第32話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語・設定・キャラクターは作者自身が作成し、文章の推敲や表現の整理にAIを活用しています。
そのため、本作はAI利用区分を「AI直接使用」に設定しています。
ギルドを出て少し離れたところまで来た時、イヴァンは初めてカティア嬢の手を握ったままだと気付いた。
慌てて手を離して振り向くと、ダニールも付いてきていた。
「お前、何で付いてきたんだ?」
「いや、お前らが付き合ってるのかどうか気になって」
「お前には関係ないだろ。それになぜ、鍛冶神匠ボリスを紹介してもらう理由が、俺の剣だとわかった? そもそもどこから話を聞いてたんだ?」
イヴァンの言葉に、ダニールは何を言っているんだと言いたげな顔をした。
「ギルドに入ったら、お前が鍛冶師を紹介してもらうって言ってるのが聞こえたんだよ。俺、地獄耳だからな。あとは、何となくだ」
何となくで話を合わせてきたのか、こいつは……。いちいち正解をついてくるところが、癇に障る。イヴァンは苛立ちを抑えるように息を吐いた。
「それで? お前らやっぱり付き合ってんの?」
「うるさい!」
イヴァンが声を荒げると、ダニールは笑いながらイヴァンの肩を叩いた。
「まー、まー。半分は冗談だ! その何とかって鍛冶師に、お前の剣を作ってくれって頼むのは確かなんだろ?」
「半分……?」
ダニールに言い返そうとしたが、切りがないと思いやめた。そして、イヴァンは大きくため息をついた。
「俺の剣とボグダンの盾を頼むんだ」
「え?」
イヴァンの言葉に、カティア嬢が驚きの声をあげる。
「レオニードさんの剣は、お願いしないんですか?」
カティア嬢は戸惑ったような表情を浮かべていた。イヴァンも肩を落としながら言葉を返した。
「頼みたいのは山々なんだが……。レオニードが強い剣を持ちたくないと言うんだ」
「そうなんですか……」
落ち込むカティア嬢を前に、どうしたらいいのかわからずイヴァンは狼狽えた。
「──君が気に病むことじゃない。レオニードはそう言う奴なんだ。元々剣に拘りがあったわけじゃない。レオニードの強さは、どんな剣を持っても変わらない」
カティア嬢を励ますように言いながら、ふと、それは自分に言い聞かせているだけなのではないかと気づいた。情けなさが込み上げた。
「別に、レオニードに黙って作っちまえばいいじゃねーか?」
ダニールの言葉に、イヴァンは驚いて目を見開いた。
「は? 何を言ってるんだ? 剣だぞ? 本人の要望も聞かずに勝手に作れるわけないだろう」
「優秀な鍛冶師は、剣を見りゃ、そいつの使い方の癖とか特徴がわかるって言うぜ? レオニードが今まで使っていた剣を持っていけば、見合った剣を作ってくれるだろ。神匠っていうくらいだから、その何とかって鍛冶師はすげーんだろ?」
「鍛冶神匠ボリスだ! 確かに、凄い鍛冶師だ。だが……本当にそんなことが、できるのか?」
イヴァンは思わずカティア嬢へ視線を向けた。
「どうでしょう……お兄ちゃんならわかるんでしょうけど、私そういうの詳しくないんで……。でも、ボリスおじいちゃんならきっとできますよ!」
カティア嬢はぱっと表情を明るくすると、拳を作ってみせた。
鍛冶神匠ボリスなら、そこまで出来るというのか。イヴァンは半信半疑ながらも、もし本当に可能ならと、小さな希望を抱いた。
「しかし、レオニードがあの剣を貸してくれるとは思えない……」
「そんなもん、勝手に持ってきちまえよ」
ダニールのその言葉に、イヴァンは呆れて返す。
「お前、非常識だな。人の部屋に勝手に入るわけにはいかないだろう! それに、あの警戒心の強いレオニードだぞ? 目を盗んで部屋に入るなんて無理だ……」
「居ない時を狙えばいいんじゃねーの?」
「俺たちの部屋には、それぞれ鍵が付いている。本人がいない時は鍵を掛ける……そういうルールになっているんだ」
「なら、やっぱりレオニードがいる時にか……」
ダニールは考え込むように顎へ手を当てた。
「……お兄ちゃんなら、こっそり持って来れると思うんです……」
カティア嬢のその言葉に、イヴァンは思わず息を呑んだ。確かにサーシャなら、レオニードに勘付かれずに持って来られるかもしれない。だが……。
「カティア嬢、申し訳ないが……サーシャに頼むのは無理だ。確かに、サーシャなら出来るかもしれない……だが、あれ以来、皆がサーシャを怖がってしまっているんだ……家に連れていくなどできない」
「えぇ……そうなんですか……」
カティア嬢が明らかに肩を落としてしょんぼりとした。
それもそうだろう。カティア嬢からしてみれば大切な兄が恐怖の対象になっているのだ。きっと、ショックも大きいに違いない。
「何をそんなにぐだぐだ悩んでるんだよ。よくわからんけど、レオニードの目を盗んで取って来れるくらいなら、他の奴らにばれないよう連れていけばいい話だろ?」
「わあ、そうですね! それ、お兄ちゃんなら出来ますよ!」
「いや、確かにそうだろうが──」
それでは、皆を騙すことになる。
レオニードの剣を作るには、それしかないのかもしれない。……だが、これで良いのか?
レオニードが納得していないのに、勝手に剣を作ろうとして、そのために無断で剣を持ち出し、皆に気付かれないようサーシャを家へ連れていく。
自分の思いのために、周りを巻き込み、挙げ句の果てに仲間を騙す……これは、裏切りではないのか?
結局、俺は何も成長できていないのかもしれない。それでも、レオニードの剣を諦めることはできなかった。
「よし! そうと決まれば、俺も協力するぜ! 夜になったらギルド集合な!」
「集合って、何をするつもりだ?」
怪訝そうにイヴァンが言うと、ダニールはニカッと笑い、イヴァンを指差した。
「お前んちに行くんだよ。それで皆で騒いでる間に、サーシャに剣を回収してもらう。な! 完璧だろ?」
「嘘だろ?!」
驚き過ぎて、イヴァンはそれしか言葉が出てこなかった。
「何言ってんだよ。嘘じゃねえよ。カティアちゃんはサーシャを説得してくれ。俺はアンドレイを説得するからさ。ミハイルは楽しけりゃ勝手についてくるからよ」
そう言いながらダニールは笑った。
「わかりました! 絶対にお兄ちゃんを連れて行きますね!」
カティア嬢は勢いよく頷いた。
気付けば、話はもう止められないところまで進んでいた。まさか、こんなことになるとは思わなかった。イヴァンは額に手を当てた。
「あ、でも……お兄ちゃんを連れていくことは何とか出来るんですけど、説得し切れるかわからなくて……。だからイヴァンさん、お願いがあるんですけど……」
「……なんだ? 俺に出来ることなら、何でも言ってくれ」
カティア嬢の潤んだ瞳を見て、イヴァンは即座に返した。
「精霊の窯のパンを買っておいてくれませんか? お兄ちゃんの好物なんで、パンをあげれば動いてくれると思うんです♪」
なるほど、確かにそんな気がする。しかし、あのパン屋か……。
イヴァンは胸に引っ掛かるものを覚えながらも、小さく頷いた。
「わかった。用意しとこう」
「ありがとうございます!」
カティア嬢が嬉しそうに手を合わせて礼を言ってきた。
「じゃあ、俺はギルドに戻るぜ。二人が待ちくたびれてるだろうからな。今日の依頼を受けないとアンドレイが煩いしな」
「あ、私もお兄ちゃんを待たせてると思うんで、ギルドに戻りますね!」
二人のその言葉にイヴァンは頷いた。ギルドにはもう用は無い。それに、あの状況から逃げ出しておいて、戻るのは気まずい。
「なら、カティアちゃん一緒に戻ろうぜ」
「はい」
「何なら俺とも手を繋いで戻らないか? イヴァンみたいに──」
カティア嬢へ差し出されたダニールの手を、イヴァンは無言で掴んだ。
「俺が手を繋いで一緒に戻ってやる」
「何が悲しくてお前と手を繋ぐんだよ」
イヴァンは笑顔で頷いた。
「遠慮するなダニール。ギルドまでしっかり連れていってやる」
こいつとカティア嬢を二人きりにする訳にはいかない。自然と握る手に力が籠った。
「い゛っ! ──や、一人で行けるから大丈夫だぜ、イヴァン」
ダニールの声も気にせず、そのままぐいっと手を引いて歩き出す。
「いででででっ! じょ、冗談だって! 本気にすんなって! 手ぇ離してー!」
「カティア嬢、戻ろう」
「あ、はい」
ダニールの情けない悲鳴を引き連れたまま、三人は来た道を戻っていった。
ギルドでダニールを解放し、カティア嬢たちと別れた。
明日からは三日がかりの旅になる。準備は山ほどあるが、まずは頼まれたパンを買っておこう。
そう思い、イヴァンは精霊の窯へ向かった。
店が近づくにつれ、胸の奥に言いようのない引っ掛かりが広がっていく。
店の前まで来た。だが、どうしても店内へ足が向かない。本当に入って大丈夫なのだろうか……。なぜか、そう思ってしまうのだ。
それでも、いつまでもここで立ち尽くしていても意味がない。素早く購入して店を出ればいい。そう思い、イヴァンは意を決してドアを開けた。
ドアベルの音が響く。
店内の静けさに、思わず息を呑んだ。まるでここだけ別の世界のように、空気が変わったような錯覚を覚える。
「いらっしゃい」
その声が耳に届いた瞬間、全身に緊張が走る。
見ると、店主が笑顔でカウンターに立っていた。
いつの間に来たんだ……気配を全く感じなかった……。
そう思いながら焦ってパンを選ぶ。なぜこんなにも落ち着かないのか、自分でもわからなかった。
選んだパンをカウンターへ持っていくと、店主へ目を向ける。だが、どこか視点が定まらない気がした。
何となく、自分がここにいること自体に違和感を覚える。身体の感覚だけがどこか曖昧で、現実感が薄れていくような気味悪さがあった。
「おや……。先日、背中を押してあげたのに、完全とは言えないが戻ってしまったんだね」
今、店主が喋ったのだろうか?
しかし、目の前の店主は黙々とパンを包んでいる。それなのに、こちらを見ているような気もした。
言葉を聞いている自分と、ただ黙って待っている自分。まるで自身が二人いるような違和感を、不思議と当たり前のように受け入れていた。
「そうか、自ら戻してしまったんだね。……なるほど。それでも“彼女”は楽しんでくれたようだ。“彼女”自身も無意識に君を気に入ったみたいだね」
店主が包み終えると、イヴァンは会計を済ませ、パンを受け取った。
「また“彼女”を楽しませてあげてほしい。期待してるよ」
そう言って、店主が微笑んだ気がした。
ドアベルの音が鳴る。
気付けばイヴァンは店の外に立っていた。手にはしっかりとパンを抱えている。
いつの間に購入したのだろうか……。記憶が曖昧な気がした。考え事をしていて、無意識に動いていたのかもしれない。
カティア嬢に頼まれていたパンも買えた。あとは鍛冶神匠ボリスの元へ向かう支度を整え、一度家へ戻るだけだ。夜になったら、またギルドへ向かおう。
そう思いながら、イヴァンは歩き出した。
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