第5話
本作は自分の考えた世界観やキャラクターをもとに、小説の文体化をChatGPTにサポートしてもらいました。物語そのものはすべて自分の手で作っています。
サーシャが先に店を出ていったあとも、カティア嬢は相変わらず怒った顔のまま、料理を頬張っていた。忙しそうに口を動かしながら、不満を隠す気はまるでない。
「もう! いつもいつも!」
その様子を見て、ルカが苦笑いを浮かべながら声をかける。
「俺が無理に付き合わせちゃったかな? なんか怒ってたみたいだし……あはは」
カティア嬢は少しだけ肩の力を抜き、ため息混じりに答えた。
「お兄ちゃん、いつもあんな感じなんです。家族以外で喋ったところも、ろくに見たことないですし。お気に入りのパン屋の亭主さんとはよく喋ってますけど──あ、でも、今日は珍しくルカさんとは喋ってましたね!」
「え、あれって喋ったうちに入るの?」
ルカが、また苦笑いを浮かべた。イヴァンはそのやり取りを聞きながら、ずっと引っかかっていた疑問を口にした。
「カティア嬢。どうして、兄と二人だけでパーティを組んでいるんだ? ……あの性格だ。二人きりじゃ、受けられる依頼にも限界が来るだろ」
「ん〜〜〜。大丈夫です! お兄ちゃん、凄くすっごく強いんで! それに可愛いし!!」
「んん?」
ルカが、また思わず変な声を出した。イヴァンも小さく息を吐く。またそれか。正直、カティア嬢の価値基準はよく分からない。だが、その無邪気すぎる笑顔を前にすると、なぜか強く否定する気が削がれてしまう。
「カティアちゃん、随分、可愛いを強調するよね」
「可愛いは凄く大事です! 可愛いは幸せの元なんですよ〜♪ 私のお兄ちゃん凄く可愛いんで♡」
「つまりサーシャと居ると幸せってこと?」
「はい♪」
即答だった。その瞬間、イヴァンの胸の奥がきゅっと締め付けられる。もし自分が家を出ず、モラナのそばにい続けていたら──彼女も、こんなふうに自分を慕ってくれただろうか。あるいは、出ていく時に連れていくという選択肢はなかったのか。
……いや。どちらも、今さら考えても仕方のないことだ。
やがて食事を終え、一行は店を出た。
「それじゃあ、ご馳走様でした!」
「いや、結局、サーシャが金を置いていったからな。俺たちは奢れてない」
レオニードが淡々と訂正する。
「でもみんなで食事するの楽しかったです♪ では、また〜」
「またね、カティアちゃん」
ルカが手を振ると、カティア嬢は大げさなくらい両手を振って去っていった。イヴァンも小さく手を上げ、その後ろ姿を見送った。
……その直後だった。
「……リーダー、カティアちゃんの事、好きになっちゃいました?」
「──な?!!」
あまりにも唐突な言葉に、イヴァンの思考は完全に止まった。息が詰まり、何か言おうとして口は動くのに、声が出ない。
「自覚ないのか?」
レオニードの一言で、ようやく肺に空気が戻る。
「なにを根拠にそんなことを言っているんだ!! そ、そんな訳ないだろ! 出会ってまもないんだぞ?!」
「リーダー……恋に時間は関係ないですよ」
ルカがフッと鼻で笑い、生暖かい目でこちらを見る。──ああ。腐葉の森で感じた、あの嫌な視線。今さらながら、同じものだと気づいてしまった。無性に腹が立ち、イヴァンは反射的にルカの耳を引っ張った。
「イテテテテッ!! 何するんですかっ!!」
「……勝手なことを言うからだ」
そう言い捨てて歩き出す。レオニードが黙って続き、慌ててルカが追いかけてきた。
顔が熱いことを自覚するのも癪なくらい、どうにも落ち着かない。自分が、カティア嬢を? 馬鹿な。そんなはずはない。……そう、イヴァンは必死に自分に言い聞かせていた。
それからというもの、イヴァンはどうにもカティア嬢を意識してしまうようになった。ギルドや街で彼女の姿を見かけるたび、気づけば視線がそちらへ向いている。そのことに気づくと慌てて目を逸らすのだが、なぜか次の瞬間には、また彼女を追っている。そしてそのたびに、背後から向けられるルカの生暖かい視線を感じるのが、心底気に入らなかった。
そんなある日、ギルドの掲示板の前でカティア嬢を見かけた。気のせいか、いつもの朗らかさはなく、どこか落ち着きがない。
「セ、セ、セ、セルゲイ……。あわわわ」
小さく呟きながら、掲示物を食い入るように見つめていた。
「やあ、カティア嬢」
声をかけても反応がない。
「ど、どうしよう……。あのことがバレてたら……。お父さんとお母さんにもバレちゃうんじゃ……」
どうやら完全に思考の海に沈んでいるらしい。その時だった。
「リーダー!」
「きゃあっ!」
ルカの呼び声に、カティア嬢が肩を跳ねさせ、小さく悲鳴を上げた。
「いい依頼ありましたか? ……て、あれ、カティアちゃんもいたんだね」
「ルカさん! あ、あれ? イヴァンさん!」
ようやくこちらの存在に気づいたらしく、慌てていつもの笑顔を作る。どうやら本当に、さっきまでイヴァンが目に入っていなかったようだ。
「慌てて、何かあったのか?」
「いえ。あ、この依頼を受けようかな〜って思ったんですけど、どれくらいの数が出現するのかなあって思って! えへへ」
そう言って、カティア嬢が掲示板の一角を指さした。目を向けると、ギルドからの直接討伐依頼が貼られており、その横に関連書類が添えられている。
──────────
精霊学研究報告・抄録
記録者:セルゲイ
件名:腐葉の森における角兎の異常集積について
腐葉の森において確認された角兎の大量発生は、一般的に想定される繁殖・増殖によるものではない。本件は、短期間における高密度の精霊残滓の消失に起因する、精霊流動の変化による現象であると推察される。
森内部に長く滞留していた強度の高い歪みが急速に解消された結果、局所的に魔力圧が低下し、周辺領域に押し留められていた軽度の歪み(低位残滓)が、一斉に流入・集積した可能性が高い。このため観測された角兎の増加は、生態的な意味での「発生」や「繁殖」ではなく、押し出され、集められた結果として現れたものである。
なお、当該個体群はいずれも残滓密度が低く、単体での脅威は小さい。しかし集積数が多いため、人的被害および周辺環境への影響は無視できない。
本現象は、精霊循環が回復過程に入った兆候の一つと考えられるが、同様の流動が他地域でも起こり得るため、継続的な観測と早期対応が望ましい。
以上をもって、本報告の抄録とする。
──────────
記録者、セルゲイ。どこかで聞いたことがある気がして記憶を探ったが、はっきりとは思い出せない。ただ、先ほどカティア嬢が小さく呟いていた名も、確かにセルゲイだった。
「角兎の討伐だね。ギルドが直接依頼出してるくらいだから、それなりの数は出現するんじゃないかな?」
ルカがそう答えた、その直後だった。
「カティア。なんかいいのあったか?」
背後の低い位置から声がして、カティア嬢がびくっと肩を跳ねさせる。
「お、お兄ちゃん! えっと、いやあ、これなんかいいかなって思って!」
そう言ってカティア嬢は、ばんっと、明らかに不自然な姿勢で掲示板を指さした。どう見ても、抄録をサーシャの視線から遮ろうとしている。あまりにも露骨で、イヴァンにも一目で分かるほどだった。
案の定、サーシャもその違和感に気づいたのか、無言のままカティア嬢をじっと見つめている。カティア嬢は笑顔を崩さないまま、指さした姿勢を頑なに保っていた。
しばらく、時が止まったような沈黙が続く。イヴァンは思わず息を詰め、その成り行きを見守っていた。
「いいんじゃない。それにすれば」
ため息混じりに、サーシャがそう言った。カティア嬢がほっと胸を撫で下ろした、その瞬間だった。
「あ! 良かったら、うちのパーティと合同でやらない? 今日はうちのメンバー二人いないからさ〜、気楽な依頼にしようと思ってたんだよね〜」
「おい! ルカ! 何を勝手に言ってるんだ!」
慌てて制止しようとした、そのとき。ルカが一歩近づき、声を落として囁いてくる。
「リーダー。カティアちゃんと一緒にいられるチャンスですよ」
「だから、そんなんじゃないと言っているだろ!」
否定したはずだった。それでも、気づけば視線はカティア嬢へと向いてしまっている。もう少しだけ見ていたい。そんな気持ちが、どうしても抑えられない。
……イヴァンは、自分でも理由の分からないその感情に、戸惑いを覚えていた。
「ね! どうだい? カティアちゃん」
「え、いいですね! 楽しそう!」
「ね! リーダー!」
ルカが同意を求めてくる。これは恋を認めたわけじゃない。断じて違う。……それでも、断る理由が見つからなかった。
イヴァンは小さく息を吐き、サーシャへ視線を向けた。相変わらず無関心そうに、こちらのやり取りを眺めている。その様子が妙に癪に障り、冷ややかな目を向けたまま、口を開く。
「足を引っ張らないなら、いいだろう」
「俺、嫌なんですけど」
「なっ──!!」
言い返そうとした、その瞬間。ルカが一歩前に出て、間に割って入った。
「ま、まあ、まあ、リーダー。サーシャも、無理にとは言わないけど、たまにはこういうのもいいんじゃないか? 報酬は勿論人数で分けるから、それなりに美味しいと思うよ」
「お兄ちゃん、イヴァンさんたちと一緒にやろうよ! こういうのしたことないから、やってみたい♡」
「はあ、面倒くさい。好きにすれば」
「やったぁ〜♪」
ルカの軽い説得と、カティア嬢の無邪気な後押しに、サーシャは大きく息をつき、結局折れた。
……それにしても、「面倒くさい」とは何だ。正直、サーシャと一時的とはいえパーティを組むなど、憂鬱でしかない。イヴァンは、自分の神経が最後までもつ気がしなかった。
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