第3話
本作は自分の考えた世界観やキャラクターをもとに、小説の文体化をChatGPTにサポートしてもらいました。物語そのものはすべて自分の手で作っています。
ギルドへの報告を終えた頃には、ちょうど『なかよし団』の二人も報酬を受け取っていた。
「はい。お疲れ様でした〜」
「ありがとうございます♪」
カティア嬢が、両手で受け取った報酬袋を嬉しそうに見つめている。ああいう屈託のない笑顔は、正直眩しい。
目を逸らすように、イヴァンは視線を外した。
「あ、リーダー。飯、食いに行きましょうよ。俺、腹減っちゃいました! レオニードさんも行きますよね! ね!」
ルカはそう言って、片目をつむりながらレオニードに視線を送った。レオニードは一拍も置かず、頷く。
「ああ、そうだな」
「……わかった。なら、行くか」
イヴァンがそう答えると、ルカは満足そうに何度も頷き、片手を高く上げて声を張り上げた。
「カティアちゃーん! これから飯食いに行くんですけど、一緒に行きましょ〜!」
途端に、ギルド中の視線が一斉にこちらへ向いた。さっきまでとは違う、妙な居心地の悪さが残った。
「おい、何を勝手に──」
「え! いいんですかあ?!」
制止しかけた声は、カティア嬢の弾んだ声にあっさりとかき消された。
「わあ、いつもお兄ちゃんと二人だから、大勢で食べるなんて近頃なくて嬉しいです! ね♪ お兄ちゃん!」
「は? 俺、行きたくないんだけど」
その拒絶に、イヴァンの胸の奥で苛立ちがちくりと疼いた。カティア嬢もまた、不満そうに兄を見つめている。
「まあまあ、そう言わず! サーシャ君も来てくださいよ〜。俺、奢りますから!」
ルカは笑顔を崩さないまま、軽くサーシャの肩に手を置いた。
次の瞬間──
空気が、わずかに止まった。
「ちっっ!!」
耳障りな舌打ちが、はっきりと響いた。
「……ええ……」
ルカはそのまま、笑顔で固まった。
なんなんだ、この態度は。好意で声をかけている相手に向けるものじゃない。イヴァンの中で苛立ちが一気に膨れ上がり、思わず前に出かけた、そのとき。
「イヴァン。今にも魔物を斬りに行きそうな顔をしているぞ」
レオニードが、ぽんと肩に手を置いた。はっとして、イヴァンは息を整える。──まずい、感情が顔に出ていたか。
「あー、ごめんなさい。お兄ちゃん、“君”って呼ばれるの、本気で嫌いなんですよね。子供扱いされてるみたいで〜。あはは」
「おおう。じゃあ、ええっと……」
「……呼び捨てでいい。あと、その堅苦しい喋り方もやめろ。嫌いなんだ」
兄はむすっとしたまま、ぶっきらぼうに言い放った。
「そっか! じゃあサーシャも一緒に行こうぜ。俺が奢るからさ」
ルカは、先ほどとは打って変わって距離を詰めた口調に切り替えた。
「ちょ、ちょっと待ってくれルカ。それは俺も前から言っているだろ?」
「え、リーダーはダメですよ。リーダーなんだから」
思わず、イヴァンは言葉に詰まった。
「……どういうことだ?」
「イヴァン。ルカはリーダーの威厳を大事にしているんだ。それだけ『蒼銀の翼』を大切に思っているということだ。我慢してやれ」
「……」
そう言われてしまえば、反論はできない。自分のわがままを通すわけにはいかなくなった。
「すいません、リーダー。俺の勝手な思いを押し付けちゃって」
「……わかった」
正直、納得しきれない部分はある。だが、ルカの気持ちを無下にすることもできず、イヴァンはそれを飲み込むしかなかった。
──そうか。あいつは、そんなことを考えていたのか。
今まで何度も同じやり取りをしてきたはずなのに、理由をはっきり聞いたのは、これが初めてだった。ただ融通が利かないのだと思い込み、深く聞こうとしなかっただけだ。そう気づいた途端、胸の奥が少し重くなる。
ふと、隣にいるレオニードを見る。
「……お前は、知ってたのか」
「聞いたわけじゃない。見ていれば分かる」
「……そうか」
短く返しながら、胸の奥が静かに沈んだ。気づいていなかったのは、自分だけだったのか。リーダーだなんて名ばかりで、仲間の思いひとつ、きちんと見ていなかった。その事実が、じわりと効いてくる。
言葉少なにギルドを出る。誰も何も言わないが、イヴァンだけが考え込んでいるのが分かっているような、そんな間が続いた。
気づけば、足は自然と風渡り亭へ向いていた。ギルド近くにある、行きつけの食堂だ。昼時を少し外しているはずなのに、店内はそれなりに賑わっていた。
「カティアちゃん、好きなものを頼んでくれ。金は俺たちが払う」
「え?……」
思わず声が漏れた。今のは、聞き間違いか。
レオニードが、あんな呼び方をするはずがない。人との距離を一定以上縮めない男のはずだ。
「ん? どうした、イヴァン」
「……いや。今の、俺の幻聴かと思ってな」
「疲れてるんじゃないか?」
それ以上、レオニードは気にした様子もなく、メニューに視線を落とした。
頭の中では整理がついていかない。今日に限って、些細なことばかりが引っかかる。落ち着かず、イヴァンは無意識に額を押さえた。
そのとき、ふと視線を感じて顔を上げる。カティア嬢の兄──サーシャが、無言でこちらを見ていた。
「……なんだ?」
そう尋ねると、サーシャは一度ため息をつき、露骨に視線を逸らした。
なんなんだ、こいつは。
胸の奥が、またざわりと揺れた。その瞬間、レオニードが何も言わずにイヴァンの肩に手を置く。
……わかっている。
イヴァンは軽く手を上げて応じ、意識的に気持ちを切り替えることにした。
「リーダー、何頼むか決まりましたか?」
「あ、ああ」
「すっいませーーーん!」
ルカの元気な声が店内に響き、給仕の娘が注文を受けにやってきた。
「はーい、ご注文伺いますね〜」
「カティアちゃん、お先にどうぞ」
ルカがカティア嬢に注文を促す。
「えっと、じゃあ、私はお肉たっぷりの──」
カティア嬢が言いかけた、その時だった。サーシャが呼びかける。
「おい、カティア」
「ん? なに? お兄ちゃん」
顔を寄せた瞬間、サーシャが素早くカティア嬢の口元を押さえた。カティア嬢は慌てて抵抗しているが、サーシャはびくともしない。その光景に、場の空気まで凍りついた。
「む゛ー!?」
「カティアは、“香草鶏と根菜の煮込み定食”。俺は、“炭焼き赤身肉のステーキ定食”と“魚の香草焼きと季節野菜の定食”、それと“豆と麦の具だくさんスープ”。以上だ」
給仕の娘は一瞬呆気にとられたが、慌ててメモを取り出した。
「……サーシャそんなに食べるのか?」
「普段はもっと食べる。これでも遠慮した量だ」
「へ……へぇ……。じゃあ、俺は“豚肩肉の厚切り焼き定食”」
ルカが声を裏返しながら注文すると、レオニードが気にする様子もなく続ける。
「俺は“山鶏の香草焼き定食”で」
「お、俺も同じものを……」
「かしこまりました〜」
最後にイヴァンも注文を済ませ、給仕が去った。
その背中が見えなくなった頃、サーシャはようやくカティア嬢から手を離した。
「お兄ちゃん酷い!! 自分で選んだの頼みたかったのに!!」
「肉しか食わなくなるから駄目だ」
「そ、そんなことないもん……」
カティア嬢が指をもじもじさせる。その様子を一瞥すると、サーシャは短く息を吐き、視線を逸らした。
「二人は普段の食事はどうしてるの?」
ルカが気さくに話しかける。
「いつもお兄ちゃんがご飯を作ってくれるんです♪」
「へー、意外! サーシャが作るんだね」
「そーなんです。お兄ちゃん、なんでも出来るんで! 私はちょっと……お料理とか苦手で……あははは」
頭を掻くカティア嬢に、サーシャは鼻で笑う。
その様子に、イヴァンは少し苛立ちを覚えるが、レオニードの冷静な視線を感じて気持ちを抑えた。
「うちのリーダー、こう見えて料理得意なんだよ。貴族出身なのに変な人だよね」
「おいルカ!」
「気にすることはないだろ? イヴァンが貴族の家の出だってことはギルド内でも有名な話だ」
レオニードが淡々と付け足す。確かにそうだが、イヴァンにとってそれは足枷にしかならない。身分のせいで距離を置かれるのが、どうしても嫌だった。
「へー、イヴァンさん貴族なんですね〜」
カティア嬢はあまり興味を示さず、その淡い反応にイヴァンは少し安堵する。
「そうなんだよ。でも、リーダー最近妹さんに冷たくされて、傷心中なんだよね〜」
「ルカ!!」
「まあ、まあ、リーダー。折角だから、妹の立場からの意見を聞いてみたらいいじゃないですか」
「ああ、いいじゃないか。どうせ俺たちが慰めたところで、お前は納得しないだろ?」
ルカはさておき、レオニードにそう言われると、反論する言葉が見つからなかった。確かに、妹の立場からの意見も気になっていたのだ。
「え、私に答えられることなら何でも聞いてください?」
その時、給仕が料理を運んできた。
「お待たせしました〜!」
料理が次々と置かれ、サーシャは視線を向けることもなく、黙って食事を始めた。こちらの会話に関わる気配はない。
「……懐いてた妹に、ある日、突然、自分の事は良いから自由に生きろと言われたんだ……」
「……ん??」
カティア嬢は意味がわからないといった様子で首をかしげ、ルカの方を見る。
「リーダー! 喋るの下手すぎですか?! いつももっと饒舌でしょうが!」
ルカの鋭い突っ込みが刺さる。イヴァンは眉をひそめた。こんな話、他人に聞かせたいわけがない。まして、出会って間もない相手に晒すようなものじゃない。
もどかしそうに息をついたルカが、代わりに説明を始める。
「リーダーは、窮屈な家を飛び出して冒険者になったんだけどさ。その稼ぎを、妹さんのために仕送りしてたんだよね。
でも、その金を両親が全部使い切っちゃってさ。
それで妹さんが怒って、“自分は大丈夫だから、もう金は送ってくるな。自由に生きろ”って手紙をよこしたらしいんだ。
リーダーは妹さんのために頑張ってきた人だから、いきなり目的を失って、どうしていいか分からなくなって……かなり凹んだみたいなんだよね。
それ以来、妹さんはずいぶん冷たくなったみたいでさ。
この前も、親に呼び出されて行ったらお見合いをさせられちゃって。
妹さんに呆れられて、“いい加減にしろ”って言われたらしいよ」
話し終えたルカは言葉を切り、カティア嬢へ視線を向けた。
イヴァンも、わずかに遅れてその先を見る。正直、うんざりしている。なぜこんな話をさせられているのかという思いは消えない。それでも、ここまで口にされてしまった以上、その受け取られ方だけは無視できなかった。
「うーん、妹さんの本当の気持ちはわからないけど……妹さんはイヴァンさんに守られたいんじゃなくて、守ってあげたいんじゃないかな?」
「え?」
その言葉に、イヴァンは思わず息を詰めた。モラナが自分を守りたい? 妹なのに?
「多分だけど、イヴァンさんは妹さんを守りたいって強く思ってるから、それが嫌だったんじゃないかな。大切に思ってくれるのは嬉しいけど、それでお兄ちゃんが傷ついたり大変な思いをするのは、私は嫌だなって思う。苦労も喜びも一緒に分かち合いたいし、何よりお兄ちゃんは可愛いから、私が守ってあげなきゃなんだもん!」
「んん?」
ルカが間の抜けた声を漏らした。確かにカティア嬢は突飛なことも言っている。だが、その言葉は、イヴァンの胸に深く刺さった。
モラナの気持ちを、これまで考えたことがあっただろうか。ただ、どうしてあんなにも冷たくするのか、そればかりを考えていた。理由がないはずはないのに。自分は妹のために動いているつもりで、妹がどう在りたいかを、考えようともしなかったのかもしれない。
そうして思考に沈みかけた、そのとき──
「くだらない」
低く吐き捨てるように言い、サーシャが席を立った。気づけば、目の前の料理はすでにすべて平らげられている。
「え? お兄ちゃん?」
「俺は先に帰る。パン屋に寄るから、お前はついてくんな」
冷たく言い放ち、サーシャは出口へ向かう。腹の奥で、抑えきれない怒りが再燃した。奢ってもらっておいて、なんて態度だ。だが、彼が座っていたテーブルの上に、きちんと代金が置かれているのを見て、余計に腹が立った。
感情が爆発しそうになり、イヴァンは反射的に立ち上がりかけた。テーブルに手をつき、腰を浮かせた、その瞬間。
横から伸びてきた腕が、鎧越しに肩を押さえた。ぐっと力をかけられ、身体が椅子へ戻される。
ガタッ、と短い音が立つ。
「……リーダー?」
物音に気づいたのか、ルカが怪訝そうにこちらを見る。
イヴァンは小さく息を吐いた。──何を、こんなところで感情的になっている。
「なんでもない」
それだけ答えた直後、すぐ隣からレオニードの低い声が届く。
「食え」
短く、しかし有無を言わせない声音だった。イヴァンは視線を落とし、言われた通りに箸を取る。胸の奥はまだざわついている。それでも、今はそれを表に出すべきじゃない。
「もー、お兄ちゃんったら勝手なんだから!」
そう言って頬を膨らませるカティア嬢の仕草が、ひどく幼く見えた。その様子に、ささくれ立っていた気持ちが、ほんの少しだけ和らぐ。
あの兄には、あまりにも勿体ない妹だ──そう思った瞬間、胸の奥で、言葉にならない何かが軋んだ。
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