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第29話

本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。


物語・設定・キャラクターは作者自身が作成し、文章の推敲や表現の整理にAIを活用しています。


そのため、本作はAI利用区分を「AI直接使用」に設定しています。

第29話


 開けた場所で、イヴァンは森の奥へ視線を向けた。


 ルカとレオニードが山蜜熊を追い込んでいるはずだ。予定通りなら、そろそろ姿を見せる頃だった。だが、森は静かなままだ。


「遅いな」


 イヴァンが呟いた、その時だった。右手の森から木々をなぎ倒す音が響く。


 振り向けば、山蜜熊がラリッサへ向かって突進していた。


「え!? うそ、やだっ!!」


 悲鳴を上げながら、ラリッサが後ずさる。だが、その前にボグダンが盾を構えていた。


 巨体がぶつかり、盾が軋んだ。横合いから飛び出したレオニードの剣が山蜜熊の肩を裂く。


 山蜜熊は苛立ったような咆哮を上げると、身を翻して駆け出そうとした。だが、ルカの矢が行く手を遮る。


 行き場を失った山蜜熊は、開けた場所へと飛び出した。


 その時、タイミングを見計らったようにデニスが詠唱を始めた。


 イヴァンは静かに剣を構えた。


 地面から槍のように土が突き上がり、山蜜熊を囲む。


「いいぞデニス!」


 山蜜熊が暴れ、土槍が崩れ始める。イヴァンは一気に間合いを詰めると、剣を深々と突き立てた。


 山蜜熊の動きが止まる。巨体がぐらりと傾き、そのまま地面へ崩れ落ちた。


 イヴァンが小さく息を吐くと、仲間たちが集まってきた。


「ラリッサ、大丈夫だったか?」


 最後にやってきたラリッサに、イヴァンは声をかけた。


「大丈夫です。ボグダンさんがいてくれてたんで」


 そう言ってラリッサはにっこり笑った。それを見て何故かルカが微妙な表情で笑っていた。


「どうしたルカ」


「あはは、何でもないです。それよりこれ、早く処理しちゃいましょ! よーし、頑張るぞー!」


 デニスがルカの肩を叩く。


「ルカ、お前にだっていつか春が来るさ」


 ルカは驚愕した顔でデニスを見た。2人のやりとりの意味がわからず、イヴァンは黙って作業を手伝い始めた。


 山蜜熊の解体を終え、街へ向かって歩き出す。


 しばらく進んだところで──遠くに手を振る人影が見えた。


「あ、あれ? 誰だろ?」


 ルカも目を細めた。


「あ、ミハイルさんだ! アンドレイさんも! ……げっ、ダニールさんまでいる」


「そりゃそうだろ。むしろいない方がおかしいだろ」


 ルカの反応に、デニスがすかさず突っ込みを入れた。


 歩みを進めるにつれ、三人の姿が次第にはっきりしてくる。


「おーーーい!」


 相も変わらず陽気な声で、ミハイルが近付いてきた。ルカが嬉しそうにミハイルに近付く。


「ミハイルさん! お久しぶりです! 依頼の帰りですか?」


「やあ。そうなんだよね、護衛依頼を終えた帰りさ〜。君たちも依頼の帰り?」


「俺たちは常設依頼を……」


「あ、もしかして山蜜熊? 美味しいよねえ」


「あー、あの金にならない依頼か」


 後からやってきたアンドレイが、ルカとミハイルの話に混ざる。


「え? そんなことないですよね? 基本肉は高く売れるし、部位によっては高値がつくじゃないですか?」


 ルカが不思議そうに尋ねると、アンドレイはため息混じりに答えた。


「それは『蒼銀の翼』だからだろ。うちはダニールとミハイルで肉をぐちゃぐちゃにするから、売れる部分が少ないんだよ。あんなものただの食材と一緒だよ」


「あー、なんか想像つくなあ」


 そう言ってルカは苦笑いした。


 そこへ、気だるそうな足取りでダニールがやってくる。真っ直ぐイヴァンを見ると、高圧的な笑みを浮かべた。


「おうおう、求婚野郎。【暗穴の墳墓】を攻略し直したのは、噂だとお前らだって言うじゃねーか! 俺たちがせっかく攻略したっていうのに、よくもやってくれたな! 余計な真似しやがって!!」


 ダニールのその言葉に、皆が口を開けたまま動きを止めた。


 しばらく静けさが続くと、ダニールが戸惑ったように辺りを見回した。


「な、なんだよ! なんか反応しろよ!」


「お前……驚くほど感じ悪いな」


 アンドレイのその言葉に、ルカとラリッサも「え、やだ、妬み?」「大人気ないね」と、こそこそ話し出す。


 そこでミハイルがいつも通り気遣うように話し出す。


「アンドレイ、ダニールは攻略を餌に女の子にモテたかったんだよ。なのに、横取りされたから拗ねてるんだよ。イヴァンに勝てるところが他にないんだ……仕方ないよ」


 全く気遣いになってなかった。


「どうしようもなく不純だな」


「だよねえ。救いようがないよねえ」


 終いには悪口じみてきていた。


「ミハイル……本当は俺のこと嫌いなのか? 救いようがないとか、酷くね?」


「え、やだな。救いようがないからって僕はダニールを見捨てたりしないよ。安心して」


「ミハイル……」


「嫌いじゃないとは言ってないがな」


 一瞬救われたような顔をしたダニールへ、アンドレイがとどめを刺すように呟いた。


「え?」


「あははは」


 戸惑うダニールに、ミハイルは楽しそうに笑った。


 相変わらずの『灰色の刻』のやりとりに、イヴァンはため息を吐いた。


「くだらないな。そんな理由でダンジョン攻略に臨んだのか」


「は? お前にだけは言われたくねーよ。お前こそ、サーシャが捕まらなくて【暗穴の墳墓】で張ってただろ!」


 ダニールの言葉が、不意打ちのように突き刺さった。


「なっ! ……何でそれを知ってるんだ、それも噂になってるのか?」


「嘘だろ……かまかけただけなのに……まさか本当にやったのかよ。ぷぷぷっ。え? 情けなさすぎね? そこまでするかよ」


 ダニールはイヴァンを指差して笑った。その嘲るような態度に、苛立ちが込み上げる。


「情けなさで言ったらお前の方が余程だろ。もっとまともな理由で功績を上げたらどうだ? そんなんだから、誰からも相手にされないんじゃないのか?」


「あ゛? 何? 喧嘩売ってんのか? ちょっとくらい顔がいいからって、いい気になりやがって! だったら買ってやるよ! かかってこいよ! この前の続きと行こうじゃねえか!」


 ダニールはそう怒鳴ると、ハルバートを構えた。


 イヴァンも眉をひそめながら剣を抜く。自然と口元が歪む。


「いいだろう。相手にしてやる。この前のように無様に負かしてやろう」


「誰が無様に負けたって? この前のは引き分けだろーが!」


 吐き捨てるように叫ぶと、ダニールはハルバートを振り上げた。


 次の瞬間、ハルバートと剣が激しくぶつかり合い、火花が散った。


「ちょっ、リーダー!」


 ルカの声が耳に入る。しかしイヴァンはどうにもダニールへの苛立ちが収まらなかった。


 感情のままに剣を振り、この目の前のふざけた男をどうにか叩き伏せてやりたかった。


 ダニールの猛攻を捌く。踏み込み、打ち込み、受けられる。また踏み込む。距離を取らせない。


 何度目かの攻防の末、ダニールが大きくハルバードを振りかぶった。


「ぬおおおおっ!」


 ダニールの叫びと共に、重い一撃が振り下ろされる。


 イヴァンは踏み込んだまま剣を構え、真正面から受け止めた。


 ガキィン──。


 手に伝わったのは、今までとは違う嫌な感触だった。嫌な予感が走る。


 次の瞬間──


 剣が折れた。


「え……」

「あ……」


 誰も何も言わない。


 綺麗に折れた剣だけが、やけにはっきりと見えた。


 地面には、欠けた刃が転がっている。


「え、えーーーっと……イヴァン……さん……?」


 ダニールが声を震わせる。しかしイヴァンは呆然と剣を見つめていた。


 ルカが心配そうに声をかける。


「リーダー……」


「ダニール……お前……流石にそれは無いんじゃないか?」


「そうだよ。いくらなんでも酷いよ」


 アンドレイとミハイルが、冷ややかにダニールを責める。


「ばっ! 違うわっ! わざとじゃねーよ!」


 イヴァンは黙って折れた剣を鞘に戻し、落ちていた刃を拾い上げた。


 そして無理やり笑って見せる。


「いや、違うんだ。気にしないでくれダニール。元々この剣は寿命がきていたんだ。それより、悪ふざけはこの辺にして帰ろう。日が暮れる前に街に着かないとな……」


 そう言ってイヴァンは乾笑いをしながら歩き出した。


「イ、イヴァン……」

「リーダー……完全に落ち込んでる……」

「まあ、経緯はどうあれ原因はダニールさんだよな」

「ほんと、最低」

「ラ、ラリッサちゃん!」

「酷いにも程があるぞ」

「そうだよ、非道だよ」

「アンドレイ! ミハイルまで!!」


 背後に聞こえる声に振り向く気にもなれず、イヴァンは黙々と歩き続けた。


 長年使い続けた剣が折れた。ただそれだけのことなのに、胸の奥が妙に重かった。


 本当にダニールは悪くない。


 剣の寿命は昨日聞かされていたし、感情に任せて勝負を始めたのも自分だ。それでも──思った以上に堪えていた。


 街に着いて、イヴァンは皆と別れて真っ直ぐ鍛冶屋に向かった。


 ダニールが最後まで気にした様子だったが、アンドレイとミハイルの態度は辛辣なままだった。


 泣きそうなダニールの顔を見て、ミハイルだけは妙に楽しそうだった。あれが彼らなりの関係性なのだろうと思った。


 鍛冶屋に着き、カウンターに折れた剣を出すと、店主が呆れた顔でイヴァンを見てきた。


「お前……今朝受け取って行って、折って戻ってくるとか、いい度胸してるな。俺に殴られにきたのか?」


「……いや、申し訳ない。弁解の余地もない」


 店主に頭を下げると、イヴァンはため息と共に肩を落とした。


 その様子に、店主は小さく息を吐くと剣を指差した。


「で、これはどうするんだ? 折れちまったら元には戻せねえぞ」


「ああ、わかってる。だがこれは、初めて自分のために作った剣なんだ。……思い入れがある。だからどんな形になってもいい。何か使えるものに変えてくれないか?」


 イヴァンがそっと剣に触れた。


 店主は手で顎をさすりながら少し考えると、折れた剣の刃を持ってみせた。


「そうだな。元々素材はいいもん使ってるしな。短剣と……余ったらナイフくらいは作れるだろう」


「それで構わない。頼む」


 イヴァンの返答に、店主は軽く頷いた。


「どうせ急ぎじゃないだろ。ゆっくり作らせてもらうよ。それよりお前、代わりの剣が必要だろ。とりあえず出来合いの剣を買っていけ。お前にちょうどいいのは、あそこの並びだ」


 イヴァンは店主が指した剣を何本か手に取った。どれも悪くはない。だが、どうにも馴染まない。結局、一番無難なものを選んだ。


 イヴァンが微妙な顔でカウンターに戻ると、店主が肩をすくめる。


「お前みたいなやつは、一から剣を作らんとしっくり来たもんなんてないんだよ」


 店主の言葉に、イヴァンは苦笑いしながら会計を済ませた。


「出来上がったら使いを出して知らせる。そしたら取りに来い」


「わかった。よろしく頼む」


 そう言ってイヴァンは店を後にした。


 まるで半身を置いてきてしまったような、何とも言えない複雑な気持ちだった。


 無意識に、新しい剣の柄へ触れる。やはり馴染まない。腰に下がっているのに、自分の剣ではない気がした。


 小さく息を吐く。


 気づけば家の扉を開けていた。広間にルカとレオニードがいた。


「あ、リーダー、お帰りなさい。俺たちも、ちょうど今さっき帰ってきたところですよ」


「他の三人は?」


 イヴァンは軽く見渡してから尋ねた。


「ボグダンさんとラリッサさんは、夕飯作るんで厨房にいますよ。デニスさんは速攻で本屋に行きました」


「そうか」


 確かに厨房からラリッサの楽しげな声が聞こえてきた。


「新しく剣を買ってきたのか?」


 レオニードがイヴァンの腰に下がる剣を見て言った。


「とりあえず……な。実の所しっくり来ないんだ。これでいいのか正直よく分からない」


 するとルカが、何かを言いたげにしていた。その様子に、イヴァンは首を傾げる。


 その時、厨房からラリッサがやってきた。


「レオニードさん、山蜜熊のステーキの焼き具合を見て欲しいんですけど……。あ、イヴァンさんおかえりなさい」


 ラリッサに言われてレオニードは厨房へと向かった。


「さっきボグダンさんと話してたんですけど、カティアちゃんに鍛冶神匠ボリスを紹介してもらえばいいんじゃないかなって」


 そう言ってにっこり笑うと、ラリッサは厨房へ戻って行った。


「それ、俺が言おうか言わまいか悩んでたやつ……」


 ルカがぼそっと呟いた。


「いや、流石にそれは……おこがましくないか? 相手は鍛冶神匠ボリスだぞ?」


「俺もそう思ったから言えずにいたんですよ」


「別にいいんじゃないか?」


 背後から聞こえた声に、驚いてイヴァンは振り向いた。デニスだった。


「デニスさんびっくりさせないで下さい! 魔法使いの癖に気配消して入ってくるのやめて下さいよ! サーシャじゃないんだから」


「俺を、あんな化け物と一緒にすんな!」


 そう言うデニスの手には本が二冊あった。欲しい本はもう一冊と言っていたはずなのに、どうやら一冊増えたらしい。


「……金ない癖に、何で一冊多いんですか」


「別に全額使ってきてない。たまたま安かったから1冊多く買っただけだ。それより、剣ですけど。折れたのはサーシャが原因なんですから、鍛冶神匠ボリスの紹介くらい、どうって事ないでしょ。何なら剣の一本くらい弁償してもらってもいいくらいですよ。」


「な……」


 デニスのその言葉にイヴァンは驚きを隠せなかった。


「まあ、確かにそれはそうですよね」


「ルカまで何言ってるんだ! あの鍛冶神匠ボリスだぞ?!」


「そうかもしれないですけど……目の前にその身内がいるんですよ? それに弁償って話なら、レオニードさんの剣もボグダンさんの盾もそうじゃないですか?」


「うっ……。それは……確かに……」


「リーダー!──」


 デニスが突然イヴァンの肩を掴んだ。


「剣も盾も、ただじゃ手に入らないんです! 弁償、してもらいましょう!!」


 デニスのその物言いに、イヴァンは圧倒された。


「デニスお前……金の話になると妙に真剣だな……」


「は? 何当たり前のことを言ってるんですか? 命かけて稼いでる金ですよ?」


 デニスが首を傾げて真顔で言った。


「そ、そうだな」


 何だろうか……。デニスの言葉は何故か毎回説得力があって、そうなのだなと思わされてしまう。そう思いながら、イヴァンは頷いた。


「よし、じゃあ、今から行ってきて下さい」


「今からか?!」


「急過ぎますよ! それに今、ラリッサさんたちが山蜜熊のステーキ焼いてますよ」


 ルカが焦って言ったが、気に留めた気配もなくデニスは厨房の方へ向かった。


「お前はわかってないな。こういうことは思い立った時が好機なんだよ。山蜜熊の肉なんていつでも食えるだろ」


 そうルカに言い放つと、覗き込むようにして厨房の中に声をかけた。


「リーダーの分の肉って焼いちゃいました?」


「え、今焼いてるけど……デニスさんがいつ帰ってくるか分からなかったから、デニスさんの分だけまだ焼いてないよ?」


 ラリッサの声が返事をした。


「あ、ならそれをくれ。リーダーに持って行かせるから」


 間もなくして、ラリッサが厨房からひょこっと顔を出した。


「イヴァンさんどこか出かけるの?」


「今からカティアちゃんを夕飯に誘いに行くんだよ。その肉は手土産と口実だ」


 デニスが横から答えた。何故か勝手に夕食を誘う話にまでなっていた。デニスが肉を持ってくると、イヴァンに手渡した。


「いいですか、必ず鍛冶神匠ボリスを紹介してくれるよう頼むんですよ! リーダーはこういうこと後回しにすると言えなくなるんですから」


 ぐうの音も出なかった。


「もー、強引だなあ」


 ルカが呟く。


「せめて着替えてから……」


 イヴァンがそう言いかける。


「……いいから行ってきて下さい」


 デニスは笑顔だった。


 どうやら、行かないという選択肢はないらしい。イヴァンは大人しく肉を受け取った。

ご感想・レビュー・誤字報告など、ぜひお気軽にいただけたら嬉しいです。

「ここが気になった」「このキャラが印象に残った」など、一言だけでもとても励みになります。


いただいたご感想は、今後の創作の参考として大切に読ませていただきます。

楽しんでいただけましたら、ぜひ気軽にお声を聞かせてください。

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