5-10 ギルマス達の憂鬱
「・・シェリーさん 怪我は無いか?!」
涙でその男の顔がぼやけてはいたがその声は確かに想像した人物の声に間違いはなかった。
・・た タローさん?!
彼女は夢中になりその男の胸元へと飛び込んでいくのであった。
「うん 無事でよかった、、間に合って本当に良かった、、、」
その男もしっかりと彼女を抱きしめてにっこりと微笑む。
そんな二人の感動?の瞬間を隣の部屋のドア越と地下室から顔を上げた何人かの住民に見られていた。
「・・なんですと!教会を襲っていたワイバーン2体を彼一人で退治したと、、、」
何とか遠征隊が帰還して全員にて襲ってきていたワイバーンを追い払う事に成功して一息ついていたところに、とんでもない知らせが持ち込まれていた。
「「「・・一人で2体退治?!冗談だろう、、、」」」
近くで話を聞いていた冒険者や支援者達が呆れたように皆が呟いていた。
「いえ、、彼の後から手の空いた者達を派遣して、その者達の一人が現場を見て報告の為に至急に戻ってきたところです、、私も実際この報告がまだ信じられなくて、、、、」
取次の者もこれは本当の話かと報告を一度は疑ったそうだが、その冒険者は実際にこの目で死骸を見てそしてその証人達が教会内に腐るほど居る と憤慨してしまう。
「・・彼ならワイバーンを追い払う事が可能とは思いましたが、、1体ではなく2体を相手にしてしかも退治したとは、、、、」
流石のギルマスと副ギルマスも唖然として硬直していたが、副ギルマスにふと振り向き。
「・・ギルマス 良ければ私は教会に行ってみたいと思います、、」
彼はギルマスの許可を取り何人かの腕利きの冒険者と共に副ギルマスは教会へと足早に歩き出した。
「何箇所も町の中が破壊されて煙を上げている家もあるな、、」
副ギルマスは町の中が一見して荒れ果てた姿を苦渋の顔で見つめていた。
「・・10年前はもっとすごかった、あのワイバーン達は好き放題暴れて何十人もの被害者が出たのだよな、、」
彼は誰に言うのでもなく、独り言のように話し出していく。
「それから考えると今回はかなり被害は少なくて済んだ様だ、無論前回に懲りてもしかに備えてはいたが、結果的に5体のワイバーンの死骸の内に彼が一人で2体も始末してくれたとは、、」
「「副ギルマス、、彼は何者なんですか?俺は最近までは彼が薬草採取専門と考えていたのですが?」」
「それについ数ヶ月前にこの町に住みつき、そもそも冒険者活動などほとんどしていない彼を何故今回メンバーに、、、」
同行している冒険者達はタローの事は殆ど知らなかった、今回遠征隊に配属されて皆が不思議そうに彼を見つめていた。彼の唯一の活躍の場と皆が認識しているのはライトの魔道具を作り配給した事だが、ワイバーンとの戦いのときに夜間は不利と魔物達はその場から逃げ出そうとしていたが、彼が密かに魔物達の翼を銃で大きな穴をあけて結果的に魔物は冒険者と地上戦を行わざるを得なかった。戦いに夢中な冒険者はそんな彼の功績に気付かずに今回のワイバーンの大量攻略に成功したのだが、彼はそんな事は誰にも語らずに功労の名誉も誰にも気づかれなかった。いや、ただ一人彼の功労を認識していた者がいた、後方から大声で冒険者達に指示を出していたこの副ギルマスが彼の行動を注意深く見ていたのだった。
「・・その件は今は皆に言えない。彼が今回の遠征隊にどれだけ功労したのかはやがて分かる時がくる、その日まで暫く待って欲しい。そして間違っても彼が役に立たなかったなどと笑いものにする事は絶対にこの私が許さない。これは私個人の意見ではなくギルマスも承知している事だ、、」
突然の強い言葉に同行している冒険者達は皆が思わずその口を閉ざしてしまう。
「・・この教会か うん何やら内部が騒がしいが、、、」
訝し気に教会内に入った一行は、女性達が炊き出しの準備に追われながら、その周りを飛び跳ねている子供達と皆が楽しげに笑い合っている姿に少し呆気に取られていた。
確かに危機は過ぎ去ったが、ワイバーン襲撃によるショックからまだ立ち直っていないと思っていたのだが、、。
「「・・あっ 副ギルマス! お疲れ様です、お先に暖かい炊き出しを頂戴していますが、皆さんもどうですか?」」
そう勧めたのはタローを支援すべき派遣された数名の冒険者であった。
「・・いやー この教会の地下倉庫には贅沢な品が沢山備蓄してましてね。せっさくですからそれを利用して女性陣が自発的に炊き出しを作って頂いたんですよ、、」
何故にこんなにもこの場は緊張感が薄れているのかと、視察に来たメンバーは呆然と見つめていた。
「・・ごほん 馳走は後にしてワイバーンの死骸を見たいのだが?それとタローは何処に?」
「あっ 死骸はこの奥の部屋に、、それと彼はシェリーさんを店に送り届けるのと序に店の被害は無いか確認しに出ています。直ぐに帰ると思いますが、、、」
・・はい?まだ完全に安全になったとは断言できないのに、、二人で店にいったん戻った?
何故にこの教会の場だけこんなにも空気が緩いのだと 彼等は信じられない光景を見ていた。
「・・見てみろ、、こんなワイバーンの死骸など見た事もないぞ、、」
2体とも頭部を破壊されていた、しかし1体は頭部の約半分が吹き飛ばされ もう一体はほぼ完全に頭部が紛失に近い破壊であった。
「・・他には目立った損失はないな、、」
「此方を見て下さい、翼に大きな穴が、、、」
「「どうすれば こんな倒し方が出来るのだ?」」
室内では大きなワイバーンに飛びあがっての攻撃は無理がある、皆が頭を傾げるのも無理はない。
・・これはあの時に見た彼の攻撃に似てはいるが、、。
この副ギルマスはワイバーンの巣での戦闘時に見た、彼の攻撃に相違しているがここまで大きな穴ではなかったと記憶していた。
あの時もワイバーンの翼に穴がある事に気付いた冒険者が何人かいたが、戦闘時における傷跡とあまり注意を皆は見せていなかったのだ。そんな事より止めを刺す行為に皆が夢中で魔物の体は無数の傷跡が冒険者達により切り込まれていたからだ。
この傷穴は彼ではなくシェリーよる攻撃の結果に刻み込まれたのだが、そんな事は検証する彼等には解らぬ事であった。
「「「・・これ程綺麗にワイバーンを倒すとは、、」」」
遺体の資材活用には正しく最適な死骸であったからだ。
「・・彼に後で尋ねてみよう、それよりこれを運びたいので荷車を手配できるか?」
ワイバーンの巣では輸送に関しては人力の為にかなり切り刻んだのだが、この2体はまるまる活用できるからだ。
「・・えーと 皆さん、ご苦労様です、、」
突然彼等の後方から緊張感のない声が響いた。
・・タロー君、、?
振り向いた副ギルマスが、今帰りついた彼がシェリー嬢と仲良く肩を並べていたのだ。
「・・ようやく戻って来たのか?少し聞きたい事が いや ここではあれか、、後日私に会いに来てくれるか?尋ねたい事が山ほどあるのでな、、」
タローは何かを感じたのか少し嫌な顔をしていた。
「・・荷車の手配が出来ました」
冒険者達が住民の手助けを借りてワイバーンの移動へと働きだしていた。
「君には感謝しているよ、、、」
いったんギルドへ引き上げようと彼等は出て行くが、副ギルマスが出て行く時に彼の肩に手を置いて感謝の言葉を述べて部屋から立ち去って行った。
「・・タローさんは戻らなくても?」
「うーん、、今帰ると少しヤバいかな?後日来てくれとの言葉に甘える事にします、、」
「・・?!」
シェリーにはそこらの経緯が良く理解できなかった様だが、彼の傍にまだ居られると微笑んでいた。
「・・ほうほう 一撃に近い状態で仕留めていたと?」
「・・はい ギルマス、唯々半分呆れたり驚愕したりと、、、」
「そうですか、、予想以上に厄介な存在ですね、、あの異世界人は、、、、」
「・・本部や国も動きそうですか?」
「報告次第でしょうが、、本人ともその辺りは良く話し合ってからですね、、」
ギルド内の個室で向かい合っている二人は深いため息を吐き続けていた。
「・・しかし 勇者ケンタロウに続きまたしてもあのような男が、、辺境の町のギルマスからはどんな報告が?」
「それなんですが、、報告書には本人は冒険者には向いてないと思っているらしく、静かに暮らしたいと思っているらしく、、」
「・・言っている事と行動結果が違いますな」
「・・まったく 悩まされる男ですな、、、」
今はこの件に関わっている暇がない、当初のワイバーン問題はまだ完全に解決していないからだ。これからも急なワイバーン襲撃に備えての警戒はしばらく続いて行くものと思われる。
「「・・はぁーーー」」
後日彼を呼び出し改めて話し合いを行う事で二人は目先の仕事に全力で向かう事にした。
「・・タローさん、今日は店に私も泊っていきます、、」
彼女の実家に送り届けようとしたタローは思いがけない言葉に少し考えていた。
彼は単にワイバーンとの恐怖に一人で家に帰るのに彼女は怖がっていると考えていたのだが、彼女は当然それもあるが、もっと重要な考えを実行する為に店に泊まる決心をしていたのだ。
「・・そうですね 怖い思いをしたでしょうから、、店に泊まっていくのが良いのかもしれませんね?」
少し彼女との考えとは差異があるのだが、彼女はそれに何も反論せずに彼の腕に掴まりながら体を預けて夜の道を二人は歩き出していた。




