私は部屋に備えつけの匙に角砂糖半個分くらいの粉砂糖をのせ、そこに小瓶からお酒を落とした。
そのままぱくりと一口に飲み込む。
砂糖のストレートな甘さと、アルコールの刺激。それを香草の鋭い香りが包み込む。
おいしい。
私はつい、もう一度同じようにした。
そういえば。
ダンテがお酒に強いかどうかの前に、リアの体はどうなんだろう。
どうなんだろう。
どうなんだっけ。
あれ、私はなにをしていたっけ。
「ん? リア様?」
「ほえ?」
「いや、口が半開き……っていうか、顔赤っ! あ!? そういえばあんた、酒全然だめじゃなかったっけ!? くっそうっかりしてた、城でも食事時に酒出なかったでしょ。うわーなに飲んでんの!?」
ダンテの言葉は、半分も理解できなかった。
顔が熱くて、周りの音が遠くなる。
「ぽえー」
「あーもー、ちょっと水水、水飲みなよ! 茹でられたみたいな顔してるじゃん、あんたしばらく部屋から出るなよ!?」
ダンテが扉に内鍵をかけた。
「あー。私、……お庭に出て、風に当たりたいなー……」
私はふらふらと立ち上がる。
「コラこの話聞いてたかおおん? ってか足ぐにゃぐにゃじゃねーか、うお危なっ」
私の体が崩れ落ちそうになるのを、ダンテが支えた。
その腕に私はしがみつく。
「ううー。ダンテ、体かたーい」
「そりゃ、あんたよりはね。この酔っ払い、いいからベッドに……」
その時私の足がもつれて、ダンテの足を払ってしまった。
そのまま、傍らにあったダンテのベッドに二人で倒れこんでしまう。
「うお、もう完全に酔っぱらってんじゃねーかよ。どっか打ってないよね?」
ダンテが手をついて、私をかばってくれた。
体に力が入らずに仰向けになった私のすぐ上に、ダンテが覆いかぶさる形になっている。
その間の空間がやけに寂しく感じられて、私はダンテの体をつかんで抱き寄せた。
全体重ではないにせよダンテの重みがどさりと降ってきて、私は敷布団とサンドイッチされる。
「おい!?」
「いいじゃない、メイドさんだもーん……ふへへへへー」
頭の中と頬が、同じくらいに熱くほてっている。
酔うためにお酒を飲むという感覚が今まで私にはよく分からなかったけど、これが気持ちよく酔うということなのかもしれない。
「メイドは主人を押し倒さねーよ、あってめ、いいから首に腕を回すんじゃねえ」
「メイドさんじゃなくてもいいじゃない、だって私たち、……両想いなんじゃん」
素面ではなかなか口に出せない、けれど心の奥で抱えていた思いが、こんなにもあっさりと言えてしまうとは。
大変に恐ろしいことなのに、この時の私にはその恐ろしさがまったく分からず、ブレーキきかなかった。
「……両想いだからまずいんでしょ」
「うう~。なんで?」
「……それを、なんでって訊くなよ……」
唇が重なった。
ダンテからしてくれたのは、初めてだった。
しばらくそのまま、私たちは動かずにいた。
あんなにも熱かった顔より、頭より、ダンテの唇と胸板、それに腕のほうがずっと体温が高く感じる。
やがて、ダンテが私の上から離れた。
その顔は、困ったように笑っている。
「リア様さ。あんまり、おれに気を許すなよね」
どうして、と訊く前に、ダンテが縦長の盃に水をかめから組んで渡してくれた。
受け取って、飲む。
「おれは、国の命運を背負ってここにいる。女にうつつを抜かすような気のゆるみは、禁物だよ。神は、そんな男には罰を与えるだろう。あんただっておれを信じてくれてる。でも、……時には、神様がめこぼしをしてくれるんじゃないかと思っちゃう時も、あるんだよ。だから、あんたはおれを信用し過ぎたらいけない」
二敗目の水を飲み干すころ。
お酒の量自体が少ないこともあって、私の酔いは急速に醒めていった。
私は寝台の上で、深々と頭を下げた。
「この度は本当に……私のはしたない行動で、大変ご迷惑をおかけしまして……」
「王族に頭下げさせる日がこんなにあっさりくるとは思わなかったけど。どういたしまして。ま、ことが済んで、安心して酔っぱらえる日がきたら、その時にね」
そう苦笑するダンテの顔が、まともに見られない。
ことが済んだらどころか、私はリアでいる限り禁酒しようと思う。
やがて、夕方になり、買い出し組が戻ってきたのだけど。
部屋に戻ってきたのはアゾ一人だった。
「リア様……ホウメイ様はお戻りではありませんか?」
なお後宮ではダンテとホウメイは偽名を使っていたけど、部屋の中ではついついみんな本名で呼んでいる。
「ううん、まだ。……別々になったの?」
「私が油を取りにそこの役人様のところへ行ったので、先に戻られるとおっしゃっていたのですが……。ホウメイ様が持ってくださっていた荷物も見当たりませんし……」
寝台に座っていたダンテが、腰を上げた。
「へえ。やられたかな。昨日の今日で、言わんこっちゃねー」
「やられた……って、ホウメイになにか?」
その時、チチチ、と鳥の声がした。
セキレイのような小鳥が戸の前に飛んできて、赤い木の実をぽとりと落とす。
「あー、やっぱり。ホウメイのやつ、下手踏んだな。これは異常事態だっていう、おれたちで決めた暗号だ。赤い実なら異常発生、黒い実なら心配するな、だ」
「なっ……」
ヒュッ、と私の喉が鳴る。
「リア様、アゾ、この鳥についてくぞ」
私たちは慌てて部屋を出て、小鳥の後を追った。ダンテはもちろん、朝一から女装完了しているのですぐに外出できる。
建物の外へ出て庭を突っ切ると、私たちの住まいである第六宮の、日の当たらない北側へ着いた。
「私、こんなところ来たことないな……アゾは?」
「私もです。ただの空き地のようですから……」
これから建て増しされるのかもしれないがらんとしたスペースは、むき出しの土と、ところどころに生えた雑草があるだけで殺風景この上ない。
「ホウメイのやつ、そこそこ腕が立つからねー。自分でもそう思って、油断したんでしょ」
「え、じゃあ、ここでホウメイがなにかされたってこと?」
「あいつ相手に、何者か知らんが力ずくってことはねーと思うけどね。こんなに短時間で無力化されたってことは、薬かな。……見な、ここ。なにか燃やした跡があるじゃん」
言われてみると、確かに、土をかけて隠してあるけど焦げた跡となにかの燃えかすが地面に残っている。
「そーだなー。おれらに声もかけず、荷物も置いてかなかったとこ見ると、誰かに『火事です、助けてください』とでも言われたかな。昨日の不審火のこともあるしね、大火事になったらどうしようもねえ。とるものもとりあえずここに駆けつけたら、潜んでたやつらに不意打ちで麻酔薬でもかがされてぐっすり、とか。昏倒する前に、最後の力を振り絞って鳥に暗号を託したかな。そんなとこじゃねーかなと」
ダンテが周囲を警戒する。でも、なんの気配もないようだ。
アゾが声を震わせる。
「そうすると……かなり計画的な行動ですよね。ただのメイドならともかく、あのホウメイ様を、こんなに簡単に無力化するなんて。……リア様?」
そう声をかけられても、私は返事ができなかった。
「リア様、どうされました?」
「私……ホウメイのこと……凄く、いい人だって思ってて……恋愛感情ではないけど、人として、とっても好感を抱いてて、……昨夜も、……私、そう……」
恋愛感情ではない。でも、好感は強く抱いている。
それをはっきり口に出したことは、この世界にきてからはなかった。魚と木の「実験」の時以外は。
「ええ、そうです。お気をしっかり持たれますよう、リア様。その通りですもの」
「私……推してた? 無意識のうちに……」
推しなんて、言ってしまえば、ファン活動の一端で、平和な世の中での楽しみ方でしかない。
頭のどこかで、そう思っていた。だって本当のことだから。この世界にきて、魚が死んでも、木が倒れても。
私が推せば、人が死ぬ。そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれないと。
だって……ダンテは元気だったから。
でも。こうなると、一気に恐ろしくなってくる。
幽霊なんてまったく信じていなくても、知り合いが亡くなったその日から夜中に物音が聞こえ続けたら、もしかしたらと考えてしまうように。
目の前で親しい人が一人、それも充分な力も知性もある人が理不尽にこんな目に遭うと、どうしようもなく不安になる。
よりにもよって。こんなことがあるのか。通常、ありえないことだというなら。
これは、私が推したせい?
地球でなら、なんだかんだで偶然だと片づけられる。
でもこの世界には、この大陸にはないだけで魔法もあればモンスターもいる。
ここでは……魔法みたいに、私の推しが、見えない法則として発動しているのかも……
一定以上の愛着を明確に示すと、それが発動する……?
私は喉を鳴らしてから、まだ近くにいたさっきの小鳥を見つめて、言った。
「わ、わあ~……かわいい鳥。いかにも野鳥って感じが、クールだよね~……私好きだな~、こういう鳥さん。名前つけちゃったりして、ピーちゃん、なんて。うーん大好き、本当好き~……私もうこの子に夢中だよ~……」
アゾが眉根を寄せて、「リア様?」と心配そうに見てくる。
わずかな、風切り音が聞こえた。
あっと思った時には、ハヤブサのような黒っぽい猛禽類が、小鳥をその爪に捕まえて、高く舞い上がっていく。
私は後ずさりし、そこにあった木の塀にどんと背中をつけた。
「リア様?」とアゾが近づいてくる。
ダンテも怪訝そうな顔をして歩いてきた。
「こないで……」
「はい?」
「こないで……ダンテも、アゾも……嫌い。全然好きじゃない。ホウメイだって、ホウメイだって嫌い!」
だから。
この世界での私が、死神であってもなくても。
帰ってきて、ホウメイ。
■
なんの手がかりもなく、ひとまず部屋に戻ってから、十数分。
私はシーツをかぶって、寝台にいた。
今日は後宮の奥の広間で座学だったけど、具合が悪いと言ってさぼった。
ダンテとアゾは、それぞれの寝台に座っている。
非常に、非常に気まずい。でも彼らを出ていかせる筋合いじゃないし、私はこの後宮で、この部屋以外に居場所はない。
中学の時、初めて推したキャラが作中で死んだ時のことを思い出した。
とても悲しかった。実在の人物が亡くなってしまったの同じか、それ以上に。
私は三次元よりも二次元の登場人物を愛せるタイプの人間なんだな、なんだか冷たい感じがするけど仕方ないな、と思った。
けれど、今はホウメイに身に万が一のことがあったらと思うと、その時とは比べ物にならないほど胸が苦しくなる。
思えば一国の軍事の頂点にいる兄弟二人が、女装までしてこうして私についてきていること自体がおかしい。
本来ならホウメイは、敵地で無防備な状態で不意打ちされるようなことはあり得ない立場だ。
ダンテとホウメイがいくら腕が立つって言ったって、なんかの手違いでここで敵兵に囲まれれば、まず助からない。そんな危険が彼らに降りかかるなんて、自分の軍隊に守られていればまず起こらない。
これも、死神の法則によるものなんだろうか。私が好意を抱いた相手は、知らず知らずのうちにいつ死んでもおかしくない状況に追い込まれるんだろうか。
……。
そうだとして。
そうだ、最悪のケースを想定しなくては。
もし私が死神だったとして、私はどうすればいいだろう。
決まってる。
ホウメイを助ける。この危険な場所から、ダンテとホウメイとアゾを脱出させる。
後宮潰しは、その後だ。
荒事になるかもしれない。いや、なるだろう。少なくとも、ホウメイを助けるためには、なんらかの戦いは避けては通れないと思う。
私には、そのためのギフトがある。剣術。最初はなんでまたと思ったけれど、今は神様に感謝してる。自分の身を守り、大事な人たちの命を守るための、直接的な力。
私は、シーツを跳ね上げた。
「ダンテ、アゾ、ごめん! ホウメイを探しに行こう!」
「え? ああ。そーだね」
「一人でふさぎ込んだりして、ごめんね! もう泣き言なんて……って、あれ?」
ダンテとアゾは、ダンテの寝台の上でカードゲームなどしていた。
「……二人とも、なにしてるの」
「よく分からんが――なんかさいきんこればっかだけど――リア様がへこんでるようだから、少し待ってようかなと」
アゾがとんとんとカードをそろえて片づけながら、
「もちろん、私たちは記憶喪失後のリア様なら遠からず持ち直すと思っておりましたから。それでは、今後について考えましょうか」
「ホウメイのやつも、なんのためにさらわれたのか知らんけど、まあすぐに殺されたりはしねーだろ。とはいえ、急がねえとね。今日リア様がお稽古事を休んだのは、ちょっと目立ってるだろうから。なにをどう不審に思われるかも知れんしね」
「う。ごめん……」
「いーえ。それだけ思いやってくださって、ありがたいね。とりあえず容疑者を絞らねーとな」
ダンテが寝台から立ち上がって、腰を伸ばした。




