表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/26

第3話

本作は自分の考えた世界観やキャラクターをもとに、小説の文体化をChatGPTにサポートしてもらいました。物語そのものはすべて自分の手で作っています。

 ギルドへの報告を終えた頃には、ちょうど『なかよし団』の二人も報酬を受け取っていた。


「はい。お疲れ様でした〜」


「ありがとうございます♪」


 カティア嬢が、両手で受け取った報酬袋を嬉しそうに見つめている。ああいう屈託のない笑顔は、正直眩しい。


 目を逸らすように、イヴァンは視線を外した。


「あ、リーダー。飯、食いに行きましょうよ。俺、腹減っちゃいました! レオニードさんも行きますよね! ね!」


 ルカはそう言って、片目をつむりながらレオニードに視線を送った。レオニードは一拍も置かず、頷く。


「ああ、そうだな」


「……わかった。なら、行くか」


 イヴァンがそう答えると、ルカは満足そうに何度も頷き、片手を高く上げて声を張り上げた。


「カティアちゃーん! これから飯食いに行くんですけど、一緒に行きましょ〜!」


 途端に、ギルド中の視線が一斉にこちらへ向いた。さっきまでとは違う、妙な居心地の悪さが残った。


「おい、何を勝手に──」


「え! いいんですかあ?!」


 制止しかけた声は、カティア嬢の弾んだ声にあっさりとかき消された。


「わあ、いつもお兄ちゃんと二人だから、大勢で食べるなんて近頃なくて嬉しいです! ね♪ お兄ちゃん!」


「は? 俺、行きたくないんだけど」


 その拒絶に、イヴァンの胸の奥で苛立ちがちくりと疼いた。カティア嬢もまた、不満そうに兄を見つめている。


「まあまあ、そう言わず! サーシャ君も来てくださいよ〜。俺、奢りますから!」


 ルカは笑顔を崩さないまま、軽くサーシャの肩に手を置いた。


 次の瞬間──


 空気が、わずかに止まった。


「ちっっ!!」


 耳障りな舌打ちが、はっきりと響いた。


「……ええ……」


 ルカはそのまま、笑顔で固まった。


 なんなんだ、この態度は。好意で声をかけている相手に向けるものじゃない。イヴァンの中で苛立ちが一気に膨れ上がり、思わず前に出かけた、そのとき。


「イヴァン。今にも魔物を斬りに行きそうな顔をしているぞ」


 レオニードが、ぽんと肩に手を置いた。はっとして、イヴァンは息を整える。──まずい、感情が顔に出ていたか。


「あー、ごめんなさい。お兄ちゃん、“君”って呼ばれるの、本気で嫌いなんですよね。子供扱いされてるみたいで〜。あはは」


「おおう。じゃあ、ええっと……」


「……呼び捨てでいい。あと、その堅苦しい喋り方もやめろ。嫌いなんだ」


 兄はむすっとしたまま、ぶっきらぼうに言い放った。


「そっか! じゃあサーシャも一緒に行こうぜ。俺が奢るからさ」


 ルカは、先ほどとは打って変わって距離を詰めた口調に切り替えた。


「ちょ、ちょっと待ってくれルカ。それは俺も前から言っているだろ?」


「え、リーダーはダメですよ。リーダーなんだから」


 思わず、イヴァンは言葉に詰まった。


「……どういうことだ?」


「イヴァン。ルカはリーダーの威厳を大事にしているんだ。それだけ『蒼銀の翼』を大切に思っているということだ。我慢してやれ」


「……」


 そう言われてしまえば、反論はできない。自分のわがままを通すわけにはいかなくなった。


「すいません、リーダー。俺の勝手な思いを押し付けちゃって」


「……わかった」


 正直、納得しきれない部分はある。だが、ルカの気持ちを無下にすることもできず、イヴァンはそれを飲み込むしかなかった。


 ──そうか。あいつは、そんなことを考えていたのか。


 今まで何度も同じやり取りをしてきたはずなのに、理由をはっきり聞いたのは、これが初めてだった。ただ融通が利かないのだと思い込み、深く聞こうとしなかっただけだ。そう気づいた途端、胸の奥が少し重くなる。


 ふと、隣にいるレオニードを見る。


「……お前は、知ってたのか」


「聞いたわけじゃない。見ていれば分かる」


「……そうか」


 短く返しながら、胸の奥が静かに沈んだ。気づいていなかったのは、自分だけだったのか。リーダーだなんて名ばかりで、仲間の思いひとつ、きちんと見ていなかった。その事実が、じわりと効いてくる。


 言葉少なにギルドを出る。誰も何も言わないが、イヴァンだけが考え込んでいるのが分かっているような、そんな間が続いた。


 気づけば、足は自然と風渡り亭へ向いていた。ギルド近くにある、行きつけの食堂だ。昼時を少し外しているはずなのに、店内はそれなりに賑わっていた。


「カティアちゃん、好きなものを頼んでくれ。金は俺たちが払う」


「え?……」


 思わず声が漏れた。今のは、聞き間違いか。


 レオニードが、あんな呼び方をするはずがない。人との距離を一定以上縮めない男のはずだ。


「ん? どうした、イヴァン」


「……いや。今の、俺の幻聴かと思ってな」


「疲れてるんじゃないか?」


 それ以上、レオニードは気にした様子もなく、メニューに視線を落とした。


 頭の中では整理がついていかない。今日に限って、些細なことばかりが引っかかる。落ち着かず、イヴァンは無意識に額を押さえた。


 そのとき、ふと視線を感じて顔を上げる。カティア嬢の兄──サーシャが、無言でこちらを見ていた。


「……なんだ?」


 そう尋ねると、サーシャは一度ため息をつき、露骨に視線を逸らした。


 なんなんだ、こいつは。


 胸の奥が、またざわりと揺れた。その瞬間、レオニードが何も言わずにイヴァンの肩に手を置く。


 ……わかっている。


 イヴァンは軽く手を上げて応じ、意識的に気持ちを切り替えることにした。


「リーダー、何頼むか決まりましたか?」


「あ、ああ」


「すっいませーーーん!」


 ルカの元気な声が店内に響き、給仕の娘が注文を受けにやってきた。


「はーい、ご注文伺いますね〜」


「カティアちゃん、お先にどうぞ」


 ルカがカティア嬢に注文を促す。


「えっと、じゃあ、私はお肉たっぷりの──」


 カティア嬢が言いかけた、その時だった。サーシャが呼びかける。


「おい、カティア」


「ん? なに? お兄ちゃん」


 顔を寄せた瞬間、サーシャが素早くカティア嬢の口元を押さえた。カティア嬢は慌てて抵抗しているが、サーシャはびくともしない。その光景に、場の空気まで凍りついた。


「む゛ー!?」


「カティアは、“香草鶏と根菜の煮込み定食”。俺は、“炭焼き赤身肉のステーキ定食”と“魚の香草焼きと季節野菜の定食”、それと“豆と麦の具だくさんスープ”。以上だ」


 給仕の娘は一瞬呆気にとられたが、慌ててメモを取り出した。


「……サーシャそんなに食べるのか?」


「普段はもっと食べる。これでも遠慮した量だ」


「へ……へぇ……。じゃあ、俺は“豚肩肉の厚切り焼き定食”」


 ルカが声を裏返しながら注文すると、レオニードが気にする様子もなく続ける。


「俺は“山鶏の香草焼き定食”で」


「お、俺も同じものを……」


「かしこまりました〜」


 最後にイヴァンも注文を済ませ、給仕が去った。


 その背中が見えなくなった頃、サーシャはようやくカティア嬢から手を離した。


「お兄ちゃん酷い!! 自分で選んだの頼みたかったのに!!」


「肉しか食わなくなるから駄目だ」


「そ、そんなことないもん……」


 カティア嬢が指をもじもじさせる。その様子を一瞥すると、サーシャは短く息を吐き、視線を逸らした。


「二人は普段の食事はどうしてるの?」


 ルカが気さくに話しかける。


「いつもお兄ちゃんがご飯を作ってくれるんです♪」


「へー、意外! サーシャが作るんだね」


「そーなんです。お兄ちゃん、なんでも出来るんで! 私はちょっと……お料理とか苦手で……あははは」


 頭を掻くカティア嬢に、サーシャは鼻で笑う。


 その様子に、イヴァンは少し苛立ちを覚えるが、レオニードの冷静な視線を感じて気持ちを抑えた。


「うちのリーダー、こう見えて料理得意なんだよ。貴族出身なのに変な人だよね」


「おいルカ!」


「気にすることはないだろ? イヴァンが貴族の家の出だってことはギルド内でも有名な話だ」


 レオニードが淡々と付け足す。確かにそうだが、イヴァンにとってそれは足枷にしかならない。身分のせいで距離を置かれるのが、どうしても嫌だった。


「へー、イヴァンさん貴族なんですね〜」


 カティア嬢はあまり興味を示さず、その淡い反応にイヴァンは少し安堵する。


「そうなんだよ。でも、リーダー最近妹さんに冷たくされて、傷心中なんだよね〜」


「ルカ!!」


「まあ、まあ、リーダー。折角だから、妹の立場からの意見を聞いてみたらいいじゃないですか」


「ああ、いいじゃないか。どうせ俺たちが慰めたところで、お前は納得しないだろ?」


 ルカはさておき、レオニードにそう言われると、反論する言葉が見つからなかった。確かに、妹の立場からの意見も気になっていたのだ。


「え、私に答えられることなら何でも聞いてください?」


 その時、給仕が料理を運んできた。


「お待たせしました〜!」


 料理が次々と置かれ、サーシャは視線を向けることもなく、黙って食事を始めた。こちらの会話に関わる気配はない。


「……懐いてた妹に、ある日、突然、自分の事は良いから自由に生きろと言われたんだ……」


「……ん??」


 カティア嬢は意味がわからないといった様子で首をかしげ、ルカの方を見る。


「リーダー! 喋るの下手すぎですか?! いつももっと饒舌でしょうが!」


 ルカの鋭い突っ込みが刺さる。イヴァンは眉をひそめた。こんな話、他人に聞かせたいわけがない。まして、出会って間もない相手に晒すようなものじゃない。


 もどかしそうに息をついたルカが、代わりに説明を始める。


「リーダーは、窮屈な家を飛び出して冒険者になったんだけどさ。その稼ぎを、妹さんのために仕送りしてたんだよね。

でも、その金を両親が全部使い切っちゃってさ。

それで妹さんが怒って、“自分は大丈夫だから、もう金は送ってくるな。自由に生きろ”って手紙をよこしたらしいんだ。

リーダーは妹さんのために頑張ってきた人だから、いきなり目的を失って、どうしていいか分からなくなって……かなり凹んだみたいなんだよね。

それ以来、妹さんはずいぶん冷たくなったみたいでさ。

この前も、親に呼び出されて行ったらお見合いをさせられちゃって。

妹さんに呆れられて、“いい加減にしろ”って言われたらしいよ」


 話し終えたルカは言葉を切り、カティア嬢へ視線を向けた。


 イヴァンも、わずかに遅れてその先を見る。正直、うんざりしている。なぜこんな話をさせられているのかという思いは消えない。それでも、ここまで口にされてしまった以上、その受け取られ方だけは無視できなかった。


「うーん、妹さんの本当の気持ちはわからないけど……妹さんはイヴァンさんに守られたいんじゃなくて、守ってあげたいんじゃないかな?」


「え?」


 その言葉に、イヴァンは思わず息を詰めた。モラナが自分を守りたい? 妹なのに?


「多分だけど、イヴァンさんは妹さんを守りたいって強く思ってるから、それが嫌だったんじゃないかな。大切に思ってくれるのは嬉しいけど、それでお兄ちゃんが傷ついたり大変な思いをするのは、私は嫌だなって思う。苦労も喜びも一緒に分かち合いたいし、何よりお兄ちゃんは可愛いから、私が守ってあげなきゃなんだもん!」


「んん?」


 ルカが間の抜けた声を漏らした。確かにカティア嬢は突飛なことも言っている。だが、その言葉は、イヴァンの胸に深く刺さった。


 モラナの気持ちを、これまで考えたことがあっただろうか。ただ、どうしてあんなにも冷たくするのか、そればかりを考えていた。理由がないはずはないのに。自分は妹のために動いているつもりで、妹がどう在りたいかを、考えようともしなかったのかもしれない。


 そうして思考に沈みかけた、そのとき──


「くだらない」


 低く吐き捨てるように言い、サーシャが席を立った。気づけば、目の前の料理はすでにすべて平らげられている。


「え? お兄ちゃん?」


「俺は先に帰る。パン屋に寄るから、お前はついてくんな」


 冷たく言い放ち、サーシャは出口へ向かう。腹の奥で、抑えきれない怒りが再燃した。奢ってもらっておいて、なんて態度だ。だが、彼が座っていたテーブルの上に、きちんと代金が置かれているのを見て、余計に腹が立った。


 感情が爆発しそうになり、イヴァンは反射的に立ち上がりかけた。テーブルに手をつき、腰を浮かせた、その瞬間。


 横から伸びてきた腕が、鎧越しに肩を押さえた。ぐっと力をかけられ、身体が椅子へ戻される。


 ガタッ、と短い音が立つ。


「……リーダー?」


 物音に気づいたのか、ルカが怪訝そうにこちらを見る。


 イヴァンは小さく息を吐いた。──何を、こんなところで感情的になっている。


「なんでもない」


 それだけ答えた直後、すぐ隣からレオニードの低い声が届く。


「食え」


 短く、しかし有無を言わせない声音だった。イヴァンは視線を落とし、言われた通りに箸を取る。胸の奥はまだざわついている。それでも、今はそれを表に出すべきじゃない。


「もー、お兄ちゃんったら勝手なんだから!」


 そう言って頬を膨らませるカティア嬢の仕草が、ひどく幼く見えた。その様子に、ささくれ立っていた気持ちが、ほんの少しだけ和らぐ。


 あの兄には、あまりにも勿体ない妹だ──そう思った瞬間、胸の奥で、言葉にならない何かが軋んだ。

ご感想・レビュー・誤字報告など、ぜひお気軽にいただけたら嬉しいです。

「ここが気になった」「このキャラが印象に残った」など、一言だけでもとても励みになります。


いただいたご感想は、今後の創作の参考として大切に読ませていただきます。

楽しんでいただけましたら、ぜひ気軽にお声を聞かせてください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ