6-7 脱出
ふぅー 隣国からのちゃちゃが入る前にこの地から離れるのがベストかな?
バルベラさんにより新しい従業員が決まるなら、仕事の引継ぎ等を済ましてなるべく隣国の手が届かない場所へと移動すべきと彼は決定した。
「バルベラさんお帰り、、マリー地方支部長も?!」
翌日の昼前に彼女は戻ってきたが、思わぬ同行者に少し驚いた彼であった。
「はは、、久しぶりだな、午後からの馬車で私は戻るつもりだが少し君に話がしたくてね」
何となく用件を理解して顔が強張る彼であった。
「はは、、その顔の予想通りの内容かな?昼前だがいいかな?」
隣室の部屋にてバルベラさんも入れて3名で入り込んでの話し合いとなった。
「・・突然だが 君の本名はもしかしてC級冒険者のタロー君ではないのかな?」
隣室で暫くは彼の現在の仕事ぶりや今後の開発品についての話題であったが、地方支部長の彼女は徐に今回の訪問理由を直接彼に尋ねたのであった。
微笑みながらも彼女の目は確かな確信の元に尋ねている様子であったのだ。
やはりこの話題かと彼も少し考えた後に腹を据えて正直に答える事にした。
「・・・ご推察の通り私はC級冒険者のタローで間違いはありません、、、身元を誤魔化していた事は謝ります」
「やはりか、、正直に答えてくれて感謝する。但し私等ギルドとしてだからどうすると言う話ではない、それどころか場合によっては君の支援も考えている、、」
思わぬ展開に少し戸惑いながらも彼は少しの疑惑も感じていた。何故に名前を変えた不審な自分をそこまで庇ってもらうのかと言う思いがある。
ここに手配書の男が居ると届けるだけで魔道具ギルドとして其れなりの評価等がこの業界に注がれるであろうし、冒険者ギルドへ貸しも出来ると思うとその言葉を単純に信じる事が出来ないとも感じられた。
「ははは、、そう警戒しなくとも、君も知っての通り他ギルドとの干渉は基本スルーがこの業界の習わしでもあり、例えば君がお尋ね者で罪を犯した存在ならば話は別だが、それどころか我々の独自な調査では君はあの町をワイパーンの襲撃から救った猛者の一人であると報告も入っている。ならば我がギルドは今現在の君の価値を考えれば、冒険者ギルドからの調査依頼を暫く静観する事にしたのだよ。なれど、、、」
マリー地方支部長は少し声を潜めて言葉を続け出した。
「・・実はこんなケースは非常に珍しく我がギルドでも少しこの依頼背景を調べてみることになったんだよ、、」
彼女は悪戯っぽく微笑みながら事の顛末を語り出した。
「・・するとだよ今回の話は町を救った猛者の一人でもある君がどうやら異世界人ではないかと言う非公式な極秘情報を入手したんだ。そしてこの指示は単に冒険者ギルドの単独ではなく、その後ろに国家が絡んでいると、、、」
やはり当初の予想通りであの国が完全にタローを自国の影響下に置くべき動きだと理解した。
「・・そしてだね、、此処までの君の魔道具ギルドでの実績と鑑みて我等も君が異世界人として断言して対応をすることに決定したんだ。本日私が訪問したのは当然私一人の考えではなくギルマス及びその上層部の判断と考えてもらえばいい。全ては君から真実を知り今後の最終対応を命じられての訪問なんだよ。是非とも私達の疑問を正直に答えて欲しいのだが、、、」
ふぅむ 此処までの話では嘘はなさそうだし、第一よく私が異世界人だという極秘情報まで入手に至ったものだと感心していた。
「魔道具ギルドを失礼ながら少し侮っていたのかも知れませんね、、、」
彼は小声で絞り出すような声で彼女の疑問に応えて行く。
「うん?その言い方は私達の情報網に間違いはないと言う事で良いのかな?」
にっこりと笑いながら彼女は更に彼からの言葉を待つ。
「・・はい その調査結果に概ね間違いはありません」
「そうか、、調べに間違いはないと言う事だね。しかし一つ疑問は何故に君は別人の身分プレートを入手できたかなんだが、、身分を確定する物はそれなりに厳しい審査になるし通常は二つも身分証を持つ事などは、、、、あっ そうか!もしかして冒険者ギルド内に君を庇う人物がいて、、、それも身分証発行になればそれなりの、、、、、、」
それに対しては彼は何も答える事は無かった。ただ苦笑いに近い笑みを浮かべるだけで彼女への追及に沈黙をするだけであった。
「・・・・了解だよ、君の態度からその人への迷惑を断ち切ろうとしているのが透けて見える、、この件に関してはこれ以上は追及しないよ」
なかなか鋭い感覚を持つマリー地方支部長であった、彼の煮え切れぬ態度からある程度の推測をせざるを得ないと判断したのだ。
「・・さて更に問題がある、君がもし異世界人となると我が国も同様に大騒ぎになる可能性がある事、、それと懸念がもう一つ これは未確認情報だが、、実は隣国の動きがおかしいのだ、他国に対して秘密の調査員を派遣している情報がある。この国に対しても既にその調査員が入り込んでいるらしいと言う情報までは此方も掴んでいるのだがね、、」
この国に?当然自分の行方の探索だろうと判断した。
「・・しつこいですね、、するとこの場所もやがては?」
「うむ、、やがて嗅ぎつける可能性が大きいな、君はどうしたい?」
「はぁーー あの国がそこまでしつこいならば、これ以上は迷惑をおかけするには忍びないですね、まだこの地でやり残しがありますが、近日中に退散したいと思います」
「うーん、、私としては本来ならば残って欲しいのだが、隣国を巻き込んでの対応となると我が国の力やギルドとしても色々と力不足な事が多い。なんせこの国は小国でもあるから隣国の裏からの圧力にどこまで庇いきれるのか正直不安なんだよ。君が姿を隠し逃げおおせるまでは現在と同じく調査中、暫く時間が必要だと静観するのが精一杯かな、、、」
当然他のギルド 商人・錬金ギルド等にも圧がかかっているのだろう、、いつまでもこの地に滞在は迷惑をかける未来しか見えてこない。
「・・この数日で行動に出たいと思います」
仕事を全て放棄して逃げ出せばバルベラさん等に迷惑がかかる、最低の引継ぎと逃走用の食料等の買い込みも必要になる。隣国のラルド王国までは馬車等は使用せずに徒歩で出来るだけ街道を避けての行程で最低2週間は必要になるからだ。
「・・・ブライト いやタロー君か、、申し訳ない 我がギルドでは君を保護したいが相手が国となると色々な柵が出るのも間違いなくてね、、、」
ここまで黙っていたバルベラさんも済まなさそうに彼に謝る。
「いえいえ これまでこの身を偽っていたのは私ですし、この数ヶ月本当に良くしてくれて有難かったです。仕事の引継ぎを至急に終えて隣国へと旅立ちたいと思います」
「・・ラルド王国か、その地で誰か知り合いとかいるのだろうか?」
「ははは、、まったく当てはありませんが、暫くは何もせずにほとぼりを冷ます予定です。その後目立たぬ様に生きて行きますので、、、」
幸いに金に関しては普通の暮らしであれば何年も過ごせる程の身入れがあった、ラルド国の首都かその近辺に潜伏する気になれば一応不自由なく過ごせるだろう としか彼も考えてはいなかった。
マリー地方支部長によれば彼の国は勇者ケンタロウの保護国であり、現国王も彼に恩義を感じて何不自由なく彼が一生を過ごした地なので他の国に比べ異世界人の理解は深いだろうとマリーさんも語る。
当然暫くは彼は身分を明かす事無く過ごしていくつもりだが、長期滞在するかはその地でしっかりと見極めていく予定でもあった。
暫くは3名にてあれこれと今後の対応と遁走?準備等の打ち合わせをして、やがて馬車に乗る為にマリーさんはこの家から離れて行った。
ふう、、なかなか一つに落ち着けない運命なのかな?
またもや逃避行をする自分の身の上を憂いながらも逃げ出す準備に追われる彼であった。
ドタバタしながら逃亡の為の引継ぎと買い物を済ませて彼はいよいよこの地から離れる日が来た。
「バルベラさん ローズさん そしてバレン君 短い間でしたがお世話になりました、、」
「「こちらこそ、、体に気を付けて元気でね、、、」」
「昨日お会いしたのにもうお別れなんですね、、、」
彼はこの村の出身で実はローズさんとは恋仲らしい?農家の三男坊の為に職に就きたい希望がありバルベラさんも採用を決めた様だ。
「これからがっぽりと稼ぐ予定だったけど、でも貴方のお蔭で商品の幅が広がったから助かったわ。そうそうこれを、、今月の給与とこれまでの稼ぎのお礼だから遠慮はいらないよ、、」
そう言って渡された小袋には金貨70枚が入れられていた。
「えーと かなりの大金が、、、」
「言っただろう 今月の給与に今迄の稼ぎ学を加えてもらったと、、遠慮なんかしないでおくれ、私の手元にはお陰でかなりの実入りが入って来ているから、全て貴方のお蔭だよ。当分は磁石 マッチ それと貴族用のオイルライターにて稼がせてもらうからね」
これ以上の遠慮はすべきではないと判断して彼は有難く受け取ると、一路隣国を目指して歩き出した。
「「「有難うね ほとぼりが済んだら此処に尋ねて来ておくれ!」」」
皆の見送りを受けてこの村から姿を消していく彼であった。
隣国にはメイン街道は歩かずに裏道に当たる東側の小道から向かい始める。この道は前に訪れた石油が涌き出る森へと続く旧道でもあった。森に沿っての小道が続き距離的には遠回りにはなるがほとんど一般の人は今は利用する事もなく、今の彼には非常に有難い道でもある。
ほぼ森の端に沿っている為に静かで誰かが追いかけてきた時には早めに認識する事が可能でもあった。そんな時は争わずに森の中へと入り込みやり過ごす事も可能な小道になるからだ。
うーん、、森に沿い始めて木立により太陽の陽もかなり防げて快適な状態だな、、そうだ少し寄り道をして例の池により今後の為に原油を回収するのがいいかも、、、
ふと思いつき彼は森の中へと歩みを変更して森の内部へと進みだした。




