第28話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語・設定・キャラクターは作者自身が作成し、文章の推敲や表現の整理にAIを活用しています。
そのため、本作はAI利用区分を「AI直接使用」に設定しています。
翌日。イヴァンは一人、サーシャとカティア嬢がギルドへ来るのを建物の外で待っていた。
【暗穴の墳墓】から戻った直後、イヴァンはギルドへすべてを報告した。最下層の存在。討伐の経緯。そして──鎧ゴーレムを含め、すべてを倒したのがサーシャだということも。
だが、結果は芳しくなかった。
証拠がない。記録がない。どれだけ言葉を尽くしても、ギルドは首を縦に振らなかった。本人からの申告が必要だと言われたのだ。
だが、カティア嬢の話が本当なら、サーシャにはその記憶がない。自分が鎧ゴーレムを倒したことすら忘れ、誰にも認められないままになっている。それだけは、どうしても納得できなかった。
しばらくして、二人の姿が見えた。イヴァンは距離を保ったまま、そっと後ろにつく。以前なら、この程度の距離まで近づけば、すぐに気づかれていたはずだった。だが今日は、二人とも前を向いたまま、振り返る様子がない。
二人がギルドへ入ると、周囲の冒険者たちの視線が自然とサーシャへと集まった。
あの日、あの場にいた冒険者によって、サーシャの噂が広まっているのだろう。
「な、なあ? カティア……なんで俺、こんなに見られてんの?──」
サーシャがそう言って振り返った瞬間、目が合ってしまった。
嫌な予感がした。
案の定、サーシャは踵を返そうとする。
「待ってくれ!」
イヴァンは反射的に腕を伸ばした。
サーシャの腕を掴んだ瞬間、互いに体勢を崩す。
「うわっ?!」
気付けば二人揃って床へ倒れ込んでいた。
「──すまない! 君が逃げようとするから、つい」
「当たり前だろ! お前が勝負だ勝負だって、うるさいからだろ!」
倒れ込んだまま、イヴァンは一度息を整える。
「いや、今日はそれじゃないんだ……」
「は?」
訝しげに睨まれる。だが、しばらくイヴァンの目を見たあと、サーシャは小さくため息をつき、力を抜いた。
「……わかったよ。逃げないから退けよ」
「本当か?!」
イヴァンは慌てて立ち上がると、反射的にサーシャの脇へ手を入れ、そのまま立たせてしまった。
あ、サーシャの小柄さについ……。これ、死──
そこまで考えた瞬間だった。
捉えきれない速さでサーシャの足がイヴァンの懐へ入り、身構える間もなく衝撃が突き抜けた。次の瞬間、ギルドの扉をぶち破り、そのまま外まで吹き飛ばされる。
……生きている。鎧を着てきて、本当に良かった。
ギルド内がざわついていた。痛む身体を起こして中へ戻ると、冒険者たちが唖然とした顔でこちらを見ている。
イヴァンは慌ててカウンターへ向かい、ギルド職員へ声をかけた。
「今のを、誰か見ていたか?!」
「あー……すいません。業務に集中していて、職員は誰も見てませんでした……」
なぜ、誰も見ていない!
喉の奥へ、重たいものが沈んだ。
「けど……扉の破損の弁償は、イヴァンさんでよろしいですか?」
肩から力が抜ける。
「ああ……そうしてくれ。あと、少し場所を借りたい」
落胆を隠しきれないままテーブルを指差すと、職員はにこやかに「どうぞ、ご自由に」と返してきた。
イヴァンはサーシャのもとへ戻った。
「すまない。今のは……つい……。別に、子供扱いしたわけじゃないんだ。あっちで話をしよう」
「ちっっ!!」
盛大な舌打ちが返ってくる。イヴァンはそれを受け流すように苦笑し、二人をテーブルへ案内した。
【暗穴の墳墓】の“真の最下層”で、サーシャがすべての魔物を倒し、鎧ゴーレムを一人で討伐したことを伝える。ただし──自分たちを襲った件については、流石に話さなかった。
話を聞いたサーシャは、一瞬、理解が追いついていないような表情でイヴァンを見た。
「はあ? 何言ってんの? 俺が鎧ゴーレムを倒せるわけないだろ」
「しかし! 本当に君が倒したんだぞ?! その名誉は、君が受けるべきだ!」
「知るか、そんなこと! 訳分からないこと言うな!!」
……駄目だ。まったく信じようとしない。当然だった。何も覚えていないのだから。
「カティア嬢! 君からも、何とか言ってくれ!」
藁にも縋る思いで、その名を呼ぶ。
「えー。んー……えへへ♪」
……その笑顔を見た瞬間、嫌な予感がした。
「カ、カティア嬢? そうだ! 剣を! あの剣を出してくれ!」
「なんだよ、剣って……?」
サーシャの問いに、カティア嬢は少しだけ間を置き、それからにっこりと笑った。
「……なんですか? 剣って♡」
「くっ……!」
イヴァンは思わず歯を噛みしめた。完全に誤魔化す気だ。
思考を巡らせる。
何か──何かないのか。
「あ、そうか! サーシャ、俺の剣を持ってくれ!」
最後の手段だった。その言葉を口にした瞬間、周囲の空気が変わる。視線が、一斉にサーシャへ集まった。
「……さっきから、何なんだよ」
サーシャが訝しげに周囲を見回す。
「イヴァンさん、だーめ♡」
「カ、カティア嬢……」
次の瞬間、イヴァンの手がぎゅっと握られた。想像以上の力だ。……普通に、痛い。それでも、なぜか抵抗する気が起きなかった。
──いや、駄目だ。喜んでいる場合じゃない。そう気づいた時には、もう遅かった。サーシャの姿は、どこにもなかった。
逃げられてしまった。イヴァンは大きく肩を落とした。
それから、ふと気づく。まだ尚、笑顔で手を握られていることに。
思わず目が泳ぐ。
「……カティア嬢……その……もう、手を離してくれてもいいんじゃないかな……」
「あ、ごめんなさい。つい」
そう言ってカティア嬢は、手を離して頭を掻いてみせた。
「昨日モラナちゃんが教えてくれた、イヴァンさんの“可愛い”ところを思い出しちゃって。なんか一人で納得してました」
「は?……」
耳を疑った──今、なんて言った? 思考が止まり、動けないでいた。
「あ、それじゃあ、私はお兄ちゃんを追いかけるので。また!」
カティア嬢は満面の笑顔で手を上げると、元気よく立ち去って行った。
ちょっと待ってくれ! モラナはカティア嬢に、いったい何を話したと言うんだ!
頭を抱えてしばらく悩んだが、結局答えは出なかった。
イヴァンは諦めて鍛冶屋へ向かうことにした。
いつもの鍛冶屋に着いて、剣をカウンターに置き見てもらうように依頼する。
「お前もかよ……」
店主は剣を受け取ると作業を始めた。イヴァンはそれを黙って見守る。しばらくして、店主が剣をカウンターに置くと息を吐いた。
「どういうことだ。ついこの前見た時は、こんな状態じゃなかっただろ。ボグダンといい、レオニードといい、お前たちはいったい何と戦ったんだ」
その言葉に、イヴァンは苦笑いするしかなかった。それを見て、店主は呆れた様子で今度は大きく息を吐いた。
「刃こぼれに歪み、重心も少し狂ってやがる。そこらはどうにかなる」
店主は眉をひそめる。
「だが、問題はそこじゃねえ」
そう言うと、店主は刀身を小さな金槌で軽く叩いた。
「嫌な響きだ。今すぐ折れるわけじゃねえが、長く保つと思わねえ方がいい」
「……そうか」
覚悟はしていたが、その言葉に胸の奥が重くなった。
「無茶させすぎたな。とりあえず、刃こぼれと歪みは直して、明日の朝には引き渡せるが……どうする」
「そうだな、頼む」
イヴァンのその返事に、店主は息を吐きながら剣を手にした。
「レオニードの剣は、どうだったんだ?」
「聞いてなかったのか? あれはもうダメだ。そもそも、あいつは剣にこだわりないからな。うちにある出来合いの剣を買ってったぞ」
「そう……なのか……」
「お前も、早めに新しい剣を考えておけよ」
店主の言葉に頷き、イヴァンは鍛冶屋を後にした。
レオニードはきっと、あえて話さなかったのだろう。必要だと思わなければ、口にしない男だ。剣のことなど、些細なことだったのかもしれない。
ボグダンもそうだ。盾のことなど、一言も口にしない。
それでも、イヴァンの中ではそう簡単に割り切れる話ではなかった。
家に着きイヴァンが扉を開けると、ルカの騒々しい声が響き渡った。
「──だから! 俺が作りますって! お願いですから、デニスさんは作らないでくださいー!!」
「馬鹿よせ! 服を引っ張るな! 伸びるだろ!」
「だったら厨房に行こうとしないでくださいよ!」
イヴァンが広間へ行くと、ルカが必死にデニスの服を引っ張っていた。
「なんでそんなに止めるんだよ! お前らが元気ないから、たまには俺が作ってやるって言ってるんだ! 親切心だろ!」
「親切心なら、頼むから料理しないで下さいよ! デニスさんの料理、壊滅的でしょーが!! 自覚してくださいよー!!」
ルカのその言葉に、デニスの動きがピタッと止まった。
「は? 何言ってるんだよ。俺は食えないものは作ったことないだろ?」
「そーですけど……見た目悪いし……美味くもないのに不味くもなくて……食べることがひたすら作業になるんですよ!!」
ルカが悲痛の叫びをあげた。するとデニスが首を傾げた。
「食事は作業だろ?」
その一言に、ルカは口を開けたまま固まった。
そこでようやく、デニスがイヴァンに気が付いた。
「リーダー、帰ってたんですか。飯作りますけど、食います?」
デニスのその言葉に返事をしようとした瞬間、ルカと目が合った。
何かを訴えるような目だった。
「あー……いや、俺が作ろう……。剣を預けてきたからやる事もないしな。デニス、手伝ってくれるか?」
これなら角が立たないだろうと、イヴァンは二人を見る。ルカはほっとした表情になり、デニスも頷いていた。
その反応にイヴァンは安堵して厨房に向かった。奥の保管庫から食材を取り出し、デニスに渡すと、ナイフで切るように指示する。
「リーダー、剣はどうでした?」
デニスは手を動かしながら、イヴァンに尋ねた。
「ああ、今すぐどうこうなる訳じゃないが、……いずれ新しいものが必要になるな。まあ、山蜜熊の討伐くらいなら問題ないだろう。預けてきたが、明日の朝には仕上がってるらしい」
「そしたら明日、討伐行けます? レオニードさんとボグダンさんも大丈夫らしいんで」
「ああ、大丈夫だ。……それよりデニス。いくらなんでも、それは大きすぎないか? それでは口に入らないぞ」
イヴァンは、その二、三回ほど切られたであろう野菜を指差した。デニスはそれを手に取り見つめた。
「なるほど。火が通ればいいと思ってた」
デニスのその言葉に、イヴァンは苦笑した。そして、普段と変わらないその様子を見て、ふと疑問を口にする。
「ルカとラリッサが元気がないのはわかっていたが……。デニスはいつもと変わらないんだな」
「まあ、あの二人は無理もないでしょう。けど、俺は考え方が違うんで」
「考え方……?」
デニスは特に視線を変えずに、野菜を切りながら話し続けた。
「俺らは、いつでも死と隣り合わせだと思うんですよ。そういうものだって理解してるし、俺なりに覚悟もしてますから。生き残ってるのだって別に実力だけじゃなくて、たまたま運が良かっただけでしょう」
デニスは小さく息を吐いた。
「確かにサーシャの件は、思い出すたびに恐怖しかないですよ。あの強さで、何も通じない。誰も倒せないうえに、あの狂気。絶望しかない。ルカとラリッサが引きずるのも当然ですよ」
そう言いながら、デニスは野菜の大きさを確かめた。
「ただ、多分ですけど、二人とも相手が人だから割り切れないだけでしょ。魔物だって理屈なしに襲ってくるんです。俺からしてみれば、相手が人でも魔物でも、襲ってくるなら危険に違いはないですよ。だからと言って、あの二人が理解や覚悟が足りないとかは言いませんけどね。そういうのは人それぞれでしょ」
野菜を切り終えると、デニスはナイフを置いた。
「だから、いつまでも怖がったって意味ないし、気にしたところで結果は変わらないでしょう。それより明日、山蜜熊の討伐で俺に稼がせてください。あと、野菜切れたんで早く調理してください。リーダーがやらないなら、俺がやっちゃいますよ?」
「あ、ああ。わかった」
どの言葉にそう答えたのか、イヴァンにもわからなかった。
デニスの言いたいことは理解した気がした。
だが、だからと言って簡単に割り切れる話でもなかった。複雑な思いのまま、イヴァンは料理を続けた。
ご感想・レビュー・誤字報告など、ぜひお気軽にいただけたら嬉しいです。
「ここが気になった」「このキャラが印象に残った」など、一言だけでもとても励みになります。
いただいたご感想は、今後の創作の参考として大切に読ませていただきます。
楽しんでいただけましたら、ぜひ気軽にお声を聞かせてください。




