6-6 正体がバレた?!
バルベラさんは笑いながら彼女に教え込んでいく。
慈善事業ではない、先ずは自分たちの生計がなるようにしていかねば、更なる改良や新商品への開発費の手間に耐えられなくなるからだ。
「はい よく理解しています、、頑張りますので、、」
彼女もこれからの未来に向けてまた一歩先に進もうとしていた。
「さて 今後をどうするかだが、、、」
彼の目の前にはある意味宝の山の石油の原油が入った甕が何個も置かれていた。
「・・これがあればとんでもない事が次々に可能になるが、急にこの世界を変える様な発明を送り出すのも少し違うよな、、」
彼の元の世界では石油由来の品であふれかえっていた事を思い出していた、衣服やガソリンそれに日用品も医療にも、、およそ前の世界では石油由来の品が洪水の様に浸食していたのだが、この世界で展開するには少し早計だと理解していたのだ。
「この世界では魔法もあるし、これ以上に早急に事を動かすと不味いよな、、」
彼にとってはこの世界での歪な未来展開になる可能性にはなるべくタッチしたくないと考えた。
「ふぅーー 今はマッチ類と同程度な開発に留めて置こう、、」
片手間に出来上ったオイルライターの何個かを手に取り、これ以上は踏み込むまいと考える。
「ブライトさん 休憩しない?少し相談もあるし、、、」
何事かな?そう言えば先ほど来客があった様だが、その後に少しバルベラさんが考え込む様な仕草をしていたのを思い出したのだ。
3時の休憩時間ではあるが彼はバルベラと二人でお茶をしながら彼女からの発言を待ち続けていた。
「・・ふぅ 実はね 先ほどの来客は地方支部長のマリー姐さんだったの、、」
地方支部長のマリーさん、、ああ 前に一度だけ会った、、、
考えれば彼女のお陰でこの魔道具ギルドへと入る事が出来たのだ、受付嬢からギルド登録に関して散々ゴネられて追い返されたのはもう二ヶ月ほど前の事になる。
「・・その地方支部長のマリーさんが何か?もしかして私の件で、、、」
何となく嫌な予感がして恐々と目の前にいる彼女に尋ねる。
「ふぅー 実はそうなの、、少し前になるけど冒険者ギルドから隣国の件で問い合わせがあったらしいの、、、、」
あちゃー 何となくその内容が読めて来た気がする。
「その問い合わせは 本来冒険者ギルド内で対応する予定だったらしいのだけど、、どうしても案件の探し人が見つからずに他のギルドへも協力依頼が流れて来たらしいの、、、」
本来は他のギルドへの協力依頼等はかなり特別の事で、魔道具ギルドでも何事かと注目したらしい。そこまで聞いて彼は更に胸騒ぎが高まるのであった。
「・・その案件の探し人がもしかして何か私に関係していると?」
ほぼ間違いはないと感じてはいたがもう少し惚けてみようと、彼はそっと尋ねる。
「その探し人は隣国のさる町から遁走?した人物らしい。C級冒険者で名前はジローと言い町をワイバーンからの襲撃から守ってくれた英雄らしいのだが、、、」
「・・・そんな有名人が行方不明となったと、、」
「・・そうね それともうひとつ、その人物の詳細が貴方に非常に似ているとの情報なの、、」
「・・ほう?私にですか?」
「らしいわね、、私はその本人は知らないけど、歳・背格好それとその黒髪等、、、無論貴方は名前もDランクで階級も違うし、他人の空似とは思うのだけど、、但し同じ町の冒険者であり、その歳でC級冒険者ならかなり目立った存在でもあるのだけど、そんな人物に心当たりはないのかしら?」
「さて?私はこの数年はギルドにはあまり出向いておらず、趣味の魔道具作りに没頭していたので、、」
「そうなんだ、、少し聞くけどワイバーン襲撃当時は何処にいたの?」
「・・・たまたまその時には町には居らずに遠征していたもので、、、」
「成る程ね、、そのジローさんの活躍は見ていなかったと?」
彼女は何故か微笑みながらしきりに一人頷いていた。
「・・で その人を魔道具ギルドも行方探しに協力していると?」
「マリー姐さんによるとその知らせは入って来たが、ギルドにて名簿確認に於いてそんな人物は見つからずに暫し静観する事になったみたいよ、、」
「静観?いいんですか、、他ギルドからの依頼を無視して、、」
「元々他ギルドに対して互いにあまり干渉せずが暗黙のルールなのよ。ただ向こうの支部はかなり大騒ぎになっているらしいのよ、それも隣国のお偉方からの指示が出た為にね、、」
「・・つまり国を挙げての捜索になっていると?」
「らしいわね、、でも所詮は隣国の事情ですからね」
再び彼女は可笑しそうに微笑んでいた。
「・・成る程 興味深いお話を有難うございました、、でこれでお話は終わりでしょうか?」
「はい 後日またマリー姐さんが訪問予定ですが、私の方から報告しておきますのであまり気にしないで下さいな」
それでは仕事を再開しますので と彼はお茶のお礼を言い作業所へと向かい始める。
何故だか知らないが、俺の正体を知って黙っていてくれる?そう考えて良いのだろうな、、、
最悪の場合この地からまた逃げ出す事も考えていた彼であったが、彼女の言葉を信じてもう少し様子を見てみるかと考える。ようやく慣れて来て毎日を楽しく過ごしているのに慌てて逃げ出すのも残念な気持ちがあったからだ。なれど最悪に備えいつでも逃げ出す準備だけはしておこうと心に決めていた。
「ブライトさん マッチ製造は今月かなり注文が入っていますよ、、」
「えっ そうなんだ、、かなり作った気もするが追加は何箱になるのかな?」
「他の工房もこのマッチ作りに追われているのですが、、注文は今月千箱は最低でお願いしたいと商会の方からの要望です」
「げっ、、他の商品もかなり納期を急がれているのが現状ですよね、、」
「はい、、師匠はマリー支部長と同行してギルドへ出かけていますし、、そうだ このマッチですが冒険者からの要望でもう少し雨に強く出来ないかと、、、」
あっ その点は冒険者達も購入していると聞かされていた時にふと考えてはいたが、それに対応する時間が圧倒的に不足していたので、、、
「冒険者の方達は野外活動が多いので大変ですよね、、、」
当初は一般向けに考えて低コストになるように考えていたために、雨対策は正直手薄であった。
「うーん 手はあるのですが、、時間が、、、」
前世では雨にも強いマッチが確かに存在していたが、今はそれに着手する余裕がない。申し訳ないがもう少し時間が欲しい、必ず要望に応えますので、、、
「「マリー姉ちゃん お腹が空いたよ、、」」
おっと この家の腹空かしキッドがお出ましだ、ここは俺に任せて彼女は子供の食事をお願いする。彼女は笑いながら夕食の準備へと二階へ移動して行った。
バルベラさんの工房に住みついて三か月近くが過ぎようとしていた、当初はのんびり仕事の流れとか製品作りに日々を過ごしていたが、色々な品に手を出してからはバタバタと毎日が過ぎて行く。
はっきり言って虚空庫での自動作製モードが無ければとんでもない日々を過ごしていた事になる、大量生産に毎日努めてもこんなに忙しい日々であった。
まぁ その反面かなりの実入りが入って来るのだが、でも新規開発への時間が足りないのが現状でもあった。確かバルベラさんは適材がいればスカウトしてくると出かけたが、出来れば是非とも人数捕獲をしてきてもらいたいのが今の現状である。
「「お兄ちゃん おやすみなさい。」」
バルベラさんが不在の時は私の部屋で寝泊まりするのにすっかり慣れた子供達であった。
急遽ベットを1つ追加して子供達2人で同室で寝ている。安全な地方の田舎と言えども万一に備えて子供達と寝ているのだ。
暫くすると子供達は寝息を立てて夢の中へと落ち込んでいくが、彼は少し寝つきが悪くぼんやりと今後の自分の対応を考えていたのだ。
うーん、、このまま平和な時間で過ごしていたいが、場合によってはこの地から出ていく事も今後考えなければな、、
一番の問題は隣国による彼の探索の手が伸び始めている事であった。バルベラさんによると隣国の其れなりの高官からの指示が出て自分の探索が開始されている事であった。
むむむ、、ここは隣国と言えど左程あの国と離れた場所ではない、隣国からの調査員が侵入している可能性もあるな。
国に取り込まれる可能性があるのは迷惑でもある、この世界のほんの一部分しか自分はまだ知らない。この世界の興味はまだまだ尽きないからだ、ここで国の体制に取り込まれるのは正直好まない。
幸いに彼の虚空庫には生活に必要な物資や金貨に関して不自由は無いのが現状だ、こんな恵まれた環境ならばもっと離れた環境での好き勝手な暮らしが頭に浮かんでくる。
ふと思ったのはあの秘境の森に棲む師匠が住む場所だが、まだあの地へ戻るには早すぎる。更に彼は当初の予定地も思い出す。
そうか亡き勇者が住んでいた国はこの国と隣国になるのだな、、、
元々その国に師匠と出かける予定での旅立ちであったが、肝心の勇者が無くなったとの知らせを受けて急遽師匠は旅立ちを中止したのだ。
どうするか、、仕入れた情報ではこの地から北西に進み日数が約2週間で隣国のラルド王国に到達するらしい、その首都が最近亡くなった勇者の住んでいた場所になるらしい。うーん、、ラルド王国は今ではある意味通過点に過ぎなかったが一度は顔を見せておきたい場所でもあるな、、。
同じ異世界の同郷者として一度は彼の墓前に手を合わせておきたいという気持ちがある。暫しの長考の末にこの地での一段落がついたら向かうべき場所と心に決める。その後の事は分からないが他国へと流れるかその地の近くに住みつくのかは状況次第であった。
ふぅー 隣国からのちゃちゃが入る前にこの地から離れるのがベストかな?
バルベラさんにより新しい従業員が決まるなら、仕事の引継ぎ等を済ましてなるべく隣国の手が届かない場所へと移動すべきと彼は決定した。




