6-9 貴族との前打ち合わせ
「そうだ ブライトさん、もしお時間がありましたら私と一緒にその貴族にお会いしませんか?今はお名前を言えませんが少し前に亡くなった勇者ケンタロウ氏とも面識のある実力者ですよ?」
彼は製作者でもあるブライトと共に訪問出来れば更に自分にも箔がつくし、ブライトが今後何かをしたい時にも色々と陰ながらも支援や援助もしてもらえると説明をしてくれる。
当初は苦笑していた彼であったが、ふと何かを思いつき考え始めるのであった。
「・・トーマスさん つかぬ事をお聞きしますが、その貴族様はどの程度亡き勇者様と面識がおありなんですか?」
「亡き勇者様とですか?かなり深い関係とは思います、何故ならば彼の父親は勇者と魔王退治に立ち向かったメンバーの一人なんですよ。なれど最終戦にてその父親は残念ながら勇者を庇い深手を負って亡くなられたのです。残されたご遺族の中にまだ若い少年がおり、勇者は事ある毎にその遺族の元に通い手厚い保護対応をしていたと聞いております。そしてその時の残された少年が話しの貴族様と言うことです、、、」
するとその貴族の父親と勇者は戦友としての繋がりであるのか、そこまで勇者と交流があるなら幼い頃から色々と勇者についての情報を本人や周りの口から聞き及んでいるのかも知れない、、、。
勇者ケンタロウとは出来れば生前にお会いしたかった、、もしかして元の世界へ戻る方法とか、彼が育った時代の話を聞いて見たかったのだ。それらは全て遅きに失した、、もう半年いや、、数ヶ月早く勇者に会えればと後悔していたのも事実であった。
それが本人ではなくともよく彼の事を知っている父親の息子が今回彼の前に何の因果か現れたことに少し寒気がして来たタローでもあった。
「・・トーマスさん 是非同行お願いしても宜しいでしょうか?」
「無論ですとも 商品等の説明や開発苦労談なども意外と喜ばれますよ ははは、、、」
うーん 少し私の想いとは違うのだが、先ずは面談してみることから始めねば。その上で信用できると判断したなら肝心な話へと進もう、、
その貴族は都の近くに領地を構えて住んでいるそうである、つまり首都に近い場所にいる。当初の予定は首都に行くのはもう少し先の予定であったのだ。
まぁ 予定は決定ではないし、少し早い気がするがこの国の中央部まで入っていく事になった。
首都近くに行くまで彼はトーマスとの商談に付き添いながら、約国内を半月は移動してようやくその貴族の住む領地へと入り込む事になった。
「いやー ここまでの付き添い大変だったでしょう?」
明日は領主でもある貴族に面談するアポも取り付けて二人は近くの宿屋の食堂にて食事をしながらの会話が弾んでいた。
「・・ブライトさんも現場を見て感じられたでしょうが、あのマッチ人気は特別ですよ。持ち込めば直ぐに完売状態ですからね。本来ならばかなりの高値で売買するのですが、バルベラさんからは庶民たちに行き渡るようにと価格の上限が入っています。それを無視すれば次回からの取引中止との強い指導が入るのは商人としては正直少し問題なのですけれども、、、」
商人は基本 安く購入して高く売りさばく これが求められるが、バルベラさんにはタローから価格についてお願いされて各商人達へ約束を守るように釘を刺してもらったのだ。
「お気持ちは解りますが、、庶民の生活を考えますと 薄利多売にて是非お願いしたいと、、」
「ははは、、バルベラさんと同じ言葉を、、まぁ そんなにかさばらずに荷も軽いので助かりますからね。そうだ明日は領主様と面談ですので、衣服は少し気を遣って頂ければと、、、」
此処まで彼は気楽な冒険者風の衣服で過ごしてきたので、出来れば清潔な服をとお願いされたのだ。
「・・はい 高価ではありませんがそこそこに綺麗な防具も持参していますので、、」
あまり使わなかったが、彼は冒険者として面談もするので自作の防具を着用する予定であった。
「・・常に着ている防具の他に持参している防具もあるのですか?」
彼は不思議そうにタローの顔を覗き見る、革製でもかさばる物だがまだ持参している防具が他にあるのかと不思議がっていた、彼は左程に荷も多くない様に見ていたのだ。
「小容量ですが魔法袋を購入しましたので、、、」
本来は彼の虚空庫内で対応しているが、人目を気にする時には金200枚で購入した魔法袋を活用して荷に対しての疑問に対応していたのだ。
ほう、、それはそれは、、実は私も同じく小容量の魔法袋持ちであると小声で話してきた。大事な品や書類関係等は全てその中へ隠し持っているらしい。
「・・明日面談予定の領主様はレイモンド子爵様になります、気さくな方ですのであまり心配はしないで下さい」
子爵となればそこそこの位の人物となる、話によれば彼の父親はさる貴族の三男坊としてかなり気楽に世を過ごしていたが、剣に関してはかなりの腕前で勇者グループに推挙されたのも其処を見込まれての推薦であったのだ。しかし貴族の三男坊では左程の恵まれた環境ではなく、生活の半分は親からの仕送り等で暮らしてきたらしい。
妻と子を持ちかつかつの生活ではあったが、ある意味勇者グループに推挙されたと言う事は成功の暁にはそれなりの貴族の位も保障される確約での参加でもあったらしい。
しかし彼は魔王軍との最後の戦いで勇者を庇って最後を迎えてしまう、魔王軍を討伐し凱旋した一行はそれぞれに位や褒美を受け取ったのだが、戦死した領主の父親には田舎の男爵領を任されただけの対応でしかなかった。それを亡き夫の妻である彼女が子供の後見人として懸命に領地をまとめ上げてかなり苦しい生活に追われていたらしい。
その事実を知った亡き勇者が陰になり彼女等を支え続けて行く。そして現領主が成人し正式に任命された時に勇者はあらゆる手段を使い当時の国王に彼の亡き父親の功績を訴えてその身分を子爵へと昇格させることに成功し、領地も現在の首都に近い場所へと移されたのであった。
そう言う意味では現領主は苦労人とも言える、貧乏時代を身をもって経験している人物でもあった。一番の苦労人は彼の母親であったのだが、ようやく彼の一家はそこそこの安定した生活へと移りだす。
「・・成る程 なかなか波乱の一家なのですね。」
「はい、、でも感心するくらい人当たりも良く、傲慢な貴族が多い中で子爵は領民からも慕われているんですよ、こんな私でも無理難題もなく付き合って頂いております。」
今回更に彼を動かしたのは、贅沢を好まない領主のたった一つの趣味が葉巻での一服での憩いの時間であった。そんな領主がふと何処から聞きつけたのかオイルライターなるものの存在であった、持ち運びにもそしてかなりの見た目にも良い商品と聞いて、彼の前でボソッとそんな商品が欲しいものだと呟いたのであった。
そこでご予算は如何程で考えているのかと尋ねると、そこそこの値を提示したものの、正規に購入す値には差があった。何とかしたいとトーマスはこの製造元と取引があります、どれほどの値になるか交渉をしてみたいと思います と一旦その話を持ち帰る事となった。
「・・ほう 実際はオイルライターを幾らで購入されたんです?」
「はは 実はバルベラさんに何度も頭を下げて通常より安くしてもらいましたが、、」
「・・・・まさか身銭を切ったのでは?」
「うーん 実は正解です 貴方の前ですが予定より金貨10枚程高くつきましたが、、今後の領主様との良い関係と私みたいな商人にも気遣ってくれる領主様に対しての先行投資として予定の金額で買えたとご報告するつもりです」
何と 金貨10枚不足?確かバルベラさんは貴族相手と言う事で、金貨60枚程度で業者に卸していた筈だか、、つまり逆算すると多少の値引きを入れても予定額は当初金貨40枚前後? つまりこのトーマスは通常では商人らしからぬ損を承知で購入した事になる、、、
「ふぅー 私は正確にはオイルライターの卸価格は把握していませんが、、どう考えてもかなり予定額では手に届かない事を承知での話を持ちかえったと、、、」
「ははは 私も一応商人の端くれです。損をして得を取れの方針で、領主様との長い付き合いをさせて頂く予定です」
サラリと言うが失礼ながらこの商人クラスでの儲けではかなり痛手の商談ではないかと推測される。このトーマスと言う男の心意気を垣間見た気がした。
「はぁーー トーマスさんと言う人物を見余っていた事をお詫びします。恐れ入りました、、」
「いやいや、、そんなに持ち上げないで下さい。恥ずかしくなりますから、、、」
「・・そのトーマスさんに私から一つ提案です。これを見てもらえますか?」
タローは虚空庫から取り出して彼の前に出す。
「・・オイルライターですよね?」
「はい 但しこれは私が試作品で作った本当の記念すべき完成品第一号品です。当然品は内容的に今の商品と変わりはありません。なれど試作品であり私の手垢が多少ついております、これで良ければトーマスさんに贈答したいと思います」
その言葉に驚いたように目を見開く彼であった。
「ま 待ってください、、商品は確かに何度か使われて多少の汚れがありますが、これでも売れば市価価格の半値はすると思いますよ。何故に私に贈答などと、、、、」
「その理由は先ほど申し上げました。貴方の男気と商人としての覚悟を勉強させてもらいました、それに明日領主様と面談に同席させて頂けるとの事。場合によってはその席で少し領主様にお話しさせて頂く可能性があります、無論 先方に失礼な話題等は触れませんが、その機会を頂けたことに関して感謝の気持ちとして是非ともお受けして頂きたい」
こう言っては何だが 原価は金貨数枚が精々だと思う、バルベラさんのやり手にはほとほと感心するがここは何としてもトーマスさんに受け取ってもらわねば、、、、
「・・場合によっては領主様との対談?もしかして何かを依頼または相談事でしょうか?」
どうそれを考えるのか彼は少し迷っていた様子であったが、ジローから決してあなたに迷惑はかけない、と何度かの押し問答と領主には絶対に迷惑を掛けないという約束にて彼も承諾した次第だ。
その後も贈答品とし頂くわけにはいかないと彼と再度押し問答があったが、最後は彼も承諾して根負けした様にオイルライターを丁寧に受け取り何度もお礼を言われる始末であった。
こんな彼が本気で認めた領主の子爵に明日面談が出来る、どんな人物であるか一気に関心が高まったタローであった。




