第27話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語・設定・キャラクターは作者自身が作成し、文章の推敲や表現の整理にAIを活用しています。
そのため、本作はAI利用区分を「AI直接使用」に設定しています。
食事を終え、イヴァンたちは店を出た。
カティア嬢を家まで送るため、並んで歩いていると、すぐそばへ見覚えのある馬車が止まる。
……どういうことだ?
あれは、うちの馬車じゃないか。
イヴァンが動揺していると、御者が降りてきて馬車の扉を開いた。何も分かっていないカティア嬢は、その様子をただ見ている。
「やっと見つけました。探しました、お兄様」
「モラナ! どうしたんだ?! お前がこんな所に来るなんて!」
まさか現れたのがモラナだとは思わず、驚きを隠せなかった。
「どうしたもこうしたもありません。あんなに頻繁に届いてた手紙が途絶えたんです。直接、生存確認に参りました。家まで行ったら、お兄様はいらっしゃらなくて……ですが、生きてたようで安心しました」
冷たく鋭く、淡々と言葉が発せられる。しかし、なんだろう……もしかして──
「その為にわざわざここまで来たのか?」
イヴァンのその言葉に、モラナの鋭い視線が突き刺さる。一瞬、息が詰まった。本当に刺されたのかと錯覚したほどだ。
「お兄様は本当にわかってないんですね。ご自身が冒険者だってことを。知らないのですか? 冒険者は危険と隣り合わせなんですよ。……いつでも傍に死が控えてるんです」
モラナの最後の言葉だけが、いつもより小さく、弱々しかった。
──そういえば。いつから、モラナへ手紙を書くことを考えなくなっていたのだろう。
ああ……そうか。心配させてしまった。
心配してくれていたのか。
それに気づいた瞬間、胸の奥が熱くなる。気づけば、身体が勝手にモラナを抱きしめていた。
「すまない。心配させてしまったんだな」
驚いたのだろう。モラナは身じろぎもせず、ただイヴァンを見上げていた。
その瞳が、ほんの一瞬だけ揺れる。
「……お兄様。変わられましたか? こんなことを、恥ずかしげもなくなさるなんて……」
「す、すまない」
イヴァンは慌てて言葉を継いだ。
「なぜか最近……気持ちを抑えきれなくてな。考える前に、体が動いてしまうんだ」
そう言って、腕を解こうとする。だが、モラナは離れなかった。そっと、確かめるように、イヴァンの背へ手を添えてくる。
「もう二度と、手紙を書くのを忘れないでください。面倒ですが……毎回、ちゃんと読んでいるんですから。私も忙しい身です。こうして会いに来るのは、今日が最初で最後ですからね」
相変わらず、言葉は冷たかった。けれど──ほんのわずかに、声が揺れたような気がした。
「……わかった」
昔のモラナの面影が、ふと重なる。胸の奥が、静かに満たされていくのを感じた。
……だが。
「……ところで、モラナ。その……さっきから気になっているんだが、その面は何だ?」
「猫の面、可愛い〜♡」
カティア嬢が食いつくようにモラナを見ている。
「お兄様は知らなくていい事情です」
その一言で、モラナはいつもの距離へ戻ってしまった気がした。胸の奥へ、ふと、切なさが差し込む。
「そんなことより、こちらの方は、もしかして……」
「あ、ああ。カティア嬢だ」
それまでの冷たい声音が嘘のように、モラナがぱっと表情を輝かせた。
「まー! 貴女がカティアさんですか?! 私は妹のモラナと申します。お会いできて嬉しいですわ、カティアさん。……ところで、今日は“可愛いお兄様”はご一緒ではないのですか?」
何故か、モラナが興奮気味にカティア嬢へ詰め寄る。
「お兄ちゃんは今日は、お家でお留守番?ですかね」
「そうなんですね。残念です。どれだけ可愛らしい方なのか、見てみたかったです」
「え? だったら、見にきます? お兄ちゃん寝てて、今日はもう起きないんで。可愛くしてあるんで、お人形さんみたいですよ」
「いいのですか? でしたら、是非!」
「は?」
──モラナ?!
何を言っているんだ。
サーシャはペットじゃない。見に行くとか、そういう次元の話なのか? しかも、あの姿を!
「ちょっと待てモラナ! 流石にそれは──」
「あら、お兄様。まだいらしたんですか? もう用は済みましたので、お帰りになってよろしいんですよ?」
「……え?」
痛かった。
今、言葉で殺されかけた。もし言葉が本当に刃物なら、今ごろモラナは返り血を浴びていたはずだ。
──大丈夫。まだ立っていられる。
「……いや。サーシャは眠っているんだ。迷惑だろう」
「え? 大丈夫ですよ? 絶対に起きないんで」
──カティア嬢?!
「いや、そういう問題では……」
「もう、お兄様、いい加減になさってください。カティアさんが良いと仰っているのです。邪魔をしないでくださいませ」
「……え、いや」
「お兄様は放っておいて、参りましょう、カティアさん!」
「うん、行こう♪ うちのお兄ちゃん可愛いから、びっくりしちゃうかもよ〜」
「まあ、楽しみですわ。でしたら、お茶でもいただきながら……互いの“お兄様”の可愛いについて、ゆっくり語り合いましょう♪」
「え、楽しそ〜♪」
「ちょっ……」
今、一瞬、聞き捨てならない言葉が聞こえた気がする。イヴァンは慌てて二人へ近づこうとした。
その時──
「お兄様は、絶対についてこないでくださいね!」
モラナの眼光に射抜かれ、足が止まる。
待ってくれ。俺を心配して来てくれたんじゃなかったのか……。
胸の奥を、虚しさだけがすうっと吹き抜けていった。
モラナには逆らえず、イヴァンはその場を離れた。あの珍妙な面のことも、結局流されて聞けなかった。
モラナのことが、少し分かった気がしたのに──また、分からなくなってしまった。
複雑な気持ちを抱えたまま家へ帰ると、ルカとラリッサが部屋から出てきていた。
「あ、おかえりなさい、リーダー。モラナさんと会えましたか?」
ルカが声をかけてくる。
イヴァンは重たい気持ちのまま椅子に腰掛けた。
「あ、ああ……会えたが……ん? ルカ、モラナに会ったのか? あの、面をした……」
言いながらも、猫の面をつけたモラナの姿を思い出す。知らぬ間に、妹に変わった趣味ができてしまったのだろうか。イヴァンは困惑を隠しきれなかった。
「面? そういえばしてたような……」
ルカの反応に違和感を覚える。あれほど目立つ面だったのに、そんなものだろうか。
「いいなあ。私もモラナさん見たかったなー。きっとイヴァンさんに似て、美人なんだろなあ」
「だろうね。あ、そうか、面してたから顔がわからなかったのか……なんでだろ? 何故か面に意識がいかなかった……」
そうルカが話している間に、デニスが帰ってきた。
「それ、認識阻害の効果だろな」
声のする方へルカとラリッサが振り向く。
「デニスさん」
デニスは両手に抱えていた本をテーブルに置くと、疲れた腕を回しながら話し出す。
「モラナさんだろ? 俺も会ったぞ。本屋を出たら、見覚えのある家紋の馬車が止まっててさ。そっちを見てたらモラナさんにぶつかってしまって、面が外れて落ちたんだ。拾い上げた時に気付いたが、あれは認識阻害の魔道具だった。しかもかなりいい出来のやつだ……」
そう言いながらデニスは顎に手を当て感心したように頷く。
「え。じゃあ、デニスさん、モラナさんの顔を見たの?」
「見たな」
デニスはあっさり頷いた。
「美人でした?」
ルカが興味ありげに聞く。
「美人だったな」
デニスは無表情で答えた。
「……あ、デニスさん女性に興味なかったんだった」
「聞く人、間違っちゃったね」
「誰も興味ないとは言ってないだろ! そんなことより、隣にカティアちゃんがいたから、サーシャまでいるかと思って慌てて逃げてきたんだよ! 俺は!」
2人の言葉をデニスが向きになって訂正した。
「え、なんでモラナさんとカティアちゃんが一緒に?」
ルカがイヴァンに向き直り聞いてきた。
「よくわからんが、モラナがカティア嬢と意気投合して家に招待されていた……」
言いながら、ついてくるなと突き放されたことが、未だに胸に刺さって微かに痛む。
「なんでそんな状況になったんです?」
そのルカの問いに、イヴァンは食事までの経緯と、今後も食事に誘うことへの了承を得たことを話した。
「……良かったじゃないですか。リーダーにしては頑張りましたよね」
「進展ですね!」
2人のその予想外な反応に、イヴァンは少し戸惑った。
ルカのことだから、大袈裟に反応すると思っていた。だが、どこか複雑そうな顔をしていた。
ラリッサも笑顔を見せたが、その笑顔もどことなく元気がなかった。
そういえば、あの騒動の時からラリッサの顔をまともに見ていなかった気がする。
いつからだ? こんな様子になったのは。
昨日のことが、自分が思っている以上に皆の心に影響しているのかもしれない。そう考えた時に、ふと思い出した。意識を失う前に、何かを言わなければならないのだと思ったことを。
「……皆、すまない」
「どうしたんです?! 急に!」
頭を下げるイヴァンに、ルカが慌てて声をかける。
「……【暗穴の墳墓】でのことだ。俺のわがままに付き合わせてしまい、酷いことも言ってしまった。……挙げ句の果てに、危険に巻き込んでしまった。俺は最低な事をしてしまった」
「そうですね」
デニスのその一言が、胸にぐさっと刺さった。モラナを思い出すほどの鋭さに、血を吐くのではないかと錯覚した。
「お陰であんな所で3日も過ごすし、まともな食事も取れないし、風呂に入れないし、死ぬ思いはするしで、散々でしたよ」
「デ、デニスさん! そこまで言わなくても……」
ルカが慌てて止めに入る。ラリッサは口を開けて固まっていた。
「ルカ、黙ってろ。そもそも、お前らはわかってない。リーダーはちゃんと言ってやらないとわからない人なんだよ」
デニスはルカを指差して静止してそう言い放つと、続けた。
「まー、でも。それでも付き合うって決めたのはこっちなんですから。全てがリーダーのせいって訳ではないでしょ。リーダーがどう思おうが勝手ですけど、俺らの決めたことにまで責任感じなくていいんですよ」
ルカが安堵したような顔をした。口は悪いが優しさのこもったデニスのその言葉に、イヴァンは救われた気がした。
「それに、謝るくらいなら感謝してください。倒れたリーダーの鎧を脱がせて風呂に入れて、着替えさせてベッドまで運んだのは、俺らなんですからね。ちなみに髪を洗ったのは俺です」
「──っ!!」
デニスのその言葉に、イヴァンは思わず立ち上がった。その勢いで椅子が後ろに倒れた。
「え、デニスさん。別にそれ言わなくても良くないですか? 第一、デニスさん、着替え取ってくるのと髪洗うことしかしてなかったじゃないですか」
ルカが呆れたようにデニスに言った。
イヴァンは、はっとしてラリッサの方を向いた。目が合うと、ラリッサは苦笑いして手を上げた。
「いや、私は何もしてませんし、その辺は見てませんから。安心してください」
その言葉に、へなへなと力が抜ける。なんとか椅子を立て直して座る。そのまま勢いよくテーブルへ額を打ち付けて突っ伏した。
盛大な音がした。
「すまなかった……いや、感謝してる。ありがとう……」
恥ずかしさで死にそうだった。立ち直れる気がしない。
「あ、そうだ。鎧と剣も、レオニードさんと俺で手入れしときましたから、安心してください」
「悪いな。いや、違う……助かった、ありがとう」
ルカに感謝しつつ、広間の隅に置かれた自分の装備に目をやる。
「そうだ。リーダーの鎧と剣なんですけど……レオニードさんの話だと、無事ではすまないだろうって」
その言葉に、全員が鎧と剣に目を向けた。イヴァンはおもむろに立ち上がると、近付いてから手に取って見つめてみた。
一通り見終えると、剣を鞘から抜き柄を握ってみる。それから一振りして、また見つめる。
「どうです?」
ルカが尋ねてきた。
「……違和感はあるな」
剣を見つめながらイヴァンは呟いた。
「だが、修理が利くのか、もう駄目なのかまでは分からん。レオニードがそう言ったのなら、そうなんだろうな」
「レオニードさんの剣も駄目らしくて、一応鍛冶屋には持って行ってみると言って出かけて行きましたよ」
「そうなのか?!」
申し訳なさと後悔が、イヴァンの胸へ一気に押し寄せた。
「え、2人とも剣が駄目なのか? それは困ったな……」
「なんでデニスさんが困るんです?」
「実は早急に受けたいクエストがあるんだ」
「あ、まさか……嫌な予感しかないんですけど……。もしかして、またですか?」
ルカが恐る恐る尋ねる。
「ああ、常設依頼の山蜜熊の討伐だ。金が欲しい」
「やっぱり!! なんでそんなに金がないんですか!! 今日だって、その本、買ってきたんじゃないんですか?!」
ルカが、テーブルにある本を指差して声を荒げる。
「そうだ! これが俺の全財産だ! だが、もう一冊だけ、どうしても欲しい本があるんだ!」
「別にそんな慌てなくても良いじゃないですか!」
「早く買わないと、他の誰かに買われてしまうだろ?! それとも何か? ルカが俺に金をくれるのか?」
「なんで、“貸す”を飛び越えて“あげる”話になるんです?! 貸すくらいならできますよ!」
「馬鹿なのか、ルカ。俺に、借りた金が返せると思ってるのか?」
「っ!……」
デニスの言葉に、ルカが何も言えずに沈黙した。
「ということで、リーダー。山蜜熊の討伐に行きたいです。早急に剣を何とかしてください」
「あ、ああ……」
デニスの勢いに押され、イヴァンは曖昧に頷いた。
「明日、ギルドに行く用事があるんだが、その足で鍛冶屋に行ってくるか」
これまで長く愛用していた剣が、こんなことになってしまったことも気がかりだった。
だが、それ以上にレオニードの剣までも、自分のせいで駄目になってしまったことが、イヴァンの胸に重くのしかかっていた。
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