第1話
本作は自分の考えた世界観やキャラクターをもとに、小説の文体化をChatGPTにサポートしてもらいました。物語そのものはすべて自分の手で作っています。
イヴァンは久々に、一人でギルドを訪れていた。昨日手に入れた魔石を換金するためだ。
「イヴァンさん、珍しいですね。軽装だなんて、どこかにお出かけですか?」
「いや、少し……父に呼び出されてな。どうせ見合いの話か、金の無心だろうが」
ため息混じりの返答に、ギルド職員は苦笑した。
「大変ですね、お貴族様は」
「貴族と言っても、ただの貧乏男爵だ。爵位なんて、あってもなくても変わらないさ」
自嘲気味に肩をすくめる。その仕草には、諦めにも似た慣れが滲んでいた。
「実はイヴァンさんにお願いがあったんですけど……。ご実家に行かれるなら、無理そうですね……」
「なんだ? 依頼か?」
「はい。腐葉の森で異変が起きているらしくて、様子を見に行ってもらうつもりでした」
「異変?」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥で小さなざわめきが広がった。根拠はない。ただ、経験が嫌な予感として形を取っただけだ。
「寄せられた報告によると、昨日から魔物がまったく出なくなったそうなんです。ただ、強い魔物のようなものの目撃情報があって……他の魔物を片っ端から倒しているんじゃないかと」
「未発見の魔物か……」
「分かりません。ただ、そんな強い個体が現れたとなると、今後に影響しますし……真相を確かめてほしくて」
「なるほど……」
思っていた以上に、話は重かった。適当に聞き流して済ませられる内容ではない。
「それに昨日、その森に新人パーティが依頼で向かったんですが、まだ帰ってこなくて……心配なんです」
「昨日から? まさか、そいつにやられたってことは……。パーティ名は?」
「『なかよし団』です」
「……ん?」
その名を聞いた瞬間、思考が一拍遅れた。冒険者のパーティ名とは思えない響きに、聞き間違いだと疑ってしまう。
「『なかよし団』です。知りません? カティアさん、凄く可愛いって評判なんですけど」
「ああ……なんとなく見かけたことはあるな」
どうやら、聞き間違いではなかったらしい。何度か顔を見た覚えはある。素朴で愛嬌はあるが、ごく普通の娘──そんな印象だった。ただ、やけに明るい雰囲気だったことだけは、妙に記憶に残っている。
それにしても、そんなパーティ名だったとは。
「分かった。出かけるついでだ。森を通って様子を見てこよう。報告は明日になるが、それでもいいか?」
「はい! 問題ありません! 無理を聞いていただいて助かります!」
嬉しそうなギルド職員に手を上げ、イヴァンはそのまま腐葉の森へ向かった。剣は腰にある。様子を見に行くだけなら、軽装でも問題ない。
森に足を踏み入れた途端、違和感を覚える。魔物の気配がない。それだけなら、偶然で済ませることもできる。だが、耳を澄ませても、動物の気配すら感じ取れなかった。
あまりにも静かすぎる。
イヴァンは馬を進ませるのをやめ、その場で下馬した。革靴が地面に触れる音が、やけに大きく響いた気がした。
慎重に歩を進める。腐葉を踏みしめる足音以外、何も聞こえない。風に揺れる枝葉の擦れる音すら、遠い。
やがて視界の開けた場所に出た。その中央に、人影が倒れているのが見える。
反射的に剣へと手を伸ばし、抜き放つ。警戒を緩めることなく、イヴァンはゆっくりと距離を詰めていった。
「こ、これは……」
倒れていたのは、無防備な若い娘──『なかよし団』のカティア嬢だった。こんな場所で、しかも武器も持たずに倒れている。状況として、あまりにも不自然だ。
「すぅ……すぅ……」
耳に届いた寝息に、イヴァンの思考が一瞬止まった。──寝ている? あり得ない、という感覚が遅れて湧き上がる。
思わず、穏やかな寝顔に視線が吸い寄せられる。だが、すぐに我に返り、警戒を解かぬまま、そっと彼女の肩に手を伸ばした。
「カティア嬢、起きてくれ」
彼女はもぞもぞと身じろぎし、次の瞬間、なぜかイヴァンの手を握り、頬をすり寄せてきた。慌てて引き抜こうとするが、意外なほど力が強い。
「うーん……お兄ちゃん、もうちょっと……むにゃむにゃ……」
「カ、カティア嬢っ!」
戸惑いを隠せないまま声を上げると、やがて彼女はゆっくりと目を開けた。寝ぼけた表情のまま、ぼんやりとイヴァンを見上げる。
「……なぜ、こんな所で寝ていた? 仲間はどうした?」
「えー……」
少し考え込むように視線を彷徨わせたかと思うと、
「ああああっ!! そうだったあぁぁぁぁっ!!」
突然の叫び声に、イヴァンの肩が思わず跳ねた。カティア嬢は慌てた様子で起き上がり、周囲をきょろきょろと見回す。
「カティア嬢?!」
状況を飲み込めないまま、イヴァンは落ち着かせようと手を伸ばした。その瞬間──
「危ない!」
声とほぼ同時に、何かが迫る気配があった。理由を考えるより早く、身体が反応する。カティア嬢の方を向いたまま、反射的に剣を引き抜く。
視界の端を、鋭い何かが横合いから走る。
次の瞬間、剣越しに凄まじい衝撃が叩きつけられた。受け止めなければ、確実に断たれていた。そう理解したときにはもう、身体は真横へ弾き飛ばされていた。
肩口から立ち木に叩きつけられた。鈍い音とともに幹が軋み、衝撃に耐えきれず、木そのものが傾ぐ。
息が一気に押し潰され、肺から空気が漏れた。
それでも踏みとどまろうとした意識は、地面に叩き落とされる衝撃で途切れた。視界が白く滲み、音が遠ざかっていった。
完全に意識が途絶え、周囲の感覚は闇に沈んでいた。──ぐううう……。
どこからか聞こえてくる妙な音に引かれるように、少しずつ意識が浮かび上がってくる。続いて、頬を軽く叩かれる感触。
目を開けた瞬間、真っ先に飛び込んできたのは、カティア嬢の大きな瞳だった。星のように輝くその瞳が、至近距離からこちらを覗き込んでいる。透き通る肌、柔らかな頬。ふわりと垂れた明るい茶色の髪が光を含んだまま揺れ、そっとイヴァンの頬に触れた。
あまりの近さに、息が詰まる。思考が止まった。身体がこわばる。
──一瞬、言葉が出ない。
反射的に、声が裏返る。
「カ、カ、カ、カティア嬢?!」
近い。近すぎる。無意識に片手で顔を覆い、もう片方の手を彼女との間に差し出して距離を取ろうとした。心臓が激しく打ち、頭の中は真っ白だった。
これほど間近で女性の顔を見るのは初めてだった。視線は定まらず、呼吸も乱れる。彼女から漂う、ほのかに甘い匂いが、動揺をじわじわと胸の奥に押し広げていく。
「カティア嬢……ちょっと、顔が近すぎるんだが……」
声は震え、冷静さはどこかへ消えていた。こんな距離では、視線を逸らしたところでどうにもならない。
「あ、ごめんなさい。もし死んでたらどうしようかと思って、息してるか確かめてたんです!」
その言葉に、流されかけていた意識が一気に現実へと引き戻される。
「そうだ、俺は……!」
──襲われて、気を失ったのだ。
「カティア嬢! 俺を襲ったやつはどうした? 君は大丈夫だったのか?」
「えー……」
問いかけに、カティア嬢はわずかに眉をひそめ、困ったように顔を歪めた。その戸惑いが妙に引っかかり、イヴァンまで言葉に詰まる。
「うーん、あれは……ちょうどお兄ちゃんが戻ってきたタイミングで、一緒に戦って倒しちゃいました♡」
思わず、「え?」と声が漏れた。倒した? 自分を一撃で吹き飛ばした相手を、新人パーティの二人が?
信じられるはずがなかった。彼女たちがそれほど強いのか。それとも、何かを見落としているのか。だが、この森で起きている異変を考えれば、あの存在が弱いはずがない。
混乱の最中にあるイヴァンの耳へ、かすかな寝息が届いた。思わずそちらへ視線を向ける。
すぐ隣に、小柄な少年が静かに横たわっていた。深く眠っているらしく、身じろぎひとつしない。その顔立ちは、カティア嬢によく似ている。
「彼は? カティア嬢の弟か?」
「いえ、お兄ちゃんです♪」
「……ん?」
疑問の声が、自然と漏れた。聞き間違えたのかと思った。あまりにも想定外の答えに、理解が追いつかなかった。
「お兄ちゃんです♪」
どうやら、間違いではないらしい。彼が、一緒に戦って倒したという“兄”らしい。だが、どう見ても弟にしか見えない。体格も雰囲気も、兄という言葉から想像する像とはかけ離れていた。
それ以上に、引っかかる。──なぜ、眠っている?
「……他の仲間は?」
「仲間はお兄ちゃんだけです♪」
胸の奥で、別の記憶が微かに揺れた。確かに、そんな話をどこかで聞いた覚えがある。
「……彼は、なぜ寝ているんだ?」
「えっと……お兄ちゃん、戦闘で疲れて寝ちゃって〜。もうこうなると丸一日起きないんですよね。あはは」
思わず、イヴァンは言葉を失った。こんな場所で眠り込むなど、常識では考えられない。この兄妹はいったいどうなっているのか。呆れたように、ため息が漏れる。
そのとき──ぐぅ〜〜……。
間の抜けた音が、カティア嬢の方から聞こえてきた。
「……もしかして、腹が減ってるのか?」
「あはは、そうなんです。昨晩から何も食べてなくて……だから、イヴァンさんを起こして早く街に戻ろうって思ってました」
「……俺のこと、知ってるのか?」
「はい。『蒼銀の翼』のイヴァンさんですよね。ギルドで何度か見かけました」
「……ああ」
「じゃあ、帰りましょう!」
「……え?」
「……はい?」
「……いや、なんでもない」
普段なら、ここで女性がちやほやしてくるのが当たり前だった。正直、うんざりするほどに。“またか……”と内心で身構えていたのに、カティア嬢はまるで違う。
あっけらかんとした態度で、こちらの反応など気にも留めていない様子だった。その素っ気なさに、逆に不意を突かれる。
顔に熱が集まり、イヴァンはわずかに視線を逸らした。こんなふうに動揺している自分に、わずかな気恥ずかしさを覚えた。
「帰るのはいいが、兄はどうするんだ?」
眠り続ける兄を指さす。起きる気配は、まるでない。
「ああ、私が背負って帰ります! お兄ちゃん、小さいし可愛いし軽いから、全然大丈夫ですよ♪」
──今、“可愛い”と言っただろうか。聞き間違いではないはずだ。それにしても、妹に背負われる兄とはどういうことだ。兄として、あまりにも情けない。
自分が思い描く“兄の姿”とは、あまりにもかけ離れている。苛立ちが、胸の奥にじわりと湧いた。
イヴァンはため息をつき、立ち上がると、眠っている兄を抱え上げた。
「俺の馬に乗せよう。君も一緒に乗って、兄を支えてやればいい」
「わわ! いいんですか?」
「構わないさ。それより、緊急用の携帯食くらいは持ち歩かないのか? 今回は俺が来たからよかったが、その調子じゃ冒険者としてやっていけないぞ」
言いながら、自分が軽装で来てしまったことには触れない。それはそれ、これはこれだ。
「持ってるんですけど……食料はいつもお兄ちゃんが持ってて……。だから、お兄ちゃんが捕まらなくて、お腹が減っちゃって……」
言葉の途中で、カティア嬢の声がかすれた。視線を向けると、その瞳がわずかに潤んでいるのに気づく。
「し、叱ってるわけじゃない! 強く言い過ぎてしまって、す、すまない! 次からは君自身も持っておいた方がいい……」
言葉が早口になり、思わず口ごもる。慌てて取り繕おうとしたが、女性への接し方が分からず、胸の奥に小さな自己嫌悪が残った。
それにしても、この兄は妹の足を引っ張っているようにしか思えない。カティア嬢と兄を馬に乗せて進みながらも、いまだ目を覚まさない兄を見ていると、苛立ちが募っていく。兄なら、妹を守る側であるべきだろう。
そう思うと、自然と自分自身と重ねてしまい、ため息が漏れた。
父のもとへ行くのは明日でいい。急ぐ用事ではない。そう考えながら、イヴァンは馬の横を歩き続けた。
そのとき、遅れて違和感に気づく。あれほど強く身体を打ちつけたはずなのに、どこにも痛みがない。
今さらながら、不思議に思った。
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