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第33話

本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。


物語・設定・キャラクターは作者自身が作成し、文章の推敲や表現の整理にAIを活用しています。


そのため、本作はAI利用区分を「AI直接使用」に設定しています。

 夜になり、イヴァンは約束通りギルドへ向かった。


 扉を開けて中へ入ると、今朝のこともあって相変わらず注目を浴びた。


 待ち合わせ場所は別にすればよかったと思いつつも、もう何もかも今さらだった。


「イヴァーン! こっちだよ、こっちー!」


 声の方へ向くと、『灰色の刻』の三人はギルドの端にある休憩用のテーブル席に座っていた。


 楽しげに手を振るミハイルへ軽く手を上げると、イヴァンはそのまま三人のもとへ向かった。


「今日はイヴァンたちの家にお呼ばれだって聞いて、楽しみにしてたんだよ」


「お呼ばれ……」


 思わずダニールを見やる。


 別に呼んだわけではない。ダニールが勝手に決めたことだ。そう言いたい気持ちはあったが、協力してもらう立場だ。あえて口にはしなかった。


「どうせダニールが勝手に決めたことだろ」


「やだなあ、アンドレイ。そんなわかりきったこと言っちゃだめだよ。ダニールがそういう事にしてるんだから、合わせてあげないと」


「そうか、悪かったなダニール。そういう事にしといてやる」


 二人とも最初から事情を察していたらしい。


「何だよ、そういう事って。イヴァンに協力するのは間違いないだろ」


「お前が協力するのは当たり前だろう。剣折りダニール」


「そうだよ。お詫びとしてしっかり協力しないとだよ。剣折りのダニール」


「その呼び方いい加減やめろよ! 俺だって傷つくんだぞ!」


 ダニールが必死に訴えかけた。その様子に、アンドレイは冷ややかな視線を送り、小さく息を吐いた。


「そうか、悪かったな。お前は何を言っても傷つかないと思っていた。思いの外、普通の心を持ってたんだな」


「普通ってなんだよ?」


「僕はてっきり角兎みたいにふわふわで、角だらけなのかと思ってた」


「俺は礫竜ばりに硬い割に、中身はすかすかなんだと思ってたよ」


「どんなんだよ! ちゃんと人の心を持ってるわ!」


 相変わらず、この三人のやり取りはよく分からない。呆れながら、イヴァンはテーブルに置かれた食糧へ目を向けた。


「これは何だ?」


「あー、これか。イヴァンに料理してもらおうと思って買ってきたんだよ。俺たちは今から“ホームパーティー”をするからな!」


 そう言ってダニールは、ばっと両手を広げてみせた。


「何を勝手なことを言っているんだ! しかもなぜ俺が作る前提なんだ!」


 あまりにも突然の話に、イヴァンが思わず声を荒げた。その時だった。


「あ! サーシャにカティアちゃん! こっちだよー」


 ミハイルが声を上げた。


 振り向くと、カティア嬢がサーシャの手をがっしり握り、こちらへ向かって来ていた。サーシャは露骨に不機嫌そうな顔をしている。


 その様子を見ていると、今朝の自分とダニールを思い出した。


「お待たせしました~」


「よお。カティアちゃんもしたいよな? ホームパーティー」


「ホームパーティーですか?! わあ、楽しそう!」


 カティア嬢は目を輝かせて頷いた。


「だってよイヴァン。これはやるしかないだろ?」


「いや、仲間に何も言って来てないんだ! 急にそんなこと──」


「え、やらないんですか……?」


 カティア嬢ががっかりした顔でイヴァンを見て肩を落とした。


「う……」


 その姿に胸が痛む。これでは断れるはずがなかった。


 ふと視線を向けると、ダニールがにやにやとこちらを見ていた。……癪に障る顔だ。


 イヴァンは額に手を当て、大きく息を吐いた。


「……わかった。やろう」


「よっしゃ! なら、早速行こうぜ!」


 ダニールがパンッとひとつ手を打った。直後、サーシャの不機嫌そうな低い声が続いた。


「俺は行くとは言ってない。第一、なんで俺がこんなことしなきゃならないんだよ」


「もう! 説明したじゃない。ボリスおじいちゃんにお願いするのに、レオニードさんが使ってた剣が必要なんだって!」


「そんなの俺には関係ないだろ」


「う……うーー……それは……」


 関係大ありだ。しかしカティア嬢は、言いたくないらしく言葉を濁した。


「サーシャ、すまない。これは君にしかできないんだ……頼む」


 それでもサーシャはそっぽを向き、うんざりした表情を浮かべた。


「俺は帰る。自分たちでなんとかしろよ」


「まー、そう言うなって! ほら! お前だけ料理食えないと可哀想だから、菓子を買ってきてやったぜ!」


 そう言ってダニールは、サーシャに包みを一つ手渡した。その様子を見て、イヴァンも思い出した。


「あ、そうだ。俺もサーシャのために精霊の窯のパンを買ってきたんだ。これで、どうか協力してもらえないだろうか?」


 イヴァンもサーシャへパンを差し出した。菓子とパンを受け取ったサーシャは、表情こそ変わらなかったが、その目だけはきらきらと輝いていた。


「……仕方ない。さっさと行ってさっさと帰ってこよう」


 そう言うと、サーシャは出入口へ向かって歩き出した。


「お兄ちゃん、待ってよ!」


 慌ててカティア嬢がその後を追った。サーシャは振り返り、こちらを見た。


「おい、イヴァン。早く案内しろよ」


「ああ、わかった」


 返事をすると、イヴァンはサーシャの元へ駆け寄った。背後から、『灰色の刻』の三人の話し声が聞こえてくる。


「あー、楽しみだね〜。『蒼銀の翼』のみんなの家」


「俺は、ルカが美味しいって自慢してたイヴァンの料理が楽しみだ。なあ、アンドレイ」


「俺に振るな」


「お前、楽しみだって言ってたじゃねーか」


「だったらなんだって言うんだ。いちいち言うことじゃないだろ」


「アンドレイは素直じゃないね〜」


「だよな〜」


「うるさい!」


 珍しくアンドレイが弄られるやり取りを耳にしながら、イヴァンたちはギルドを後にした。


 しばらく歩き、家の近くまでやってきた。


「もう少しで着くんだが……サーシャは、どうやって中へ入るんだ?」


 サーシャは何も答えず、カティア嬢へ向き直った。


「おい、カティア。ちょっとこれ持ってろ」


 そう言ってサーシャは、菓子とパンをカティア嬢へ持たせた。


「闇の精トゥマーン、影よ、我を包め──《闇纏い》」


 足元の影がゆらりと揺れ、黒い煙のようなものがサーシャの身体を這い上がる。


 全身が闇に包まれた次の瞬間、その姿は夜へ溶けるように消えた。


「……驚いたな……杖がないのに、あれほど正確に魔法を使えるのか」


 感心したように呟いたのは、アンドレイだった。


「魔法を使うつもりなかったからな。杖なんて持ってきてない」


 どこからともなくサーシャの声だけが返ってくる。


「……闇の精霊は氷の精霊より気難しいと聞くのに……」


「そんなにすげーのか? てか、杖なんて格好つけるためのもんだと思ってたわ」


「そんなわけないだろ」


 アンドレイが呆れたようにダニールを見た。


「杖っていうのは、人の意思を精霊へ届け、精霊との繋がりを助けるための道具なんだ。だから、杖がある方が魔法はずっと安定する。格好つけるためだけなら、あんな邪魔なものを持つ意味がないだろ」


「へえ。道具として意味があったんだな。そんで、何でその道具が“杖”なわけ?」


 そう言いながら、ダニールは不思議そうに片手を軽く広げた。


「知らん。杖が丁度よかったんだろ」


 ミハイルが楽しそうに口を開いた。


「アンドレイ、山道登る時に支えにしてるもんね」


「楽だからな」


「あと、高い所の物を取るときに杖使って落としてる時もあるよね」


「丁度いい長さだからな」


「この前は接近してきた魔物を、杖で思い切り殴ってたよね」


「魔法が間に合わなかったからな」


「どこが邪魔なんだよ? めちゃくちゃ便利に使ってるじゃねーか」


 そう言ってダニールがアンドレイを指差すと、その手をアンドレイが叩き払った。


「うるさい! 杖の話はどうでもいいんだよ。それより、いい加減向かうぞ」


「そうだな」


 イヴァンが頷いた、その時だった。


「カティア、お前はここで待ってろ」


「えっ!! 何で待ってなきゃなの?!」


「俺にそれを持って剣を盗み出せっていうのか?」


 あえて避けていた言葉が胸に突き刺さる。


 ──盗み出す。


 分かっていたことだ。それでも、改めて言葉にされると胸が痛んだ。


「おいおい、言い方がよくねーな。後でちゃんと返すんだ。借りてくるだけだ」


 ダニールのその言葉に、イヴァンは少しだけ救われた気がした。


「別に、これ、お兄ちゃんに後で渡せばいいじゃない!」


「それだと俺がすぐ食えないだろ。別にやめてもいいんだぞ?」


「うぅ……。私もイヴァンさんの料理食べたいのにぃ……」


「カティア嬢……」


 あまりにも悲しそうなカティア嬢を見て、イヴァンがどうしたものかと考えていると──


「えーーーん! ホームパーティーがあぁぁぁ」


「いいのか、本当にそれで。今日の夕飯は、肉だぞ」


 サーシャのその一言に、カティア嬢はぴたりと動きを止めた。


「え……? お肉?」


「肉だ」


「じゃあ、ここで待ってる。えへへ」


 複雑だった。


 なんとなく、自分の料理が肉に負けてしまった気がした。


「行くか」


 小さくため息を吐いて呟くと、イヴァンは歩き出そうとして、はっと動きを止めた。


 ──待てよ。


 何故そこに頭が行きつかなかったんだ?!


 レオニードの剣をどう持ち出すか、そればかり考えていて、一番大事なことを見落としていたじゃないか!


 サーシャに剣を持たせて、大丈夫なのか?!


 顔から血の気が引く。


 そこまで考えが及ばなかった自分が信じられなかった。


 不思議そうにこちらを見るカティア嬢へ、イヴァンはそっと顔を寄せ、小声で尋ねた。


「……カティア嬢。サーシャに剣を持たせても大丈夫なのだろうか?」


「あ〜! 大丈夫です! お兄ちゃん、握らなければ平気なので。魔法で運んでって言ってあるんで♪」


 その返事を聞いた瞬間、胸を締め付けていた不安が一気にほどけた。


 イヴァンは安堵の息を吐き、ようやく歩き出した。それに続いて皆も歩き出す。


「いってらっしゃーい! あ! お兄ちゃん、絶対剣を手で持っちゃだめだからね! バカ力なんだから、お兄ちゃん持ったら壊れちゃうんだからね!」


 なるほど……そういう前提になっていたのか。


「うるさいな。何度も言うな、バカティア」


 サーシャがぼそりとこぼすと、気配がすっと消えた。もう、どこにいるかわからなかった。


「おお、凄いね。サーシャ、どこにいるの?」


「ここにいる」


 楽しげに言うミハイルにサーシャの声が答えた。


「これ、襲われても避けられる気しないな」


 ダニールの言葉にアンドレイが息をのむ音が聞こえた。


 確かに、こんなことが出来てしまうのなら、サーシャには暗殺くらい容易いのかもしれない。それでも、あの時はそんな戦い方を選ばなかった。……サーシャは、人を殺したいのではなく、純粋に剣を振るうことが好きなのかもしれない。


 家の扉の前まで来ると、イヴァンは大きくため息をついた。


「なんだよイヴァン」


 ダニールが首をかしげた。その顔を恨めしげに見つめ、イヴァンは答えた。


「……気が重いんだ」


「いいから、行こうぜ!」


 そう言ってダニールは扉を盛大に開けて中へ入っていく。


「おい! 勝手に行くな!」


 慌ててダニールを追いかけ広間へと行くと、突然のダニールの来訪にルカとラリッサが立ったまま驚いて言葉を失っていた。


「よお! 遊びに来てやったぜ!」


「なっ! なんで、ダニールさんがいるんですか!!」


 ルカは驚いた様子でイヴァンを見た。


「すまん、なりゆきで……」


「お邪魔するね~。わー、家の中広いねー」


「ダニール、家主を差し置いてずかずかと人んちに上がっていくな! 失礼だぞ!」


 ミハイルとアンドレイが追って入ってきた。おそらくサーシャもいるのだろう。


「なりゆきって何ですか? てか、何ですかその食材! すっごい当たり前のように置いてますけど!」


 ルカがテーブルに食材を置くダニールを指さして大声で言う。


「何ってそりゃ、ホームパーティーをするんだよ!!」


 そう言い放つとダニールはギルドの時のようにばっと両手を広げてみせた。


「はあぁぁっ?!」


 ルカが素っ頓狂な声を上げた。


「うるさいぞルカっ!!」


 二階からデニスの怒鳴り声が響いた。続いて階段を下りてくる足音が聞こえ、一階の奥からはレオニードとボグダンも姿を現した。


「さっきから何なんだよ。やかましくて、本に集中できないだろ」


 デニスが階段から広間に下りてくると、ダニールの姿を見て動きを止めた。


「なに? どんな状況なわけ? なんで『灰色の刻』がいるんだ?」


「リーダーが連れてきたんですよ。なんかわかんないですけど、ダニールさんがホームパーティーをするって……」


 ルカのその言葉に、デニスたち三人が一斉にイヴァンへ視線を向けた。


「……すまん」


 いたたまれなくなり、イヴァンは謝った。


「なんでもいいですけど、カティアちゃんと打ち合わせは出来たんですか?」


 デニスが聞いてきた。


「ああ、明日向かうことになった」


「明日向かうのにホームパーティー……?」


 デニスが刺すような視線を向けてくる。そして小さくため息をついた。


「ごめんね~、デニス。うちのダニールがわがままいっちゃって。言い出したら聞かないのが、玉に瑕なんだけど、悪気はないんだよ」


 ミハイルが口を開くと、アンドレイが少し前に出てきた。


「玉に瑕どころじゃない、欠点だらけだろ。それよりデニス、どんな本を持ってるのか、見せてもらってもいいか? お勧めがあれば教えてほしい」


 アンドレイのその言葉に、デニスの表情が変わった。


「いいですよ! 俺の部屋に行きましょう! 代わりにあとで中庭で氷魔法を見せてもらってもいいですか? 軽いのでいいんで!」


「ああ、かまわない」


「え! 私も見たい! デニスさん、その時、私にも声かけてくださいね!」


「わかった、わかった」


 デニスは手をひらひらさせてラリッサに返事するとアンドレイと二階に上がっていった。ラリッサが嬉しそうに軽く飛び跳ねる。その姿を見て、ボグダンが微笑んだ。


「そ、それなら、俺だってミハイルさんの普段使ってない方の弓が見たいです!」


「いいよ~。じゃあ、中庭行こうよ。僕、中庭見てみたいな」


「あ、いいですよ」


 ルカが機嫌よく返事すると、ミハイルを案内するように中庭に向かった。


「じゃあ、残った私たちで料理しますか。今日は人数が増えましたしね」


「そうだな」


 そう言うと、レオニードはダニールたちが持ってきた食材を持ち上げた。


 その姿を見て、イヴァンはほっと胸をなで下ろした。


「いやー、楽しみだな! イヴァンの料理!」


「本当に、何しに来たんですか? ダニールさんも手伝ってくださいね」


「別にいいけどさ。どうなっても知らねーよ?」


「……やっぱり何もしないで待っててください。イヴァンさん何作ります?」


「そうだな……」


 ラリッサと料理の話をしていると、不意にレオニードの動きが止まった。その視線は、自室の方へ向けられている。


 嫌な予感がして、イヴァンは尋ねた。


「どうかしたか?」


 レオニードは無言のまま、じっとイヴァンを見つめてきた。


 あまりにもまっすぐ見つめられ、思わず目を逸らしてしまう。


 すると、レオニードは自室へ向かって歩き出した。


「レ、レオニード! ラリッサ、すまないが下ごしらえだけ頼む!」


 イヴァンはそう言い残してレオニードを追いかけた。


「お? どうした、どうした?」


 ダニールが楽しそうに声を上げて付いてきていた。


 イヴァンは先を行くレオニードの手元を見てぎょっとした。その手には、いつの間にか厨房にあったナイフが握られていた。


「ま、待ってくれレオニード!!」


 焦って追いつき、制止しようと手を伸ばしたその瞬間、レオニードがドアを勢いよく開けた。途端に強い風が吹き抜ける。


 部屋の中を風が渦巻き、宙へ浮いた双剣が、開かれた窓から吸い込まれるように外へ飛んでいった。


 レオニードは即座にナイフを投げた。


「うわっ」


 声のした窓際へ目を向けると、ナイフが窓枠に深々と突き刺さっていた。それを見て、イヴァンは胸をなで下ろした。


「その声は、サーシャか……」


 レオニードの言葉に、イヴァンは思わず息を呑んだ。


「闇の精トゥマーンよ、還れ。」


 暗闇の中、サーシャの姿が頭から徐々に現れ、足元へまとわりついていた影は静かに消えていく。


「ばれたら仕方ないな。まぁ、目的は達したからいいけど……。言っとくけど、俺は頼まれただけだからな」


 サーシャはイヴァンを指差すと、そのまま窓から外へ飛び去った。


「思った以上に凄い風だったな。あれでこっそりとか、はなから無理だったなこりゃ」


 ダニールの言葉が途切れると、誰も口を開かなかった。


 気まずい空気の中、恐る恐るレオニードへ目を向ける。──次の瞬間、肩を掴まれ、足を払われて勢いよくひっくり返された。


「っ!」


 痛みで声が出なかった。


「……イヴァン。そこに座れ」


 イヴァンは何も言わず、その場に正座した。


「あー……、じゃあ……、俺はラリッサちゃんの手伝いをしてくるわ」


 ダニールが上手く逃げようと一歩動いた瞬間、その足元の床にナイフが突き刺さった。どうやらもう一本ナイフを持っていたらしい。


「ダニール。お前からも事情を聞く」


「あ、はい……」


 返事をすると、ダニールは大人しくイヴァンの隣に座った。


 レオニードへ視線を戻すと、表情こそいつも通りだった。


 ただ、眼光だけがやたら鋭い。


 完全に怒っている……。


 久しくなかった光景だ。ルカが入る前は、こうして叱られることも珍しくなかった。だが久々に怒らせてしまうと……やはりレオニードは怖いと、イヴァンは改めて痛感した。


「理由を言え。なぜ、こんなことをした」


「いや……どうしても……レオニードの剣を作りたくて……」


「剣は要らないと言ったはずだ」


「すまない! だが、どうしても……俺の気が済まないんだ!」


 イヴァンは謝りながら勢いよく頭を下げた。頭上でレオニードのため息が聞こえた。


「それにしても勝手に持ち出すとか、お前らしくない。ダニールの案か?」


「はい! 俺の案です! すいませんでしたっ!!」


 ダニールが威勢よく謝ると、勢い余って額を床にぶつけた。


「それにしてもだ……。サーシャに持ち出させるなんて、お前は正気か? よりにもよって、剣だぞ?」


「うっ……。そ、それは、うっかりというか……考えが及ばなかったというか……。しかし、カティア嬢も大丈夫だと言ってたんだ……」


「だから、それを信じたのか? お前は“うっかり”で仲間を危険に晒すのか。リーダーらしからぬ行動だぞ」


「本当に……すまない。弁解の余地もない……」


 そう、昔は何度もこうしてレオニードに叱られてきていた。その度に「レオニードがリーダーになれば……」と言ってしまい、「俺はリーダーになる気はない」と返されていた。


 今さらその言葉は言わないが、自分の未熟さが不甲斐なかった。


「なあ、話の腰を折るようだけどさ……。何でサーシャに剣を持たせたら危険なんだ?」


「それは……話すと少し長くなる」


 イヴァンが答えると、レオニードは窓際へ歩み寄り、ナイフを抜き取った。


「この話は後でだ。とりあえず、サーシャが来たことはラリッサに気付かれるな」


 レオニードがそう言うと、廊下を歩いてくる足音が聞こえた。振り向くと、ラリッサが立っていた。


「えっと……何してるんです?」


 ラリッサが笑顔で固まり首を傾げると、廊下の床に刺さるナイフに目を向けた。


「なんか騒がしいし、ナイフもないしで来てみれば……イヴァンさん、レオニードさん怒らせるなんて久々過ぎですね。何しでかしたんですか?」


 そう言ってラリッサはナイフを抜こうとしているが、なかなか抜けないでいた。


「いやー、俺がレオニードにサプライズしようとしたら怒らせちまってさー。イヴァンも巻き込んじまったから、一緒に怒られてたんだわ!」


 ダニールはひょいっとナイフを抜くと、ラリッサへ手渡した。


「いったい、どんなサプライズしようとしたんですか?」


 ラリッサが嫌そうにダニールに問いかけると、ダニールは悪戯っぽく笑った。


「それはあれだよ。男じゃなきゃ分からんことだが、ラリッサちゃんがどうしても知りたいって言うなら、俺が手取り足取り教えてやってもいいんだぜ?!」


 そう言ってダニールがよく分からない決めポーズをすると、ラリッサは露骨に嫌そうな顔を浮かべ、「結構です」と言ってそそくさと戻っていった。


「いや……普通に傷付くんだが?」


 肩を落とすと、ダニールはパンッと手を合わせた。


「よし! 気を取り直して、ホームパーティーをやるぞ!」


「いや、待て! もう必要ないだろう! それは剣を持ち出すまで、レオニードの意識を向けるための作戦だったはずだ!」


「え? 何言ってんの? そんなの口実に決まってるだろ。俺は普通にホームパーティーをやりたくて来たんだ」


「お、お前っ!」


 イヴァンが怒鳴りかけた瞬間、悪寒が走った。背後から殺気が放たれたのだ。


 ダニールもびくっと肩を振るわせた。


「お前ら、反省しろ」


 低く響くレオニードの声に、イヴァンとダニールは声を揃えた。


「はい、すいません」

ご感想・レビュー・誤字報告など、ぜひお気軽にいただけたら嬉しいです。

「ここが気になった」「このキャラが印象に残った」など、一言だけでもとても励みになります。


いただいたご感想は、今後の創作の参考として大切に読ませていただきます。

楽しんでいただけましたら、ぜひ気軽にお声を聞かせてください。

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