第38話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語・設定・キャラクターは作者自身が作成し、文章の推敲や表現の整理にAIを活用しています。
そのため、本作はAI利用区分を「AI直接使用」に設定しています。
朝の光が中庭の木々の隙間をすり抜け、体を濡らす汗を朝露のように輝かせていた。レオニードは、いつものように双剣を振るっていた。
まだ誰も起きていない家の中は、静かだった。いつもなら、これくらいでイヴァンが起きてきていた。
いないとなると寂しいものだな……。そう思い、レオニードは剣を振る手を止めた。
ふと、小さく息を吐くと、一階の奥から物音が聞こえた。
見ると、ボグダンがこちらを向きながら廊下を歩いている。目が合い、ボグダンが窓を開けて声をかけてきた。
「おはよう、レオニード。何か飲むか?」
「ああ」
短く答えると、ボグダンが頷いて窓を閉めた。
……汗を流してくるか。手で汗を拭うと、レオニードは着替えを持って浴室へと向かった。
軽く汗を流した後、広間に行くとラリッサがテーブルに着いていた。
「あ、レオニードさん。おはようございます」
「ああ、おはよう。……ラリッサ、顔色が悪いな」
青白い顔をしたラリッサがぎこちなく笑ってみせた。
「ちょっと、夢見が悪くて……」
そう言うラリッサを、レオニードは黙って見つめた。ラリッサが気まずそうに俯く。
「その……あれ以来……時々怖い夢を見るんです」
「【暗穴の墳墓】の時のことか」
レオニードが尋ねると、ラリッサは小さく頷いた。そして、俯いたまま声を絞り出すように話す。
「夢に……返り血を浴びたサーシャが出てきて……みんなが次々と斬られて……それで……」
そこまで聞いて、レオニードはテーブルをトンと軽く指で叩いた。
「大丈夫だ。今は無理するな」
レオニードはそう言うと、ラリッサの視線を誘導するように指を動かした。その先にラリッサのカップが置かれる。ボグダンがラリッサの分のお茶を入れてきたのだ。
ボグダンはラリッサを見て優しく微笑んだ。
「……ありがとうございます」
それから、ボグダンがレオニードにもお茶の入ったカップを渡した。レオニードは受け取ると、二人から少し離れた位置に座った。
「ボグダンさん……あの……。少し、手を握ってもらってもいいですか?」
ラリッサが恥ずかしそうに言うと、ボグダンは少し驚いた様子だった。それでもラリッサの隣に座り、そっとラリッサの小さな手を、その大きな手で包み込んだ。
ラリッサの安心したようなその顔と、ボグダンの優しく微笑むその表情を見て、この二人はいつか一緒になるのだろうなとレオニードは思った。
ただ、それはすぐの話ではないだろうが、そう遠くない話でもあるだろう。そうなったら、この二人はこの家を出ていくのだろう。そこまで考えて、その先を考えるのをやめた。
そこからは自分には関係ない話だ。
「ラリッサ。今日は休め。ルカとデニスが起きたら、三人で依頼を見てくる。ボグダンはラリッサのそばにいてやればいい」
レオニードのその言葉に、ラリッサの顔が赤く染まった。
「なっ! 何言ってるんですか! べ、別に、休むんだったら一人でも大丈夫です!」
ラリッサがむきになって言うが、レオニードはくすりと笑っただけで何も言わなかった。
そのままお茶を飲むレオニードを見て「もう!」と声を上げるものの、ラリッサは諦めて自分もお茶を啜った。
すると二階からドアの開く音がして、ルカの声が響いた。
「デニスさーーーん! 朝ですよー! 起きてくださーーい!」
ルカがデニスを起こすのが毎朝の日課になっていた。今朝はデニスがすんなり起きたのか、その後にルカが声を荒げることがなかった。
二人の歩く音が階段を降りてくる。
「うおっ!」
「──っえ! うわっ!」
声に続いて、ドタバタと大きな音がして二人が階段から転げ落ちてきた。
「いてて……ちょっとー、デニスさん。足元気をつけて下さいよお!」
「今ので完全に目が覚めた……」
「二人とも大丈夫か?」
レオニードが近寄って二人を見ると、大きな怪我はしていないようだった。
「うー、何とか」
ルカは立ち上がるとデニスに手を貸して立ち上がらせた。
「今日はラリッサの体調が悪い。ラリッサのことはボグダンに頼んだ。俺たちは三人で依頼を見にいく。支度が終わったら行くぞ」
「え、ラリッサさん、起きてて大丈夫?」
ルカがラリッサの方へ向くと心配そうに声をかけた。
「うん、ごめんね」
「大丈夫だ。簡単な治癒なら俺もできる。ルカ、怪我すんなよ」
「何で俺だけ?」
「レオニードさんが怪我する状況なら、俺たちは即死してるよ」
「なるほど……」
そんなやり取りをして二人が支度を終えると、三人はギルドまでやってきた。
掲示板を眺めていると、ルカが小さく息を吐いた。
「いいのがないですね。リーダーがいればこの辺の依頼が受けれるんだけど、これなんかはボグダンさんとラリッサさんがいないときついですよね……」
ルカが指差しながら話すとデニスが頭を掻きながら答える。
「そうは言ってもこの三人しかいないんだ。無理できない。やっぱり常設の依頼だろな」
「そうだな」
「じゃあ、デニスさんの大好きな山蜜熊ですかね?」
「俺がいつ大好きだって言った?」
「あー、はいはい。行きますよー」
ルカが手をひらひらさせながら歩き出し、デニスが文句を言いながら後を追った。レオニードも後に続いた。
それから、三人で依頼をこなして夕方にはギルドに報告を済ませた。
ギルドを出ると、デニスはいつもながら行きたいところがあると言って別の方向へ歩いて行った。
「レオニードさん。ラリッサさんに何か甘いものでも買って帰りましょうよ」
「そうだな」
返事をするとルカが歩き出したので、レオニードはそれについて行った。こういうことはルカに任せるのが一番だった。
レオニードがこうして目的もなく歩くのは久々だった。たまにはこうして歩くのも悪くはないのかもしれない。そんなことを考えていたらルカが立ち止まった。
「あ、そういえばここですよ、レオニードさん。サーシャのお気に入りのパン屋は」
ルカが指差す方へレオニードが視線を向けた。
そこを見て、レオニードの胸がどきりと高鳴った。
……どういうことだ? こんなところに、こんな店があったのか?
この通りは何度も通ってきた。しかしレオニードはこの店を見たことがなかった。
落ち着いた雰囲気の小さな店が、そこだけ別の世界のように歪んで見えた。
魔力とは違う、別の何かがその店を包んでいるような……そんな感覚に、レオニードは緊張を覚え、冷や汗が背中を伝った。
「レオニードさん?」
名前を呼ばれ、はっと我に返りルカの方に顔を向けた。
「ここのパン、みんなも美味しいって言ってたんですよね〜。買って帰ります? どうします?」
「いや、今日はいいだろう。それより、少し用事ができた。ラリッサへの菓子を買ったら先に帰っててくれ」
「……わかりました」
ルカが腑に落ちない顔をしながらも、何も聞かずにその場を去って行った。
ルカの姿が見えなくなるまで見送ると、レオニードは振り向き、もう一度パン屋を見た。
確かにそこにある。
……なぜ、今まで気づかなかったんだ。
レオニードは店の前に立つと、ドアノブへ手をかけた。一瞬だけ躊躇い。そっとドアを開けた。静かな店内にドアベルの音がやけに響いた。
中は至って普通のパン屋だ。しかし、まるで外と隔離されたかのように静かだ。空気はやけに澄んでいるのに、パンの甘い匂いだけが、なぜか気持ち悪く感じられた。
「いらっしゃい……おや?」
奥から一人の男が現れた。とても人とは思えない整った顔だちに、嫌な過去が一瞬過ぎった。
「これは、これは。まさか君を招き入れてしまうとは……想定外だったな。君は勘がいいから、気づかれないようにしていたんだけどね」
男はそう言いながらも、どこか楽しそうに笑ってみせた。レオニードは探るように男を見つめた。
「ここは何なんだ? あんたは何者なんだ?」
レオニードの問いに、男は不思議そうに首を傾げた。
「ただのパン屋だが? それ以上でもそれ以下でもないよ」
そのおどけた態度を見て、この男はこれ以上この質問に答えるつもりはないのだろうとレオニードは思った。
「俺の仲間がここに来た後におかしくなったのは、あんたが何かしたのか?」
「おかしくなった? 君は、本当は、そんな風には思っていないだろう? ……言ってたじゃないか。今まで抑えていた感情が、そのまま出てきているだけなのかもしれない、と」
その言葉に、レオニードの背筋がぞわりとした。男の感情の見えない瞳が、何もかも見透かしているように感じた。
「……なぜ、それを知っている。それは俺が言った言葉だ」
レオニードのその問いを、男は無視するように話を続けた。
「君はあれを洗脳か何かだと言いたいのかい? それとも、呪いの類だと? あれはそういうものではないよ。ただ、ありのままの彼でいられるように、背中を押してやっただけさ。まあ、少々強引ではあったけどね」
男はそう言って面白そうに笑った。
「あの時の彼の言動は、全て彼の素直な思いであり、感情だったよ。ただ、本人はお気に召さなかったようで、完全ではないにしろ、自力で元に戻ってしまったけどね。彼はとても強い人間だよ。“彼女”が気にいるだけはあるね……」
“彼女”とは誰のことかはわからないが、これではっきりとわかった。この男がイヴァンに何かをしたということが。ただそれが、どのような力でどんな影響を与えているのかはわからなかった。
それでも、レオニードが感じたように、イヴァンが自らの力で元に戻ったことだけは確かなのだろう。
この男が、どこまでこの問答に付き合うつもりなのかわからない。しかしレオニードは初めから抱いていた疑問を男にぶつけた。
「あんたは、なぜ、俺のことを知っている」
「こう見えて、私は何でも知っているんだ。君の仲間のことや、君自身のこともよく知っている。君が思っている以上に……昔から、君のことを知っているよ」
その言葉に、レオニードの顔がこわばり、目は男を睨みつけるように鋭くなった。自然と、手は双剣の鞘を握っていた。
「……俺の何を知っている」
「そうだな……君は例えるなら、毛色が違うだけで、同種と何ら変わらない獣、かな」
その言葉に、レオニードは双剣を抜いた。しかし男はそのことを気に留めた様子もなく、話を続けた。
「君は、君という存在が何かを仲間にずっと隠して生きていくのかい?」
「あんたには関係ないだろ。俺の決めることだ」
「確かに……それは君が決めることだ。……なるほど、そういえば“彼女”は君のことも気に入っていたな。君とは、長い付き合いになるだろうね」
男は楽しそうに微笑むと、ゆっくりとレオニードに近づいた。
……動かない。
動けないというよりも、なぜかレオニードの体が動こうとしなかった。
「今日の君との会話は、少し楽しかったよ。しかし、そろそろ店仕舞いにしよう。“彼女”も、しばらくこの街にいないしね。店を開ける必要もないんだ。気が向いたら、また君をこの店に呼んであげるよ」
男はそう言うとにっこり笑ってレオニードの体に触れた。
押されたような感覚に、身体がよろめいた気がした。
ドアベルの音が響いた。ドアが開いたのか? 顔も向けられずに、身体だけが倒れ込むように傾いていく気がして、焦ってバランスを取ろうとした瞬間──レオニードは外に立っていた。
握りしめた双剣に目を向ける。あの店での出来事は、夢でも幻でもなかった。
“毛色が違うだけで、同種と何ら変わらない”
そんな単純なことではない……。
男の言葉に冷静でいられないことで、まだそんな感情が自分に残っていたのだなと、レオニードは思った。
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