第25話
本作では、創作補助としてChatGPTを利用しています。
物語・設定・キャラクターは作者自身が作成し、文章の推敲や表現の整理にAIを活用しています。
そのため、本作はAI利用区分を「AI直接使用」に設定しています。
ギルド本部は、今日も人で溢れ返っていた。
掲示板の前で依頼を吟味する者、情報を交換する者、報告書を差し出す者。端の方では、どうやら言い争いが起きているらしく、怒声が時折混じっている。
その喧騒の中、カウンターの前に、小柄な少女が立っていた。冒険者登録の手続きを行っているところだった。
「……あの。私、魔法使いなんですけど、得意なのは治癒魔法で……。自分ではあまり戦えなくて。私みたいな魔法使いを探しているパーティがいたら、紹介してもらえませんか?」
控えめにそう尋ねると、対応していたギルド職員は頷いた。
「そうですね。貴女の場合、構成がしっかりしたパーティの方が良いでしょう。前衛に盾役、後衛。それに治癒役、という形が理想ですね」
職員はそう言いながら視線を横に流し、ふっと笑う。
「──ちょうど良かった」
職員が視線を向けた先を、少女も追う。そこでは、ひとつのパーティが揉めていた。
「付き合ってるって言ったでしょ!」
「何それ、勘違いもいいところよ!」
鎧を着た少年を挟み、二人の女性が怒鳴り合っている。当の本人は困惑したまま、両腕を引っ張られていた。
そのまま女性二人は、少年を連れたままギルドの外へ消えていく。それを、魔法使いらしい少年と大柄な青年が慌てて追いかけていく。だが、一人だけ動かずに残った黒髪の青年がいた。
少女は呆然とする。すると、その黒髪の青年が何事もなかったかのようにカウンターへ歩いてきた。
「すまないが、たった今、治癒役が一人足りなくなった。急ぎ募集したい」
少女は、ようやく状況を理解した。そのタイミングで、先ほどの職員が口を開く。
「ちょうど良かった、レオニードさん。こちらの方、治癒魔法が得意で、パーティを探しているそうですよ」
レオニードと呼ばれた青年は、一瞬だけ少女を見て、小さく息を吐いた。
「……また女性か。少し待っていてくれ」
そう言い残し、ギルドの外へと出ていく。不安を覚えた少女は、職員に小声で尋ねた。
「あの……。さっきのパーティ、問題があるんじゃないですか?」
「ああ、心配いりませんよ。ちょっと騒がしいですけど、ちゃんとしたパーティですから」
「はあ……」
「ただ……ちょっと、リーダーのイヴァンさんがですね……」
職員が言葉を濁した、その瞬間だった。ギルドの扉が開き、騒がしく彼らが戻ってくる。
「レオニード、さすがに今のはなかったんじゃないか?」
「あれくらいでちょうどいい。でなければ、収拾がつかない」
「レオニードさん、やるなら最初からそうしてくださいよ……。俺もう、こういう役回り嫌ですよ……」
一行は、どこか消耗した様子で少女の前までやって来た。特に、連れ去られていた少年はひどい有様だった。髪は乱れ、鎧の下の衣服も破れかかっている。
「待たせたな。──おい、イヴァン」
レオニードはそう言うと、イヴァンの腕を引き寄せ、そのまま足を引っ掛けて、少女の前へと転がした。
「いてっ! レオニード、何を──」
少女が戸惑う間もなく、レオニードは淡々と指示を出す。
「片膝をつけ。彼女の手を取れ」
言われるがまま、イヴァンは片膝をつき、少女の手を片手で取る。
「髪をかきあげて、見つめろ」
前髪で隠れていた顔が露わになった瞬間、少女は思わず息を呑んだ。あまりに整いすぎた顔立ちだった。
「“どうか仲間になって下さい”と言え」
「どうか仲間になって下さい」
「嫌です」
即答だった。
「……へ?」
イヴァンの口から、間の抜けた声が漏れる。
「よし、採用だ」
「え、ちょっと待ってください。私、今、断りましたよね?」
少女が慌てて声を上げる。
「え、嘘だろ?! 待ってくれ! 君みたいな人材が、うちのパーティには必要だ!」
魔法使いの少年が慌てて食い下がる。
「えぇ。無理です、こんなイケメンのいるパーティとか……。絶対何かしら問題起きそうですもん」
「まあ、それは否めないな」
背後から聞こえたレオニードの声に、イヴァンは分かりやすく肩を落とした。
「そこをなんとか! 頼むよ!」
「無理言うな、デニス。彼女が困るだろ」
イヴァンはそう言ってから、少女へ柔らかく微笑みかけた。
「すまない。残念だが、君がいいパーティを見つけられることを祈っているよ。それと……何か困ったことがあったら、いつでも頼ってくれ。俺たちは『蒼銀の翼』というパーティ名で活動している」
少女は、その笑顔に目を細めた。
……この顔と優しい言葉。勘違いしない方が無理なんじゃないかな。
「それじゃあ」
イヴァンが手を挙げて歩き出し、他の面々もそれに続いた。
少女は、その背中をぼんやりと見送った。最後に振り返った大柄な青年が、少女に向かって柔らかく手を挙げた。その袖口から、ちらりと覗いた腕の傷。
少女の胸が、わずかにざわつく。イヴァンの腕には、新しい傷一つなかった。
──きっと、治癒は彼ばかりが優先されていたのだろう。治癒役がいなければ、冒険は続かない。募集で入る治癒役が女性なら、きっと同じことが繰り返される。
少女は、そう思ってしまった。
「あの!」
『蒼銀の翼』の全員が振り向く。
「そちらの……デニスさん、でしたっけ? 魔法使いなんですよね。治癒魔法は使えないんですか?」
「ああ、俺、治癒魔法が苦手なんだ」
「その代わり、デニスの攻撃魔法は強力なんだ。だから、俺たちは長所を生かして、互いを補っている」
イヴァンがそう付け足す。少女は少し迷い、それから意を決した。
「だったら……。今のところ、行く宛てもありませんし。私でよければ……」
「仲間になってくれるのか?」
デニスが、思わず前のめりになる。
「その代わり、他に行く宛てができるまでですよ! だから……。その傷、治癒させてください」
そう言って、少女は大柄な青年の裾を掴んだ。
「ボグダン、怪我してたのか?! なぜ言わなかった!」
「大した怪我じゃなかったからな」
少女は静かに詠唱し、ボグダンの傷を治癒した。傷が塞がると、彼は穏やかに微笑んだ。
「ありがとう」
「いえ」
少女も、そっと笑みを返す。
イヴァンは軽く駆け寄り、手を差し出した。
「これからよろしく。俺はイヴァンだ。君の名前は?」
「ラリッサです」
そう答えて手を握り返すと、イヴァンはその手を両手で包み込んだ。
「ありがとう、ラリッサ。頼りにしてるよ」
ラリッサは、その距離の近さに思わず怪訝そうな顔になる。
「……そういう無自覚なところ、直した方がいいと思います」
「え?」
困惑したままのイヴァンをよそに、周囲は動き出した。
「行こう。拠点に案内する。部屋も余っているから、嫌でなければ寝泊まりしてくれ」
「あ、助かります。この街、来たばかりなので」
「なら丁度いいな」
こうして、少女ラリッサは──『蒼銀の翼』の仲間になった。
……暑い。
なんだか懐かしさに心が落ちつく感覚の中、ラリッサは酷い暑さに気付く。重い瞼をゆっくりと開き、どうやら意識を失っていたのだと理解した。
身体を支えられているような感覚があり、視界がはっきりしてくる。
「ラリッサ」
低い声に顔を向けると、大きな体が視界いっぱいに入った。
「……ボグダンさん」
どうやら床へ倒れていた自分を、ボグダンが支えてくれていたらしい。
「大丈夫か?」
「……はい」
なぜ意識を失ったのか、ラリッサは記憶を辿る。
サーシャの魔法で床が抜け、アンデッドに囲まれ、終わりの見えない戦闘が続いた。カティアが泣き叫び、イヴァンが鎧ゴーレムに殴られたところで、戦況は一変した。
カティアがどこからともなく大剣を取り出し、それをサーシャへ投げ渡した瞬間から、全てがおかしくなった。
サーシャは次々と魔物を斬り伏せ、詠唱を短縮したかと思えば、精霊の名を呼ぶだけで魔法剣を生み出し、最後には無詠唱で暴風を巻き起こした。
その時、自分は確か、“……む、無詠唱……”と呟いた。
そこから先の記憶がない。
──気絶していたのだ。
ラリッサは周囲を見回す。そこには、真っ二つになった鎧ゴーレムが轟々と燃え続ける光景があった。
「……なに……これ」
「サーシャだ」
ボグダンが短く答える。
その時だった。
「違う! 違う! 違う!」
カティアの大声が響き、ラリッサは反射的にそちらを向いた。
「鎧ゴーレムが倒されちゃったよ!」
イヴァンの腕を掴みながら、カティアが叫んでいる。一体、何を言っているのか理解できない。
「違うってば!! 危険なのはここからなのーーっ!!」
叫んだ瞬間、カティアの体が跳ね上がった。
「カティア嬢っ!!」
イヴァンの叫びが響く。
ラリッサが息を呑んだ、その時。宙を舞ったカティアの身体が、ふわりと止まった。そのまま床へとゆっくり降ろされる。
一瞬、何が起きたのか理解できなかった。
だが、カティアへ歩み寄るサーシャを見て察する。
また、無詠唱魔法だ。
「まずい」
ボグダンが低く呟く。
「え?」
意味が分からず顔を向けると、ボグダンは冷や汗を滲ませながら盾を握っていた。躊躇している。
その姿を見た瞬間、ラリッサの口から言葉が飛び出していた。
「ボグダンさん! 私は大丈夫です!」
ボグダンは頷き、イヴァンたちの方へ駆け出す。
直後、激しい金属音が響いた。イヴァンがサーシャの剣を受け止め、必死に軌道を逸らしている。
だが次の横薙ぎを受け止めた瞬間、その身体が真横へ吹き飛ばされた。
サーシャは即座に追いつき、大剣を振り下ろす。
ガンッ!!
間一髪で、ボグダンが盾を差し込んだ。
ラリッサが息を吐いた、その直後だった。
サーシャは拳を握り、そのまま盾ごとボグダンを殴り抜いた。盾が砕け、鈍い音と共に、ボグダンの体が床へ崩れ落ちる。
「っ!!」
ラリッサの息が止まる。イヴァンが咄嗟にボグダンを支えるのが見えた。
頭から血の気が引いていく。
次の瞬間、大剣がイヴァンへ迫る。だが、イヴァンは反応しきれていない。
危ない──!!
そう思った瞬間、カティアが二人の間へ飛び込んだ。サーシャの剣が、ぴたりと止まる。
息がうまくできなかった。鼓動ばかりが耳の奥で響いている。
ボグダンは生きているのか。
そればかりが頭を巡っていた。
「ラリッサ」
誰かに呼ばれ、はっとする。気づけば、レオニードがすぐ傍へ来ていた。
「動けるか?」
返事ができない。ただ、彼を見上げることしかできなかった。
「サーシャが動いたら、お前をあそこまで運ぶ。ボグダンの治癒を頼む。大丈夫だ、生きてる」
その言葉に、ラリッサは涙を堪えながら頷いた。
レオニードが腰を落とす。ラリッサは震える足で立ち上がり、その背へしがみついた。
「えーーんっ! お父さん! お母さん! お兄ちゃんが人殺しになっても、カティアを許してーーーーっ!!」
「カ、カティアちゃん、諦めないでくれー!」
「そうだ! 俺たちの命はカティアちゃんにかかってるんだ!」
騒ぎ声が響いた瞬間、レオニードが駆け出した。
その時だった。
ラリッサの目に、宙を舞う腕が映った。誰かの悲鳴が響く。そして一瞬だけ見えたサーシャの顔は──笑っていた。
ぞわりと背筋が冷える。
あれは、本当に人間なのか。
「ラリッサ!」
レオニードの声で我に返る。気づけば、ボグダンの元へ辿り着いていた。
慌てて手を触れる。呼吸はある。
「生命の精ロドよ、乱れた命の流れに手を添え、あるべき鼓動へと導いて──《命脈の癒し》」
ボグダンの顔色が、少しずつ戻っていく。
「あ、あああーっ! やっぱり無理いぃぃいいっ!!」
カティアの泣き叫ぶ声が、止まりかけていた空気を再び動かした。
イヴァンが息を吸う音が聞こえる。その直後、レオニードがラリッサの前へ出るように構えた。
次の瞬間、激しい衝突音が鳴り響く。幾重にも金属音が重なり、血が飛び散った。
イヴァンが、サーシャの剣を必死に受け続けている。だが、押されている。ほんの少しでも崩れれば、そのまま斬り殺される。
レオニードも、いつでも動けるよう身構えたまま、サーシャを見据えていた。
ラリッサの喉が震える。
怖い。目の前で、人が死にかけている。自分も、巻き込まれるかもしれない。
恐怖が思考を塗り潰していく。
その時だった。
「カティア嬢! しっかりしてくれ!! 君がしっかりしてくれないと……ここは、魔物相手よりも地獄になるっ!!」
イヴァンの叫びに、ラリッサははっとする。
気づけば、デニスとルカがカティアへ駆け寄っていた。
「カティアちゃん! リーダーを助けてくれ!」
「このままじゃ、本当にサーシャに殺される!」
今はもう、カティアに縋るしかなかった。振り返ったカティアの顔は、涙でぐしゃぐしゃだった。
「えー……ぐすんっ、ぐすんっ……」
この子も、自分の兄がここまでのことをしでかすとは思っていなかったのかもしれない。
そう思うと、なぜか責めきれなくなる。
許してあげなければならない。……そんな気がした。
「ぐすん……ぐすん……、あ……、そうだ……」
カティアは、おもむろにベルトポーチを探り始めた。
「……そういえば、これがあったんだった……」
そう言って、カティアは小瓶を取り出した。
「それは?」
ルカが尋ねる。
だが、カティアは答えず、腕を斬り落とされた冒険者の元へ向かっていった。途中、床へ転がっていた腕まで拾い上げる。
「ちょっとごめんなさいね……えっと……これを、こうして……」
呻いている冒険者の腕を合わせ、その傷口へ瓶の中身をかける。
「こうすると……あーら不思議、腕がくっつくのです!」
一瞬、その場から声が消えた。
繋がった腕を見つめたまま、冒険者本人が呆然としている。
「……え。い、痛くない……」
「「えええええええっ!!?」」
絶叫が爆発した。
「な、何それ!?」
「腕! 腕くっついてるぞ!?」
「お、おい嘘だろ!? さっき斬れてたよな!?」
騒然となる周囲へ、カティアはきょとんとしたまま首を傾げた。
「えっと……エルフの霊薬……かな?」
ぽつりと零れた言葉に、空気が凍りつく。
「なっ……」
「エルフの……?」
「霊薬……?」
ざわめきが一気に広がった。
エルフの霊薬など、一生目にすることもないと思っていた。それが今、目の前にある。しかも、カティアは無造作にベルトポーチから次々と取り出していた。
「いっぱいあるから、とりあえず……イヴァンさんや怪我した人に使ってください!」
「いや待て待て待て! エルフの霊薬だぞ!?」
「そうだよ! そんな、とりあえずで簡単にあげちゃっていいはずないでしょ!?」
デニスとルカが慌てて叫ぶ。ラリッサも思わず息を呑んでいた。
その時──轟音が響いた。空気が震え、床が揺れる。
何が起きたのか分からなかった。皆が同じ方向を見ている。
理解が追いつかないまま、ラリッサもそちらへ視線を向けた。
イヴァンが床に転がっていた。
じわり、と血が広がっていく。
息が止まる。
思考も止まった。
皆が騒ぎ立て、イヴァンへ駆け寄っていく。
けれど、ラリッサの身体は動かなかった。呼吸がうまくできない。頭の中が真っ白だった。
……ち、治癒魔法を……。
カティアが霊薬を飲ませているのが見えた。咄嗟に動けなかった自分が、情けなかった。
その時。
ずる、……ずる、と。
床を引きずる大剣の音が、ゆっくり近づいてくる。返り血まみれのサーシャが、こちらへ歩いてきていた。
歪んだ笑み。昂ぶりを抑えきれない、獣のような眼。
身体が震える。強ばる。
あんな化け物、誰も止められない。
──ここで、みんな殺される。
……誰でもいいから……助けてよ……。
考えたくない。見たくない。聞きたくない。もう、楽になりたかった。
嫌だ。
嫌だ、嫌だ、嫌だ──
ラリッサはぎゅっと目を閉じ、耳を塞ぎ、その場へ小さく蹲った。
どれくらいそうしていたのか分からない。
「ラリッサ」
声が聞こえた。
「ラリッサ。大丈夫だ。もう、大丈夫だ」
ボグダンの声だった。
恐る恐る目を開ける。目の前には、ボグダンがしゃがみ込み、ラリッサの肩へ手を置いていた。
「もう、サーシャは襲って来ないはずだ。それどころじゃない」
そう言って、ボグダンが指差す。
ラリッサは震えながら、そちらへ視線を向けた。
そこでは──カティアが凄まじい勢いでサーシャを追い回していた。まるで、ただの兄妹喧嘩みたいに。
意味が分からなかった。
さっきまでの恐怖は、まるで消えてくれない。なのに、目の前の光景だけが現実味を失っていく。
「……なんなの……」
ぽつりと零れる。
ボグダンが心配そうに、再び肩へ手を置いた。その温もりに触れた瞬間、ラリッサの中で張り詰めていたものが崩れた。
そのまま、ボグダンへしがみつく。
涙が勝手に溢れていた。震えながら顔を埋めるラリッサへ、ボグダンは何も言わない。
「……許せない……」
ラリッサの唇から、かすれるように零れた。それは、誰の耳に届くかも分からないほど、小さな声だった。
ご感想・レビュー・誤字報告など、ぜひお気軽にいただけたら嬉しいです。
「ここが気になった」「このキャラが印象に残った」など、一言だけでもとても励みになります。
いただいたご感想は、今後の創作の参考として大切に読ませていただきます。
楽しんでいただけましたら、ぜひ気軽にお声を聞かせてください。




