第30話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語・設定・キャラクターは作者自身が作成し、文章の推敲や表現の整理にAIを活用しています。
そのため、本作はAI利用区分を「AI直接使用」に設定しています。
デニスに追い出される形で家を出て、イヴァンはカティア嬢の家へと向かっていた。
まさかこんな事になるとは思いもしなかった。しかも、山蜜熊の肉を携えて。
家の前まで来るとイヴァンは少し戸惑った。カティア嬢と食事するのはやぶさかではない。だが本当に、鍛冶神匠ボリスを紹介してくれるように、頼んでいいのだろうか……。
答えが出ないまま、イヴァンは扉をノックした。
しばらくすると、扉が開きサーシャの顔が覗いた。
「や、やあ。サーシャ」
扉が閉まった。
間を置かず、カチリ、と鍵の掛かる音がした。イヴァンは慌てて扉を叩き直した。
「待ってくれサーシャ! 違うんだ! カティア嬢を食事に誘おうと──」
扉の向こうから返事はない。
「あ、そうだ! 山蜜熊の肉を持ってきたんだ!」
次の瞬間、勢いよく扉が開きイヴァンの顔面に激しくぶつかった。
「い゛だっ!!」
痛みで思わず顔を手で押さえながらもサーシャに目を向けると、黙って手を差し出していた。イヴァンは苦笑いしながらも、包に入った肉をサーシャの掌に乗せた。
サーシャは満足げに受け取ると背中を向けた。
「おいカティア! イヴァンがお前に用があるらしいぞ!」
そう言いながらもサーシャは奥へと戻って行った。どうやら山蜜熊の肉を持ってきたのは正解だったらしい。
間も無くカティア嬢が奥からやってきた。
「あれ? イヴァンさん、どうしたんですか?」
「やあ、カティア嬢。その、まだ済んでないなら、これから夕食でも一緒にどうかと思って……だな……」
「あ、それならまだです。ちょっとお兄ちゃんに聞いてきますね!」
……聞く? 何をだ?
その言葉に一瞬違和感を感じつつも、イヴァンはカティア嬢を待った。
すぐにカティア嬢が、少し不満そうな顔で戻ってきた。
「お兄ちゃんに聞いてきたんですけど……絶対に行かない!って言うんで、イヴァンさん行きましょう」
危なかった。思わず笑顔で誤魔化した。
先程の誘い方だと、カティア嬢はサーシャも誘われていると思ったのか……。
次はしっかり“二人で”と言わなければならない。そうでなければ、今度はサーシャまで付いてきてしまう。
イヴァンたちは、先日一緒に食事した店に向かった。
賑わう店内に入ると、二人は適当に空いてる席についた。
「カティア嬢、ここは注文を任せてもらえないか?」
「え?」
「何品か頼んで分けながら食べようと思う。その方が色々な料理を楽しめるだろう?」
「あっ! それならいっぱい種類食べられますね♪」
「ああ」
「楽しみです」
カティア嬢は目を輝かせ、嬉しそうに頷いた。
良かった。これならカティア嬢も肉ばかりに偏らずに済むだろう。そう思ってイヴァンはほっと息を吐いた。
注文を済ませ、料理を待っていると──
ふと、カティア嬢の視線がイヴァンの新しい剣に向けられた。
一瞬、息を呑む。
「イヴァンさんの剣、いつものと違うんですね」
「あ、ああ……そうなんだ」
思わず視線を逸らす。
参ったな……。
“いいですか、必ず鍛冶神匠ボリスを紹介してくれるよう頼むんですよ!”
デニスの言葉が頭をかすめた。頼みたいのは山々なんだが……。
「剣、どうかしたんですか?」
「いや……その、ちょっと……な」
今なら話を切り出せるのかもしれない。しかし、食事をする前に話すことだろうか……。
「もしかして、お兄ちゃんとやり合って刃を痛めちゃいました?」
「いや──え?」
「え? 違いました?」
「いや、違くは……ない。というか……」
まさかカティア嬢の方からその話を持ち出すとは思わず、戸惑ってしまった。
何やら考え込むような仕草のカティア嬢を見て、イヴァンは小さく笑った。
カティア嬢も、サーシャのしでかしたことが気になっているのかもしれない。
言わなくていいのなら、装備の被害については黙っておこう。その上で鍛冶神匠ボリスを紹介してくれるように頼めばいいだけだ。
言い出せればの話だが……。
その時だった。給仕が両手いっぱいに料理を抱えてやって来た。
「お待たせしましたー」
「カティア嬢、とりあえず料理を頂こう」
「そうですね♪」
「取り分けるから皿を貸してくれ」
「ありがとうございます!」
カティア嬢がイヴァンに皿を渡す。
イヴァンは料理を取り分けていくが、カティア嬢の表情がころころ変わるのに気付いた。
肉には満面の笑みを浮かべ、野菜には露骨に顔をしかめる。
わかりやすい……。
一通り取り分け終えると、カティア嬢は嬉しそうに食べ始めた。
あれだけ嫌そうな顔をしていたのに、自分の皿に乗ったものはちゃんと食べるらしい。
頬を膨らませながら食べる姿は、どこか子供のようで愛らしかった。
食べ終えるとカティア嬢は満足そうに笑顔で椅子にもたれかかった。
「あー、美味しかった!」
満足したらしく、笑顔のままだった。
いや、違うな……。なんだろう? 笑顔で固まっている気がする。
次の瞬間──
「あああっ!!」
カティア嬢が突然頭を抱えて叫んだ。
「カ、カティア嬢?!」
前のめりになってカティア嬢が声を荒げた。
「何ですっかり忘れてたんだろ! 私のバカっ!! ボグダンさんの盾ってお兄ちゃんが壊してましたよね?!」
不意を突かれ、イヴァンは思わず固まった。
「え、えーー……ど、どうしよう……」
カティア嬢の視線が右へ左へと忙しなく動く。
「その、カティア嬢……実はだな……」
イヴァンが言いかけた、その時だった。カティア嬢がぱっと顔を上げる。
「そうだ! ボリスおじいちゃんにお願いしちゃいましょう!!」
「へ?」
「うん、そうしよう! ボリスおじいちゃんなら何とかしてくれるはずです! うん、うん」
そう言いながら、カティア嬢は腕を組んで何度も頷いた。
あまりにも迷いのない提案に、イヴァンは戸惑いを隠せなかった。
「カティア嬢……その、どう言えばいいのか分からないんだが……。君にとっては身内かもしれないが、俺にとって鍛冶神匠ボリスは雲の上の存在なんだ。そんな簡単に頼っていい相手じゃないというか……」
「そうなんですか?」
カティア嬢はきょとんと首を傾げた。どうやら、本気で不思議がっているらしい。
「だが、できれば鍛冶神匠ボリスを紹介してほしいのは確かだ。仲間の装備のことは俺の責任でもある。頼むのであれば、俺自身の口でお願いしたい」
「仲間……?」
カティア嬢は小さく呟き、少し考えるように首を傾げた。
「ボグダンさんの盾のことですよね?」
しまった。言い方が悪かったかもしれない。
「あ、いや。もちろんそうだ。リーダーとして出来ることはしてやりたいんだ」
「そうなんですね。だったら私に任せてください! ボリスおじいちゃんにしっかりお願いするんで♪」
「いや、それは俺が……」
そう言いかけてやめた。カティア嬢があまりにもやる気に満ちた顔をしていたのだ。
「それで、いつ行きますか?! 明日とか?」
「明日?! いや、その前に鍛冶神匠ボリスの居るところまでどれくらいかかるんだ? 仲間にも相談しないと動けないからな……」
「歩いて3日くらいですね」
思っていたよりも近くに居たことに驚いた。鍛冶神匠ボリスなど、そう簡単に会える相手ではないと思っていたのだ。だが、会いに行ける距離にはいたのだなと、イヴァンは胸が高鳴った。
「帰って仲間と話し合ってみるよ。カティア嬢もサーシャに話さないといけないだろうしな」
「え? お兄ちゃんに話す必要あります?」
「え?!」
あまりにもカティア嬢が不思議そうな顔をしてこちらを見るので、イヴァンは焦って返した。
「いや、話さないと駄目だろう。君たちはパーティを組んでいるわけだし……」
「えー、じゃあ、話してみます」
その言葉にイヴァンは安堵した。
話がついたところで二人は店を出た。そしてカティア嬢を家の前まで送り届けた。
「今日もご馳走になっちゃって、ありがとうございます」
「いいんだ。俺から誘ったのだから、当然だ。鍛冶神匠ボリスの件だが、流石に明日というのは無理だが……話し合ったら、すぐに知らせに来るよ」
「わかりました♪」
「それじゃあ」
そう言ってイヴァンは軽く手を上げてその場を立ち去った。
少し歩いて振り向くと、まだカティア嬢がこちらを見ていて元気よく手を振っていた。
何だあれは! 可愛すぎるだろ!
一瞬、自分の目的が何だったのか吹っ飛びそうになった。
いや、違う。浮かれている場合じゃない。帰って、鍛冶神匠ボリスの件を皆に話さなければいけない。
足早に家に帰ると、皆がテーブルで何か飲みながら談笑していた。
「あ、お帰りなさいリーダー」
ルカが真っ先に気付き声をかけてくる。デニスも読んでいた本をテーブルに置き、振り向いた。
「ここで本を読むとは珍しいなデニス」
「デニスさんってば自分で送り出しといて、後からリーダーがサーシャに何かされないか心配になっちゃってたんですよ」
「ルカ、余計なこと言うな! そういうところ、お前の悪い癖だぞ!」
少し照れたように強く言うデニスが、やけに愛らしく見えた。
無事を心配してくれていた。その事実が、胸の奥をじんわりと温かくした。
気付けば勝手に腕がデニスを抱きしめていた。
「ぐえっ!!」
デニスがじたばたしながら鎧を叩いてきた。
「痛い痛い! リーダー! 潰されるっ!!」
はっとして慌てて手を離す。
「──恐ろしいな鎧……防具だけではなく武器としても機能するのか……」
デニスが息を切らせながら呟いた。
「す、すまないデニス! 気持ちが昂ってしまってつい」
「イヴァンさんのあれ、まだ治ってなかったんだね」
「そうだね。てっきり【暗穴の墳墓】の後に治ったと思ってたよ」
「後遺症みたいなものだろう」
ラリッサとルカの言葉に、レオニードが冷静に返していた。
「でも、リーダーの気持ちわかるなあ。なんて言うか、デニスさんって鋭い言葉の端々に優しさを感じるんだよねえ」
「あ、わかる。怒ってるのかと思ったら心配してくれてたり、注意されてるのかと思ったら褒められてたり、指摘されてるのかと思ったら気遣ってくれてるだけだったとかあるよねー」
ルカとラリッサの言葉にイヴァンも思わず頷いてしまった。見るとレオニードとボグダンも頷いていた。
その時、ガタッと音を立ててデニスが立ち上がった。黙ってルカとラリッサを睨みつけていた。
「あ……あれは本当に怒ってるやつだよ……」
ラリッサがこそっとルカに耳打ちしていたが、普通に聞こえていた。
デニスは咳払いすると話を切り替えた。
「それよりリーダー、どうでした? 鍛冶神匠ボリスの件は」
「ああ、そうだった。カティア嬢が紹介してくれると約束してくれた。どうやら3日もあれば鍛冶神匠ボリスの元へ行けるらしい」
「え! そんな近くに居るんです?!」
ルカが驚きの声を上げた。
「俺も驚いたよ。てっきりもっと遠くにいるのだとばかり思っていた。だが片道3日なら、長くパーティから離れずに済む」
「ちょっ、リーダー。一人で行く気なんですか?!」
今度はイヴァンの言葉に驚き、ルカは声を荒げた。
「──駄目だったか……?」
イヴァンは焦り答えた。近頃自分の判断に自信がない。また、間違った選択をしてしまったのかと戸惑った。
自分自身の気持ちに振り回され、仲間を巻き込むことは、もうしたくなかった。
「リーダー1人じゃ心配なんで、俺も行きます! というか、皆んなで行けばいいんじゃないですか?」
「私は、行きたくない」
ルカの言葉に、ラリッサがすかさず言い放った。驚いたルカが言葉を失いラリッサの方を向く。
「イヴァンさん、カティアちゃんに案内してもらって行く気ですよね」
「ああ、そのつもりだ」
「きっとサーシャも行くと思うんです。だったら私は無理……。無理だし、サーシャが行くならイヴァンさんにも行ってほしくない。危険だよ……。紹介が必要なのは分かるけど、それでも怖いんです。カティアちゃんに場所を聞いて行くんじゃ駄目なんですか?」
イヴァンが返答に悩んでいると、デニスが口を開いた。
「流石にそれはどうなんだ? あの鍛冶神匠ボリスだぞ? カティアちゃんという存在なしに、普通は会ってもくれないと思うぞ。それにリーダーの性格上、行かないって選択肢はないだろ」
「そうかもしれないけど……」
「それに、いつもながらお前たちは考えが甘いんだよ。俺たちまで行ったらパーティ活動はどうするんだ? 移動だけでも往復で6日かかるんだぞ? 金を稼がないわけにいかないだろ」
「うっ……」
ルカが苦い顔して何も返せずに唸った。
「第一、俺は金がないんだ! 稼がないという選択肢はない! それに何より、サーシャが行くなら俺だって行きたくないんだよ! 死にたくないんだよ!」
「結局それですか! レオニードさあん……」
デニスの本音にルカが突っ込みを入れつつも、助けを求めるようにレオニードを見る。
ラリッサも期待するような顔でレオニードを見た。
その様子にレオニードは小さく息を吐いた。
「イヴァンが行くと決めたなら行くんだろう。俺たちまで付いて行く必要はない。サーシャが危険というなら、俺たちが居ても居なくても、どこに居ても同じだ。誰もあいつを止められない。今まで剣を持っていない時に問題が起きたことはない。剣を持たない限り安全なのは間違いないということだ」
「本気ですか、レオニードさん……」
「イヴァンは大丈夫だ」
レオニードの言葉に、ルカは肩を落とした。ラリッサも何も言わずに俯いた。
「ルカ、ラリッサ。心配してくれてるのに済まない。だが、今回は一人で行かせてくれ」
「わかりました。ちゃんと帰ってきてくださいよ?」
ルカが拗ねたように言った。
「私……考えが足りませんでした。こんなことなら、あんなこと言わなきゃ良かった……」
ラリッサが思いの外、深刻そうに言ってきた。
「大丈夫だラリッサ。気を付けて行ってくるよ。危なかったら全力で逃げるさ」
「はい……」
ラリッサの反応に、イヴァンは困ったように笑ってみせた。予想外にしんみりした空気になってしまった。
参ったな。逆に二人が心配になってきてしまった。
レオニードとボグダンが居るから大丈夫だろうが、なるべく早めに用事を済ませて帰ってこなければならないな。イヴァンはそう思った。
書き溜めが尽きてしまったため、今回から執筆しながらの更新になります。
これまでより更新ペースはゆっくりになると思いますが、のんびりお付き合いいただけると嬉しいです。
これからも頑張って書いていきますので、よろしくお願いします。
ご感想・レビュー・誤字報告など、ぜひお気軽にいただけたら嬉しいです。
「ここが気になった」「このキャラが印象に残った」など、一言だけでもとても励みになります。
いただいたご感想は、今後の創作の参考として大切に読ませていただきます。
楽しんでいただけましたら、ぜひ気軽にお声を聞かせてください。




