第2話
本作は自分の考えた世界観やキャラクターをもとに、小説の文体化をChatGPTにサポートしてもらいました。物語そのものはすべて自分の手で作っています。
──その翌日。
実家に着いた時点で、すべてはイヴァンの想定内だった。
家族の誰にも会う間も与えられず、きちんとした服装に着替えさせられ、何の説明もないまま馬車に押し込まれた。行き先も告げられず、見知らぬ屋敷へと向かう道中で、自然とため息が漏れる。
またお見合いか……。もう、これで何度目だろう。凝りもせずにこんな無駄なことを繰り返しても、自分に社交の才がないことくらい、いい加減理解してほしい。
伯爵家の広間で、令嬢と二人きりにさせられ、差し出された茶には作法が分からず、結局口をつけられないでいた。
先ほどから、令嬢は頬をほんのり染め、熱のこもった眼差しをこちらに向けている。自分の容姿しか見ない女性の目には、もう辟易していた。疲れを隠すようにさりげなく腕を組み、視線を落とす。どうせ、好かれる必要などない。
「イヴァン様のご活躍、かねてよりお聞きしておりました。ずっとお目にかかりたいと願っておりました」
「……そうですか」
「ご勇敢なお働き、心より感服いたしております。ご家族の皆様も、さぞお誇らしく思われていることとお察しいたします」
イヴァンは思わず苦笑した。父はどうせ、自分の金と容姿を利用する事しか考えていないだろう。誇らしいなど、思ったこともないはずだ。
「社交の場でのご様子については、あまりお聞きしませんけれど……」
「得意じゃないので」
「そうでございますか。ご無理をなさる必要はございませんけれど……これからの立場を考えますと、避けられない機会も増えるかと存じますの」
「……そうでしょうか」
確かに、貴族として生きていくならそうなのだろう。だが、そんなつもりは毛頭ない。
何かを察したように令嬢は口をつぐみ、微笑みを浮かべたまま話題を変えた。
「ご趣味などはございますか?」
「……特には」
「お好きな詩や音楽などは?」
「興味はありません」
短く答えるたびに、空気が静かに重く沈んでいく。分かっていて、あえてそうしていた。そのたび、胸の奥がわずかに軋む。それでも令嬢は、なんとか会話を繋ごうとした。
「……普段は、どのようにお過ごしで?」
「冒険者をしています」
「まあ……刺激的でございますわね」
「はい」
言葉が途切れた。やがて、令嬢の表情が曇り、声がわずかに震えた。
「……そんなに、私との会話は退屈でございますか?」
涙で潤んだ瞳に、イヴァンはわずかに動揺し、視線を伏せた。ため息をひとつ落とし、ゆっくりとハンカチを取り出して差し出す。
「……悪いが、俺にはこういう場は向いていない。社交の場に出るつもりもない。貴族として生きる気もない。……俺は、冒険者として生きていくつもりだ。期待には応えられない」
言葉は冷たいかもしれない。だが、曖昧に取り繕うよりは、この方がまだましだと思っていた。
令嬢は震える手で涙を拭い、静かに息を整える。
「……イヴァン様のお考えは、よく分かりましたわ。どうか、ご自身の道を大切になさってくださいませ」
短く頭を下げ、彼女は部屋を後にした。
屋敷を出て、再び馬車に揺られながら実家へ戻る。身体に、どっと疲労がのしかかった。せめて妹のモラナの顔だけでも見てから帰ろう──そう思った。
実家に着き、モラナの部屋を訪ねると──
「……お兄様は馬鹿なのですか?」
容赦のない声だった。
「またお父様の言うまま戻ってきて、無駄なお見合いをして。学習能力というものが欠片ほどもないのですか。いい加減にしてください」
何ひとつ、言い返せなかった。そのまま実家を出たイヴァンの背中に、言葉は刺さったままだった。
◇ ◇ ◇
「それで凹んでるわけか……」
腐葉の森へ向かう道すがら、レオニードが呆れたように言った。イヴァンの足取りは重い。正直なところ、まだ立ち直れてはいなかった。
「そういうことらしいです。俺、この話聞くの二回目ですよ。昨日の凹みっぷり、相当でしたからね! これでも立ち直ったんですよ、俺の励ましで!」
ルカが胸を張った。イヴァンが睨みつけると、「ひぇっ」と情けない声を上げて肩をすくめた。
「お前には分からない。モラナの、あの凍てついた言葉……それだけで人を殺せそうだった」
深いため息と共にイヴァンが言うと、先行して歩いていたレオニードが歩みを止めた。
「着いたぞ。で、ここに来た理由は何だ?」
レオニードに促され、イヴァンは意識を切り替えた。
「……一昨日の朝、ギルドの依頼でこの森に入ってな。魔物が全く出なくなったとかで、その調査だ。実際、行ってみると気配ひとつなくて、妙に静かだった。ついでに、戻らない新人パーティの安否も見てくれと言われたんだ。カティア嬢を見つけたのは、その直後だ──」
言葉を区切り、無意識のうちに剣の柄を強く握った。
「そこで何かに襲われた。気配を感じる間もなく、気づいたらもう間合いに入られていた。受け止めたと思ったら、次の瞬間には吹き飛ばされていて……。木に叩きつけられたところまでは覚えているが、そこから先の記憶がない」
「なっ……リーダーが?」
ルカが思わず声を張り上げた。
「……それで?」
レオニードの言葉に、イヴァンはあの時のことを思い返した。
目覚めた後の……カティア嬢の間近で見た顔。近過ぎる距離。そのとき感じた、ほのかに甘い香り──
唐突に胸が高鳴り、顔に熱が集まる。
「──違うっ!!」
衝動的に両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んでいた。
「ど、どうしたんですかリーダー?」
「大丈夫か?」
「……今のは気にしないでくれ」
我に返り、イヴァンは慌てて立ち上がると、咳払いで誤魔化す。だが、顔の熱が引かず、二人から目を逸らすしかなかった。
「……目が覚めたら、カティア嬢が、兄と二人でそいつを倒したと言っていた。正直、今でも信じ切れていない」
「……『なかよし団』の二人で?」
「信じ難いな」
二人の反応は、イヴァン自身の感覚とまったく同じだった。
「その後、森を出るまで何にも出くわさなかったが……仮にも俺を吹き飛ばした相手だ。消えたと確信できるまでは、ギルドへの報告は保留にしている」
「なるほど。それで俺たちで確認しに来たってわけか」
「そういうことだ。万が一に備えて、三人まとまって動こう。あの時のやつが一体だけとは限らない。三人でも対処しきれるかは分からないがな」
「そうだな……。慎重に進もう」
互いに頷き合い、イヴァンたちは森へ足を踏み入れた。
一昨日感じた異様な静けさは消え、森には動物の気配が戻っている。鳥のさえずりが響き、茂みの奥では小動物が忙しなく動いている。
「なんか……特に問題なさそうですね」
ルカがぼそりと呟いた。
「そう……だな。だが、油断せずに見て回ろう」
「了解です」
ルカの頷きを確認し、イヴァンは以前『なかよし団』と遭遇した場所へ向かった。しばらく進んだ、そのときだった。
誰かの悲鳴と同時に、突如として突風が吹き荒れた。
「きゃあああああっ!!」
「なんだ?!」
反射的に声の方へ駆け出す。辿り着くと、落ち葉を巻き上げ、大きな旋風が渦を巻いていた。その中心に、人影らしきものが見える。
「いやあああああっ!! もおおぉやだぁぁぁぁぁっ!!」
「なんだこりゃっ!」
思わずルカが叫んだ。だが、ほどなくして風は収まり、旋風も消え去った。
そこには、髪をぐしゃぐしゃにした見覚えのある少女が、地面に膝をついていた。
「カ……カティア嬢?!」
イヴァンは慌てて駆け寄ると、カティア嬢は荒い息のままバッと頭を上げ絶叫した。
「もーーー! お兄ちゃん酷いよぉ! 髪の毛ボサボサだよぉぉぉ!」
次の瞬間、顔を真っ赤にした彼女と視線が合う。
「あ、あれ? イヴァンさん?!」
「大丈夫か、カティア嬢」
「やだ、イヴァンさんに怒ったみたいになっちゃった……あっ!」
恥ずかしそうにイヴァンを見上げていたカティア嬢が、ふと声を上げた。
「ん?」
「イヴァン、上だ」
レオニードの言葉の直後、頭に強い衝撃が走り、イヴァンは地べたに倒れ込んだ。
「イヴァンさん!!」
「リーダー! 大丈夫ですか?!」
「だ、大丈夫だ……。だが、一体何が……」
痛む頭を押さえながら上体を起こすと、イヴァンのすぐそばに、手のひらに収まるほどの包みが転がっていた。カティア嬢がしゃがみ込み、それを拾い上げる。
「あ! これ、依頼で探してた荷物の一つですね! 商人さんがここを通った時に滑落して、荷物を落としちゃったらしくて。それを拾う依頼を受けてたんです」
「なるほど……先日ここにいたのも、その依頼だったのか」
「はい! 依頼を受けるのは自由で、荷物を届けた分だけ報酬が出る仕組みだったので!」
カティア嬢の明るい声の背後から、足音が近づく。振り返ると、カティア嬢によく似た小柄な少年が歩み寄ってくる。
──目覚めている状態で、まともに顔を見るのは初めてだ。
その少年、カティア嬢の兄は、どこか気だるそうな顔をしていた。
「お兄ちゃんっ! もう! 私は荷物を探すから、周りの木の葉を風でまとめてって言ったのに! あんな大きな旋風、起こさなくてもよかったじゃない!」
「ごめんって。詠唱を噛んじゃったんだよ。別に、怪我なんてしてないだろ?」
悪びれた様子もなく、ため息混じりに言った。その態度から、妹を案じている気配は感じられない。
「その魔法のせいで、荷物が空に飛んじゃって、イヴァンさんの頭に落ちたんだからね!」
「……は?」
投げやりな返答に、イヴァンの眉がぴくりと動いた。そのとき、カティア嬢が突然、頭に触れてきた。
「そのせいで、イヴァンさん怪我しちゃったじゃない! えーっと……ほら! たんこぶ!!」
一気に距離が詰まる。身体が触れ、掠めた髪から甘い香りが漂い、柔らかな感触に心臓が跳ねた。
──また、近い。
「カ、カティア嬢!」
「お兄ちゃん、責任もって癒しの魔法かけてあげて!」
「……え? 嫌すぎるんですけど……」
これ以上耐えきれず、イヴァンは勢いよく立ち上がった。カティア嬢の兄をじろりと睨み、突っぱねるように言う。
「俺は大丈夫だ」
そのとき、妙に静かなレオニードとルカの存在に気づく。二人は、何とも言えない表情でこちらを見ていた。
「……なんだ?」
「いや、リーダー……そうなんだな、って思って」
「ああ、そうなんだな」
「何がだ?」
問い返しても、二人は答えない。ただ、生温かい視線を向けてくるだけだ。特にルカは、イヴァンの肩に手を乗せ、うんうんと頷いてくる。
その意味不明の行動が鬱陶しく、イヴァンは肩の上の手を払った。訳が分からないまま、気持ちを切り替えた。
「カティア嬢。先日の俺を襲ったやつのことなんだが……その、疑ってるわけじゃない。ただ、本当に君たち二人で倒したのか?」
「あ、えーと……えへへ。そんなこと、言いましたっけ?♡」
「……は?」
「え?」とルカも声を上げた。レオニードは何も言わず、わずかに眉をひそめていた。
「いや、カティア嬢。確かに、あの日そう言っていたはずだが」
イヴァンが慌ててカティア嬢に問いかけた。
「え、えー……」
視線を泳がせるカティア嬢に、違和感が募る。
「何の話だよ」
兄の一言に、カティア嬢の肩がびくりと跳ねた。次の瞬間、ぱっと手を合わせ、慌てた様子で声を上げた。
「あ、あー! 思い出した! あの魔物だったら、イヴァンさんが気絶する前に倒しちゃったじゃないですかぁ! あはは♡」
「……へ?」
思わず、変な声が漏れた。その横で、ルカが首を傾げた。
「あれ? そうなんですか? リーダーの話だと、お二人が倒したって……」
「だから、何の話──」
「やだあ。イヴァンさんを吹き飛ばすくらいの魔物を、私たちで倒せるわけないじゃないですかあ」
兄の言葉を遮って、カティア嬢が口を挟んだ。話の流れが、どんどんおかしくなっていく。
「いや……そんなはずはない。俺には、倒した記憶がないんだが?」
「えーっと、イヴァンさん、かなり強く体を打ちつけてましたし……その時、頭をぶつけて、倒した時のことをすっぽり忘れちゃったんじゃないですかね?」
「……あー、そういうことなんですね」
ルカが納得したように頷いた。
は? 今ので納得したのか?! そんな説明で通るはずがない。
「いや、そんな話……どう考えてもおかしいだろ」
「まあまあ。リーダーが倒したって言うなら、俺たちも納得ですよ」
「そうだな」
なぜだ。なぜ、こんな根拠のない話に、二人はすぐ同意してしまうのか。
視界の端で、カティア嬢の兄がじっとこちらを見ていた。「へー……」と、何かに感心したような声を漏らす。
その視線の意味が分からず、どうにも気に入らない。明らかに自分より小柄なはずなのに、なぜか見下ろされているように感じた。
「納得したならもういいだろ。俺たち、帰りたいんだけど」
先ほどまでの話など興味なさげに、兄は素っ気なく言い放った。
「そうだね! 依頼の荷物も全部見つけたし。イヴァンさん、私たちはこれで」
「あ、ああ……」
明らかに下手な誤魔化しだった。それでも、場はなぜか収まってしまった。納得していないのは、自分だけだった。
「リーダー、俺たちも帰りましょう。ここまで見て問題なかったですし、ギルドに報告していいんじゃないですか?」
「俺もそう思うぞ。確かに魔物の気配は薄いが、完全に消えたわけでもない。ただ、強い個体がいる様子もない。問題ないだろう」
「……そうだな。今日は確認だけだ。このまま帰ろう」
腑に落ちない思いを胸の奥に押し込み、イヴァンは街へ戻ることにした。
「『なかよし団』のお二人! 一緒に帰りましょう!」
ルカが陽気に声をかけた。
「あ、いいですね♪ 人数多い方が楽しいですし」
「は? 嫌なんだけど。カティアだけ一緒に帰れよ」
「えー! お兄ちゃんも一緒に帰ろうよぉ! 同じところに帰るんだし〜」
カティア嬢は兄の手をがっしりと掴み、離さなかった。振り払おうとする兄を、笑顔のまま引き止め続けた。
二人のやり取りを眺めながら、イヴァンの胸の奥に、また小さな苛立ちが湧き上がっていた。
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