第8話
本作は自分の考えた世界観やキャラクターをもとに、小説の文体化をChatGPTにサポートしてもらいました。物語そのものはすべて自分の手で作っています。
ギルドの奥にある小部屋で、イヴァンたち『蒼銀の翼』は集合していた。
「そろそろ、来ますかねえ」
ルカがニヤついた顔でこちらを見てくる。その視線が癇に障り、イヴァンは睨み返した。
「あ、嘘です。ごめんなさい」
「……ルカ、どうしたの?」
ラリッサに問われ、ルカは視線を泳がせた。
「いや、ちょっと……」
その時だった。扉が開き、部屋に入ってきたのは『灰色の刻』の三人だった。
「よぉ、すまんな。待たせたか?」
リーダーのダニールがハルバートを抱え、空いている手を軽く挙げながら入ってくる。続いて弓を背負ったミハイルと、杖を携えたアンドレイが後ろに並んだ。
「いや、まだ全員揃ってない」
「そうかそうか。……おっ! ラリッサちゃん、元気にしてたかい? 会えて嬉しいよ。やっぱりさ、パーティに女の子がいるって最高だよな〜」
ダニールが距離を詰めると、ラリッサは慌ててボグダンの背後に隠れた。それを見て、ダニールは肩をすくめる。
「おい、やめろダニール。他所のパーティと揉めるのはごめんだ」
「はいはい、わかってますよ。ったく、口うるさいな。お前は母ちゃんか」
「誰が母親だ」
イヴァンは額に手を当て、深く息を吐いた。……そうだった。こいつは、こういう男だ。サーシャのマイペースさだけでも頭が痛いというのに、ダニールまで加わるとなると、正直先が思いやられる。
「やめなよアンドレイ。ダニールは女の子に声をかけないと死んじゃう呪いがかかってるんだ。可哀想なやつなんだよ」
「そうなのかダニール。それは悪かったな」
「いや、呪いじゃねーよ!」
「呪いじゃないらしいぞ?」
「え? じゃあ病気かな?」
「不治の病か?」
「病気でもねーよ! ……いや待てよ。不治の病って、ちょっと格好よくね? いいな、それ。今度からそれで──」
「……何言ってんの、この人たち……」
ルカがぼそりと呟いた、その直後だった。慌ただしい足音が近付いてくる。そして、よく通る少し高い声が響いた。
「──もう! お兄ちゃんがのんびりしてるから! 絶対これ遅刻だよ! 初日に遅刻とか恥ずかしいよぉ!」
勢いよく扉が開く。
「すいません〜! 遅くなりましたーー!」
明るい声と一緒に、まるで陽光そのものが飛び込んできたかのようだった。数日ぶりに見るカティア嬢は、相変わらず太陽みたいに眩しくて、どこか甘い香りがした気がした。
「おおお! カティアちゃんじゃねーか! 嘘だろ! なに? もしかして俺たち同じ班?! やばい、テンション上がるな!」
ダニールが興奮した様子で手を伸ばす。許せるか、とイヴァンは思い、反射的にその手を強く掴んだ。
「……え、ちょ、指……」
間の抜けた声が、ダニールの口から漏れた。
「ダニール、いい加減にしろ。俺たちは依頼を受けるために集まっている。遊びじゃない」
「……あー、悪かったイヴァン。もうふざけないから、その……手、離してもらっていいかな……」
掴んでいた手を放し、イヴァンはカティア嬢に向き直った。
「やあ、カティア嬢。これで全員揃ったようだ。では、早速現地に向かおう」
「あ、はい」
屈託のない笑顔だった。……不意を突かれたように、胸が騒ぐ。
「……アンドレイ、悪い。魔法かけてくれない? なんか指、折れたっぽくて……」
「お前は本当に学習しないな」
「ひぇ……。リーダー、今の本気だった……」
「あれはダニールさんが悪いよ。いきなりカティアちゃんに手を伸ばすんだもん。ね、ボグダンさん」
「そうだな」
「ちょっと待て。どういうことだ? もしかして、俺だけ何も知らない感じか?」
デニスが慌ててラリッサに小声で尋ねる。
「カティアちゃんは、リーダーの……こそこそ……」
「……嘘だろ。あのリーダーが?」
声を潜めているつもりなのだろうが、全部聞こえている。イヴァンは無言で扉を開け、振り返って全員を睨みつけた。
「お前ら、全員さっさと準備をしろ。現地に向かうぞ」
その一言で、全員が背筋を伸ばし、慌ただしく動き出した。
……はあ。イヴァンは小さく息を吐く。こんなことに苛立っている場合じゃない。それよりも問題なのは、この、ふてぶてしくやる気のない顔をした、見た目だけは子どもみたいなその存在だ。仕事とはいえ、これから何日も一緒に行動しなければならない。
こんな調子でいては、仲良くなるどころか、依頼を完遂できるかどうかすら怪しい。……本当に冷静でいられるのか。
イヴァンたちは馬車で街の東へと街道を進み、ザリヤ川に架かる石造りの大橋へと辿り着いた。
街道の両脇には背の高い樹木が立ち並び、その先には昼でも薄暗い林が迫っている。あの林は、“街道喰らい”が身を潜めるには都合がいい。
ロドミール側の橋脚が三割ほど崩れ落ち、破壊された石材が無残に積み上げられている。あちこちに残る“街道喰らい”の糸が、沈みかけた夕陽を受けて異様に反射していた。
作業途中の痕跡が生々しく残っている。修復はまだ始まったばかりのようだった。職人たちはすでに街へ引き上げた後で、周囲は不気味なほど静まり返っていた。
「レオニード、“街道喰らい”の気配はどうだ?」
イヴァンの問いに、レオニードは周囲を見回しながら首を振る。
「分からないな。この糸が厄介だ。索敵を邪魔してる」
「……つまり、いつ現れてもおかしくない、か」
思っていた以上に神経を使う依頼だ。一晩中警戒を続け、もし現れれば即戦闘になる。気を抜く暇はない。
「イヴァン。索敵が使えない以上、交代制で警戒するのが無難だ。班分けを頼む」
「分かった。全員、集まってくれ」
レオニードに促され、イヴァンは全員を呼び集めた。
「これから交代で警戒にあたる。人員は三班に分ける。一班目は俺、ルカ、デニス。二班目はレオニード、ボグダン、ラリッサ。三班目は『灰色の刻』だ」
ここまでは問題ない。残るのは──
「それから『なかよし団』の二人だが……戦力のバランスを考えると、カティア嬢はレオニードたちの班に──」
「はあ?!」
「はいぃ?」
「なんだと!!」
言い切る前に、三方向から同時に声が飛んできた。
「何言ってるんですかリーダー! カティアちゃんは俺たちの班でしょ!」
「ばか言え! なんでお前らの班なんだよ! イヴァンがいれば十分だろ! カティアちゃんは俺たちの班だ!!」
「ダメです! ダニールさんと一緒なんて危険です! ランク的に考えても、イヴァンさんの班です!!」
「そーだ! そーだ!」
「だったらラリッサちゃんが俺たちの班に来てもいいんだぜ?」
「おいダニール! 他所のパーティと揉めるなって何度言わせる!」
「は? 揉めてねーだろ? 俺にだって選ぶ権利があるはずだ!」
「下心しかないじゃないか」
「そーだ! そーだ!」
「違うよアンドレイ。ダニールは女の子と喋らないと死んじゃうんだ。可哀想だろ」
「そう、俺は不治の病なのさ……ふっ」
「そうか。だったら今すぐ死ね」
アンドレイの低い声が、場に残った騒音を一息で切り裂いた。……だめだ、収拾がつく気がしない。高ランクのパーティとは思えない有様だった。
その時、レオニードがイヴァンの肩に手を置いた。
「イヴァン。カティアちゃんはお前の班に入れろ。サーシャは俺たちの班で預かる」
「……分かった。じゃあ、カティア嬢は俺たちの班で。サーシャは──」
言いかけて、イヴァンは周囲を見渡した。全員集めたはずだが、サーシャの姿がない。
「……サーシャはどうした?」
「あ、お兄ちゃんなら、さっきお腹空いた〜って……あ、あそこです!」
カティア嬢が指差す先を見ると、サーシャが大量の食材に囲まれ、大鍋をかき混ぜていた。
「ちょっ……何あれ!? どっからそんな量持ってきたんだよ!」
「え、美味しそ〜。サーシャ、僕にも食べさせて〜」
ミハイルが駆け寄り、サーシャに縋り付く。嫌そうな顔をしながらも、サーシャはスープを分け与えた。
「あ! ずりーぞミハイル! 俺にもくれ!!」
「おい! お前ら! 少しは緊張感持て! 俺が恥ずかしいだろ!」
「うわ、なにこれ……めちゃくちゃ美味い……」
「……美味いな」
止めに行ったはずのアンドレイまで食べ始め、『灰色の刻』が完全に食事会を始めてしまった。
「うわー……美味しそー……」
ルカが羨ましそうに呟く。カティア嬢も、もじもじしながら鍋を見つめていた。イヴァンは盛大にため息を吐き──諦めた。
「……とりあえず、食事にするか」
その瞬間、ルカが弾けたように走り出し、皆も後に続いた。
イヴァンは一人、拳を握りしめた。掻き回された状況を収拾できない自分に苛立つ。個人的な感情を判断に混ぜた報いかもしれない。
いや。仮に『なかよし団』を選ばなかったとしても、『灰色の刻』がいる以上、結果は変わらなかっただろう。……これは、リーダーとしての統率力の問題だ。情けない話だな。
その時、ルカの声が響いた。
「あ! ずるい、レオニードさん! 俺らより先に料理もらってる!」
嘘だろ……。あのレオニードまで……。その光景に、イヴァンの肩はがっくり落ちた。
緊張感を持っているのは自分だけか? “街道喰らい”がいつ現れるかわからない状況で、こんな悠長に食事をしていていいのか。
イヴァンは小さく息を吐き、皆のところへ向かった。
「あ、イヴァンさんも食べてください。美味しいですよ」
ラリッサが器を差し出す。イヴァンは仕方なくそれを受け取り、口に運んだ。
「……美味い」
思わず言葉が漏れた。確かに料理は美味い。でも、作った人間とタイミングが気に入らない。
全員の視線が自分に注がれるのを感じ、イヴァンは軽く咳払いをして言葉を続けた。
「……料理はさておき、さっきの話だが、食事しながらでもしっかり頭に入れておいてくれ」
そう言っても、黙々と食べ続けているやつがいる。……こいつはもういい。最初から人数に数えない方が正解かもしれない。
「“街道喰らい”は索敵に引っかからない。夜通し警戒が必要だ。
まず一班目が周囲を警戒に当たり、二班目は火の番をしつつ軽警戒、三班目は休憩に入る。この三班を交代で回し、朝まで警戒を切らさない。
もし“街道喰らい”が現れたら、警戒班が応戦中に火の番の班が休憩中の班に知らせる。全員合流して確実に仕留める。
その際、前衛は俺とダニールとボグダン。中衛はルカ、デニス、アンドレイ。アンドレイは状況に応じて回復に回ってくれ。後衛はミハイルとラリッサ。レオニードは今回、後衛の守りと場合によっては中衛の手助けを頼む」
イヴァンの言葉に皆が頷き、真剣な眼差しで彼を見ている。
「それから、『なかよし団』の二人は無理のない範囲で参加してくれ。各々の判断に任せる。
レオニード、もし無理を感じたら止めてやってくれ。ラリッサは二人を優先的に回復を頼む。
カティア嬢、剣士だからといって無理に前衛に来なくていい。自分の力量に合わせて立ち回ってくれ」
「はい♪」
カティア嬢が明るく返す。その笑顔がふっと胸に響き、思わずイヴァンの口元も緩んでしまった。緊張で硬くなっていた体が、少しだけほぐれていくのを感じる。
「以上だ。食事が終わったら早速配置についてくれ」
そう言い、イヴァンはその場に腰を下ろした。だが、周囲の静けさが先程までと違うことに気づき、顔を上げる。
すると、『なかよし団』以外のほぼ全員が、じっとイヴァンの顔を見つめていた。軽口や雑談はどこへやら、その視線に違和感を覚えた。
「なんだ?」
「……イヴァン。そうか、お前そうだったのか」
唐突にダニールが言った。その時、視線の正体に気づいてイヴァンの顔が一気に熱くなった。あの“生温かい目”は、かつてルカが向けていたものと同じだった……。
耐えきれず、イヴァンは思わず立ち上がった。
「そんな目で俺を見るな!」
「イヴァン、いいんだよ。わかってる。だがなっ! だからといって譲る義理もねぇ! 今日からお前は俺のライバルだ!!」
「うるさいダニール! 他所のパーティと揉めるなと何回言えばわかるんだ! それにお前、相手は誰でもいいんだろ! イヴァンに譲ってやれ!」
「馬鹿野郎! 誰でもいいわけないだろ! 最高な女が、最高に決まってるだろ!!」
「黙れケダモノ」
「アンドレイ、よくないよ。譲るだなんて女の子に失礼だよ。それにダニールは女の子に相手にされないんだから譲りようがないじゃないか」
「確かに、すまんダニール。お前のモテなさをバカにしてた」
「そこ謝るなよ、泣くぞ?」
くだらないやり取りの中、食事は終わった。イヴァンたちは一日目を無事に過ごしたが、“街道喰らい”は、結局その夜は現れなかった。
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